表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/81

三度目の人生

「お父様、お母様。おはようございます」


支度を終え食堂に向かうと既に両親が席に着いていた。


「ああ、おはよう」


「おはよう、マーガレット」


二人は柔らかい笑みを浮かべマーガレットに挨拶を返す。


「では、食べようか」


マーガレットが座ると父、サルビアの合図で朝食を食べ始めるも、ふと思い出したことを尋ねる。


「そういえば、マーガレット。今年も王宮から舞踏会の招待状が届いたがどうする?行くか?」


本来なら王宮からの招待状を断るなど許されないが、王女がマーガレットを王宮に呼ぶことを酷く嫌がった。


理由はマーガレットが国一番の美女であると言われているからだ。


マーガレットがくれば自分より目立ってしまう、それが王女には耐えられなかった。


酷く幼稚な理由だが王女にとっては重要なことだった。


国王はそんな下らない理由が許されるわけないだろうと怒ったが、王女が素直に受け入れるはずはなかった。


国王はマーガレットのことをブローディア家を貴族達の中で最も信用していた。


ブローディア家はこの国の民達だけでなく周辺の国々からも好かれている。


例え国同士の仲が悪かろうと民に罪はないと言って食料不足で飢え死にしそうな地域に食料を届けたことが何度かある。


他にも、国同士の戦争で親を亡くした子を全て自分達が治める町に呼び孤児院を作ってそこで暮らしていけるようにした。


ほとんどの貴族は金を増やす事にしか興味はなく、平民に使うお金など無いと言って見て見ぬふりをするが、ブローディア家は違う。


人よりも何かしら優れて生まれてきた者はそれを世の為人の為に使うべきだと考え実行している。


王自身も同じ考えだが、王宮は王一人の考えで全てできているわけでは無い。


手を尽くしてはいるが出来ることは少ない。


自分にできないことをやってのけるブローディア家を国王尊敬していた。


だからこそ、マーガレットを呼びたくないと駄々を毎回捏ねる王女に困っていた。


国王は王として人として立派だったが、男として親としては最悪だった。


民のことばかり考え家族のことをほったらかしにしてしまった。


とはいえ、歴代の国王達に比べれば家族と向き合っていた方ではある。


自分の娘とはいえこればかりは許すわけにはいかない、と国王は王女の願いを断る。


だが、それで諦める王女ではない。


ブローディア家に使いのものを送り王宮の舞踏会には絶対に来るなと伝えさせた。


もちろんすぐにそのことは国王にはばれてしまい怒られるも、王女の目的は達成されたので問題なかった。


国王はすぐにブローディア家を王宮に呼び出し謝罪をした。


マーガレットに「気にしないでいい、来たかったら来なさい」と言ったが、きっと来てはくれないだろうと思っていた。


国王の予想は当たりその日を境にマーガレットは王宮には二度足を踏み入れなかった。


元々、パーティーは苦手だったので王女にそう言われて内心喜んでいた。


でも、今回はそうも言っていられない。


これからの計画には情報が必要不可欠。


王宮主催のパーティーは貴族達の情報を手に入れる最も最適な場所。


行かない選択などあり得ない。


「はい。行きます」


「そうか、やはり行くよな……ん?行くのか!?」


マーガレットのまさかの返答に目を見開いて驚く。


「マーガレット、一体どうしたの?あの日以来どこに招待されてもどこの舞踏会にも行かなかったのに。何かあったの?」


「落ち着いてください。お父様、お母様。何もありません。ただ、何度も断るのはやはり失礼かと思いましたので、今回は行こうかと思ったのですが……駄目でしょうか」


二人はいいと言うとわかっていてわざと申し訳なそうな顔をする。


「そんなことはない。行ってきなさい。きっと国王もマーガレットに会いたい筈だ」


「そうよ、そんなことはないわ。ただ……王女が……」


マーガレットがどこの舞踏会にも参加しなくなったのは王女のせいなのに、王女が必ずいる王宮に参加するのが心配。


「大丈夫です。心配はいりません。私に少し考えがありますので」


「そうか。わかった。ならドレスはどうするか?仕立てるか?」


