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消えた死体

「二人共、お帰りなさい」


涙が出そうになるのを我慢し笑顔で出迎える。


昨日の夜サルビアから明日帰ると聞いていたので朝から帰ってくるのを今か今かと待っていた。


「ああ、ただいま」


「ただいま戻りました」


二人はカトレアに抱きつき安心させる。


二人の温もりを感じ本当に帰ってきてくれたのだと、死んでないと感じられずっと我慢していた涙が溢れ出してくる。


「カトレア」


不安にさせた申し訳なさとよく頑張ってくれたと感謝する気持ちが混ざった声で名を呼ぶ。


「無事で本当に良かった」


無事だと言われていたが二人の姿を見るまでは心が休まらなかった。


「ああ」


マーガレットとカトレアを強く抱きしめる。


ーー守らねば。必ずこの幸せを。


皮肉なことに今回の件でどれだけ二人が自分にとって大切な存在かを改めて思い知らされた。


そして命がどれだけ重いものなのかを。


「そろそろ、中に入りましょう。お腹が空いているでしょう。準備したから食べましょう」


久しぶりに三人揃っての食事。


料理長に皆が帰ってくるまでに全員分の食事を作るよう命じていた。


そろそろ出来上がっているだろう。


「ああ、そうだな」


「はい」


三人で食事ができる幸せを噛みしめながら、久しぶりの家族で過ごせる時間を楽しんだ。




食事を終え皆にはもう休むよう命じ、明日からまたよろしく頼むと言う。


使用人達や騎士達はアドルフが死んだことやジョンとシーラが今回の騒動に関わっていることを既に知っている。


それにアングレカムに行った者達は何日もの間死体を見ている。


騎士達は死体を見たことはあるが、使用人達はない。


急激の変化に精神がやられていてもおかしくない。


これ以上無理をさせるのはよくない。


早く休ませるべきだと。


シャワーを浴び温かい布団で寝ることで少しは落ち着くだろう。


先に食事をするよう命じたのは、帰ってすぐ休むよう命じれば食べずに寝てしまうものがいるだろと心配したからだ。


温かいご飯を食べたら少しは元気になるかもしれないと思って。


ただ、ヘリオトロープにはまだやってもらうことがあり休むのはその後にしてもらった。


「ーー話はわかりました。そこまで案内をお願いします」


サルビアが頭を下げてアドルフを助けてほしいと頼んだのを了承する。


「ありがとうございます」


マーガレットとカトレアも頭を下げ感謝を述べる。


四人は食事を終えた後サルビアの自室で話をしていた。


カトレアがアドルフの死体がある場合まで案内する。


だが、アドルフの死体を棺に入れ魔法石で封印していたのに棺を開けるとそこは間抜けの空だった。


「……え?……アドルフは、どこ?」


カトレアの反応から間違いなくここにいたのだろう。


だが、アドルフはいなかった。


「……カトレア様。魔法石で封印してから開けましたか」


暫く誰も何も言えず固まっていたが、我に返ったヘリオトロープが尋ねる。


「い、いえ。開けてません」


事態が呑み込めず何も考えられない。


ただ、自分のせいでアドルフは消えたのだということだけはわかった。


その事実が受け止めきれずその場に倒れる。


間一髪でサルビアが受け止める。


「大丈夫か?」


声をかけるがカトレアの耳には届かなかった。


ヘリオトロープは棺に近づき魔法石が破られた原因を探す。


蓋を調べたり中を調べたりするが何もおかしいところはない。


となると残るは魔法石だけ。


魔法石に触れようと手を伸ばした瞬間、バチッと赤黒い光が現れた思った次の瞬間爆発した。


「クラーク様!」


マーガレットが叫ぶ。


煙のせいで姿が見えない。


「はい」


そう返事すると神聖力を使って風を巻きおこし煙を吹き飛ばす。


「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」


ヘリオトロープに近づき怪我をしてないか尋ねる。


「はい。問題ありません」


「本当ですか。あんな近くで爆発したのですよ」


信じられずヘリオトロープの体を見るがどこも怪我をしていなかった。


服もどこも破れてないし汚れてない。


綺麗なまま。


どうしてと不思議に思ってヘリオトロープを見るとニコッと笑いかけられた。


「あの程度の爆発では私には傷一つつきません。私達神官は常に神聖力で体を纏っていますので。それより、マーガレット様の方こそどこも怪我はしておられませんか」


勿論、神聖力を使って常にマーガレットは守っているが念のために聞く。


「はい。私達は大丈夫です」


「そうですか」


その言葉を聞いて安心する。


「それより一体何があったのですか。急に爆発するなんて」


「確証はありませんが呪術師が何かしたのでしょう。魔法石を調べようとした瞬間爆発するよう陣を描いていたんだと思います」


「呪術師が」


アネモネの顔が浮かぶ。


またお前か、と。


一体どれだけ私の大切な人達を侮辱すれば気が済むのかと怒りが込み上がってくる。


「ええ、こんなことをするのもできるのも神官を除けば呪術師くらいですから」


「そうですか。なら、アドルフを連れ去ったのも呪術師で間違いないと」


「そうとは言い切れません」


「どういうことですか」


なら誰が、と質問する。


二人の話を黙って聞いていたが、我慢出来ず口を挟んでしまう。


それはつまりこの屋敷にいたものの誰かが連れ去ったと言いたいのか、と。


「魔法石を調べられなかったので絶対とは言い切れませんが、ほぼ確実に違うと思います」


「どうしてそう言えるのだ」


「我々神官は人間がもつその人特有の光を見ることができます。その光は誰一人同じではありません。それは呪術師にも言えます。もし、ここに呪術師がきただけならわかりませんが、力を使ったのなら話は変わります。残穢が残らないとおかしいのですが、どこにもそれが見当たりません」


首を横に振り呪術師の仕業ではないと。


「こらは呪術師がしたというよりは、誰かが呪術師の力を借りて魔法石の封印を破り連れ去ったと考えるべきだと」


呪術も神聖力も持たない人間がその力を借りて使っても残穢は残らない。


本人が使ってそれは残るのだ。


「つまり、この屋敷に出入りでき尚且つここにアドルフの死体があることを知っている者が呪術師の手助けをしアドルフを連れ去ったと言いたいのか」


そんな者がこの公爵家にいるのかと信じたくない気持ちで尋ねる。


「はい」


ヘリオトロープはサルビアの目をしっかり見つめ返し答える。


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