疑惑
「私はマーガレット・ブローディアと申します。クラーク様、今回は力をお貸し頂き本当に助かりました。ありがとうございます。このお礼は必ずさせていただきます」
深く頭を下げ感謝の意を表する。
「気にしないでください。お気持ちだけで充分ですよ。これが私の務めなので。ですが、私個人としましてはマーガレット様とは今後とも宜しくしていきたいとは思っているので仲良くしていただけると嬉しいですね」
本心なのかはわからない胡散臭い笑みを浮かべる。
まあ、何を企んでいるのかは知らないが も元々そのつもりだったので、先にヘリオトロープから提案してもらえて感謝する。
「クラーク様にそう言ってもらえて光栄です。私でよければ喜んでお相手させていただきます」
「ありがとうございます。ではお互いのことを知る為にお茶にしましょう、と言いたいところですが、まず今回の件の話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか。お茶はその後にしましょう」
「わかりました。ここでは何なので中に入りましょう。ここから屋敷まで少し離れていますが大丈夫ですか?」
「構いません」
ヘリオトロープは部下達に町の人達の手当てをするよう指示し、マーガレットの後について行く。
ヘリオトロープはマーガレットの後ろ姿を眺め目を細める。
マーガレットの体を纏う光が歪んでいる。
何もかも浄化してしまうほど美しい黄金の光とドス黒い全てを破滅させる忌々しい光が絡み合っている。
こんなもの初めてみた。
人には自分だけの光が存在する。
誰も同じ光を発することはない。
そして人には自分に与えられた運命と宿命が存在している。
ごく稀に天命を与えられるものもいるが、その光はとても美しく透き通っている。
天命を授かれるのは天に愛された“寵子”だけ。
そして、誰よも美しい光を纏っているマーガレットは天命を与えられているとわかる。
それも、マーガレットしかできないものを。
だが、今目の前にいるマーガレットは天命を与えられているのにも関わらず誰よりも光が曇り歪んでいる。
何故こんな光を放つ人間が天命を?
それよりこの光の正体は何なんだ?
まるで何回か死んで生き返ったかのような、切っても切れない何かが何重にも絡まっているような不気味な繋がりが見えた。
この光の正体を知るには、マーガレットの近くにいるしかない。
ーーそれに、もしものときは自分が何とかしなければ……
「どうぞ、座ってください。ここの領主のアスターさんも呼びましょうか」
「いえ、大丈夫です。もう話は聞いたので」
「そうでしたか。では、クラーク様は私に何を聞きたいのですか?」
話を聞いたのならこれ以上聞くことはないはず。
わざわざ自分に聞く必要があるのか、と思っていたことが顔に出ていたのかヘリオトロープはクスッと笑いこう続けた。
「単刀直入に聞きます。マーガレット様は何故今回のことに呪術が絡んでいたとわかったのかお聞きしたくて」
ダラダラ長話をするのは嫌いなのか、いきなり本題に入るヘリオトロープ。
「(なるほど。私を疑っているのね)」
「すみません。今のは言い方が悪かったですね。別にマーガレット様のことを疑っているわけではありません」
「(その言い方だとフォローになってないわ。疑っている人がよく言うことよ)」
空気が重くなる。
「クラーク様は報告を受けてからこの町に来ましたが、もし何も知らずにこの町にきたのら呪術のことには気付きませんか」
ニッコリと嫌味を含んだ笑みを向ける。
まあ、誰がどう見てもマーガレットが怪しいと思うので、疑うのは仕方ないと思うが、犯人が誰か知っているので疑われるのが物凄く腹が立つ。
ヘリオトロープがマーガレットを疑うのは普通のことだと頭ではわかっているがそれとこれは話が別だ。
今までのマーガレットだったら許したりら我慢していたり、きちんと説明して相手にわかってもらったりしたが、もうそんなことは絶対にしないと決めていたので売られた喧嘩を買うことにした。
