18-3 寝てる間に全部片付いていた件(2.7k)
第三回目の国際会議が物別れに終わった二日後の夜。
就寝時刻になり【巣箱】に降りるジェット嬢を見送った後で、寝床に転がりながら窓から外を見ていた。
満月らしく、夜だけどいつもより多少明るい。
脚が無いため普通の部屋では生活がし辛いジェット嬢の寝室は、高さ1000mmぐらいの木箱を連結した構造物の中。
無断で中を覗いたら【滅殺】される【滅殺☆ジェット箱】であるが、出入口が上にある構造がハムスターの巣箱に似ているので勝手に【巣箱】と呼んでいる。
その【巣箱】の上が俺の寝床になっておりジェット嬢の出入口は俺の枕元。
この【巣箱】はある種の二段ベッドでもあるのだ。
国際会議が終わった後、ジェット嬢はなんとか雨を降らせることができないかと俺の背中に張り付いて西側台地で水魔法の実験をした。
台地全体に水を撒くことはできたが、雨というぐらいの規模にはならず、水魔法で雨に匹敵するぐらいの水を生成するのは無理という結論になった。
安全性不明な【豊作3号】の使用は阻止したいが、今回の問題は雨不足と害虫だからジョンケミカル社に頼んで【豊作3号】の流通を止めても解決にはならない。
そんなことをしたら水不足で発育不良の麦が害虫にやられて不作になってしまう。
大雨でも降れば害虫も流れるとかオリバーが言っていたので雨さえ降れば解決と単純な問題でもあるのだが、その単純な問題の解決が難しい。
そんなことを考えていたからか、変な胸騒ぎがするからか、普段寝つきの良い俺がいつもなら寝ている時間でも目がさえていた。
夜眠れないと不安になる人も居るようだが俺はそんなこと気にしない。
眠れずに徹夜でも一日ぐらいならどうってことはない。
ぼーっと天井を見ていると何か視線を感じた。
その方向を見ると、ジェット嬢が【巣箱】の出入口から顔を半分出して俺を見ていた。
【獲物を見る目】で俺の様子を伺っている。
「ジェット嬢よ。俺を喰いたいのか?」
あの会議以来【食】の事ばかり考えていたのでつい軽口が出る。
曲解されて【セクハラ発言】に該当と判断されたら制裁を加えられそうな気もしたが、ジェット嬢の反応はそうではなさそうだ。
目に怪しい光を宿して俺を見る。
「俺を喰うのはかまわんが、後で困らないようにするんだぞ」
なんとなく軽口を追加する。
【巣箱】の入口からジェット嬢の手が伸びてきて俺の肩を掴む。
そして、【波動】生成のホワイトノイズが脳に響き意識が遠くなる。
ザァァァァァァァァァァァァァァ
あちゃー。【セクハラ発言】扱いされたか。
次、目覚めるのはいつだろうな。
まぁ、ジェット嬢のことだ。後で困らないようにはするだろう。
観念して俺は寝た。
◇◇◇
激しい空腹感で目が覚めたら【魔王城】の医務室の手術台の上だった。
【結婚式】でジェット嬢に【黒焦げ】にされた後で目覚めたあの台だ。
「お目覚めですか【魔王】様」
部屋に居たのはグリーンではなく黒目黒髪でズボン姿の女性。
サロンフランクフルトで排水処理設備を作った時にアンダーソン領から来ていた女性技術者の方だ。
何故ここに居るんだろう。
「私、マリアと申します。先日臨時職員として【魔王城】に採用されました」
「そ、そうか。ちなみに俺は何日寝ていたんだ。すごい空腹なんだが」
「二日半ですね。今は朝です。とりあえず水分と軽食をどうぞ」
マリアさんは水と保存食をくれた。二日半も寝ていると空腹もそうだが脱水が心配なのでこの対応はとてもありがたい。
二日半で朝ということは、今は俺が寝た日の三日後の朝ということか。
手術台の上に座って水と軽食を頂いたら、何となく上半身の動きが軽いことに気付いた。
まるで【部品交換】された機械のような。
ジェット嬢が【波動】の生成ついでに整備でもしてくれたのだろうか。
「この二日間の動きについて報告したいのですがよろしいでしょうか」
俺が食べ終わったのを見計らって近くに居たマリアさんが声をかけてきた。
よく見ると尻尾が付いている。そして、その尻尾がグネグネと動いている。
プランテ達の作ったアレか。だが、そこは突っ込むまい。【萌えの自由】だ。
それよりも、【魔王】としてその動きとやらを確認しておこう。
「何か動きがあったのか。報告頼む」
「ユグドラシル王国の環境化学研究所がターシ財団にまとめて買い上げられて、国内に分散していた研究機関と合わせて再編成されました」
「なんだと。ずいぶん大きく動いたな。エスタンシア帝国側には連絡したのか?」
「【魔王妃】様が昨日【国際会議】を緊急招集しまして、そこで先方には連絡しました。特に異論は無さそうでしたし、逆にあちらの国の基礎研究部門も買い取らないかと提案がありました」
「それで、ジェット嬢はどうしたんだ?」
「まとめて買い上げてリバーサイドシティに技術交流拠点を作る構想を立ち上げました。全世界の【食】の安全を守るため、両国統一の環境規制と、【食】の製造流通ルールを作るそうです」
「環境規制の話までしたのか。それは【国際会議】で荒れそうな議題だけど議論はちゃんと進んだのか?」
「【魔王妃】様が会議の場で【食の安全を脅かす奴は滅殺する】と豪語したので、議論はスムーズに進みました」
「やっちゃったのか【恐怖支配】。でもまぁ、この辺の話はそうでもしないとまとまらないからいいのかな。そういえば、【豊作3号】の件はどうなったんだ。雨が降らないと殺虫剤を使うしかなくなると思うが」
「【魔王】様が寝た夜に世界中で大雨が降りまして。害虫は流されたようです。世界中の水不足も解消とのことです」
「そうなのか。それは何よりだ」
俺が寝ている間に問題は全部片付いたということか。まぁ、楽でいいな。
それにしてもマリアさんは何か秘書っぽいな。
そういう仕事をしていたのかな。
「再編成された【ターシ環境化学研究所】の所長はソド公。その研究所内の【食品安全研究室】の室長はオリバーです。そして、アンダーソン卿も領主と兼務で【生物化学研究室】の室長に任命されました。三人とも【大フィーバー状態】で新しい仕事を始めました」
うーん。適材適所かな。
「ちなみに、アンとメイが立てなくなってしまったので、私とメアリが代役を務めています。ここはなかなかいいお城ですね ゴブッ!」
「起きたのね! 散歩行きましょ! 散歩!」
車いすで医務室に突進してきたジェット嬢がマリアさんを跳ね飛ばしてお散歩のおねだり。
跳ね飛ばす必要は無かったんじゃないかな。
「着替えも持ってきたわ!」
着替えとハーネスをグイグイと俺に押し付けるジェット嬢。その下の床で転がるマリアさん。
車いすの車輪に尻尾を踏まれた時に、ビクンと身体が跳ねた。
感覚あるのか? その尻尾。




