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第11話 クレイジーエンジニアと公害の恐怖(15.5k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と七十六日目。

 フラッと行ってみた【魔王城】で【魔王】呼ばわりされたことをきっかけに、【魔王】として【魔王城】に入居してから四十二日後の午後。


 俺は、エスタンシア帝国北部平野上空2000mでエセ添乗員に【双発葉巻号】から突き落とされ、【空から落とされる系の魔王】となった。


 自由落下の途中でジェット嬢に空中でかじりつかれて、無事に空中合体。

 前世世界で好きだったロボットアニメのアレを命がけで実践した充実感を感じつつも、【カッコ悪い飛び方】で説教を受けながら飛行中。


「落下中にほうけないで頂戴」

「正直すまんかった」

「落下中は時間が無いのよ。キャッチ失敗したら墜落よ。いくらアンタでも死ぬわよ」

「そうだな。次からは気を付けるよ」

「今後のためにも訓練したいわね」

「訓練と言えば、なんで今回予定していた【ジェット☆タモネット】での【着艦】をしなかったんだ? 俺をぶっつけ本番で落としてまで着陸を急ぐ理由は無かったようにも思うが」 

「機体近くは気流の乱れが激しくて、安定して飛べなかったのよ」

「そうか。よく考えたら単独飛行での接近は確かに危ないな」


 【双発葉巻号】は大型の双発機だから横から近づくとプロペラ後流で吹き飛ばされるし、後ろからだとスリップストリームで引き寄せられる。接近状態でプロペラより前に出てしまうと、プロペラに吸い寄せられて巻き込まれる危険性もある。

 自重が軽すぎて推力制御が不安定になる単独飛行で接近するのは確かに危険だ。


「だったら、俺が投下口から【ジェット☆タモネット】を出しておいて、それに勢いよく飛び込むという方法もあるんじゃないか?」

「それが出来ると思うなら、両腕縛った状態であのあみに顔面から飛び込んでみなさいよ」

「あー確かにすごく痛そうだな。あのあみ自体に改良が必要だな」

あみを改良したとしても、あの機の近くを飛ぶのは難しいわ。せめて【着艦】時はプロペラ止めてもらうことはできないかしら」

「できるとは思うぞ。でも制限時間はあるな。あんまり止めてると失速する」

「そこも訓練が必要ね」


「そう考えると、今回みたいに俺が飛び降りたほうが安全だな。この【カッコ悪い飛び方】での【着艦】なら投下口から長い縄梯子なわばしごみたいなものを降ろしてもらえれば簡単だ」

「そうね。私もそのほうが楽だわ。アンタがちゃんとキャッチしてくれるなら」

「またかじられないようにがんばるよ」

 

 ぶっつけ本番で空中投下されて服をかじられてキャッチ。無茶苦茶されたと思ってみたが、話を聞いてみればちゃんと必然性はあったわけだ。

 そもそも、自由落下する俺が接近するジェット嬢をキャッチするのは簡単なんだから、落下中にほうけていた俺が悪い。


 まぁ、無茶苦茶されても暴挙と思わずにちゃんと話を聞くのはとっても大事だね。40代のオッサンとして思う。

 うん。今日もちゃんと俺40代オッサンしてる。


 それにしても、【新婚旅行】で新婦を空中キャッチとか上手に出来たら結構ファンタスティックだな。

 いや、もしかしてジェット嬢はそれを狙ってたのか?