「ーーいえ、気づきます。私は神官ですから」
一瞬、マーガレットの言葉に目を見開いて驚くもすぐ笑みを貼り付ける。
「神官以外の人が気づくのはおかしいことですか」
「普通はあり得ません」
そう普通はあり得ない。
神官を支え仕える者達ですら見えない者はいる。
神官でも肌で感じたりすることはあっても呪術が施された結界を見えたりできるものはごく一部。
そのため神官以外の人が見えるのは、聖女か聖女の代理人、又は呪術師になる。
ヘリオトロープはマーガレットの光がから聖女、聖女の代理人はあり得ないと判断した。
だからといって呪術師とも判断できなかった。
だから、敢えて失礼な態度をとりどういう反応をするのか見ようとした。
「では、私が普通ではないと言うことですね。でも、クラーク様は私がこの町をこんなことにした犯人だと思われているのでしょう」
誰もを魅了するような怪しい笑みを浮かべこう続ける。
「確かにクラーク様が私を疑うのは普通ですが、普通自分の領地でこんなことをしますかね。それに、こんなことをして一体私に何の得があると?犯人だからすぐにわかった?」
首をこてんと傾げヘリオトロープを見る。
「逆にこの街の惨状を見てそう思わない方がおかしいのでは?どう見てもこの状況は普通ではありません。一変に何もかもが起こりすぎています。まあ、私がこれ以上何を言っても無駄だと思いますので、一つだけハッキリと言っておきます。犯人は私ではありません。信じるか信じないかはクラーク様にお任せます。後は自身の目で判断してください」
では、私はこれで失礼します、とヘリオトロープの返事を聞く前に部屋から出て行き部屋に戻る。
パタン。
長い廊下を歩き部屋に戻ると頭を抱えるようにして座り込む。
ーー完全にやらかしたわ。
さっきまでのヘリオトロープとの会話を思い出し後悔する。
味方につけようとしていたのに気づいたら敵に回していた。
もしかしたらここに来る前からマーガレットの事を犯人だと疑っていたのかもしれない。
確かに町のをよく調べもせず公爵家へと戻り呪術がかけられていると宣言すれば疑いたくなるのはよくわかる。
神官だし仕方のないことだと。
でも、せめて話しを聞いてから疑って欲しかった。
話しを聞く前から疑われたら何も言えない。
話しをしても意味がない。
「もしかしたら余計に疑われたかもしれないわね」
深いため息を吐きこれからの事を考えると頭が痛くなる。
「ていうか、私は昨日襲われたのよ。それなのに犯人なわけないでしょう。あっ、もしかしてそれも自作自演だと思われているのかしら」
そう思うとヘリオトロープに対する怒りがふつふつと湧いてくる。
いくらなんでも、自分を生贄にしたいから攫ってくるよう命じる馬鹿がどこにいるのよ。
そんな馬鹿がいるのなら会ってみたい、と馬鹿な事を考え出す。
ヘリオトロープは暫くこの町に滞在することになっている。
また顔を見合わせることがあると思うと嫌だが、これも公爵家の人間としての務めだから仕方ないと割り切る。
なるべく関わらないようにしておこう。
だが、このときのマーガレットは知らなかった。
この町にいる間しつこいほどヘリオトロープに付き纏われることになることを。
「ハハッ。まさかあの状況であんなこと普通言うか。全く動揺していなかった。バレない自信があるのかそれとも犯人に心当たりあるのか。一体どっちなんだろうな」
マーガレットが出て行く前に放った言葉があまりにも予想外過ぎて笑ってしまう。
「いいだろう。望み通り自分の目で確かめるとしようか」
にやり、と不気味な笑みを浮かべる。
ヘリオトロープが良からぬことを考えているのが伝わったのか、笑みを浮かべた瞬間マーガレットの体中に悪寒が走り嫌な予感がした。
早速夕食を一緒に食べようと誘おうとしたが、使用人達に体調が悪いから早めに休まれたと聞かされ、仕方ないので明日の朝から付き纏うことにした。
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