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情報屋

カランカラン。


「いらっしゃいませ〜」


扉が開く音がして怠そうに声を出し客に目を向ける。


凄い綺麗な人が入ってきたなと目を奪われていると後ろにいる女性があの時の依頼人だと気づき目を見開く。


貴族だったのかと。


マーガレットは男に余計なことは言うなよと圧をかける。


男は頷きそうになるのを何とか耐える。


「すみませんが、お手洗いをお借りしても宜しいでしょうか」


マーガレットがそう言うと口パクで「後でトイレを見ろ」と伝える。


「構いませんよ、どうぞ」


急な展開についていけず狼狽る。


美しい男は服装からして騎士だろうか。


結構良いところの娘なのか、とトイレに入ったマーガレットが何者なのかと不審に感じる。


「何か注文はありますか」


ヘリオトロープに話しかける。


「いや、ない」


これ以上話しかけるな、と全身からその雰囲気を出す。


マーガレットがトイレから出てくるまでの間重い空気が流れる。



「……ここでいいか」


使い道が謎の網のネットがぶら下がっていたのでそこに手紙を入れる。


用は済んだしさっさと出るか、と二人のところへ向かうと何故か空気が重苦しかった。


「すみません。助かりました。ありがとうございます。えっと……」


前回名前を聞くのを忘れていたので知らない。


知っていたとしても初対面という設定なので同じようにしたが。


「シグレです」


「シグレさん。ありがとうございました」


頭を少し下げて礼を言う。


「あの、ここは何のお店ですか?」


「飲食店です」


「何かお持ち帰りできるものはありますか」


「いや、ありません」


「そうですか。では、そこのワインを一つ下さい」


公爵家のワインと比べれば美味しいとは言えない酒を買うと言う。


シグレは貴族が飲むような酒ではないと言うと、店に入って何も買わずに去るのは失礼だと言って買わせて欲しいと頼む。


シグレは貴族の癖に変な女だと思いながら酒を売る。


「今度は食べにきますね」


マーガレットが店を出る前にそう言ったが、シグレの耳には「また仕事を頼みにくる」と聞こえた。


「マーガレット様、ワイン好きなのですか?」


「いえ、お酒全般あまり得意ではありません」


とういうか一回しか飲んだことない。


社交界で間違って飲んでしまい「これが酒、不味い」と思ったことがある。


それ以来一度も飲んだことがない。


「では、それはどうするのですか」


「マクスにでもあげようかと。マクスはお酒大好きなので」


昔のマンクスフドはよく酒を呑みに町に行っていたと聞いたことがある。


今は部屋で静かに呑んでいるらしい。


酒の違いなどマーガレットにはわかっておらず、どれも一緒だろうと思っていたので酒ならどれをあげても大して変わらないだろうと思っている。


ヘリオトロープもお酒はあまり好きではないが、マーガレットから貰えるのなら好きになっていればと後悔した。


「お待たせしました。お母様」


「大丈夫よ。それより、それは?」


何故ワインを持っているのか不思議で尋ねる。


「何も買わずに出るのは失礼だと思いワインを買いました。後でマクスにでもあげようかと思いまして」


「ああ、そう言うことね。確かにマクスなら喜んで呑むわね」


「はい。私もそう思ったのでこれを買いました」


酒を呑むマンクスフドの姿を思い浮かべ二人はクスクスと笑う。


もう用は済んだので屋敷に向かう為馬車に乗る。


その日の屋敷に帰るとマーガレットはマンクスフドにお酒を届けた。


マンクスフドは嬉しくてその日の内に全部呑み干して、次の日は誰もが引くくらいの笑みを浮かべていた。





「トイレを見ろってどういう意味だ」


マーガレット達が店から出るとそう呟きながらトイレの扉を開ける。


すぐに網のネットの中に手紙が入れてあるのに気づき取り出す。


「ああ、手紙を渡したかったのか。それなら直接渡せば……って、無理か」


出来たなら最初からそうしていただろう。


何かできない事情があるからこんな面倒くさく事をしてまで隠そうとしているのだ。


前の依頼もまだ手詰まりなのに他にもやらないといけないのかと少しげんなりするが、金払いはいいので仕方ないかと受け入れる。


封を開け手紙を取り出す。


「えっと、次の依頼は何だ」


そう呟き内容を確認する。


手紙にはこう書かれていた。



『前回の依頼だが、偶然カラントと出会い引き取ることになったので無しにしたい。


変わりといっては何だが別の依頼を頼みたい。


シルバーライス家の情報を集めて欲しい。


その家と仲の良い家も調べて欲しい。


命の危険もある為受けるか受けないかはそちらに任せる。


もし受けて情報が集まったら前回言った方法で知らせてくれ。


もし受けないのであったらそのまま無視してくれて構わない。


最後にこの手紙は燃やしてくれ』



簡潔でわかりやすい内容でシグレは直ぐに状況を整理できた。


「……命の危険か、それはそれで面白そうだな。前回の依頼は果たせてないのに金だけ貰うのは俺の流儀に反する。喜んで受けるとするか」


凶悪な笑みを浮かべる。


「ジーク、ローガン。依頼内容が変わった。降りてこい」


二人が眠そうな顔で降りてくる。


「はあ!?何だよそれ。折角頑張って調べたのに」


「そうだ、そうだ。俺達の事をなんだと思ってるんだ」


マーガレットに対して怒りを露わにする。


「でも、今回の依頼は命の危険が伴う最高に甘美な仕事らしい。それでも、そんな事を言うのか」


二人の目が死んだ目からキラキラと宝石のように輝く目に変わる。


「最高です。一緒ついていきます」


「俺もついていきます」


そう言い終わると子供が見たら絶叫するような恐い笑みを浮かべ笑い出す。


「兄貴、一つ質問があるんだが」


「何だ?」


「もし俺らの仕事を邪魔する奴らがいたらどうする?」


「そんなのいつも通りだ。狩ればいいだろう」


「そっか、そうだな。そうすればいいよな」


シグレの許可が出て久しぶりに楽しめると喜びを隠せない。


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