18-2 炎上する第三回国際会議(2.5k)
雨乞いの話で盛り上がった日の午後。
エスタンシア帝国側の参加者も到着し、第三回目の【国際会議】を開催。
しかし、前回とは異なり【千両箱】会議室で議論が紛糾。
意外にも今回はソド公が頑張っている。
「基礎研究と実用研究は分けるべきではない。相互に連携して進めるためにも同一組織内でまとめておくべきだ」
「実用研究は商用化を目指して行うためのものだ。市場の要求への適用力を高めるため、要素技術研究よりも経営判断に近い側に置いた方がいい」
研究者気質のソド公と、エスタンシア帝国の経済担当大臣が激論を交わす。そしてオリバーが議事録をがんばる。
俺は、前世世界の研究部門の事を思い出していた。
【研究】全般に言えることだけど、それに成果が出るか、それが収益につながるかというのは博打なところがある。
結果が見えないから【研究】するわけであって、全部見通しを立てて行うならそれは【開発】であって【研究】ではない。
そして【基礎研究】というのは成果が出るまで長期間かかるし、成果が出ても直接はお金にならない。だから短絡的に見ると【基礎研究】はコストカットして、収益につながりそうな技術の研究に資金を集中したくなるのはよくわかる。
でも、【基礎研究】の成果の積み重ねがその後の【開発】の礎になるので、短期的な視点でカットしてしまうと後で大変なことになる。
一度カットして散逸してしまった人員やノウハウは二度と戻らない。
また、政策としてそういうことをすると、基礎研究が【事業仕分け】されてしまう国の現実を目の当たりにした若者は【研究者】を志望しなくなる。
志望者が居なくなり、世代交代が止まり、国に蓄積された技術の種が死んでしまうのだ。
この影響は大きい。
「王宮の資金難を考えますと、環境化学研究所に今まで通りの予算を割り振ることは難しい事情もありますの。部分的にでも研究資金を提供していただける組織に売却したいというのもありまして」
「環境化学研究所を分割するのか。いままでの研究成果や優秀な研究者をバラバラにしてしまうのか。あとで困ったことになるぞ」
キャスリンとソド公もそれぞれの思惑があるようだ。
いや、でも、【国際会議】なんだから、ここ来る前に国内の意見は統一しておこうよ。イェーガ王は何をしているんだ。
「エスタンシア帝国側の基礎研究の蓄積も素晴らしいものがあるとヘンリー卿から聞いています。両国共同で相互の得意分野の研究成果を活用できるように、リバーサイドシティに技術交流ができる拠点を設立したく考えております。資金源については、国内各地領主の意見を聞いたうえで、お互いの国で適切な形で負担できるよう検討していきますので、長期的な視野で相互の協力関係を継続していきましょう」
イェーガ王イイ感じにまとめたー!
「【豊作2号】分解生成物の植物毒性や【北の希望】の慢性毒性など、基礎研究能力の不足が招いた惨事を未然に防止できるように、環境化学研究所の基礎研究部門は一体化して存続させる必要があるのだ。そもそも、【豊作2号】が本当に食べても安全な物かどうかも研究されておらんのだろう」
ソド公ぶちこわしたー!
エスタンシア帝国側の三人が明らかに機嫌損ねたー!
これは【炎上】の予感!
「休憩! ちょっと分かれて、休憩はさみましょう!」
俺は【魔王】としてクールダウンを提案。
【千両箱】会議室からユグドラシル王国側メンバーを追い出してエントランスのテーブル席に案内。
アンとメイに多めのコーヒーとお菓子を用意してもらって、しばらく【千両箱】会議室をエスタンシア帝国メンバー占有の部屋に。
エントランスのテーブル席でイェーガ王が頭をかかえて見覚えのあるオーラを出している。
あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。
【大手ゼネコンが施工管理する大型新築物件で設備を初めて直接受注して、いろいろあったけど一期工事分の納品を済ませたから、営業担当者としてそのお礼と合わせてゼネコンの主査に設計部署の部長を紹介しようと連れて行ったら、こちらの立ち位置や話していい内容とか事前打ち合わせしておいたにも関わらず、その部長が短納期な上に特注要素や仕様変更が多くて大変だったとか、仕様確定プロセスに問題があるんじゃないかとか受注案件についての不満をぶちまけだして、主査から見切りを付けられたような笑みを向けられた時】
のオーラだ。
ちゃんと根回しはしてたのね。
それをアドリブでぶち壊す人が居たのね。
本当に苦労が絶えないな。
【王】なだけに。
そんなイェーガ王を【辛辣長】が【弟子を見る師匠の目】で見ている。
【脇が甘いぞ】と激励のメッセージを送っているようにも見える。
会議で口出ししなかったけど、今はそういう立ち位置なのね。
キャスリン王妃はソド公に【×印マスク】を渡している。
この二人ある意味似た者同士だけど、今日は王妃様のほうが空気読んでるのね。
「ジェット嬢よ。ずっと黙って聞いていたようだが、なにか考えはあるのか?」
「うーん。議論が進むんだったら私が口出ししない方がいいかなって思った」
そうだな。ジェット嬢が何か言うとそれに決まるからな。発言力が大きすぎるというのもやりにくいものなのかもしれん。
…………
その後、再開した会議はやっぱり紛糾した。
しかもちょっとズレた方向で。
エスタンシア帝国側のヴァルハラ平野にて、気温が高く雨が降らかなったことにより害虫被害が発生しつつあるという。
そこで新型殺虫剤の【豊作3号】を試す予定との話が出たら、ソド公とオリバーが猛反対。
食べても大丈夫か、植物毒性が残留しないかという話になり会議は荒れた。
オリバーが殺虫剤使用で栽培した麦をユグドラシル王国に入れないような規制をイェーガ王に求めたら、国産作物をけなされたとアレクサ首相が激怒。
そこでまたソド公がいらんことを言って乱闘になりかけたところで、キャスリン王妃がソド公とオリバーを布でぐるぐる巻きにして鞭でシバいて、イェーガ王が先方にひたすら謝る形でなんとか収束。
俺とジェット嬢と【辛辣長】は生暖かい目でそれを見守りつつ、エスタンシア帝国のメンバーにはちゃんと謝った。
こうして第三回目の国際会議は何も決まらず終わり、次回日程を決めて解散となった。
こちらの世界でも【国際会議】で【食】の話は荒れるようだ。