 だったらちょっと悪いことしたな。次はちゃんとしよう。


 そして今回は作業服の右袖みぎそでかじられた。

 かじられた場所を見ると、丈夫な作業服にφ5ぐらいの貫通穴が八か所も開いている。


【どう見ても人間の歯型じゃありません本当にありがとうございました】


 でも、そこは気にしないことにしよう。

 かじられたのが服だけで本当によかった。


…………


 エスタンシア帝国北部平野を流れる大きな川。エスタンシア川というそうだが、その川沿いに西に向かって飛び、上流の山岳地帯に着陸。山の中だが、明らかに様子がおかしい。


「ジェット嬢よ。ここはピクニックやキャンプには適さない場所に思えるぞ」

「川の上流でキャンプとか楽しそうと思ったんだけど、確かにここで何かを食べたい気はしないわね。何なのかしらこの状況」


 川の水は赤く着色し、川底や川辺には黒い泥のようなもの。山には枯れ木だらけになった林と、ところどころ崩れた痕跡。周囲から刺激臭もする。

 空から見た時点でなにかおかしいと思ってはいたが、地上から見るとその異常さがよくわかる。


 そして、俺は前世世界の知識より、この状況の原因に心当たりがある。


「ジェット嬢よ。この近くに鉱山やそれに類する施設は無いか」

「あるわ。キャスリンからもらった地図によると、ここより上流側はエスタンシア帝国最大の鉱山地帯よ。採掘基地と製錬工場が複数個所あるわ」

「原因はそれだな。俺の前世世界で【鉱毒】とか【公害】とか呼ばれていたものだ。採掘や製錬で出た排水をろくに浄化処理もせず川に捨て続けたんだろう」

「有害な金属や薬品を含んだ排水を川に捨てることは禁止されているはずよ」

「それはユグドラシル王国での話だろう。この状況を見る限り、エスタンシア帝国にはそういう決まりが無いか、まともに機能していないかのどちらかだな」


【公害】


 技術の進歩や経済の成長により発生する大規模な環境汚染と、それを起因とする健康被害。

 俺の前世世界でも経済成長期に国内各地で発生した。一度ひとたび発生すると被害規模が甚大になるため、解決に相当長い時間を要する非常に厄介な社会的災害だ。


「採掘していた鉱石や流出した有害物質は分からんが、川の周辺の状況を察するにそれなりに長期間汚染は続いていたように見える」

「北部平野の不作の原因はコレかしら」

「そうだな。主要因と断定はできないが、原因の一つではあるだろう」

「他にも原因に心当たりがあるの?」

「いや、現時点では無いが、おかしい状況を見た時の心構えがあるんだ」


【何かがおかしいと思った時は何もかもがおかしい】


 前世で40代の開発職サラリーマンをしていた時に学んだ心構えだ。

 異常事態が一個だけだったとしても、原因が一つとは限らない。だから、最初から原因は多数あることを前提に調査をするのが大事だ。

 おかしくなった原因は全部対処しないと問題は解決しないのだから。


「分かるような、分からないような……」

「そのうち分かるさ。下流側も見ていこう」

「その前に、川辺の泥をちょっとだけ持ち帰りたいわ。コーヒーを入れた水筒を一本開けて、泥を詰めて頂戴」

「了解だ。有毒な物だろうから、扱いに注意は必要だな」


 俺達は、その場でコーヒーを飲んで立ったまま一休みした後、空けた水筒に泥を詰めて【カッコ悪い飛び方】でその場を離れた。

 次来るときは空き瓶を準備しようと思いながら。


…………


 川沿いに東に飛んで下流側に。麦畑に見えた平野部に着陸して歩き回るとまた奇妙な光景。


「【耕作放棄地】ね」

「【耕作放棄地】だな」


 麦畑なのだが、収穫時期を過ぎても収穫されずに放置され、穂発芽しまくった麦で畑が荒れている。


「これは、オリバーが見たら怒りそうね。農夫なら作物を大事にしろって」

「ここまで育てて収穫せずに放置とか、意味が分からんな。作物価格が暴落して収穫が割に合わなくなったとかそういうことではないだろうな」

「ユグドラシル王国から穀物が輸入できるようになったから、こっち側の収穫をあきらめたとかかしら。でも、育った麦があるなら収穫してもよさそうなものだけど」


 荒れた麦畑から再び離陸し【カッコ悪い飛び方】でもう少し下流側へ移動して着陸。そこでもまた奇妙な光景。


「【荒野こうや】ね」

「【荒野こうや】だな」


 今度は、元は畑があったと思われる場所が荒野になっていた。


「この荒野、オリバーが見たら喜びそうね」

「そうだな。トラクターとかを持ち込んで大喜びで耕しそうだ」


 荒野こうやの中に村の跡地のような場所があったが、人の気配が全くない。建物の状態から見ると、空き家になってから一年以内ぐらいに見える。

 その村の跡地に入り、日本家屋風の空き家の軒下を借りて弁当タイム。ちょっと掃除してシートを敷いてからジェット嬢を降ろし、二人で並んで食べる。コレは夕食。時間は既に夕方。

 夏場なので日没までは時間があるが、この近辺に人が居る街とかは無さそうなので、宿泊場所をどうするか考えないといけない。


「でも、この荒野こうやもおかしいわね」

「どこがだ」

「放置されている割に雑草がほとんど無いし、虫とかもいないわ。【魔王城】の西側台地なんて、いくら刈ってもすごい勢いで雑草が生えてくるのに」

「そういえばそうだな。歩いた感じだと土は湿っていたから、完全に砂漠化しているわけではなさそうだが。極端に土が痩せているんだろうか。あるいは、川の汚染の影響だろうか」

