表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4

異世界転生させられた生徒たち

目が覚めると不気味な空間にいた。

普通に生きていれば見慣れない光景。どうやら洞窟のようなものの中にいるらくゴツゴツした岩のようなものが薄っすらと確認できる。それよりも恐怖を感じていたのは眼の前にいるやつらだ。変な格好をした人間達が変な棒みたいなものを持ちこちらを見ている。


「な、何が起きたんだ!」


誰かがそう言ったのが聞こえた。


そこで俺もハッとした。

つい先程の出来事が記憶に蘇る。突然教室の床に魔法陣のようなものが出現し、それでクラスメイトが次々と消滅していったんだ。そして俺も突然気を失って気がつくとここにいるという……。


左右を見渡すと同じ制服を着たクラスメイトがいた。彼らも俺と同じように俺達を囲む不気味な人間に恐怖していた。


「お、おい! 何がどうなってるんだ! なんで俺達がこんなところにいるんだよ!」


この声は小俣君のものだ。少し不良っぽいところもあってこのわけのわからない状況にも先陣を切ってくれた。次々と男子生徒たちがガヤガヤとし始める。先程まで恐怖だけだった彼らも声を大きくしていった。


「遥香~、愛~。うぅっ……。ちゃんと生きてたみたい。うっ……。良かったぁ」


「莉々花ぁ、私、死ぬかと思ったぁ……。生きてる、生きてるぅ」


「二人とも、抱きつかないでっ……、苦しいでしょっ……ぐずっ……」


人気者女子生徒達のそんな声も聞こえてくる。

それぞれが口を開き先程まで静寂だった空間はみるみるカオスな状態になっていった。


「静粛にっ!!!!」


野太い声がクラスメイトの喧騒を吹き飛ばした。

それと同時に俺達を囲むやつらが片膝をつき、まるで国王のような権力の高い者が登場するかのように跪いた。


「なんだ、あいつは……」


小俣君と同じ野球部の志村浩哉(しむらひろや)君が斜め上を見上げていた。同じ方に目をやると、そこには国王という言葉がぴったりなほど豪華な衣装を身に纏い王冠を被る男が俺達を見下ろしていた。


「まずはそなたたちにお詫びする必要があるのぅ。我々の都合とはいえこちらの世界に召喚してしまったこと。心より謝罪する」


「召喚って、俺達に何をしたんだ……!」


「それって……」アニメオタクで有名な木元哲人(きもとてつと)君が今まで聞いたことのないような声で叫んだ。「僕たち、異世界転生したってことですか!? ふぉおっ! 魔法! ハーレム! 俺つええええ!」


「異世界転生、だって……?」


小俣君が頭にはてなを浮かばせているようだった。


「ほっほっほ。少しは教養のあるものもこちらに飛ばされたようじゃの」


「あ、いや。それほどでも……。またなんかやっちゃいましたかね。ぐふっ、ぐふふふ」


「きっも」


東城さんの呟きで木元君が黙る。

それと同時に国王だと思う人が続けた。


「諸君らを召喚したのは、我々の世界を魔王から救ってほしいのじゃ」


そいつ――やはり国王だった――が言うにはこうだ。

人類と魔族は何千年も前から争っていてたが、ちょうど十年ほど前から魔族の勢力が拡大し人類の力では太刀打ちできなくなっていったようだ。そんなときに大賢者なるものが異世界転生による召喚者へのスキル付与が人類側の戦力拡大になるということを発見し、国を上げて異世界転生の魔法を開発したらしい。それで四年前に異世界転生を実行し魔族への対抗を決めていたものの、魔力が足りず転生者の数も有能なスキル付与者も少なく、魔王に対抗するには戦力不足と判断し作戦を中断。魔族の進行具合から六年後の今が二度目の異世界転生だと決めた国王は儀式に取り掛かり、見事我々が呼び出されたということ。


「け、けど、俺等は元の世界で、やることがあるんだよ。修学旅行だって控えていたのに!」


「それは心配しないで良い。そなたたちを元の世界に戻る際は転生されたすぐ後に戻してやる。つまり元の世界だと一分も時間が経っていないというわけじゃ」


「そんなこと……できるのかよ」


「で、でも、異世界転生なんてことができるんだし、それくらいもできるんじゃ……」


小俣くんよりは取り乱していない様子の志村くんが言った。


「けど、魔族と戦うってことは、私達、死ぬかもしれないってこと?」


「そんなの嫌っ! 元に戻るといっても死んだら意味ないじゃん!」


「それも心配しなくてよい。転生者には特別な力が宿っていおるため命が尽きる寸前に自動的に転生時に呼ばれた場所。つまりここに呼び戻されるのじゃ」


「そ、それなら、いいけど……」


あっさりと納得する佐藤さん。


国王はそう言っているが元の世界に戻れることも死なないなんてことも真実なのだろうか。あまりにも都合の良いような内容に疑いを持つ。そもそもこいつは自分が国王だと名乗ったがそれも本当なのか。結局名前は聞かされていない。そういった胡散臭さがこの男の言葉すべてを否定してしまう。


