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本物の悪女とはどういうものか教えて差し上げます  作者: 桃萌
リュミエール救済院
24/81

正体


「アスターさん。この人のこと知っているのですか?」


放心しているアスターに声をかける。


「はい。前に話した配達人です」


つまり、アネモネの部下に手紙を届けていた協力者。


マンクスフドとヘリオトロープはこいつが、とバッともう一度その男の顔を見る。


アスター、一人だけが状況を飲み込めておれず、何のことだと尋ねる。


これは最初から全て説明した方がいいな、と判断した。


とりあえずどこまで知っているのか尋ねると「町が何者かによって呪術をかけられたこととマーガレット様が狙わたことくらいですね」と。


つまり何も知らないのだ。


マーガレットはアスターにどうしてこんなことになったのか、何故気づいたのか、裏切り者が誰なのか、黒幕の正体以外全て嘘偽りなく話した。


マーガレットが話を終えるまでアスターはただ黙って話を聞いていた。


いや、何も言えなかった。


「つまり何者かがこの町にわざと呪術をかけ、それを阻止したマーガレット様を殺そうとしている。この町がこんな風になったとのは半年前から、そしてその頃から手紙が盗まれはじめ連絡が取れておらずこうなったと」


「はい」


マーガレットが返事をする。


ヘリオトロープは暫く黙っていたがアスターに尋ねる。


「この町には何か特別なことがあるのですか?」


この町が狙われた理由がわかれば犯人の目的を知ることができる。


何かしら理由があるはずだと思い尋ねたのに、アスターは首を横に振って「そんなのはこの町にはありません」と疲れきった顔で返事する。


そんなのがあるなら、逆にそれを利用してなんとか町の復興に役立てようとする。


「そうですか」


納得はしてないが、今は何も掴めていないので四人の間に重い空気が流れる。


「そもそもこの町はどうやってできたんですか」


町の歴史に何か関係あるのではないかとと考え尋ねる。


神官である自分ならそれに気付けるかもしれない。


「この町ができたのは公爵家の方々のお陰です。前当主の妻、フリージア様の支援でこの町は造られたのです。始めはこの国の孤児を集め衣食住を与え一人でも生きていけるよう育てようとしていたのが目的でした」


昔この町に来たときのことを思い出す。


アスターも孤児で親に捨てられた。


新しく与えられた環境に最初こそ戸惑った。


アスターの知る貴族は人を見た目や身分でしか判断しようとしない連中で、自分より上だと媚びを売り、自分より下だとわかると汚い物を見るかのような目で自分達を見て暴言を吐いたり、鬱憤を晴らすため殴ったりする。


そんな連中だとここにくるまでは思っていた。


初めてフリージアに会ったときそれは違うのだと思い知った。


自分に微笑み優しく抱きしめてくれた。


貴族なのに自分のような身分の子供達に優しく接する姿を見て考えを改めた。


自分達を救ってくれたので、今度は自分がフリージアに恩返しをしようと町を栄えさせることにした。


二十年の年月が経ちこの町は栄え観光客が来るまでになった。


フリージアがこの世を去る前に恩返しをしたかったアスターは栄えた町を見せることができて幸せだった。


その日の最後に自分達を助けてくれたことにお礼を言う。


今の自分達がこうして暮らせているのはフリージアのお陰だと。


フリージアは自分達にあの頃と変わらない笑みを向け喜んでくれた。


会ったのはそれが最後だった。


だからこそ、フリージアに最後に見せたこの町をずっと守りたかった。


それがアスターがフリージアにできる恩返しだと思っていた。


それを壊した者が許せず、犯人だと思っていたフリージアの息子や孫に憎悪をした。


今は違うとわかっているが、子や孫を疑った自分を恥じていた。


最初はそんなはずないとわかっていたが、手紙がこないこと、町がどんどん荒れていったこと、人が日に日に死んでいくのを見続け精神が不安定になり、見捨てられたのだと勘違いしてしまった。