「ここは川からだいぶ離れてるし、ため池もあったから川の水で耕作していたわけでもなさそうよ」

「だったらやっぱり別の原因もあるのか。ここだけ見たんじゃこれはわからんな」

「だれか事情を知っていそうな人に話を聞きたいわね」

「そうなると、やっぱりトーマスかな」


 俺の地理感が合っていれば、ここから南東方向に【カッコ悪い飛び方】で一時間半ぐらい飛べば、あの小屋に到着できるはず。


「そうね。ついでにあの小屋に泊めてもらいましょう。最初はこのへんの村で宿を取りたかったけど、それも無理そうだし」

「そうだな。この周辺は宿泊できそうな状況じゃないし、なんとなく、あんまり長居しない方がいい気もする」


 弁当を片づけて、借りた空き家を軽く掃除して、村の外側まで歩いた後【カッコ悪い飛び方】で離陸。

 放棄された村とはいえ、推進噴流で村の施設を壊したらマズイからな。


…………


 【トーマスメタル有限会社】の倉庫がある山に着陸し、久しぶりに来たあの小屋の玄関にて、小太りな男と横向きで対峙する俺達。


「えー、お久しぶりです。地上で会うのは【密輸】以来ですね。まぁ中へどうぞ」

「トーマスか。久しぶりだな。でも、なんかこう、太さが太い感じに太くなっているな」

「ええ、おかげさまでたらふく食べることができるようになりまして、元に戻ることができました」

「そうか。それが元だったんだな」

「エスタンシア帝国の食料事情の改善が一目でわかってよかったわ」

「えぇ、でも、全国民が私みたいに肥えたわけじゃないですよ」

「「それは分かってます」」


 小屋の中の小さなダイニングのような部屋でジェット嬢を椅子に下ろし、三人でコーヒーを飲みながらテーブルを囲む。最初来た時に金貨を山積みにしたあのテーブルだ。


 トーマスによると、ユグドラシル王国からの食料の輸入により食糧危機は解決したとのこと。

 それにより食料自給率の回復を計画的に行う余裕ができたため、【国策】として【第二次ヴァルハラ開拓計画】が始動。

 耕作不適地となった北部平野居住者の救済策も兼ねて、ヴァルハラ平野への大規模移住と開拓を進めているとか。


「トーマスよ。さっきエスタンシア川流域を見てきたが、上流側がえらく汚染されていたぞ。この国の鉱山は自然環境に配慮した操業はしてないのか?」

「えー! あそこに入ったんですか? あのへんは立ち入り禁止区域で、汚染されている事実は【国家機密】ですよ」


「【国家機密】という割には汚染の事実を掴んでいるようだけど、どういうことかしら」

「えぇ、なにせ商売上手ですからね」

「その商売上手の情報源はどこなんだ」

「えーと、うちは金属材料の商社ですから、私は仕入れの時に普通に鉱山や製錬工場に出入りしてます。だから普通に現場を見てますよ。でも、立ち入り許可の条件として秘密保持契約を結んでいるので、そのへんは話せないんですよね。商売上手ですから」

「現場見てるんだったら、あの状態がマズイと思わないの? 川を汚して山を荒らして、そのうち取り返しのつかないことになるわよ。むしろ、下流側の不作とかそれによる食糧危機とか、すでに取り返しのつかないことになってるじゃない!」

 ジェット嬢が怒った。もっともな話だ。


「えぇ、でも、商売上手にもできないことはあるんですよ」

「まぁ、確かにこのへんは商売上手の担当する仕事じゃないな。これは国とか政府とかそのへんが担当するところだな」

「だったら政府に言わないと。このままじゃ北部平野に人が住めなくなるわよ」

「えぇ、でもまぁ、北部平野は既に人が住めなくなって、移住進めてますし」

「そうだな。それに鉱山に環境規制を適用するとなると、やっぱりそれなりの設備投資でお金がかかるし、金属材料の製造コストも上がる。商売上手が反対しそうな話だ」

「えぇ、分かってますね。そうなんですよ。川とか山とか汚したらマズイとは思うんですが、商売上手としては、材料の買値が上がるのが嫌なんですね」

「分かる分かる。でも、過去にもエスタンシア帝国内部で問題提起した人はいなかったのか?」


「えー、まぁ、居るには居たんですがね。でも、金属材料の値上がりで困るのは大多数の国民ですし。やっぱり政府もお金とかまぁ、政治家の方たちも商売上手と仲良しですからね。経済成長とか国策とか優先事項があると、そこを問題提起するような人はちょっとねぇ。まぁ、商売上手の立場上、あんまり言えないんですけどねぇ」


「うわぁ、それは俺もすごく分かる。やっぱり政治とか経済とか絡むと、環境保護とか後回しとか、そういう風になるよなー。国民の大多数にしてみても、行ったことのない北部平野やエスタンシア川の環境よりも、目先の鍋とか包丁とかの値段の方が重要だよなー。そうなるよなー」

「えぇ、そうなんですよ。そういうことなんですよ。分かってくれて助かります」


「オカシイでしょ! 考え方がオカシイでしょー!」

 ジェット嬢が顔を真っ赤にして怒ってる。確かにおかしいかもしれないが、そう言うだけでは解決しない難しい問題なんだなコレは。


 俺の前世世界でも【環境保護】と【経済的合理性】の両立は大きな問題だった。多くの悲惨な【公害】事件を通じて、長い時間をかけて人々の意識が変わったことで両立に至った経緯がある。

