20-1 無敵の要塞ジェット☆フォートレス 初陣(2.4k)
40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから二年と六十八日目。【滅殺破壊天罰】で世界が震撼してから百七十八日目。初回の【国際会議】から百五十八日後。俺が【輝く魂の力】に目覚めてから六十八日後の午後。
【魔王城】の【謁見の間】にて、両国の【終戦協定締結式典】を開催している。
事実上の休戦から一年半。
両国間の緊急の問題を片づけることを優先したので正式な終戦協定の締結を後回しにしていたが、一通り問題が片付いたのでそこもケリをつけようということで開催の運びとなった。
ジェット嬢の座る【玉座】の正面に長テーブルを置いて、そこでイェーガ王とアレクサ首相が【終戦協定】の書面にサインをする。
そして、それを【謁見の間】に整列した両国の重鎮や護衛の兵士が見守る形。
両国の新聞記者や、ユグドラシル王国の各地領主や、エスタンシア帝国の政財界の長も来賓として招待されており、【魔王城】営業開始以来の大人数だ。
体育館風の【魔王城】で来賓を招いて卒業式をしているような感じか。
【戦争】から【卒業】のようなニュアンスで。
ちなみに、【魔王城】前の【入口広場】には立食パーティが準備されている。
式典が終わったら両国の参加者同士で交流会の予定。
皆それが楽しみで来ているようにも見える。
ジェット嬢は三十七日前にテーブルの椅子から転げ落ちて頭を打った。
脚が無いので椅子から落ちると危ないのは分かってはいたが、実際に落ちたことで想定を超える危険性が露呈したので、あれ以来テーブル席の使用は禁止して【謁見の間】の【玉座】を定位置としている。
この【玉座】は床に固定されているので倒れる心配は無い。
イエローにより座面をジェット嬢用に改造しており、シートベルトも付いているし、リクライニングもあるという。
かなりの【魔改造】をしたようだ。
よくわからないが、多少は位置調整もできるらしく、【玉座】の真後ろの床にはゼブラゾーンが描かれている。
可動域なのでそこに入るなということらしい。
ジェット嬢もこの【玉座】が気に入ったようで、食事の時はそこにテーブルを持ってきて皆で集まり、くつろぐときはそこに座敷とちゃぶ台を持ってくるというように、ジェット嬢の座る【玉座】に合わせて室内の配置を変えて【魔王城】メンバーが動き回るというのが日常になっている。
車いすでは【謁見の間】に繋がる幅広の階段を昇れないので、ここにジェット嬢を運ぶのは俺の仕事。食事の時以外の俺の定位置は【玉座】の左後ろ。
いつぞやの執事的ポジションに帰ってきた形だ。
この世界の【魔王】は【玉座】の斜め後ろが定位置だ。
【滅札】発行とリバーサイドシティ復旧により両国の経済交流は円滑化し、先月行われた麦畑の収穫では、ユグドラシル王国、エスタンシア帝国両国で豊作だった。
エスタンシア帝国製鉄道車両の車体に魔力電池と電動機を搭載したユグドラシル王国仕様の鉄道車両がヴァルハラ鉄道で導入されたり、【西方運搬機械株式会社】製の例のトラクターの車体に内燃機関を搭載したエスタンシア帝国仕様の農業用トラクターが実用化されたり、【浄化槽】がエスタンシア帝国に大量に輸出されたりと、技術面での棲み分けをしながらも両国間の貿易は拡大している。
今日は、不在がちだった【臨死グレー】も含めて【臨死戦隊★ゴエイジャー】は全員集合だ。
【臨死グレー】はエスタンシア帝国側の来賓の【護衛】として久しぶりに【魔王城】に帰ってきた。
そして、【臨死戦隊★ゴエイジャー】の【臨死ブラック】の司会進行で式典は進む。戦没者に対する黙祷に始まり、イェーガ王とアレクサ首相の無難な演説を終え、式典はついに最終段階に。
会場正面の【玉座】の斜め後ろで、仕立ててもらった【魔王】っぽい服を着てずっと立ってる俺。
注目を浴びすぎて気分的にちょっと疲れてきたので、コーヒー飲みたいとか思いながら進行を見守る。
「では両国代表で、【終戦協定】にサインをお願いします」
イエローが予め用意してあった【終戦協定】の書面を二部、両国代表の間のテーブルに置く。
両者がそれぞれにサインを入れれば協定は成立だ。
『私は許してないわ』
今まで【玉座】に座って黙って見ていたジェット嬢が、突然よく通る声でよくわからないことを言いだした。
全員がぎょっとしてジェット嬢を見る。
「どうしたジェット嬢。確かに今更感があるが、【終戦】はしておいた方がいいだろう」
『私は、【終戦】なんて認めない』
【玉座】の上でスカートをたくし上げて、魔力推進脚のノズルを出すジェット嬢。なんか嫌な予感がした次の瞬間。
ドカーン
久々にジェット嬢の両脚の【二連装ジェット砲】が炸裂。
正面にあったテーブルがバラバラになり、【謁見の間】に居たイェーガ王とアレクサ首相含む数十人の参加者が吹っ飛ばされて、エントランスに降り注いだ。
プシュー ガコン
発射の瞬間後退した【玉座】がゆっくりと元の位置に戻る。
その【玉座】は【駐退復座機】だったんだな。
とっさに射界の外側に退避していたイエローが満足そうに見ている。
よく見たら、【謁見の間】に居たゴエイジャー六人は全員【玉座】よりも後ろ側に退避していた。
さすがに【魔王城】勤務が長いととっさに危機回避ができるんだな。
「もうちょっとバネが硬くても良かったわね」
ジェット嬢が当たり前のように使用の感想。
【駐退復座機】付きの【玉座】に座ることで、自分が反動で飛ばされることなく最大威力での連射砲撃が可能となった【二連装ジェット砲】。
無敵の要塞【ジェット☆フォートレス】だ。
ジェット嬢よ。オマエにとって椅子って一体何だ?