そのため、一年ぶりに町を訪れ心配して助けようとしてくれたマーガレットに酷い対応をしてしまったのだ。


「この町ができたきっかけは公爵家にあるのですね」


「はい」


アスターが即答する。


きっかけをつくったのは間違いなくフリージアだが、この町が栄えたのはアスター達の頑張りがあってこそだ。


そう思うがそれを指摘するのは野暮だと思い何も言わない。


「これは、あくまで可能性ですが犯人は公爵家を失脚させるのが目的かもしれません」


「えっ」


アスターが驚き目をこれでもかと見開く。


「(神官でも公爵家を毛嫌いしている貴族の話くらい聞いたことはあるのね)」


黒幕が誰か知っているので一々驚かない。


「驚かれないんですね」


嫌な思いをさせると心配していたのに大して驚きを見せないマーガレットに戸惑う。


「予想はしていました。我が一族は代々国王に信頼されていましたし、この国の二柱を務めるブローディア家ですから。私達を失脚させればその座に自分達がつけれると勘違いしているのでしょう」


冷たい声と口調にマーガレットが怒っているのを感じる。


「犯人に心当たりはありますか?」


「ありません」


首を横に振り終わると話を続ける。


「今回の件をクラーク様はどうするおつもりですか?」


神官の出方次第で計画を変えねばならない。


最初はヘリオトロープと親密な関係になってこちらの思惑通りに動いてもらう予定だったが、何故か犯人と疑われ嫌われているので諦めた。


今は態度にでてはいないが、まだ自分のことを疑っているのだと警戒している。


「もちろん。呪術師を見つけ次第即刻処刑します」


マーガレットを傷つけた者など見つけ次第殺すと決めている。


生きている資格などない。


神官らしからぬ発言にその場にいた全員が目を見開く。


淡々と言う姿にある意味一番恐いのは神官達なのではないかとマーガレットは思った。


神の遣いとして模範的な人ほど、こういう割り切り方をする人ほど躊躇なく人を殺せる。


悪だとわかれば、人は正義をふりかざし簡単に人を傷つける。


自分で見たわけでも、聞いたわけでもないのに、ある人がある人を“悪”だと言ったら傷つけてもいいと思い悪口を言い始める。


次第にその行為はエスカーレトしていき、あることないことが噂しれ真実となっていく。


マーガレットはそれを二度も体験し死んでいるので誰よりもその怖さを身をもって知っている。


「即処刑はやめてくれませんか」


マーガレットの言葉に三人は優しい人だから殺したくはないのだと勘違いした。


「わかりました」


そうヘリオトロープが言おうと口を開く前に「殺す前に聞きたいことがあるのです」と、無理だと断られる前にそう付け足す。


「何をですか?」


「呪術師は何人いるのか。協力者は誰か。何の目的でこんなことをしたのか。殺すのをはその後では駄目ですか」


「確かに、何も聞かずに殺すのはよくないですね。全て話して貰ってから殺します」


マーガレットがそれを望むなら喜んでやりましょう。


ヘリオトロープは微笑みかけるが、急に態度が変わり不気味に感じる。


そんな二人のやり取りに入れず、アスター黙って見つめる。


マンクスフドに至っては自分の領分ではないと話に入るつもりが最初からない。


「(まさか、マーガレット様が殺すのを許すなんて信じられない)」


夢でも見ているのではと疑いたくなる。


変わっていないようで変わった。


時々すごく冷たい目をする。


マーガレットと目が合うとその瞳には何も映っていないように感じることが多々ある。


「どうかしました?」


アスターの視線に気づいたマーガレット不思議そうに声をかける。


その目は「何か言いたいこでもあるの」と訴えているよに感じて胸がざわつく。


「(知らない。こんなマーガレット様なんて知らない)」


姿は同じなのに中の人が違う気がする。


たった一年で人はこうも変わるものだろうか。


「いえ、なんでもありません」


何も言えずただ流れに身を任せるしかなかった。

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