 まさしく【進歩のための犠牲】だ。


 意識改革が必要というなら、この世界の人達で頑張ってもらうしかない。俺はこの世界にとって【異物】だから、そういう部分ではあんまり前面には出ない方がいい。

 強いて、できることがあるとするなら【クレイジーエンジニア】の本分として、技術的な見通しを立てるところぐらいか。

 鉱山や製錬工場の排水を低コストで処理する技術があれば、解決の助けにはなるだろう。


「ジェット嬢よ。このオカシイ状況を何とかするためにも、鉱山や製錬工場の排水を浄化する技術の目途を立てたいんだが、そういう研究をしている領主とかに心当たりは無いか?」

「適任者に心当たりがあるわ」


 やっぱり居るんだ。ユグドラシル王国は【環境規制】がやたら厳しいから、そういう技術は結構期待できるかもしれん。


「えーと、何をするつもりか分かりませんが、このへんはエスタンシア帝国にとって結構デリケートな問題なので、あんまり無茶苦茶しないでくださいね……」

 俺達のやり取りを見たトーマスが不安そうに釘を刺す。


 わかってるよ。トーマス達が困らないように慎重に進めるよ。


 その後、その小屋に宿泊させてもらって、朝食を頂いた後、翌朝に【カッコ悪い飛び方】で出発。俺達は【魔王城】に帰った。

 一泊二日のちょっとした【新婚旅行】だった。



 俺達がちょっとした【新婚旅行】から帰ってから十日後の午前中。レッドは首都勤務中で不在。アンとメイは調理場で昼食準備、【辛辣しんらつ長】は地下一階の執務室で今日も事務処理。

 そんな通常進行の【魔王城】で、ジェット嬢とエントランスにある座敷でエスタンシア帝国の地図を見ていたら、久しぶりに珍しく来客。


 修理したばかりの入口ドアの通用口を開けて入ってきたのはキャスリンだった。いつものデタラメコーディネイトでフラッと現れた。


「ごめんくださーい」

「「いらっしゃいませー」」


 そして今日も飲食店風に応える俺とジェット嬢。


 キャスリンは何かうれしそうだ。歌を口ずさみながら小躍りしながら俺達の居る座敷に向かってくる。あの歌はいつぞやの【スペシャルギロチン@品質管理ソング★死刑!!】だ。

 何かいいことがあったんだろうか。


 俺とジェット嬢とキャスリンが座敷の上でちゃぶ台を囲むと、メイが三人分のコーヒーとクッキーを用意してくれた。


「【免停】期間が終了しましたの」

 キャスリンが嬉しそうに話を切り出す。そして、ウェストポーチからカードのようなものを出した。


「そして、新しく制度化された【免許証】も発行されましたの」

 トラクターの免許制度の話は聞いていたけど、ついに飛行機の免許制度もできたのか。

 でも、【写真機】は広く普及していないから、免許証にあるのは顔写真じゃなくて似顔絵だな。

 なんか免許証の玩具おもちゃみたいだな。そして、えらくたくさん文字が書いてあるように見えるが、俺にはその文字が読めない。


「えーと、【小型機種限定】【乗客人数限定】【国内限定】【速度限定】【高度限定】【旋回荷重限定】…………。随分たくさん限定付けられたのね」

 ジェット嬢が読んでくれた。たくさん書いてある文字は限定の条件だったか。旋回荷重とか、免許証に書くことではないと思うが。


「いいんですの。飛べるだけでもありがたいのです。旦那との必死の交渉で勝ち取った大切な免許証ですわ」

「まぁ、再び飛べるようになって良かったな。もう【免停】にならないように気を付けるんだぞ」

「次やらかしたら【免許取消】だと旦那に脅されているので気を付けますわ」


 ブルーの【免許証】も持ってきてくれたので受け取った。今は【双発葉巻号】で外出中なので帰ってきたら渡そう。今日は首都に行っているはずだ。


 【新婚旅行】から帰って以来、陸上突撃機【双発葉巻号】は輸送任務で大活躍していた。【門出かどで】の際にサロンフランクフルト食堂棟二階の四号室に残してきたジェット嬢の荷物の残りを運んできてもらったり、【バー・ワリャーグ】にレッドの給料を運んでもらったり、そのついでにアンとイエローとブラックが首都に買い出しに行ったりと。

 【魔王城】の荷物輸送とメンバー移動の手段として活用されている。


 ジェット嬢によると、ブルーの【免許証】には【免許皆伝】と書いてあったそうだが、まぁ気にするまい。

 コーヒーを飲んで、クッキーを食べる。キャスリンが再び話を切り出す。


「あと、頂いた泥のサンプルの分析結果を持ってきましたわ」

 キャスリンがウェストポーチから紙を数枚取り出してジェット嬢に渡す。俺も読みたいけど俺にはやっぱり読めない。


「やっぱりあの泥は有毒なのね。でも、金属含有量が随分多いじゃない。金も含まれてるわ」

「鉱山技術者の方にも確認しましたが、この泥自体が資源として価値があるそうですの」

「だとしたら、鉱山に関連する技術はユグドラシル王国の方が進んでるのか? 意外だな」

「国内の金属鉱山は枯渇しかかっており品位の高い鉱石が乏しいのです。ですから、そこから金属資源をとことん回収する技術だけは進んでいますわ。でもその分なにもかも高価ですの。鉄や銅の価格でいうと、エスタンシア帝国の六倍ぐらいになってますわ」


