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18-4 食物連鎖の頂点と環境意識(2.1)

 二日半の昏倒から覚めた後。

 鬼気迫るジェット嬢に押されて、俺は着替えてハーネスを着用し、ジェット嬢を背中に張り付けて散歩に出発。床に転がるマリアさんは申し訳ないけど放置。


 ジェット嬢のリクエストで城の北側のヴァルハラ川にやってきた。


「ジェット嬢よ。前回の【国際会議】までは発言を控えていたと思うが、俺が寝ている間に随分派手に動かしたようじゃないか。何かあったのか?」

「うーん。【食物連鎖の頂点】である以上、【食の安全】を統括するのは私の仕事と考えてもいいかなと思ったのよ」

「そうか。確かに【食物連鎖の頂点】ではあるから、そういう部分で強権を発動するのはアリかもしれんな」


 【食の安全】


 俺の前世世界でも問題になった案件だ。

 品種改良や農薬の開発で農作物の製造コストを下げることができれば莫大な収益を継続的に得ることができる。だから、そうやって作った安価な作物を広く流通させたいという思惑が発生する。

 だが、作っているのは食品だ。


 そうやって作った作物を本当に食べて大丈夫か、長期間食べ続けても大丈夫かという懸念はある。

 本来なら長期間かけて研究するべきなのだろうが、やっぱり早く収益につなげたいという思惑もあり、安全性に懸念を示すような結果を【隠蔽いんぺい】して迅速に作物を広く流通させ、いざ問題が起きてしまったら【薬害】や【公害】と同じパターンで問題を【隠蔽いんぺい】してしまう場合もあった。


 俺の前世世界では、国際的な大きな利権が絡む案件故に【報道しない自由】が強力に発動して一般には知られていない事だったが、そういう問題は確かに存在した。

 この世界で同じ問題を発生させないためなら、ジェット嬢の【恐怖支配】を発動させてもいいだろう。世界中の人の健康のためにも。


「あの魚が食べられるらしいのよ」


 ヴァルハラ川の清流を泳ぐ魚を指してジェット嬢が言う。


「よく見ると大きいのがたくさん居るな」


 イワナのような魚が清流のあちこちに居る。警戒心が無いのか俺達が川辺に来ても逃げる様子は無い。


「コレで獲れるかな」


 ジェット嬢が俺の背中で脚を動かしながら提案。

 【二連装ジェット砲】で魚を獲るのか。なんか水浸しになりそうな気がするが。


「【くつ】を履いてきたのよ」


 【二連装ジェット☆バズーカ】の方か。

 確かにアレのほうが反動が少ないから足場が不安定な川辺で使うならそっちの方がいい。


「やってみるか。獲れたらメアリに頼んで調理してもらおう」

「そうね。楽しみだわ」


 俺が川に背中を向けてジェット嬢が【二連装ジェット☆バズーカ】で魚を狙う。コレはジェット嬢の大腿切断になった両脚を砲身としているので下側のほうが撃ちやすい。

 脚を砲身にしているがどういうわけか命中精度が非常に高いので期待できるかもしれん。


「撃ち方用意!」

「ヨーソロー」


 背後より【二連装ジェット☆バズーカ】の発射音と水音。


「獲れたわ」 ビチビチビチ


 【滅殺☆ジェット漁】成功。

 獲物を手で掴んで横に出してきた。イワナのような魚。30cmぐらいある大物だ。


「いきなり大物が獲れたな。調理場に持って帰ってメアリに相談しよう。保存が効かないから、今日中に食べきる必要があるだろう」


 こっちの世界では冷蔵庫とか冷凍庫とか無いから魚を解体したら全部食べてしまうしかない。干物を作るという手もあるが、準備無しでいきなりできるものでもない。


「……」 ビチビチビチビチ


「ジェット嬢?」


「…………」 ビチビチビチ


 ビチビチ ガリッ ゴキッ バキ ガッ ガッ ゴリッ ガッ

 ボリボリ ガッ ガッ ガッ


「……ジェット嬢?」

「……ゴメン。我慢できなかった」


「食べたのか。生で食べても大丈夫なのか?」

「図鑑では、生でも食べられるって書いてあったわ」


「安全ならいいけど、その食べ方は人前でしない方がいいぞ。俺と居る時だけにするんだぞ」

「そうするわ。これが【背徳のたのしみ】ね」


 俺の前世世界では淡水魚は【寄生虫】がいる場合が多かったので生食は難しかったが、この世界は違うのだろうか。

 まぁ、【回復魔法】もあるし何かあっても何とかなるだろう。


 ヴァルハラ川周辺は綺麗な場所だ。

 【魔王城】が近かったせいで長年人が入っておらず、汚染の原因となる物が全くなかった。

 そんな場所で獲れた新鮮な魚をその場で食べるというのはかなりの贅沢には違いない。

 俺は真似できないが。


 人間は【食物連鎖の頂点】などと言われることがある。

 人間だけでなく動物全般に言えることだが、他者の命を奪って捕食しなければ生きていくことはできない。

 技術が進歩しても文明が発展してもそれは変わらない。

 だけど、食品加工技術や流通技術の進歩でその本質が見えなくなっていたように思う。

 食卓に並ぶ加工された食品がどんな場所でどのように生きた命だったのか、それを意識することを忘れていたような気がする。

 今一度、俺達が生きるために口にする命がどのような場所で生きたものだったのかを思い出してみたい。

 それができれば、山や川や海を汚すことがどれほど危険なことか自然と分かるはずだ。

 【食物連鎖の頂点】である以上、自分たちが汚した物は全部自分の口に返って来る。

 これを意識して生活することが本当の意味での【環境意識】なのかもしれない。

 ジェット嬢のワイルドな【食】を通じて、そう思った。

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