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使徒


トントントン。


「国王、私です」


「入っていいぞ」


「失礼します」


「どうかしたか」


アキレアの表情を見た瞬間ただ事ではないと察し顔が強張る。


「それが先程使徒が王宮に訪れ、神官達が呪われたと報告したのです」


サルビア達が神殿に向かったのと入れ違いで王宮に訪ねた。


「何だと!」


バン!と勢いよく立ち上がったせいで椅子が倒れる。


「どういうことだ!詳しく説明しろ!」


「私の口から説明するよりは使徒から説明させた方よろしいかと思いましたので、外で待機させています。入らせてもよろしいでしょうか」


「ああ」


深く息を吐き椅子に座り直す。


今日何度目かわからないため息に胸が妙にざわめく。


何かこの国に不吉なことが起こり始めているような、そんな気がした。


「入ってください」


扉を開け外で待機させていた使徒に声をかける。


失礼します、と緊張で声が震えている。


「神殿に仕える四十七番目の使徒シンシアが我が国の偉大なる太陽にご挨拶させていただきます」


声は震えているが、流石神殿に仕えるもの。


所作は美しい。


「シンシア、詳しい話しを聞かせてくれ」


無駄なやり取りはいらないと本題に入る。


「はい……」




ニ時間前。


シンシアが王宮に着く少し前の神殿。


「ベンジャミン様。おはようございます」


「ああ、おはよう」


いつも通り神官に会うと挨拶して通り過ぎるのを待っていたら、シンシアの周りに禍々しい光が纏い陣が発動した。


いきなりのことでシンシアは動けないでいるとベンジャミンが「逃げろ」と叫び漸くハッとしてその場から逃げようとするも、足が根をはったみたいに動けず固まってしまった。


バーン。


音が聞こえ衝撃に備えようと身構えたが何も起きず目を開くとベンジャミンが神聖力を使って守ってくれていた。


「大丈夫か!?」


ベンジャミンは所々傷ができており血が流れていた。


「はい。私よりベンジャミン様の方が……」


震える体をなんとか動かし止血をする。


使徒は神聖力を持っていないので服を破って一番酷いお腹を止血する。


「……うっ……ぐっ……はぁ、はぁ」


ベンジャミンが神聖力を使い自身の傷を治そうとお腹の上に手を添えて力を纏ったその瞬間さっき現れた禍々しい陣がまた現れた。


陣が怪しい光を放った瞬間ベンジャミンの体は硬直し肌も髪色も真っ白になり意識を失いました。


すぐに他の神官に助けを求めましたが、神殿にいた神官全員が同じ状態になったため誰にもどうにもできない状況で国王に助けを求めにきて今に至る、と。




シンシアの話しを聞き終えた国王は嫌な予感が当たったと頭が痛くなる。


国王の予想ではこれはまだ序章に過ぎず、これからまだ何か起きるだろうと考えている。


「……生きてはいるのか」


重い口を漸く開きそう問うのがやっとだった。


「はい」


なんとも言えない顔をしてこう続ける。


「生きてはおります。ですが、あの状態を生きていると言っていいのか私にはわかりません」


神官達の状態を思い出したのか今にも泣き出しそうな顔をする。


国王の前でそんな粗相な行動をしてはいけないと使徒としてなんとか耐える。


「つまり心臓は動いてはいるが、それ以外は何も動いていないということか」


シンシアの説明と今の言葉で神官達の状態を察する。


「……はい、その通りです」


「そうか」


そう呟くと国王は目を閉じて何かを考える。


二人は国王が口を開くまで黙って待つ。


「シンシア、先程神殿にいた神官はと言ったな」


「はい」


それがどうかしたのか、という顔をして国王を見る。


「では、神殿にいなかった神官達は今どうなっているのだ」


国王の言葉にシンシアは確かにどうなっているのかと思う。


「わかりません。今すぐ確認いたします」


「アキレア、其方も一緒に行きなさい」


「はい、かしこまりました」


二人は国王に頭を下げると急いで残りの神官の状態を確認しに行く。


「シンシアさん。神殿にいなかった神官は何人いらっしゃるのですか」


「三人です」


神官は十七人。


その内現在十四人が意識不明の重体。


このことが他国にバレればジラーニイ国とマリス国に一気に攻められ侵略されてしまう。


そうなれば、神官の力もブローディア家の力も借りることはできない。


まるでフィアンマ国が一人の呪術師によって滅んだときのようにこの国もそうなりつつあることを理解した瞬間恐怖に心が壊れそうになる。


「その三人の神官の名を伺っても」


二人は魔法研究部屋に走って向かいながら会話する。


「はい。ジェンシャン様とキキョウ様、そしてヘリオトロープ様です」


ヘリオトロープ。


その名を知らない貴族はいないだろう。


史上最年少で神官になり、膨大な神聖力を持った者として有名だった。


一人で神官数十人分の力を持っていると言われている。


もし、ヘリオトロープが無事ならこの国はまだ大丈夫だ。


聖女も代理人も現れていないのにヘリオトロープまで失ったら本当にこの国は終わってしまう。


「急ぎましょう。三人にこのことを一刻もはやく知らせ保護しなければなりません」


「はい」




トントントン。


「私です。開けてください」


「はい、なんですか」


目元まで隠れたボサボサな髪をかきながら男がドアを開ける。


王宮専属魔法石研究員のイベリスが怠そうに話す。


「今すぐ魔法石を使わせてください」


「なんで?」


「緊急事態だからです」


「そう?わかった。誰に?」


「神官です」


「無理」


神官。


その言葉に魔法石を使えないと言う。


さっきまで使わせてくれる雰囲気だったのにいきなり駄目と言う。


「どうしてですか!?」


二人のやり取りを黙って見ていたシンシアがイベリスに詰め寄る。


「どうしても何も無理なものは無理だから」


「理由を話してください」


今は一刻の猶予も惜しいというときに何故こんなことを言い出すのかとイベリスに大して怒りを覚える。


「理由?」


それ必要か?と態度にだすが二人の反応を見る限り話さないとずっとこのまま面倒くさいやり取りを続けることになると感じたので簡潔に述べた。


「だって、僕神官の顔見たことないから」


あまりに予想外すぎた理由に二人は目を見開いて固まる。


そんな二人を気にすることなく話しを続ける。


「これ使うにはさ、相手の顔を知らないと相手に連絡できないんだよね。これさ、便利に見えて結構面倒くさい条件があるんだよね」


魔法石を叩きながらつい自分の愚痴も言い始める。


「では、神官の顔を知っている私なら仕えるのでしょうか」


「まぁ、そうだけど」


そう言うと二人は喜ぶが、その続きに言われたイベリスの一言に一瞬でこの世の終わりみたいな顔をする。


「でも、君にこれ使いこなせるの?」


「難しいのですか?」


「どうだろう?僕はそんな風に思ったことはないけど、今のところ使えるのは僕だけなんだよね」


魔法石研究員は百人近くいるのに使えるのが一人だけと言い放つイベリスのせいで、連絡手段が無くなったことに絶望する。


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