 なんか共感できるな。

 資源が乏しいからこそ技術が進歩するというパターンか。俺の前世の出身国でもそんな部分はあった。エネルギー資源が自給できないから、省エネ技術が進んだりとか。


「この分析結果を通じて、エスタンシア帝国の北部鉱山には品位の高い鉱石がありそうと考えた鉱山技術者達が、【掘らせろ】とか大騒ぎしてなんか変な詩のようなものを作りましたの」

 キャスリンが出したメモ書きをジェット嬢が読む。



 ●鉱山野郎の叫び

 作:ユグドラシル王国南部鉱山採掘技術班


 昨日、鉱山の坑道こうどう行ったんです。坑道こうどう

 そしたらなんかいい鉱石ほとんど無くて採掘できないんです。

 で、よく見たらなんか地下水わいてきていて、水脈近い、とか伝言板に書いてあるんです。

 もうね、ダメかと。ここもかと。

 お前らな、坑内掘りで普段見当たらないような地下水脈掘り当ててるんじゃねーよ、ドジが。

 地下水だよ、地下水。

 なんかどんどん坑道こうどうに水入って来るし。上からも下からもかよ。あぶねーな。

 うわー排水装置故障中ですー、とか相方が言い出すの。もう掘ってらんない。

 お前らな、地下水抜けないから全員逃げろと。

 坑内掘りってのはな、入坑にゅうこうするだけで命懸けなんだよ。

 上の坑道こうどうで地下水脈掘り当てた奴が居たら、下の坑道こうどうに居る奴が溺死してもおかしくない。

 生きるか死ぬか、そんな瀬戸際で安全第一語るのがいいんじゃねーか。地下水脈掘り当てて報告もせずに放置した奴はすっこんでろ。

 で、やっと上層階まで登ったと思ったら、隣の班が一人居ませんとか言ってるんです。そこで俺ブチキレですよ。

 あのな、入坑にゅうこう前に毎回班で点呼しろっつってんだろうが。ドジが。

 得意げな顔して何が、今日は彼は欠勤でした、だ。

 お前は本当に安全第一を理解しているのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

 お前、安全第一って口だけちゃうんかと。

 鉱山歴長い俺から言わせてもらえば今、この国の鉱山の間での問題点はやっぱり、鉱石の枯渇、これだね。

 掘れるところは掘りつくして。もう鉱石残ってない。

 枯渇っていうのは絶望的な問題点。掘り方変えるぐらいじゃどうにもならない。これ。

 で、やむなく坑道深度上げる。これ最強。

 しかしこれをすると、事故が起きた場合の避難が難しくなる危険を伴う、諸刃の剣。

 今の技術ではお薦めできない。

 まあ俺達採掘屋は、隣国の鉱山を制圧して掘らせてもらうしかないってこった。



「何なのコレ……」

「また何かの【電波】が影響してそうな気がするな。末尾に不適切な表現が含まれているが、この作者たちどうなったんだ?」

「頭を冷やしてもらうために【外患誘致未遂罪】で投獄しましたわ」

「鉱山地区にもどうしようもない【クレイジーエンジニア】が居たのね」

「でも、気持ちは分からなくは無いんですの。私は立場的にあんまり物騒なことは言えないのですが、ここのところの経済成長で金属材料の需要は高まっているのに、ユグドラシル王国南部の鉱山は枯渇しつつあり。金属資源の再利用は進めていますが、絶対的な需要の増加に応えることは難しく。そこで、あちらの国に質のいい鉱脈があって、雑な製錬で資源を無駄にして山を汚すような掘り方されてるなら、いっそまるごと侵略してこちらの領土にしてしまいたいと」


「「【問題発言】ですよ【王妃】様!」」


 暴走しかかったキャスリン王妃の【立場的にマジで危ない問題発言】に対してしっかりと説教。近々また来ると言いつつキャスリンは【試作2号機】で帰って行った。

 王妃様は暇なのかな。


…………


 暴走しかかったキャスリンに説教した後の昼休み。エントランスのテーブルで皆で集まって食事中に、草刈り担当のグリーンから相談を受ける。


「【魔王】様。台地の雑草が変なんですよ」

「どこが変なんだ」

「普段は刈っても刈っても生えてくるのに、生えてこなくなった場所があるんです」

「刈るのが楽になっていいんじゃないか。広い範囲なのか?」

「小さい範囲なんですが、そういう場所が点々と続いていましてちょっと不気味なんですよ。後で見てもらえますか?」

「見てみよう。後で案内してくれ。前世世界の知識が何か役に立つかもしれん」


…………


 ジェット嬢を背負って【魔王城】入口広場から西側台地に出る。グリーンが今日刈ったところを見ると、確かに点々と雑草が根本から枯れている場所がある。

 グリーンと一緒に枯れている場所を追いかけていくと、魔王城の裏の井戸に到着。


「この井戸から何か出てるのかな? どう思うよジェット嬢」

「アンタ、見て分からない?」

「ジェット嬢は分かるのか?」

「コレ、アンタの足跡よ。足跡のところだけ雑草が枯れてるわ」

「「あっ!」」


 そう言われると、確かにビッグマッチョな今の俺の足跡だ。

 大きさや歩幅が大きすぎて人間の足跡には見えなかったけど、今の俺の足と俺の歩幅と合致する。そして、【魔王城】入口広場とこの井戸の間はジェット嬢との散歩コースだ。よく歩く場所だ。

