19-3 女神降臨と夫の義務(1.9k)
【試作2号機】が落ちた崖を居室の穴から見下ろすキャスリン。
頭からの出血は止まらない。
むしろ増えているようにも見える。
「私の大切な【試作2号機】が壊れてしまいましたわ」
「ご、ごめんキャスリン。【試作2号機】壊れちゃったけど、あの、老朽化進んでたって言うし、代替機の開発も進んでたって言うし……」
「あの日、私の長年の夢を叶えてくれた【試作2号機】……。機体寿命が近いことは分かってましたの。だからこそ、少しでも長く乗りたいと大事にしていたのに……。割高になる運用費用捻出のために、王宮の資金繰りも頑張っていたのに…………」
「そうだ! 資金難が問題なら、【魔王城】の予算から新型機を手配するっていうのはどう? 弁償とか、そんな意味合いで」
ジェット嬢! それを今言うのは地雷だ! 分かるだろ!
立って崖下を見下ろすキャスリンの表情は読めない。
だが、拳を固く握りしめて、見覚えのあるオーラを出している。
あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。
【すぐ裏の家に住んでいる義両親が日頃から合鍵でいきなり上がり込んで冷蔵庫覗いたり、いつのまにか夕食に紛れていたりとちょっと過干渉なところがあり困っていたが、住宅資金を援助してもらった関係で私も夫も頭が上がらず、まぁ我慢する日常を送っていたところ、義両親の家からとんでもない悲鳴が聞こえたから心配になり勝手口から踏み込んだら、泥棒と間違えられて水をかけられた上に勝手に入るなと怒られて、今私はキレていい、今なら何をしても夫に説明できる、もうぶちかましたると思った時】
のオーラだ。
キャスリンは居室に残る【試作2号機】の機首部分の残骸の中から薄紫色に光るA4サイズぐらいの金属板を拾い上げて大切そうに抱きしめた。
よく分からないが、質感が金属シリコンに似ているから魔力電池の部品だろう。
そして、デタラメコーディネイトのバンダナとサングラスとマスクを外してウェストポーチに仕舞い、【内面に激情を隠した凄惨な笑顔】でジェット嬢を見る。
「【試作2号機】を撃墜しても、代替機を手配すればマッチポンプはチャラになるのでしょうか」
「ごめんなさい! マッチポンプがチャラにならないのは痛いほど理解しています! 不適切な行動でした! 不適切な発言でした! ごめんなさい! ごめんなさい!」
ジェット嬢が【巣箱】の上で腕と首をジタジタと動かしながら謝っている。
腰から下は今は本当に動かないようだ。
キャスリンが【女神の如き神々しいオーラ】を出した。
デタラメコーディネィトの黒いワンピースが白銀に輝き、その後ろには後光が見える。
何かとんでもないものが【降臨】したようだ。
『【魔王】様、私にはできない仕事があります。役割を果たす時ですよ』キラキラキラ
強烈なオーラと後光を放つ【キャスリン@女神降臨】は、居室にあった椅子に着座し、自らの膝の上を示しながら俺に声をかけてきた。
威圧感とかそんなもんじゃない。
もっと恐ろしい物の片鱗を見た気がする。
「ごめんなさい! ごめんなさい! それだけは! それだけは!」ズリズリズリ
ジェット嬢は腕だけの動きで【巣箱】の上を奥の方に逃げる。
『分かりますね。この世界の【品質】と【品格】と【道徳】を統括する【魔王】様が、今何をすべきか、分かりますね』キラキラキラキラキラ
もう眩しくて直視できないぐらいの強烈なオーラ。
何者も圧倒する威厳とか威風とかそんなものを超越した絶対的な何かを感じる。
分かる。
言いたいことは分かる。
俺は葛藤する。
【妻】を守るのは【夫】の役割。
だが、この場合は、この場合は……。
『身内を裁くことすらできなくて務まる【王】はありますでしょうか? 【国王】はその役割を立派に果たしましたよ。【魔王】様にはできませんか?』キラキラキラキラキラ
俺は、覚悟を決めた。
【巣箱】の上で逃げ回るジェット嬢を捕まえて、【キャスリン@女神降臨】の膝の上にうつ伏せで乗せた。
スパァァァーーーーーーーーン
『ギニャァァァァァァァァァ!』
白銀に輝く掌が空に光の軌跡を残し振り下ろされる。
響きの良い打撃音と共に掌からお尻に射ち込まれた波動が全身を駆け巡り、断末魔の悲鳴と共に体表部全体から周囲に放出される。
俺にも分かる。
コレは
【胎内に射ち込まれた激痛の大群が生命の核に到達しそこから放たれる復活の波動が数多の御霊を呼び寄せて未来永劫の始祖を象り永遠に立てなくなるぐらいの女神の裁き】
だ。
【尻叩き】によるお仕置きがここまで異次元になるとは。
恐るべし剣と魔法のファンタステック世界。
やりすぎ感を感じなくも無いが、さっきのはどう考えてもジェット嬢が悪い。
【妻】の過ちを正すのも【夫】の義務だ。




