忠誠
「公爵様。此度は本当にありがとうございました。この恩は一生忘れません」
屋敷に戻る準備を終えもうすぐ出発するというサルビアにアスターが感謝の言葉を言いにくる。
「気にする必要はない。私は当然のことをしただけだ」
アスターに近づき肩に手を乗せる。
「アスター。これからもこの町のことを頼むぞ」
「ーーっ、はい。お任せください」
目頭が熱くなり涙が出そになるのを必死に我慢する。
頼む、その言葉の意味が信用していると物語っていて嬉しかった。
「公爵様、いつでも出発できます」
「わかった。では、帰るぞ」
馬に跨り町の者達からのお礼の言葉を聞きながらゆっくりと町を出ていく。
サルビアがマンクスフドの方に視線を向けるとカラントが前にいた。
カラントを公爵家に入れるのが吉と出るか凶と出るかわからないがマンクスフドが育てるのだから大丈夫だろう、と。
一か月半ぶりにマーガレット達は屋敷へと戻る。
少し前。
ブローディア家の騎士と使用人達が出発の準備をしている頃。
マーガレットは朝食を取り終えた後、アスターとこれからの話をしもう一度連絡手段の確認をした。
「ーーこれ以上、この町に呪術師立場と繋がっている者がいるとは思いたくはないですが、念には念をいれときましょう」
「はい。私の方でも調べてみます。何かあれば直ぐに連絡いたします」
アングレカムに何かあれば月に一度公爵家に贈る花束で報告する。
危険が迫った時は紫の花
緊急の報告がある時は青の花。
協力者又は黒幕がわかった時は赤い花。
その時以外はこの色の花は入れない。
マーガレットからの報告は三か月に一回だけ。
公爵家には間違いなくまだ裏切り者がいる為マーガレット自身が動く必要がある。
頻繁にここに訪れても不審には思われない。
心配で訪れているだけだと思われるだけだろう。
「ええ、頼みます」
この町で今信じられるのはアスターだけ。
任せるしかない。
「はい、お嬢様。……本当にありがとうございました」
深く頭を下げる。
「気にしないで。私は当然のことをしただけです」
挨拶を済まし帰り支度を再開する。
「お嬢様」
後もう少しで出発するというときにマンクスフドに声をかけられた。
「どうかした」
後ろを振り向くとマンクスフドの後ろからカラントがこっちに近づいてくるのが見えた。
ああ、カラントがきたことを教えてくれたのだと。
「私は少し離れた所にいます」
そう言うとヘリオトロープにもついてくるよういい離れた場所で見守る。
隣からは「何で俺まで離れないといけないんだ」とぶつくさと文句を言っているが聞こえた聞こえないふりをした。
「お、お嬢様」
「どうするか決めた」
「はい。お、おれ、お嬢様を、守る、騎士に、なります」
「そう」
「い、今、ここで、ちか、います。俺、は、この身を、お嬢様に、捧げます。ちゅう、せいを、誓い、ます」
マーガレットはその誓いに大して返事することはなく、騎士についてマンクスフドに教えてもらうよう言った。
「マンク、スフド、さん。これから、よろしく、おねが、いします」
マーガレットの指示に従いマンクスフドに騎士としての在り方を習おうと挨拶しにきた。
「ああ、カラント。これから宜しくな」
「はい」
これでマーガレットの傍にいることができる。
堂々と隣に立つのはまだ先だがそれでも一歩前に進んだ。
「それより、カラント。荷物はどうした。公爵家にこれから住むことになるからここには帰れないぞ」
何も持っていないのを不思議に思い尋ねる。
「おれの、もので、はない、ので、もって、いくこと、はでき、ません」
唯一カラントの物は今着ている服だけ。
それ以外は全て死んでいった人達から勝手に借りていた。
生きる為には仕方なかったとはいえ、マーガレットに仕えることになった今、これ以上勝手に使うのはやめようと何一つ持ってこなかった。
「そうか」
屋敷に戻ったら、騎士達を集め小さくなった服を集めようと決める。
「……あの、おれは、なにを、したら、いい、ですか」
マンクスフドが何か考え込んでいるのを自分になにをさせようかとしていると勘違いしてそう尋ねる。
公爵家の騎士として連れていってもらうのに何もしないのはよくない、と。
「じゃあ、此処にある荷物をそこの荷馬車につむのを手伝ってくれ」
「は、い」
元気よく返事し荷物を積んでいく。
年齢の割に体は小さいが力は強いのかどんどん積んでいく。
流石に大きい荷物は重たかったのか持ち上げることができていなかった。
「そんなに、落ち込まなくていい。これからできるようになればいい。そうだろう」
その問いに「はい」と返事し強くなろうと決意する。
「では、皆そろそろ出発するぞ。準備は済んだか」
サルビアが声を上げる。
全員準備が終わり出発できるとなると町の人達のお礼の言葉を聞きながら町を出る。
カラントはこれから騎士になるのだから、今から馬に慣れておく必要があると自分の前に座らせることにした。
今は背中も頼りなく小さいが、いつか立派な騎士となりブローディア家に欠かせない存在になるだろうとその背を見ながら確信に近い予感がした。
「マーガレット様」
「はい」
「一つ聞いてもよろしいでしょうか」
「構いません」
町を出て暫くするとヘリオトロープが話しかけてきた。
サルビアもマンクスフドも馬に乗っているので馬車には二人きりになる。
「何故あの少年を公爵家に連れていこうと思ったのですか」
いくらあの少年がマーガレットを助け力があるとしても連れていくような人ではない。
他に何か理由があるのではないかと。
だが、いくら考えても答えに辿り着くことができなかった。
それに、カラントがいるときだけマーガレットを纏う光が揺らいでいる。
光が揺らぐなど普通ならあり得ない。
その人の人としての一番大事にしているものが揺れているといことだから。
見間違いかと思ったが、毎回そうだと認めるしかない。
マーガレットとカラントが一緒にいるのは危険なのではないかと不安だった。
「あの少年は私のせいで人を殺しました。私を助けるとはいえ……。あのまま、あそこにいれば町の人達は大の大人を四人も殺した少年として扱っていくでしょう。知らなかった後と知った後では対応は変わります」
ヘリオトロープは確かにそに通りだと思った。
あのまま、あそこにいればカラントはきっと恐れられ孤立して過ごすことになっただろう。
話かけてくれる人がいてもその力を利用しようとしてくるだろう。
ただ単に心配で声をかける人がいたとしても一度そういう扱いを受けるとまたそうなのだろうと思ってしまう。
「私があの少年を公爵家に連れていこうと思ったのは罪滅ぼしもありますが、幸せに過ごさせてあげたいと思ったからです」
「そうでしたか」
その言葉に納得し、やはり優しい人だとマーガレットに対する想いが募る。
だが、マーガレットは今何一つ本当のことを話していない。
笑顔で嘘をつき騙した。
「(誰があんな男の幸せを願わないといけないのよ)」
あの時のカラントの顔を思い出し、殺意が湧いてくる。
馬に乗っているカラントと目が合う。
殺したい気持ちを押し殺し、手を振り笑いかける。
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