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護衛

「お嬢様」


「こんなところで何を?」


ボーッと突っ立ていたマンクスフドが不審者のように見えて心臓が止まりそうになった。


「少し旦那様とお話しをし、見送っておりました」


「ああ、なるほど。そういうことね」


「ところで、お嬢様。距離が近くありませんか」


大切なマーガレットとヘリオトロープの距離が近すぎる。


サッと二人の間に割って入る。


マーガレットも同じことを思い尋ねたが「また襲われる可能性がある以上仕方ありません。近くにいる方が何かと都合がいいので」と反論は受け付けないと言った感じで諦めた。


「あー、それは、その」


マーガレットが言い及んでいると「護衛だから当然です」と笑顔で言う。


「それは私の役目です」


マンクスフドも笑顔で言う。


二人の間に挟まれて居心地が最悪で誰でもいいから助けて欲しいと願う。


暫く頭の上でどっちが護衛か言い争いが続いた。


「二人共、落ち着いて。今はそんなことより……」


やるべきことがあるでしょう、と続けようとしたが二人の声によって阻まれた。


「「そんなこと!?」」


「マーガレット様、それはあんまりです!」


「お嬢様、それはあんまりです!」


「え、ごめんなさい」


二人の剣幕さについ謝る。


「マーガレット様、どちらに守って欲しいですか」


「お嬢様は一体どちらに守られたいのですか」


ハハッ、と苦笑いで誤魔化す。


「えーと、その、それは、うん……」


どうしたものか、と困り果てる。


どちらかの名を言うまで終わりそうにない。


ーーうん、仕方ない。逃げよう。


バッとその場から走る。


マーガレットのまさかの行動に二人は一瞬ポカンとするもすぐにハッとしてマーガレットの後を追う。


マーガレットは運動神経はいい方だが、ブローディア家騎士団団長と神官一の神聖力の持ち主の二人には到底及ばない。


すぐに捕まえられる。


「急にどうされたのですか、お嬢様」


マーガレットの右腕を掴む。


「マーガレット様、何かあったのですか」


左腕を掴む。


二人に両腕を掴まれ逃げられない。


「……お腹が空いて」


何か言わなければと思い口を開くが、幼稚誤魔化し方をしてしまったと急に恥ずかしくなる。


するとタイミングよくお腹が鳴る。


結構な大きな音に顔を真っ赤にして俯く。


さっきまで泣いていたからだろうか。


二人は可愛いと心の中で呟き微笑む。


「直ぐに何か作らせましょう。お嬢様何が食べたいですか」


「……魚」


「お任せください。今すぐ新鮮な魚をとってきます。お部屋で待っていてください」


魚が食べたいとマーガレットが言うとヘリオトロープは川で釣った新鮮なものがいいだろう、と神聖力を使って移動する。


マーガレットが何か言うより先に川へと向かう。


そこまでするか、と最早笑うしかできない。


自分が泣いていたから励まそうとしていたのかもしれない。


そう思うと先程までの言動全てが自分のためなのかもしれないと思うと今度何かお礼をしなければと思った。


「では、お嬢様部屋にいきましょう。私がそこまでお守りします」


私がのところを強調しながら言うマンクスフドにも笑うしかできなかった。




「マーガレット様。私がとってきた魚はどうですか。美味しいですか」


目の前に座りニコニコと微笑みかける。


今この場にマンクスフドがいないこともあって機嫌が良かった。


マンクスフドはカラントのことを思い出し、ヘリオトロープが来ると「用を思い出したので少し離れますが、直ぐに戻ってきます」と言って急いでカラントの元に向かった。


「ええ、とても美味しいです。ありがとうございます」


久しぶりにちゃんとした食事ということもあり美味しく感じた。


「そうですか。いつでもとりますので、また食べたくなったらおっしゃってください」


「いえ、そんな申し訳ないです。ヘリオトロープ様には護衛をしてもらうだけでも申し訳ないのに、そんなことまでさせる訳にはいきません」


「そんなこと気にしないでいいですよ。それに、これは私がやりたくて言ったことですから」


マーガレットのためなら魚を毎日とってきます、そう心の中で呟く。


「(いや、気にしろ。そんなこと貴方にさせたと国中に知られたら私は殺される。あの女達以外の女性からも呪われるわ。貴方は女性達から人気があるのよ。どれだけかの人が貴方の妻の座を狙っているとおもっているのよ!護衛という名目でずっと傍にいるだけでも呪われるかもしれない)」


ヘリオトロープの発言に頭が痛くなる。


自分がどれだけ女性達から狙われているかわかっていない、と。


「ありがとうございます。お気持ちだけ有り難く頂戴します」


やんわりと断る。


これ以上面倒事は御免だった。


女の嫉妬は恐ろしいのだと、二度目の人生の時経験したのでわかる。


「……そう、ですか」


わかりやすいくらい落ち込む。


二人の間に重い空気が流れる。


マーガレットはなるべく音を立てないよう慎重に料理を口に運んでいく。


悪いことをしたかもと思うがここで、少しくらいとか許可することを口にすれば後で困るのは自分だと言い聞かせ無視することにする。


誰でもいいから部屋に入ってきてくれないかと念じていると、マーガレットの想いが伝わったのか誰かが扉を叩いた。


「誰?」


「マンクスフドです」


「入っていいわ」


許可を出すと「失礼します」と言って入ってくる。


この際マンクスフドでも構わない。


この空気をどうにかできるなら。


「もう用はいいの」


「はい。…….お嬢様」


「ん?どうかしたの」


「一つお嬢様にお願いがあるのですか」


マンクスフドが頼み事をするなんて珍しいこともあるのね、と一瞬驚くもすぐ嬉しくて微笑む。


「私にできることなら何でもするわ。遠慮なく言って」


マーガレットがそう言うとマンクスフドはその願いを口にした。


まさかそんなことを頼むとは予想できず、つい「え」と声が出る。


「難しいでしょうか」


マーガレットの反応からやはり駄目かと諦める。


「そんなことないわ。私もそのつもりだったから」


「本当ですか」


「ええ、本当よ。その件はマクスに任せようと思っていたし」


今度はマンクスフドが驚いた。


「まあ、でも本人次第なんだけどね」


口ではそう言うもどんな手を使って必ず連れて帰ると決めていた。


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