 これは間違いなく俺の足跡だ。


「国宝破壊、大砲暴発、魔導砲暴発、戦車暴走の次は雑草枯らしなの? でも、今回はわりと無難ね」

「【魔王】様の特殊能力でしょうか。それなら、草刈り手伝ってくれるとありがたいんですが」

「それができるなら確かに【魔王】っぽいけど、そんな能力は無いぞ。草が枯れる魔法なんてないだろう。それに草が枯れているのはここだけで、他に歩き回った場所は枯れてないぞ」

「最近能力に目覚めたとかかしら?」

「最近か……。ヴァルハラ川に向かう散歩ルートの草は枯れていないから、最期に川に行った時にはその能力は無かったと」


 俺はこの世界に転生した当初は【転生】ではなく【憑依ひょうい】である可能性を考慮していた。

 だから【滅殺案件】の真相を知るまでは、この身体が俺の知らない間に動いて何かしていないかを常に警戒していた。

 その頃の癖で自分の過去の行動は結構意識して記憶している。


「最後に川に行ったのは、十三日前。それ以降で何か変わったことと言えば、【新婚旅行】に行ったぐらいか」

「そういえば、【新婚旅行】から帰ってきてからは【魔王城】の中で過ごすことが多かったわね。運んでもらった荷物の整理とかで」

「そうだな。俺も部屋で久々にいろんな機械のスケッチ描いたな。それに最近は生協さんの配送頻度が上がったから【買い出し】も行ってないな」


 【新婚旅行】のちょっと前あたりに、生協さんに【魔王城】担当の外商部隊が編成されてサービスレベルが向上したのだ。

 配送頻度も高くなり品揃えも充実したと、厨房担当のアンとメイが大喜びしていた。


「【新婚旅行】以降で、俺の足跡だけ草が枯れるか……」

 【魔王】の出す【瘴気しょうき】で生物が死滅するとか、前世世界のファンタジー作品ではありがちな設定だったが、この世界で【魔王】呼ばわりされた俺は魔法とか使えない普通のビッグマッチョな人間だ。


 異世界転生者が【魔王】になる謎ルールを察して、同郷の【副魔王】ウラジィさんと一緒にちゃっかり【魔王城】を貰っちゃったりしたけど、俺自身に【魔王】らしい能力は無い。

 そもそも、実は【魔王】が何なのかもよくわかってない。でも、草を枯らせるのが仕事ではないと思う。


 いや、ファンタスティック発想を一旦止めて、普通に考えよう。普通に考えたら簡単なことだ。

 俺のくつに草を枯らせるような何かが付いていただけと、そしてそれは【新婚旅行】で行った先に付いたと。

 エスタンシア帝国北部に降りた時に、【鉱毒】らしきもので汚染された山を歩き回ったんだからむしろその可能性が高い。


「【新婚旅行】で歩き回ったあの山で俺のくつに何か有毒物質が付着したのかもしれん。量は多くないはずだが、ここで拡散させるのはマズイ。グリーンよ、草が枯れたあたりの土を集めてバケツか何かに隔離してくれ」

「了解です。だとしたら、【魔王】様の靴も変えたほうがいいですね。予備の靴が医務室にあります。持ってくるのでしばらくここで待っていてください」

「すまん。頼む。今履いている靴もバケツか何かに隔離しておこう」

「でもなんでアンタのくつだけなの?」


「「…………」」

 俺とグリーンはツッコミどころを見失って黙る。

 ジェット嬢よ。そのボケは扱いが難しいぞ。


 ちなみに。【女性の靴】というのは扱いに注意が必要だ。

 靴が大きいと思ったときに言ってはいけない事がある。

 前世世界の単位で言うところの【25.0cm】が閾値だ。【24.5cm】をギリギリで履いている女性に対して【男物のほうが選べるんじゃないか】というのは絶対に言ってはいけない。

 俺は前世にて、それで妹を激怒させ、後に妻を激怒させた。

 性懲りもなく二人も怒らせているのが【ダメ発言癖】だ。

 だが、今のジェット嬢についてはこの問題は発生しない。


「……ゴメン。当たり前よね……」

 脚の無いジェット嬢はくつを履けない。

 【二連装ジェット☆バズーカ】用のノズル部品はくつと呼んでいたが、歩くためのものではない。あれは【蹴る】ためのものだ。

 歩けないジェット嬢は地上を移動するときは俺の背中に張り付く。今でもそうだし、【新婚旅行】の時もそうだった。

 だから、ジェット嬢の足跡はどこにもない。

 

