カラント・フェイスフル 2
ーー気持ち悪い。
血の匂い、汗の匂い、涙の匂い、屋敷を人を燃やす匂い。
一瞬で全てを思い出し吐き気がする。
首がちゃんと繋がっているか確認し、震える体を自分の手で抱きしめる。
ーー嫌だ。来ないで。もう死にたくない。殺さないで。
「お、お嬢様。だ、大丈夫ですか」
小さな声で話しかけ、ゆっくりマーガレットに近づく。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………。
カラントが近づいてくるたび息が上がる。
首をもう一度斬られるのではないかと怖くなる。
心の中でどれだけ叫んでもあの日のように近づいてくる。
「来ないでってば!もう、やめて!お願いだから殺さないで!」
気づけば大声で叫んでいた。
マーガレットの声に驚いてカラントはビクッと体を震わせその場から動けなくなる。
マーガレットは大声で叫んだせいか、吐き気がして急いで森の中入る。
「うっ……はぁ、はぁ………うぇ…………はぁ、はぁ、はぁ……」
胃にあるものが全て吐き出す。
口の中が気持ち悪い。
首を斬られた感覚もあの日嗅いだ匂いも全て記憶の中の光景と違うので、余計に気持ち悪く感じる。
「よりによって……何で今なの」
深いため息を吐く。
木にもたれかかり顔を隠すように座る。
こんなんで傍に置けるの?
復讐なんてできるの?
私ってこんなに弱かったの?
会っただけでこんなに取り乱すとは思っていなかった。
これから自分達の殺しに関わった人達と沢山接触するのに、このままでは何もできない。
会うたびに殺された日を思い出し、泣いて、吐いてを繰り返すわけにはいかない。
やると決めたならやり通さなければ。
これくらい何ともない。
覚悟を決める。
「お、お嬢様。お、俺は、お、お嬢様のことこ、殺しません。こ、怖がらせてしまい、も、申し、わけ、ありません」
いつの間にきたのか顔を隠すように座っていたので声をかけられるまで気づかなかった。
すぐそこにカラントがいる。
そう思うだけで、治った吐き気がまた蘇る。
それを何とかグッと我慢して飲み込み顔を上げる。
「こちらこそごめんなさい。みっともない姿をみせたわね。助けてくれてありがとう」
本当ならもっと上手いことを言ってカラントを取り入れようとしたけど、顔を見た瞬間頭が真っ白になった。
カラントはマーガレットの言葉に「良かった」とホッとすると「これを」とコップに入った水を渡そうとする。
あの後カラントはすぐにマーガレットの後を追ったが吐いている姿を見て水をとりに戻った。
よく吐いている人に大人達は水を飲ませていたから、マーガレットにも水が必要だと、そう思って。
「あ、ありがとう」
震える手でコップを受け取り、口の中をゆすぐ。
ゆすいだお陰で口の中が多少すっきりする。
「お、お嬢様、た、立てますか。こ、ここは、危険なので、移動、しましょう。お、お守り、します、ので、あ、安心して、ください」
確かにカラントの言う通りだ。
ここにずっといたらまた襲われる。
騎士達の所にいれば襲うのは難しい。
さっきの連中もマーガレットが一人だったから襲ってきたのだ。
だが、ここ最近ずっとマーガレットを陰から守っいたカラントがいたので作戦は失敗し逆に命を落とすことになった。
カラントは大人四人をあっさりと殺した。
見た目に反してとてつもなく強い。
カラントを手元に置くと決めたのだ、吐き気などいずれなれるだろう。
「ありがとう。貴方に任せるわ」
立ち上がりカラントの後ろを歩き騎士達がいるであろう場所まで向かう。
「お嬢様!一体何があったのですか」
青白い顔をし今にも倒れそうなマーガレットと血だらけの少年。
マンクスフドが慌てて駆け寄るのも無理はない。
「彼は大丈夫。ブローディア家の騎士だから」
短剣を構えマンクスフド殺そうとするカラントに声をかける。
マーガレットに言われ大人しく短剣を下ろす。
「お嬢様!」
安心からか体の力が抜け倒れたマーガレットを地面にぶつかる前に受け止める。
カラントも受け止めようとしたが、それより早くマンクスフドが受け止めた。
「ごめんなさい。助かったわ。ありがとう。安心したから力が抜けたわ。王もありがとうね」
そう言うとマーガレットは目を閉じ気絶した。
「悪いが後は頼む」
マンクスフドはマーガレットを抱えて部屋に向かう。
「君、名前は?一体何があったか教えてくれる?」
少年は話しかけらても返事をすることはなくただジーっとマーガレットを見つめていた。
まるで何かに取り憑かれたような表情をする。
その様子を見ていた騎士達は内心気味が悪いと思った。
「お嬢様。一体何があったのですか」
最近いつもと様子が違うことに気づいていた。
寝ているマーガレットを心配そうに見つめる。
トントントン。
扉が叩かれ「私です。すみません。少しよろしいでしょうか」と声をかけられる。
「何があったのか?」
「実は、少年が……」
騎士の一人が自分達ではどうにもできない、と泣きつかれたので仕方なく使用人達を呼びつけマーガレットを守るよう命じた。
先程少年と別れた場所までいくと本当にその場から動いておらず、ずっとこちらを眺めていた。
マンクスフドが目に映った瞬間、物凄い勢いで近づいてくる。
「あの、お嬢様、は、ご、ご無事で、しょうか」
辿々しい話し方でマーガレットの安否を確認する。
「ああ、大丈夫だ。今は疲れたのか眠っておられる」
マンクスフドがそう言うと強張っていた表情が柔らかくなり良かったと安心したように笑う。
本当にマーガレットのことが心配だったのだと思った。
「何があったのか、教えてほしい。が、その前に体を綺麗にした方がいい。着替えてきなさい」
「で、でも……」
何か言いかけようとしたが、それより先に「お嬢様が起きたとき君がその姿だと悲しまれる」と、何を言ったら少年が着替えてくれるかを見抜きそうお願いする。
「わ、わかり、ました。着替えて、きます」
ペコッとお辞儀をして少年はその場から離れる。
「あの少年から何か話は聞けたか?」
そう尋ねると騎士達は困ったように笑い首を横に振る。
「それが、何を聞いても何も喋らなくて。マンクスフドさんが来るまで一切動がなくて」
「えっ?まじで?」
「まじです」
騎士達の顔から疲れが見える。
「じゃあ、何も聞けてないのか」
早くマーガレットのところに戻って目が覚めるまで護衛したかったが、これでは無理だなと諦める。
「はい。申し訳ありません」
「次からはちゃんとするんだぞ」
「はい」
マンクスフドにとって騎士達も自分の子供のように可愛い存在。
ブローディア家の次に大切な物。
本来ならもっと怒るべきだが、今回ばかりは相手が悪い。
カラントを一目見てあれは普通の子供ではないと感じた。
マンクスフド自身でさえ聞き出せるか自信がない。
群れから外れた狼が森の中で一匹で生きるような異質な存在に感じた。
「二人は今すぐお嬢様のところに行って異常がないか確認してこい。私が戻るまで代わりに守るのだぞ」
「はい。お任せください」
二人は急いでマーガレットのところまで向かう。
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