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カトレア


「クソッ、何で繋がらないんだ」


マーガレットに何度も魔法石を使って連絡しようするが一向に繋がらない。


マーガレットに王宮に立つ前、通信できるよう設定した魔法石を渡した。


新しいのを渡したので魔力切れはあり得ない。


「……誰かが邪魔をしているのか?」


それしか考えられない。


神殿の近くに呪術師がいるのか。


それともアングレカムの近くにいるのか。


どちらにせよサルビアはここから動けない。


例え動いたとしてもアングレカムに着くには二週間近くかかる。


何故か公爵家が保有している移動魔法石の魔力が全てなくなっており移動したくてもできない。


移動魔法石は貴重で数が少ない。


公爵家以外で保管しているのは王宮かシルバーライズ家。


王宮は万が一の為に保管しているので借りる訳にはいかないしできない。


シルバーライズ家が今回の主犯なら貸してくれることは絶対にあり得ない。


もしかしたら公爵家の移動魔法石が使えなくなったのはシルバーライズ家が関わっているかもしれない。


「どうやってマーガレットに伝えればいいんだ」


魔法石は使えない。


移動もできない。


マーガレットが無事なのかもわからない。


焦りや苛立ちが募る。


「〜〜ッ、クソ」


これでは駄目だと思いソファーに体を沈め頭を冷やす。


こんなときこそ冷静にならねば。


深呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻す。


「魔法石の魔力はある。神官は使徒と通信ができた。つまり神聖力では通信ができる。神聖力と魔力は似ているから魔法石でも通信が可能と仮定するなら、マーガレットと通信ができない理由は場所にあるのかもしれない」


ジェンシャンとセリは通信ができていた。


魔法石に何の問題もないと仮定するならアングレカムに問題があるのかもしれない。


「カトレアには繋がるかもしれない」


この時間なら寝室で寝ているかもしれない。


周りには誰もいない。


屋敷にはまだ裏切り者がいるかもしれない。


だが、一刻の猶予もない。


賭けになるがやるしかない。


サルビアは魔法石でカトレアに通信を試みる。


魔法石は光、反応する。


「……あなた?」


掠れた声で話しかける。


寝ていたのだろう。


「カトレア」


「何かあったの?」


サルビアの声と口調で何かあったのかと察する。


「そこには今誰もいないか」


「ええ、いないわ」


「そうか。今から言うことを秘密裏に行って欲しい。誰にも気づかれないよう頼む」


「わかったわ。私は何をすればいい」


サルビアは今までの出来事を簡潔に話した上でやって欲しいことを話した。


「…………頼めるか」


「ええ、任せて」


「ああ、任せた。……すまないが、もう暫く帰れそうにない」


「わかってるわ。こちらのことは心配しないで。あなたはあなたにしかできないことをして下さい。無事に帰ってきてくれたらそれでいいの。待っているわ」


「ーー必ずマーガレットと無事に帰るよ」


通信を切る。


「私にしかできないことか」


そう呟くとサルビアはセリとの話をもう一度するために先程いた部屋に戻る。




「ーーあなた、マーガレット。どうか無事に帰ってきて」


魔法石を握りしめ二人の無事を祈る。


サルビアの指示に従い裏切り者にバレないよう今は寝る。


呪術師の仲間がシーラとジョン以外にもいる可能性がある以上夜動くのは危険。


いつも通りの行動をしなくてはならない。


バレるかもしれない不安と緊張で鼓動が速くなる。


早く眠らなければと焦るほど眠れない。


自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。


次第に落ち着きついていき自然に眠りにつけるよう何も考えず目を瞑る。




「おはようございます。カトレア様」


侍女達が朝の準備の手伝いの為部屋に入ってくる。


「おはよう。今日もよろしくね」


いつもと変わらない挨拶をする。


もしかしたら侍女達の中にも裏切り者がいるかもしれないと思うと顔がひきつりそうになる。


「はい、お任せください。カトレア様、今日のドレスはどれになさいますか」


「そうね。今日はそれにするわ」


黄色いドレスを指差す。


「かしこまりました」


黄色いドレスをとりカトレアに着せていく。


着せ終わったら髪とメイクを施していく。


「今日もとても美しいお姿です」


誰が見ても魅惑的な美しさを放っている。


「ありがとう」


着替えも終わり朝食を取るため部屋を出る。


朝食を終え一時間経った頃漸くカトレアはサルビアの指示を実行する。


「ねぇ、悪いんだけど今すぐアドルフを呼んできてもらえる」


侍女の一人に声をかける。


「かしこまりました」


侍女がこの場から離れるとマーガレットに昨日サルビアから言われたことを教えるため手紙を書く。


手紙を書き終えた頃扉が叩かれる。


「アドルフ様をお連れしました」


「入っていいわ」


カトレアが許可を出すとアドルフだけ部屋に入ってくる。


「失礼します」


「早速で悪いんだけど詳しく説明する時間はないから単刀直入に言うわ。今すぐこれをマーガレットに直接届けて欲しいの」


魔法石を手紙の中に入れマーガレット以外開けられないよう細工した手紙を見せる。


「かしこまりました」


「アングレカムに行くまでにもしかしたら呪術師に会うかもしれない。とても危険な任務よ。それでもやってくれるかしら」


「はい。お任せください」


即答するアドルフに驚く。


下手をしたら殺されるかもしれない危険な任務なのに迷うことすらせずに言う姿に戸惑いを隠せない。


だが、それでも今はアドルフ以外信用できるものはいない。


頼むしかない。


「お願いね。必ずマーガレットに届けて」


「はい。お任せください」


アドルフは手紙を受け取り礼をしてから部屋を出て行く。


窓からアドルフが出て行く姿を見送る。


目的がバレないよう商人達の所にお礼の品を届けてくるよう命じたことにしている。


やるだけのことはやった。


後は目的がバレないよう過ごすだけ。


全てうまくいくことを祈るしかできない。


「カトレア様。こちらの件ですがどうされますか」


メイナードが資料を見せながら尋ねる。


「そうね。とりあえず話を聞いてから判断するわ。ここに来るように返事をしておいて」


「かしこまりました。後、こちらの方もご確認をお願いします」


「わかったわ。そこに置いといて」


書類を机の端に置き部屋から出ようとするメイナードに声をかける。


「メイナード」


「はい」


「ありがとう。貴方がいてくれて助かったわ」


サルビアとマーガレットは暫く帰ってこれないので公爵家の仕事は全てカトレアがやらなくてはならない。


一人ではどうみても捌ける量ではなかったが、メイナードが手伝ってくれたお陰で何とかなっている。


最後はカトレアが許可をしなくてはならないが、一番面倒くさいことを終わらして確認だけで済むようにしてくれていたので物凄く助かっていた。


感謝してもしきれないほど助かっていた。


「とんでもございません。公爵家の方を支えるのが私の仕事です」


それに感謝しているのは私の方です、と心の中で呟く。


メイナードは深く頭を下げ今度こそ部屋から出て行く。


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