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シレネ・シルバーライス

「公爵令嬢、そちらの方は神官様ですよね。どうやって仲良くなられたのですか。教えて下さいませんか」


このまま馬鹿にされたまま引き下がる訳にはいかない。


二度と社交界に出られないようにしなければ気が済まなかった。


赤っ恥をかかされたのだから当然の報いだと。


どうせ体でも使って誘惑したのだろう。


そう思って問うた。


「それを聞いてどうするのですか」


マーガレットの声と口調が冷たくなった。


シレネの真意がわかり腹を立てたのだ。


だが、シレネも取り巻き達もマーガレットが怒っているのに気づかずまた失言をしてしまう。


「私も仲良くなりたいと思っただけですよ。独り占めはよくない。そうでしょう」


取り巻き達に同意を求める。


取り巻き達はその言葉に「はい、私も仲良くなりたいです」「公爵令嬢、教えて下さいませんか」「私達にもその方法教えて下さいませんか」と言いたい放題言い始める。


「神官様はどう思いですか?」


ヘリオトロープに触ろうと手を伸ばす。


ヘリオトロープを手に入れれば社交界での地位を全て手に入れれることができるかもしれない。


そう思い誘惑しようとしたときマーガレットがヘリオトロープの前に立ちシレネの手を払い退ける。


「な!……何故邪魔を、どういうつもり」


キッ、とマーガレットを睨みつける。


「それはこちらの台詞です。貴方は一体何様のつもりですか。最初の挨拶からずっと私のことを侮辱してますよね。私が気がついていないとでも。私のことは見逃しましたけど、クラーク様を侮辱するというのなら話は別ですです」


マーガレットの雰囲気が一変しシレネも取り巻き達も驚きを隠せない。


「貴方達には少し、いえ、かなりきつめの躾が必要なようね」


誰にも聞こえないよう呟くと戸惑って何も言えないシレネ達に畳み掛けるよう続ける。


「もう一度問います。貴方達は何様のつもりですか。いくら何でも失礼すぎだと思いませんか?それに、貴族にとって階級とは絶対。なのに、先程からの貴方達の言動は階級を重んじる貴族とは思えないあるまじき行動ばかり。貴方達は何か勘違いをしていませんか。私は公爵令嬢。マーガレット・ブローディア。貴方達より階級は上のはずです。どうして貴方達は私に話しかけてきたのですか。ここでは私から声をかけるまで話しかけないのが普通では」


正論過ぎて何も言えない。


自分達が主催したパーティーならまだしもこれは王宮が開いたパーティー。


ここでは国王の顔を立て階級を重んじなければならない。


今この場で王族の次に偉いのはブローディア家であるマーガレット。


その次に現国王の弟の公爵家。


たかが愛人風情とその取り巻きが気軽に話しかけていい存在ではない。


「私はシレネ・シルバーライスよ。私にそんな態度でいいわけ。これから社交界に出るつもりなら態度に気をつけた方がいいのでは。このままでは貴方の移場所はないわよ」


未だに状況を理解できず馬鹿な発言をする。


周囲で見ていた貴族達はその発言に笑いそうになるのを我慢する。


たかが、愛人の分際でよくそんなことを言えたものだと。


「それで?なかったら何だというのです」


「え?」


素っ頓狂な声が漏れる。


そんなことを言われるとは思っても見なかったという顔だ。


「私の心配などしていて大丈夫ですか。それより

ご自分の心配をされてはどうですか」


「それはどういう意味かしら」


「そのままの意味ですよ。貴方は自分がどれだけ愚かな言動したのか理解していないのですね。貴方は私を侮辱しました。それは我がブローディア家の顔に泥を塗ったということ……」


マーガレットはグローブを外す。


それを見たシレネは全てを察し顔を青くする。


シレネが何か言う前にグローブを顔に投げつける。


「決闘を申し込みます」


それは死を意味する宣言に近かった。


ブローディア家の騎士団はこの国一強い。


二度目の人生では圧倒的な戦力差で敗れたがそれでも大半は道連れにすることのできる強さを誇っている。


そんなブローディア家に決闘を申し込まれたら相手の騎士は確実に死ぬことになる。


誰もシレネの代理人にはならないだろう。


「国王陛下。このようなパーティーでお見苦しいところをお見せしましたが、どうかこの決闘を認めては下さいませんか」


マーガレットは跪き国王に頼む。


マーガレットが決闘の言葉を放った瞬間会場は静寂に包まれその動向を見守った。


「わかった。その決闘私が証人になるとしよう」


「ありがとうございます。国王陛下」


マーガレットがそう言うと国王の発言で一瞬静寂になったのが嘘の様に騒がしくなる。


それはどっちの味方をするのか、と。


シレネは弟の愛人。


マーガレットはブローディア家の人間。


国王が最も信頼している貴族の娘。


周囲はマーガレットというものもいればシレネというものもいた。


だが、当の本人達はわかっていた。


国王が何の為にそう言ったのか。


するとここまで黙っていたロベリアが立ち上がりこう宣言する。


「これは女性として、貴族としての名誉とプライドをかけたもの。それぞれの家の名誉をかけた決闘であるため、外部のものの助けは一切禁止とする。もし、これを破ったら今後一切社交界に出ることを禁止する。勿論影で助けたりしたらそのものも社交界に出ることを禁止とする」


ロベリアの発言にシレネは絶望する。


外部の助けを求めても勝てるかわからない相手なのに、助けを求められなかったら絶対に勝つことはできない。


シレネは周囲に助けを求めるが皆視線を合わせないようにする。


シレネは社交界一の美貌の持ち主と言われ男を落とし奪いまくった。


相手がいる、いない関わらず気に入った男は全員落としてきた。


今この会場のほとんどの男はシレネを抱いたことがあるが国王、王妃、ブローディア家を敵に回してまで助けようとする者は誰一人いなかった。


それどころかシレネの落ちていく姿を楽しそうに見ているものの方が多かった。


シレネのせいで傷ついたものは大勢いる。


特に女性達はそうだった。


国王の弟の愛人という地位のせいで皆刃向かうことができなかった。


だが今目の前でそのシレネに立ち向かい地位と名誉、そしてプライドをズタズタにするのを目の当たりにした。


心にあった憎しみや怒りが引いていき満たされていくのを感じた。


ーーもっとその女を痛めつけてくれ。


傷付けられたものはそう願わずにはいられなかった。


「わかりました。ブローディア家の名に誓ってその条件を破らないと約束します」


マーガレットが承諾したことにより、これを拒否することができなくなった。


拒否すれば自分のプライド一つ守ることもできない貴族という烙印を押される。


「……わかりました。その条件をのみます」


震える声でそう言うのが精一杯だった。


「詳細は後ほど部下に手紙を届けさせる。それでよいな」


国王の問いかけにマーガレットは「はい、構いません」と返事し、シレネも「はい、問題ありません」と返事する。


「では、この話はこれで終わりだ。皆パーティーの再会だ。夜はまだ長い。楽しんでくれ」


手を二回叩き演奏を再会するよう合図を出す。


演奏が再会されると国王の顔を立てるように何組かが踊り出す。


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