「あの。スキル、というのはどこで確認できるのでしょうか。ステータスオープンすれば良いのでしょうか。それともシステムメッセージが流れるのでしょうか」


東城さんに釘を差されて黙っていた木元君が落ち着いた声色で問う。


「よくわからんが、スキルの確認については諸君らのポケットの中に紙を入れておいた。それを見てみぃ」


「えっと、これか」小俣君がすぐさま行動し制服のポケットから紙を取り出した。


「なになに……【投擲者】だって。なんなんだこれ」


「それは簡単に言うと遠くから物を投げて攻撃するスキルじゃな。使い手によってかなり強力なものになるスキルじゃ」


「お、ってことは野球部の俺からしたら最強のスキルじゃねえか」


自分ぴったりなスキルを引き当てたことで小俣君に笑顔がでてきた。


「私は……【精霊使い】だって、精霊って、本当に世界が変わったのね」


「そのスキルも強力じゃのう。この世界には魔族の他に精霊もいる。かなり強力なものもいるからそれを手懐ければお主が戦う必要はない」


「やった! ねえ、愛と遥香はどうなの?」


「私は【空間移動】だって」と東城さん。


「私は~、【水魔法】だって。魔法使いじゃん!」と一ノ瀬さんが嬉しそうに言う。


「【空間移動】は強力じゃぞ。瞬間移動よりもやれることが多いからな」先程からニヤニヤと笑っていた国王だったが一ノ瀬さんのスキルについてはあまり嬉しそうにせず真顔でぼそっと。「そのスキルは誰でも使えるわい」


皮肉のような言葉だったが一ノ瀬さんには聞こえなかった様子。キャッキャと嬉しそうにしていた。


「明くん……なんのスキルを貰ったの?」


俺もスキルの確認をとポケットの中の紙を取り出そうとしたら葛城さんが話しかけてきた。


「あ、うん。ちょっと待って……。葛城、さんは?」


今日になって何度葛城さんと口にしたのだろう。クラスメイトをこんなに呼んだのは人生の中で最大記録だ。


「私は……【剣聖】だって……。剣士、なのかな?」


「おおお、そなたが【剣聖】か!」国王が叫ぶ「どれ、こちらに来ておくれ。【剣聖】スキルはまだ発現したことがないが、言い伝えによるとどんな邪も断ち切ると呼ばれる最強のスキルなのじゃ!」


子どものようにはしゃぐ国王。威厳もクソもないくらいおじさんの喜び方にこちらも少々引いてしまう。


「【剣聖】及び一部のスキル保有者には特別手当を用意しておるからの。ふぉっふぉっふぉ。これならついに憎き魔族共に一泡吹かせてやることができるぞ」


国王が手を挙げると、俺達の周りにいた男の一人が葛城さんに何かを手渡ししていた。特別手当というやつなのか。


「なんかアイテムがいっぱい入るらしいポーチと、部屋の鍵を渡された。宿泊はここでしろだって」


クラスメイトの視線をよそに、それを受け取った葛城さんが俺のもとに戻って来る。手には財布ほどの小さなポーチと鍵。


「それより明くんは……? どんなスキルを貰ったの?」


そうだった。みんなの反応に気を取られ自分のスキルを確認していなかった。


今までの国王の反応から、所謂強いスキルを手に入れたものには何かしらのボーナスがあり国として重宝されるようだ。もしもここで優良なスキルを引き当てれば俺だって誰かに覚えてもらう存在になるかもしれない。今後はもしかしたら【剣聖】スキルを獲得した葛城さんの隣で戦うなんてことも十分にありえる。もしかしたら今までの青春はこのために残してあったのかもしれないな。今こそ失われた時間を取り戻すチャンスだ。


「俺は……」


こういうときは意外とシンプルな能力のほうが強いと決まっている。俺的には東城さんの【空間移動】というのが強そうだ。要するに瞬間移動というのは戦闘にも日常にも応用が効く。他にも例えば攻撃を跳ね返す能力なんてのも応用力がある。音や気温、空気なんかも攻撃対象と認識すれば自分に最適な空間を作り出すことだって可能だ。どちらにしろ日常生活では手に入れることが難しい超自然現象を能力として付与されればいくらでも個性を見せる機会がある。


俺は少しだけこの状況に感謝をしてしまった。変わらない日常。そして今後も変わることのないだろう人生が終わるかもしれないのだ。夢なら覚めてほしくない。ついに悪夢だったあの生活から抜け出すことができるのだ。


頼む、強いスキルが付与されてくれ――。


「俺は……。き……【木こり】、だって……」


やはり人生はそう上手くいかないらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