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木材なんて腐る程ある

「スキルの書いた紙に星印のついてあるものは後日改めて王宮へ招待してやるからのう。そこで王宮騎士団に加入してもらうから今のうちにスキルの使い方を覚えておくのじゃぞ。……衣食住もきちんと用意しておるから、色々なことはそこにおる者に聞いてくれ」


ご機嫌な様子で高笑いをしながら国王は踵を返す時だった。


「ちょっと待ってくれよ」志村君が一歩前に踏み出ながら言った。「俺のは星印がないしその宿泊施設なんてのも一切聞かされていない。それについての説明はないのかよ」


「そうだよ! 莉々花と愛には星があるけど私にはないよ。どういうことなの!?」


二人と同じように星印のない連中が声を上げる。

確かに一部の連中だけ優遇されるのは納得いかない。勝手に呼び出したのだから全員に手厚くフォローするのが筋というものだろ。


「お主らにも一応用意してあるから安心せい。まったく凡スキル勢が……、とにかく下にいる者どもに聞いてくれ」


そう言うと国王の姿が見えなくなった。同時に周りのローブを着た連中が立ち上がる。


「それでは星印がある者はこちら、ない者はこちらに集まってくれ。これから諸君らにしてもらうことについて説明する。一度しか言わないのできちんと覚えておくんだぞ」


ゆっくりと生徒たちは指示された場所へ集まっていく。ざっと見たところ星印がある方が多かった。葛城さんも国王の反応から当然星印のようだ。しかし別で宿泊施設の鍵を渡されたということはもっと高待遇なものなのだろうか。


それより――。


「あ、あの……!」


学生になってからこんなに大きな声を出したのは初めてだろうか。洞窟の中だからか捻り出すようにして口から発せられた声が大きく響いている。


「あ、明……くん!?」


全員が俺の方を注目し葛城さんも驚いた表情でこちらを見ていた。


突然叫びたかったわけではない。今までの一連の流れから絶対に聞いておかなければならないことが一つだけあったのだ。いくら俺がモブのような存在だったとしてもこれだけは確認しなければならない。いくら無気力な人間だろうとこの状況で声を出せないような奴はいないだろう。


「俺の、紙には……」みんなの視線が痛すぎるが何とか声を捻り出す。「ばつ印があったんですが……。これはどういう……」


「ああ、君か」俺の覚悟と苦労を知らずにローブを着た男は淡々と答える。「【木こり】の君には何も渡すものはない。当然こちらから何かをしろという命令もないので自由に生きてくれ」


「……え!?」


これは俺の口からではない。おそらく葛城さんだろう女性の声が聞こえた。


頭が真っ白になった。勝手に異世界に飛ばされた上に、戦争真っ只中のこの世界に【木こり】なんていうよくわからないスキルを手に入れてしまったのだ。仮に魔王を倒すまで元の世界に戻れないとなったらそれまで生活をしなくてはならない。その居場所ややることを他のクラスメイトには与えられているのに俺にはないのだ。


「でも、それだと今井君の生活はどうなるのでしょうか。僕たちは衣食住に困らない生活を与えると聞かされましたが彼は……」


ここで学級委員長の飯島淳宏(いいじまあつひろ)君が口を開いた。彼も星印組に属している。


「先ほどと同じだ。我々から与えるものは何もないから自由に生活していいと。もちろん、王宮騎士団及びその他戦闘員に加わる君たちには無駄な話だが、彼の場合はただの一般人という扱いなので王宮に住む場合は居住税を徴収するがな」


住民税的なものなのか。


「それでも一方的に呼び出しておいてその扱いは如何かと。彼もクラスメイトの一員なのでせめて生活ができるための環境を整えてあげることはできないのですか」


今日ほど委員長をかっこいいと思ったことはない。俺が言いたかったことを全て代弁してくれる。


「生活ができるためと言ってもな」ローブの男は呆れたような顔つきで続けた。「彼の【木こり】スキルが役に立つことなんてない。木材なんて腐るほどあるんだからな。……それに彼に与えるものはないというのは陛下からの命令だ。それに意を唱えるということはお前にも何かしらのペナルティを課すことになるんだぞ」


「うっ……!」


飯島君は黙ってしまった。


「とはいえ偉大なる陛下がせめてもの慈悲として居住税は明日から対象とのことだ。これからどうするか残り少ない時間でゆっくりと考えるが良い」


どうするもなにも一銭もお金がないんだから税金なんて払えるわけがない。遠回しにここから出て行けと言っているようなものではないか。まだ「お前は役に立たない! この国から追放だ!」の方がキャラが立っていて面白い。俺なんて「別に何しても良いよ。出て行きたいならどうぞ」だからな。


そんなことをこの状況で考えられるくらいには落ち着いたのだろうか。俺はこの国から出ていくことを申し出た。どうせ出ていくことになるのだからぐだぐだ悩んでもしょうがない。それよりもいち早くここから出た後に安全に夜を過ごせる場所を見つけ出す方が優先だ。


葛城さんは黙って俺を見ているだけだった。これから【剣聖】として魔王討伐の最前線を走る彼女はなぜか凛々しく写った。国王の言うことが本当ならば死ぬことはないし、運が良ければまた会えるかもしれない。


……。


てか死ぬ寸前にまたここへワープされるのなら、危険な夜に出発して万が一があったら結局税金払うことになりそうじゃね?


それなら安全な朝になるまで待ってた方がよかったかもな。一日分の税金くらい委員長とか貸してくれそうだし……。


気付くのが遅かった。待ってましたとばかりに俺が出ていくことを聞いた男は水晶に向かってそのことを報告してやがった。しかもその後から聞かされたのだがこの手続きが終わった次の日にこの国にいたら侵入者として扱われるらしい。そういうのは先に言いやがれ。


「さようなら今井君。何もできない僕を許してほしい」


洞窟から出て行こうとすると委員長の声が後ろから聞こえてきた。どうにか引き留めるよう提案するわけでもなく、「ハズレスキルが! さっさと消えろ」のように罵倒するわけでもない。スキルを与えられてこれから冒険が始まるクラスメイトにとって、モブである俺の今後なんて正直どうでも良いのだろう。だからこんなイベントが起ころうとも反応なんてしない。早送りでスキップされるような場面なんだから。


まあでも、今までクラスメイトからこんなに注目されるようなこともなかったわけで。


「じゃあな」


モブにしてはかっこいい後ろ姿を決めてやったと思う。

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