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デザストル

デザストル。


剣を扱う者なら誰もが知っている。


デザストルは呪われた剣として有名だった。


何故呪われた剣と言われているのかというと、人の生き血を吸い剣が赤く染まるからだ。


戦う前に生き血を垂らすと、剣は持ち主の意思など関係なく勝手に動き周りにいる全てのものを殺すまで暴れ回り血を吸うという噂がある。


持ち主が弱くても剣はどんな相手にも勝つと言われているので、その剣を見たら騎士達は一目散に逃げ出す。


それほど危険で恐れられている。


「確かに、デザストルなら勝てるだろう。だが、最後に確認されたのは十五年前だ。今どこにあるかわからない物だ。今更探しても無駄だ。時間が無い」


アネモネの提案は悪く無いが大陸中を探す時間はもう無い。


後四日しか無いのだから。


「確かに今から探すのならそうかもしれません。ですが、もう手元にあるならどうでしょうか」


「デザストルを見つけていたのか!?何故報告しなかった!!」


勢いよく立ち上がりアネモネに詰め寄る。


「申し訳ありません。神聖力で封印されていたため本物か確認取れたのが今日の朝だったのです」


「つまり、間違いなく本物だということか」


信じられない、と驚きと歓喜の入り混じった表情をする。


「はい」


「今すぐ見せろ」


「はい」


アネモネとデルフィニウムは部屋を出てデザストルのある部屋に向かう。


一人置いてけぼりなシレネは何が起きているのかさっぱりわからなかったが二人の後をついていく。


屋敷の地下に入ると暗くて変な匂いが充満していて吐き気が襲ってくる。


薄気味悪い雰囲気になっていきシレネは今すぐ上に戻りたかったが、一人で帰るのは嫌で仕方なく奥に進む。


漸く目的地に着いたのかアネモネが立ち止まり扉を開け、中に入るよう促す。


中には棺桶だけがあり厳重に結界を張っていた。


「この中にあるのか」


「はい」


「開けろ」


「はい」


アネモネは結界をとき、棺桶のふたをどかす。


デルフィニウムはふたが無くなると中を覗き込み剣を手に取る。


「これが呪われた剣。デザストル」


まるで悪魔に取り憑かれたかのような目で剣だけを視界に入れる。


「……これなら勝てる。決闘には私が出よう。ブローディア家もこれで終わりだ。俺の手で終わらせられる」


デザストルを手に持ってからどこらかしこから力がみなぎる。


何でも斬れそうな全能感に包まれる。


心の底から人を殺すのを望み始める。


デルフィニウムが剣を抜こうとしたところで「お兄様」とアネモネが声をかける。


そこでデルフィニウムは我に返り剣を置く。


「……アネモネ、これは一体」


自分が自分でなくなったかのような何とも言えない恐怖に襲われる。


一体今のは何だったのか。


「それがデザストルの呪いです。その剣は血を吸いすぎました。その剣は持ち主を呑み込み自分の操り人形にしようとします」


アネモネは一息つき話を続ける。


「本当にこの剣で決闘に出られますか」


取り憑かれたときに放った言葉は信じられずそう尋ねる。


「ーーああ。この剣があれば勝てるだろう。だが、剣の操り人形にはなりたく無い。手はあるのだろう」


「はい」


「なら、いい」


「デルフィニウム。本当に貴方が出るの。大丈夫なの」


今まで黙って見守っていたシレネが口を開く。


デルフィニウムは漸くシルバーライス家の未来が見えてきたのに水を差すようなことを言うシレネに怒りが抑えられない。


「そもそも、誰のせいでこんなことになったと。自分の尻拭いもできないのに水を差すようなことを言うのはやめてもらえませんか。何か案を出すわけでも、手伝うわけでもないなら黙っていてくれませんか」


冷ややかな目でシレネを見る。


シレネは顔を真っ赤に染め「母親に向かって何て口を聞くの」と怒る。


「母親と名乗るならもう少し立場というのを弁えてください」


「どういうつもり。貴方達がこんな贅沢できるのは私のお陰なのよ。侯爵夫人の私がいるから」


「存在自体後ろめたいのにどうしてそんなことが堂々と言えるのですか。それと、私もアネモネも貴方がいなくても贅沢に暮らせます」


「ちょ……ちょっと、よく母親にに向かってそんなこと言えるわね」


存在自体が後ろめたい。


そんなことデルフィニウム言われなくてもシレネが一番わかっている。


貴族や平民、使用人達が言っても、お腹を痛めて産んで育てた子供達はそうしてはいけなかった。


自分の味方でいてくれると信じて疑わなかったのに。


デルフィニウムは一番言ってはいけない言葉をいとも簡単に言ってのけた。


「そう言われたくないのならそういう言動を取ってください。毎回尻拭いさせられる私の身にもなってください」


眉間に手を当てうんざりするような口調で言い放つ。


「それは、貴方達のことを思って……」


「本気でそう思っているのですか」


殺気を放ちシレネに詰め寄る。


「貴方の言動でどれだけ私達が迷惑を被ったとお思いで」


何もわかっていないシレネに呆れて深いため息を吐く。


「私が……一体何をしたと……」


「わからないのなら言っても無駄なのでいいです。暫く大人しくしていてください。パーティーの参加も禁止です。貴方のせいで決闘する羽目になったのですからそれくらい甘んじて受けてくれますよね」


シレネの肩に手を置く。


有無を言わさずな態度にシレネは「……母親にこんな扱いをするなんて」と静かに涙を流しか弱い声で呟く。


「母上。今だけです。暫くの間は公爵のところで過ごされたらどうですか。母上の役目は公爵の隣で笑って機嫌を取ることでしょう。パーティーにまた参加できるようになるまではゆっくりお休みください。母上は何も気にしなくていいのです。全て私がやりますので。全て落ち着いたら、母上の自尊心を満たすのことも、機嫌を取るのことも、何でもしますのでそれでいいでしょう」


耳元で囁くように言う。


「それじゃあ、まるで私がくだらないプライドで騒ぎ立ててるみたいじゃない!」


「違うのですか?今も、昔も、これからも、母上はずっとそうして生きてきたし、生きていくのでしょう?」


「貴方……私を何だと思って……」


「母親ですよ」


役立たずな、と心の中で付け足す。


「アネモネ。行くぞ」


「はい」


シレネを置いて地下室から二人は出て行く。


シレネは自分を置いていき振り返りもしない二人に悲しみや怒りや失望、いろんな感情がせめぎあって何ともいえない感情に陥る。


アネモネが使用人にシレネを部屋に連れて行くよう命じるまで、ずっと地下で泣いていた。




アネモネはやれることは全てやったが、何ともいえない不安が押し寄せてきて何か大切な事を見落としている気がした。


ブローディア家に潜ませている駒達からは決闘に出るのはマンクスフドで間違いないと報告はあったし、不安になるようなことは何も無いはずなのに、何故か自分の足元が崩れていく音が聞こえる気がしてならない。



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