「できるなら、どんな成分が植物を枯らしているのか調べたいな。そういうことができる組織や人物に心当たりは無いか」

「そういうことが得意な人に心当たりがあるわ。次にキャスリンが来た時に頼んでみましょう。近いうちに来るって言ってたし」

「キャスリンの知り合いか。キャスリンは何気に頼もしいな」

「……アンタも知ってる人よ」


 誰だろう。オリバーかな。

 農夫だし、いろんな作物の栽培に詳しいってフォードも言ってたし。


 グリーンに頼んで、草が枯れた部分の土と俺のくつをバケツに入れて隔離した。

 次にキャスリンが来た時に、分析サンプルとしてコレを渡して原因を確認してもらおう。


◇◇◇


 俺が【草を枯らせる魔王】にされかけた三日後の午後。ジェット嬢を背負って【魔王城】周辺を散歩していたら、南の空から【双発葉巻号】が飛来したのが見えた。


「到着したみたいね。私は部屋に居るから車いすのところまでお願い」

「了解だ」


 足早に【魔王城】に帰る俺達。今日は有害物等に詳しい専門家の方を招いているのだ。誰だかよく分からないが【魔王城】メンバーが全員知っている人物らしい。


 遊びに来たキャスリンに土やくつを分析試料として引き渡したのが昨日。【試作2号機】では運べなかったので、【双発葉巻号】に搭載して首都に運んでもらった。

 分析試料引き渡しついでに専門家も連れてくるということで、【双発葉巻号】は昨日から首都で待機。

 そして、今帰ってきたところだ。


…………


 車いすに乗せたジェット嬢は【魔王城】居住区画の居室に戻った。その専門家とは顔見知りらしいが、今会うのは避けたいらしい。


 【魔王城】のエントランスにあるテーブル席で、俺と【辛辣しんらつ長】の二人で待っていると、入口ドアの通用口からブルーが入ってきた。


「臨死ブルー、【双発葉巻号】にて乗客二名を連れて帰ってまいりました!」

 シャキーン


 臨死ブルーがシャキーンと挨拶する後ろには、キャスリン。そしてその後ろには、入口ドアの通用口から顔だけ出して城内を見ている大柄な男がいる。


「ご苦労だったなブルー。次の出発に備えて休憩していてくれ」

「了解であります」

 シャキーン


 【辛辣しんらつ長】の指示に従い、【魔王城】の居住区画に帰っていくブルー。買い物袋を持っている。【魔王城】メンバーに頼まれた買い出しがあったようだ。それを届けに行くのかな。


「ソド公、【魔王妃】様は居ないから大丈夫だぞ」

「そうか。久しぶりだな。オットー」

「元気そうで何よりだ。あと、ここでは【辛辣しんらつ長】と呼んでくれ」


 【辛辣しんらつ長】が声をかけると、半分隠れていた大柄な男がエントランスに入ってきた。作業着姿でサングラスを付けて帽子を被った大柄な男。


 【元・国王】だ。


 キャスリンと【元・国王】もテーブルに着席。アンが人数分のコーヒーと、クッキーの大皿を出してくれた。【魔王城】の一升瓶メイドは仕事が速い。


「もしかして、有害物等の専門家って……」

「私だ。もう国王は退位したからソド公とでも呼んでくれ。本業で活躍できる機会ができてうれしいよ」

「本業って。確かに首都で密会した時に、変装用にしては作業服が似合いすぎているとは思っていたけど……」

「ソド公はユグドラシル王国の環境工学の権威だ。国王の時もそっちが本業と度々主張していた。その度に止めてはいたのだが、退位した今なら堂々と本業で仕事をしてもらえる」

「困った国王だと薄々思っていたけど、本当に困った国王だったんだな」

「ああ、油断すると、王宮を留守にして環境化学研究所の方にフラッと行ってしまう。本当に困った国王だった……」

 【辛辣しんらつ長】が遠い目をしている。側近として【宰相】をしていた頃から苦労していたんだな。


「機内では【魔王妃】様に会うのをずっと怖がっていましたが、会わずに済んでよかったですわね」

「……そうだな……」

 キャスリンのとげのある指摘。それにちょっと怯えるソド公。


「ずっと気になっていたけど、この国のやたら厳しい環境規制もソド公が絡んでいるのか?」

「そうだ。自然環境の破壊は取り返しのつかない事態につながるからな。国内から反対意見は多かったが、国王として仕事している間はそこにはこだわっていた」

「確かに、エスタンシア帝国の状況を見るとその判断は正解だったな」

「エスタンシア帝国の現状の情報提供については礼を言わねばならんな。イェーガ王は各地領主の要望を受けて環境規制の緩和を検討していたようだが、キャスリンからの情報を聞いて考え直したそうだ」

