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フリージア家&約束

 


「あの、マーガレット様でしょうか」


マンクスフド達を向かいにいく途中誰かに声をかけられた。


ヘリオトロープがマーガレットを隠すように前に立つ。


「誰だ」


冷たい口調で問う。


「私はキーラ・フリージアと申します。父の代わりに公爵様へのお礼を伝えに参りました」


「お礼?」


フリージア家を助けた記憶はないので不審な目でキーラを見る。


「はい。神殿で母と妹を公爵様に救ってもらったお礼です」


神殿。


その言葉で二人は警戒体勢に入るが、すぐにその必要はなかったと緊張をとく。


キーラは涙を流しながらお礼を言い続けた。


父は母と妹が心配でこのパーティーに参加できず、キーラだけが参加した。


貴族である以上誰かは参加しなければならなかった。


今日のパーティーはサルビアが参加しないとわかっていたのでお礼を伝えて貰おうとずっとブローディア家の人間を捜していた。


だが、キーラはサルビアとカトレアしか見たことが無かったのでマーガレットのことを知らなかった。


会場で見かけたとき美しい人だと思ってが、マーガレットが入ってきたときその場にいなかったのでマーガレットの名を聞いていなかったので誰かわからなかった。


キーラがマーガレットの名を知ったのはシレネと言い争いをしてブローディアの名を口にしたからだった。


急いでマーガレットに話しかけようとするが中々追いつけず、やっと会場から出れたと思ったらどこに行ったかわからず、ずっと捜し続けていた。


「本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。もし何かあれば何でも言ってください。必ず役に立ちますので」


キーラの目は真剣で嘘を言っているようには見えなかった。


「頭を上げて」


キーラはゆっくり頭を上げる。


「ありがとう。必ず貴方の言葉を父に伝えるわ」


「はい。ありがとうございます」


マーガレットは今日はもう帰るからまた違う日に会いましょうと言ってマンクスフド達の所に向かう。


キーラは二人の姿が見えなくなるまで頭を下げ見送り続けた。




「マーガレット様。約束の理由を教えてください」


マンクスフド達を迎に行き、馬車に乗り込み出発するとすぐに理由を尋ねてくる。


「わかりました。その前にクラーク様はシルバーライス侯爵家がどんな家か知っていますか?」


「いえ、知りません。シルバーライスと言う名も今日初めて聞きました」


シレネのことを思い出す。


「では、まずそこから説明します。シルバーライス家とは簡単に言えば国王の弟の愛人一家です」


「国王の弟ってことは、ジギタリス公爵ですか」


ジギタリス公爵と関わるかもしれないと考えるだけで頭が痛くなる。


女好きで正妻を物としてあつかう男として有名だった。


国王とは違い自分勝手な男として有名だ。


そこで漸くシレネのの態度に納得がいった。


侯爵夫人の分際で公爵令嬢に喧嘩を売った理由が。


「はい、そうです」


マーガレットが肯定するとヘリオトロープはこめかみを押さえる。


ヘリオトロープは貴族のことには疎く殆どの顔と名前を知らない。


両公爵家はマーガレット以外には会ったことあるので知っていた。


ジギタリスに愛人がいることは知っていたが名前までは知らなかった。


後何人女がいるのか考えただけでも頭が痛くなる。


そこでふとあることに気づきマーガレットにその事を問う。


「あの、シルバーライス侯爵はどんな人なのですか」


貴族が愛人を作るのは珍しくないが、ふと侯爵は何も思わないのか、と。


「私も会ったことはないのでよくわかりませんが、噂では体が不自由で誰かに支えてもらえてやっと歩ける体だと聞いたことがあります」


何故そんな人と結婚を?そんな疑問が顔に出ていたのか、その理由をマーガレットが話す。


「わざとそんな相手を選んだんだと思います。体が不自由であれば一人で何かするのは難しいですし、年齢もかなり上なので妻を盗られる心配もなくなりますし。侯爵夫人は唯一、ジギタリス公爵が愛人として認めた女性で子供達も認知しています。確実に大丈夫な相手でなければ結婚など認めなかったのでしょう」


シレネが他の男と遊ぶのは許しても夫とそういう関係になるのだけは許せなかった。


万が一本気になられては困ると思って、最初からその可能性を潰しにかかったのだ。


「では、侯爵はわかった上で結婚したと」


「はい、そうだと思います」


マーガレットが肯定するとヘリオトロープはそんな関係が理解できず、頭が痛くなる。


貴族という生き物が汚らわしく思えてくる。


同じ貴族でもどうしてブローディア家と違うのだろうか。


「……今日のパーティーにシルバーライス侯爵夫人はおられなかったのですか」


少し頭を整理してから口を開く。


侯爵が歩けられないのなら一人で来ることになる。


会場ではジギタリスを見かけなかったので侯爵夫人もいなかったのか、それとも娘と一緒にいたのか、と。


アネモネとシレネのことを知っていたから母親の侯爵夫人の顔も知っていると思いそう尋ねた。


マーガレットは目を見開き一瞬驚いた顔をするがすぐ元に戻り口を開く。


「いました」


「え!?いたのですか?どんな人ですか」


「はい。私が決闘を申し込んだ相手がそうです」


「……え?」


素っ頓狂な声を出す。


「彼女がジギタリス公爵の愛人でシルバーライス侯爵夫人、シレネ・シルバーライスです」


あの女が!?とヘリオトロープは理解できないといった表情をする。


「え、ということはあの女がマーガレット様が捜していたアネモネという女の母親ですか?」


「はい、そうです」


全然似ていなくて一緒にいても疑ってしまう。


唯一同じなのは神の色だけ。


それ以外はどれも違った。


雰囲気も瞳の色も。


マーガレットにあの二人が親子だと言われても未だに信じられない。


姉妹だと言われた方がまだ信じられる。


シレネの見た目は若々しくとても十代の子供がいる母親には見えない。


四十代の女性というより二十代の若い女性に見える。


「マーガレット様。その女に決闘を申し込んで大丈夫ですか。国王の弟なら……」


その続きの言葉が何かわかり手で静止する。


「クラーク様、貴方の目には国王はどう映っていますか?」


その言葉を聞いて我に変える。


マーガレットを心配するあまりヘリオトロープは国王を侮辱するところだった。


マーガレットが止めてくれなければ一生後悔することになっていた。


「きっと、マーガレット様と同じです。すみません。余計な心配でした」


「ですが、何かしら手を打ってくるかもしれません。そこでクラーク様の力を借りたいのです」


「私のですか。構いませんが何故ですか」


マーガレットの力になれるのなら喜んで力を貸すが、決闘は騎士同士がするもの。


自分の力が何故必要なのかわからなかった。


「アネモネ・シルバーライスが関わってくるからです」


その名が出てきてここから本題に入るのだと察した。


何故、マーガレットがアネモネを捜すよう頼んできたのか。


そして今から漸く最初の質問の答えを聞けるのだと。


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