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神殿 3


「はい。……私達は暫く代理人達の絵を皆眺めていたのですが、急に一人の男が奇声を発したのです。するとその男の近くにいた数人が一斉に走り出したのです。私達は慌ててその者達を捕まえようとしたら、男はまた奇声を発し今度は男も走り出したと思うと突然爆発したのです。私達とは反対方向に向かっていたので私達は軽傷で済みましたが、男の近くにいた者達は全員即死しました」


その瞬間の出来事を思い出したのか目を閉じ眉間にシワを寄る。


「そこからは走り出した者達が男同様全員爆発していったのです。その爆発のせいで建物が崩壊していきました」


その近くにいた者は下敷きとなった。


まるでスローモーションのようにゆっくりと動いているように見えた。


何もできなかった。


ただ、人が死んでいくのを眺めているしか。


「公爵様に助けられるまで私はその場から動くこともできませんでした」


耳鳴りがして頭がボーッとした。


色鮮やかだった景色が真っ赤になっていた。


途中で気づいた。


頭をぶつけ血が流れてそう見えているのだと。


もうすぐ自分も死ぬかもしれないと思って目を閉じそうになったとき、公爵家の騎士に助け出された。


後から他の使徒に聞いたら神官のアセビが呪いが発動する前に神聖力を使って自分達のいる所を守ってくれた、と。


もしそれがなかったら別館は崩壊していて誰も助からなかったと。


何もできなかった自分が恥ずかしかった。


せめて、何があったのかだけは報告しないといけない。


そう思って震える体を抱きしめながら話した。


「あ、そういえば……」


「どうした」


「あのとき男が爆発する前体から赤い光が発せられていました」


一瞬だったが間違いなく赤く光っていた。


さっきまで忘れていたのに急にそのことを思い出した。


「赤い光?」


「はい」


「どんな感じだったか覚えているか」


「一瞬だったので自信はないですが、神々しく感じました。一瞬で全てを魅了するような。こんなこと思うのは使徒としてあってはいけないと思いますが、あの光は神官が纏う神聖力に似た美しさを感じました」


「ーーッ、本当にそう思ったのか」


信じられなかった。


呪術師が神官が放つ神聖なと同じくらい美しい光を放つことに。


ーー見間違いではないのか。


そう尋ねようとしてやめる。


こんなこと本人だって言いたくはないだろうに、それでも何か手掛かりになるかとも知れないと思って報告してくれたのだ。


その気持ちを無下にする訳にはいかない。


「はい」


口調が固くなる。


「そうか」


その場にいた全員が一言も発さず重い空気の中黙りこむ。


神官が纏う神聖力の色は青。


呪術師が纏う呪力の色は赤黒い。


では、赤い色は何の力?


これも呪術師の力なのか?


神官に報告し何の力か知りたいのにそれをすることはできない。


調べるにしても閲覧できる本は全て読み内容も覚えている。


もし答えがあるとしたら閲覧できない保管されている本にあるだろう。


それは神聖力で守られている。


その本は神官の中でも認められた者達しか見ることができない。


答えがすぐそこにあるのに知ることができない。


これ以上ここにいても答えは見つからない。


サルビアにもお礼と報告しにいかないといけない。


ヘリは立ち上がり「暫くはゆっくり休め。また何か思い出したら教えてくれ」と言い部屋を出て行く。


サルビアを訪れる前に神官達の状態を確認しに行った。


「……で今に至ります」


ヘリの説明が終わると思ってた以上に厄介なことになりそうで頭を抱える。


今はアングレカムのこともあるのに。


マーガレットに任せているとはいえ心配で今すぐ傍にいきたい。


だが、神殿を放っておくこともできない。


どうしたものかと悩んでいるとヘリが「ジェンシャン様」と呟く。


「ジェンシャン様!ご無事だったのですね!良かったです!」


大声で叫び立ち上がる。


サルビアは急な大声に驚き肩がビクッと震える。


『ああ、大丈夫だ。今はキキョウと王宮にいる』


神聖力を使い頭の中に直接話しかける。


『セリ。何があったのか教えてくれ』


「はい。わかりました」


セリはサルビアに報告した内容をそのままジェンシャンに話す。


『……すまない』


絞りだしたような声で謝罪をする。


「ジェンシャン様は悪くありません!ジェンシャン様達だけでもご無事で良かったです」


もしジェンシャン達まで呪われていたらこの国は終わっていたかもしれない。


聖女も代理人もいない今、神官全員が呪われたら呪術師と戦う術がない。


『セリ。私とキキョウは暫く王宮にいることになった』


「はい、わかりました」


神殿で神聖力を使えば呪われるのだ。


当然の判断だ。


『セリ。そちらは任した。皆を頼むぞ』


「はい」


ジェンシャンに頼むと言われ背筋が伸びる。


『そこにサルビア様はおられるか』


「はい。おられます」


何故サルビアがいることを知っている?


サルビアの方に目を向けるとバチッと視線が重なる。


『では、伝えて欲しいことがある』


「わかりました。ジェンシャン様からサルビア様に伝えたいことがあるそうです」


「私に?」


急に話を振られアングレカムのことかと察する。


『後五日ほどでヘリオがアングレカムに到着する、と伝えてくれ』


「ーーっ、はい」


ヘリオトロープも無事だった。


涙が出そうになるがジェンシャンの言葉をサルビアに伝えなければと涙が溢れ落ちそうになるのを必死に我慢する。


「後五日でヘリオトロープ様がアングレカムに到着するそうです」


「ーーっ、本当ですか!?良かった。ーーありがとうございます!」


ヘリオトロープが向かっている。


神官数人分の力を持つヘリオトロープが向かってくれているとわかり、ずっと張り詰めていた緊張がとける。


アングレカムを助ける方法をずっと探していたが思いつかず途方に暮れていたのでその言葉に救われた。


希望が見えてきた。


このことを早くマーガレットに伝えなければ。


セリにこのことをマーガレットに伝えてくると一言言って部屋を出て行く。


「ジェンシャン様。一つ聞きたいことがあります」


『何だ』


「赤い光は一体何の力なのですか」


さっき報告したとき、赤い光を一人の使徒が見たと言うとジェンシャンの様子がおかしくなったのに気づいた。


『本当に赤い光だと言っていたのか』


「はい。間違いないと」


セリがそう答えるとジェンシャンのため息が聞こえる。


暫くジェンシャンは何も言わなかった。


セリもジェンシャンが話し出すのを待っていた。


セリはジェンシャンが教えてくれないのなら、それは自分には知る必要のないことだと諦めるが、後もう少し待ったら赤い光のことを話すだろうと確信していた。


『…………セリ、このことは誰にも言ってはならない。いいな』


「わかりました」


『赤い光は…………の力だ』


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