「そうか。国の役に立てたのならなによりだ。でも、そもそもそこにこだわった理由は何なんだ。過去にユグドラシル王国でも【公害】事件があったのか?」


「いや、私が子供の頃に見た【予知夢】のようなものに従って続けてきた。各方面からの反対意見は強かったが、その苦労が今まさに報われたところだ」

 ソド公が感慨深そうに語る。

 【公害】の前例もないのに環境規制を続けるとか、相当な抵抗はあっただろうが、それでも続けることができたのはやっぱり【国王】として優秀だったということだろうか。

 エスタンシア帝国の惨状を見て、その努力が報われたということか。


「ちなみに、どんな【予知夢】だったんだ?」

「【鉱毒】で村を滅ぼされた住民の代表としてその国の【王】に【直訴】して逮捕される夢だった。夢とは思えないほど真に迫ったもので、農作物の全滅や奇病の多発など、環境汚染の恐ろしさを子供心に感じたものだ」

 微妙に【電波】が絡んでいるような気がするな。


「後に学んだ技術でそれが実際にあり得ることと知ってから、環境破壊を伴わない経済成長に人生を捧げると心に決めたのだ」

 まぁ、その【予知夢】のおかげで国自体が救われたんだからいいのかな。

 そこから、環境保護一方ではなく経済成長も同時に考えていたあたり、優秀な【国王】ではあったんだな。


 その後、エスタンシア帝国の地図を見ながら、ソド公とエスタンシア川流域の惨状の原因について相談。ソド公曰く、上流側の惨状は【鉱毒】が原因と考えられるが、下流平野部の異常事態の原因は別とのこと。

 俺の靴と草が枯れた土だけでは分析するには試料が足りないので、現地での追加での試料収集を依頼された。現地の土、水、そして可能なら、耕作放棄地で放棄された作物。

 ついでに、俺からは前世世界の分析化学の技術を覚えている範囲で伝えた。光を使った分析手法にソド公は特に興味を示した。持ち帰って応用できないか検討するとのことだった。


「環境化学研究所にて、試料回収用の機材を準備する。すまないが、準備が出来次第また現地に飛んでほしい」

「了解だ。飛行訓練も兼ねて行ってくる」

「原因が判明して我が国の技術で対処法も確立出来たら、エスタンシア帝国の国民の役にも立つだろう。外交交渉の助けになればイェーガのやつも喜ぶはずだ」

「そして問題を解決したあかつきには、金属資源の宝庫【北部の鉱山地帯】はイタダキですわ。あの規模の鉱山があれば、ユグドラシル王国はあと十年は戦えますの」


「「「…………」」」


 懲りずに【立場的にマジで危ない問題発言】をしてしまったキャスリン王妃は、ソド公と【辛辣しんらつ長】に連行されて【双発葉巻号】に拘束。

 そして、ソド公とキャスリン、ブルー、イエローの四人を乗せて【双発葉巻号】は離陸。一旦サロンフランクフルトでキャスリンを降ろしたのち、首都に着陸する予定だ。


 【双発葉巻号】に試料採取用の容器や機材を搭載するため、【機長】のブルーと機材係として同行したイエローは首都に残って【バー・ワリャーグ】にしばらく宿泊。

 ブルーは最近本当に忙しい。


…………


 レッドとブルーとイエローが不在でちょっと寂しい【魔王城】の夕食時。俺の隣で渋い顔をしたジェット嬢がつぶやく。


「キャスリンも懲りないわね」

「また【あの悲鳴】が聞こえるか」

「前回よりも痛そうな悲鳴が聞こえるわ」

「【外患誘致】は重罪だからな」


 エスタンシア帝国北部からの分析試料採取。

 準備期間は二~四日程度。準備出来次第再び俺達は北に飛ぶ。

 エスタンシア帝国北部の悲惨な現状の原因を確認するために。


 この世界の【魔王】は、【環境問題】を見過ごせない。

●次号予告(笑)●


 北部平野の原因不明の不作。北部山岳地帯で発生した謎の奇病。長年農民を苦しめ続けたその自然災害の救済策として、エスタンシア帝国は現地の農民達にヴァルハラ平野への優先移住権を与えた。

 【魔物】が居たことで耕作ができなかった肥沃で広大な土地。長年続いた不作により困窮していた農民達は新天地への移住を喜んで受け入れた。

 希望に満ち溢れた開拓者達は、長年不作に苦しんだ中で開発した新技術を持ち込み開拓を進める。今年の作付けを目指して。

 工業優先の政策が続き長年冷遇されていた農民達は、食料自給率の回復という【国策】を歓迎した。自分達の仕事が国に認められる時が来たと喜んだ。農業と工業の技術者が一致団結して国難に立ち向かう。国の未来は明るい。


 それで済む話であった。


 原因不明の不作と謎の奇病の原因が、本当に【自然災害】であったなら。


次号:クレイジーエンジニアと不都合な真実

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