もう長いこと舞踏会には行ってないので着られるドレスはない。


マーガレットが着る普段着はカジュアルなものばかりで公爵家の令嬢が着るようなものではない。


王宮の舞踏会に行くのだからきちんとしたのをきなければならない。


「当然です。マーガレットの久しぶりの舞踏会です。美しいドレスを仕立てましょう。誰か今すぐアイリスを呼んで来て」


アイリス。


この名を知らない女性はいないと言っても過言でないくらい有名な人物。


この国で一番人気のドレスを仕立てる女性。


アイリスのドレスを着るために令嬢達はお金をつむ。


平民達はいつかアイリスの作ったドレスを身にまといパーティーに行くことを夢見ているものが多くいる。


それだけの価値がアイリスのドレスにはあるからだ。


そんなアイリスは昔カトレアに助けてもらったことがある。


今のアイリスがあるのはカトレアのお陰。


カトレアの頼みなら何でも聞く。


カトレアの娘のマーガレットの復帰パーティーのドレス作りとなれば喜んで引き受けるだろう。


社交界デビューの時もアイリスがマーガレットのドレスを作った。


これからもっとマーガレットに自分のドレスを着てもらおうとしていたのに、あの日以来二度とパーティーにはいかなかったので残念に思っていたので、この依頼は喜んで引き受けるだろう。


「カトレア落ち着きなさい。まずは朝食をとろう」


「そうね。私ったらはしたなかったわ。後で話しましょう」


マーガレットに笑いかける。


「はい。……ところで、パーティーはいつなのですか?」


マーガレットは前回の同じ年に回帰したと思っている。


今回も前回の時と同じ十九歳のときだと。


十九歳のときの王宮パーティーは確か、王女が何か失態を犯して暫くそれが貴族の間で噂されていた筈だ。


まぁ、それはアネモネのせいで、そうなったのだろうが。


今回は自分がそのターゲットにならないよう気を付けなければ。


確か、日付は六月二十日。


後、二ヶ月後ね。


とりあえず、その間にやるべきことをしておかなければ、と二人との会話を楽しみながら頭の片隅で考える。


「確か、六月十七日だな」


「(えっ、どういうこと?もしかして、前回とは違う年に回帰したの?)」


十七日にパーティーが行われたのはいつか必死で思い出そうとするも思い出せなかった。


「そうですか。ありがとうございます」


二人に今が何年か尋ねたかったが余計な心配をかけたくないのでお礼だけ言う。


使用人達に尋ねてもよかったが、誰が裏切り者かわからない以上下手な勘ぐりはされたくなかった。


何故なら二度目の人生のときアネモネも間違いなく一緒に回帰した。


そう思うのには理由があった。


アネモネの行動が最初とは違っていた。


一度や二度なら自分が違う行動をしたからアネモネにも少なからず影響しているのかもしれないと思っていたが、すぐにそれは違うとわかった。


アネモネは最初の人生では手にしなかった名誉、名声、夫を手にしていた。


特に名誉と名声は本来なら違う人が手にする者だった。


それを全て奪うことなど未来を知っていない限りあり得ない。


だからこそマーガレットは確信したのだ。


アネモネも自分と一緒に回帰したのだと。


だからこそ、そこで勘違いしてしまったのだ。


アネモネは夫もいて地位や権力もあり、今世では名誉と名声も手にした。


自分達に何かすることはないだろう、と。


それが勘違いだとも知らずにマーガレットは危機は脱したと今世では幸せに暮らせると。


そう思ってしまったのだ。


今回はわからないが、二度目の時は間違いなく最初の頃の記憶はあったはず。


でなければ、説明がつかない。


もし、裏切り者に少しでも妙なことがあれば何でも言えと言われていたら困る。


今は三度目の人生。


今回は今までと違いパーティーに行く。


アネモネが二度目の記憶を持って回帰していたら困るが、こればっかりはそうでないことを祈るしかない。


とりあえず、早急に信用出来る侍女と自分の手足となる人間が必要だ。


料理を口に運びながら、これからやるべきことを決めていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