報告 2
「私が出る。この決闘は私が殺る」
サルビアのその発言でその場にいた全員が目を見開く。
「え、お父様、冗談ですよね」
「いや、本気だが」
「決闘に騎士でなく当主が出るなんて話聞いたことありませんよ」
基本当主は自分が出ずに騎士に戦わせ傷つけられた名誉を取り戻す。
「それは殆どの貴族の家の当主が剣を振るえないからだ。私は振るえるからでる。それだけだ。心配するな。私は強い。負けはしない」
マーガレットが心配していると思いそう言う。
だが、サルビア以外の全員が「それはそうだろうな」と負けることはないと確信している。
サルビアは王国一、大陸一、ニを争う強さだ。
そんな男が負ける姿など誰も想像できない。
マーガレットとマンクスフドは相手の騎士に同情してしまう。
まだマンクスフドの方が良かったと相手が祈るところまで想像できた。
「確かに貴方の言う通りだわ。当主が出てはいけないなんて決まりはないし、貴方わかっていると思うけど、相手が二度歯向かえないよう徹底敵に潰してね」
マーガレットを傷つけられたことでシレネに対する怒りが抑えられない。
「勿論そのつもりだ。それにジギタリス公爵にもそろそろお灸を据えないと、と考えていたところだから丁度良かった。いい加減私達も我慢の限界だと教えるべきだからな」
マーガレットの件を無しにしてもこれまで散々ジギタリス公爵とシレネには嫌がらせを受けてきた。
国王の弟でジギタリス公爵という肩書きさえなければとっくに潰していた。
特に公爵の地位は厄介だった。
この国を支える二柱の一つの家を潰せばその領地は混乱に陥り、他国への侵略を許すきっかけを与えることになると思って我慢していた。
国王もそのことを危惧していて合う度に弟のことを謝罪していた。
だが、娘を馬鹿にしたことでその我慢も限界を超え潰すことに決めた。
領地が混乱に陥るのなら防げばいい、他国が攻めてくるなら追い返せばいい。
ブローディア家の力を持ってすれば簡単にできる。
最初から我慢などせずにそうすればよかった。
「ええ、そうね。この際、他の貴族にも教えるべきよ。私達を怒らせるとどうなるか」
マーガレットは改めて思った。
いつも温厚な人を怒らせるのはよくないと。
三人は二人の背後に般若の顔をした鬼が見え目を晒し見えないよう振る舞った。
「そうだな。決闘の日が待ち遠しいな。早く王宮から手紙が届かないものか」
サルビアもカトレアも笑ってはいるがあまりにも怖すぎて三人は何も言えず、ただ黙って話を聞き続けた。
もう夜も遅いのでこの話はこれで終わりと各自部屋に戻る。
その頃同時刻、シルバーライス家。
「母上。今何とおっしゃったのですか」
デルフィニウムが顔を真っ赤にして怒る。
今日起こった出来事を屋敷に戻ってから聞かされた。
デルフィニウムにも今日のパーティーにはいたが、個室で仲の良い貴族達と酒を呑んでいたため知らなかった。
帰り際貴族達の目が気になったが大したことでないと特に気にも留めなかったが、今はそれを後悔している。
いや、そもそもシレネをパーティーに連れて行かなければこんなことにはならなかった。
過ぎたことを後悔しても遅いが過去に戻ってやり直したい。
このままでは間違いなく社交界から追い出される。
そんな未来が簡単に想像でき頭が痛くなり手で顔を覆う。
「私は何も悪くないわ。悪いのは全部あの女よ。それに決闘になってもお金なら沢山あるわ。簡単に騎士を雇える。それに、公爵様がきっと助けてくださるわ」
デルフィニウムは能天気な頭をしているシレネを殴り殺したいと本気で思った。
「母上。本気でそんなことを思っているのですか。王妃は皆のいる前で他の家の手を借りるのを禁じたのですよ。少しは馬鹿な頭でも考えてから話してくれませんか」
苛立ちを隠そうともせずきつい口調で言う。
デルフィニウムの言葉にシレネは息子にそんな事を言われると思っておらず、呆然と立ち竦んでしまう。
そんなシレネを無視してアネモネに詰め寄る。
「アネモネ。私は王宮に着く前にお前に何と言ったか覚えているか」
「はい。お母様を頼む、と」
「そうだよな。俺はちゃんと頼むって伝えたよな。なのに、なんだこれは。お前がいながら何故こんな事になった。説明しろ。事と次第によってはお前でも殺すからな」
殺気を放ち本気で殺すつもりのデルフィニウム。
「あの計画を進める為、パルサティラ様とお会いしていました。会場でその話はできない為、庭で会っていました」
パルサティラと会っていたが話した場所は廊下で庭ではルドベキアと会っていた。
「それは母上を放ったらかしにしてまで話す事だったのか」
その理由では納得できない。
「はい。向こうで何か問題が発生したため、その解決策を説明していました。計画が遅れれば失敗する可能性が高くなります。そのため会わなければならなかったのです」
今言った言葉は全て嘘。
そんな事実は無いがわざわざ二人がパルサティラに確認することは絶対ないとわかっていたので、それらしい理由を今適当に作った。
「……クソッ、よりによってブローディア家と決闘なんて。どうするつもりです、母上。我々に勝ち目はないですよ」
アネモネに八つ当たりしたかったが、理由が理由なので諦めた。
シレネにターゲットを変え詰め寄る。
「問題ないわ。騎士はこの世にごまんといるわ。金さえ払えば戦ってくれる騎士なんて直ぐに見つかるわ」
シレネはブローディア家の騎士団がどれだけ強いのか全くわかっておらず呑気に大丈夫だと考えていた。
そんなシレネに二人の子供は頭を抱える。
「私はもう寝るわ。明日になったら公爵様が来るだろうし。どうせ、決闘もなくなるわ。国王は義理堅いのよ。弟の頼みなら喜んできっと決闘を取り消すわよ」
そう言うとシレネは自分の部屋に戻り眠りにつく。
デルフィニウムは未だにことの大きさをわかっていないシレネに腹が立ち近くになった花瓶を床に投げつけ苛立ちを落ち着けようとする。
「アネモネ。わかっているな」
「はい」
「何をしてもいい。必ずブローディア家を負けさせろ。いいな」
ギロッ、と瞳孔が開ききった目でアネモネを見て命令する。
「はい」
一応返返事はしたがアネモネにはどうすることもできなかった。
呪術を使えば直ぐに解決するが、それをすればヘリオトロープにバレてしまう。
そして、アングレカムと神殿を襲ったことがバレてしまう。
そのため、呪術を使えなかった。
ブローディア家に刺客を送っても返り討ちに会うだけ。
何人か忍ばさせている駒を使ってもいいが絶対にバレて追い出される。
今使えば計画を実行するときに、ブローディア家に駒がいないと困る。
前世では策略を巡らし大勢の貴族を滅ぼし配下にしたが、今だけは何も浮かばない。
どこか一つでも突けばこちらの悪事が見つかり間違いなく殺される。
万事休すとはまさにこのこと。
打つ手が何も浮かばない。
そもそもどこにもそんな隙がない。
今回の決闘は諦めて次のパーティーで名誉挽回する方が最善だ。
そう思うがそんなことを言って聞き入れる二人ではない。
仕方ないので取り敢えず戦ってくれる騎士を捜すことにした。
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