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第19話 クレイジーエンジニアと輝く魂(16.2k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから二年と一日目。久しぶりに【魔王城】でジェット嬢と二人きりで過ごした翌日の昼。

 重い疲労感と共に目覚めた時に、すぐ隣で添い寝していたジェット嬢が放った一言で俺は魂の危機を迎えていた。


「初体験だったわ」


 足腰立たないぐらいの疲労感と共に目覚めた俺のすぐ隣に、やたらつやつやした顔で転がって、【初体験だったわ】だと?


 一体ナニをした!?

 ありえねぇ。


 俺は前世で既婚で子持ちの40代のオッサンだった。【経験】が無いわけじゃない。

 だが、自発的な交際歴は皆無で、普通よりちょっと遅めにお見合い結婚して、婚歴アリの妻が最初で最後。

 子供をすぐに授かり、その後は育児に明け暮れた俺の【経験値】は【滅殺案件@俺様】だ。


 そんな俺に対して、寝てる間にナニをした?

 いや、分かる。

 ナニをしたのかはもう分かる。

 そもそも寝てる間に出来る物なのかは分からんが。



 隣で転がるジェット嬢の顔に慈愛に満ちた笑顔が浮かぶ。


 本能的に危険を感じて思考が超高速化し、周囲の動きがスローモーションになる。

 今の俺なら飛来ひらいする銃弾じゅうだんすら視認できる。


 【った】のか。

 俺は【われた】のか。

 コイツが【う】と言ったら、実際に俺の骨や肉をったりすると思っていたが、なんでここだけ【正しい男のい方】が出てくるんだ。

 い方としては正しいが、表現が間違ってるぞ。


 俺が黒焦げになる【結婚式】をやった時以来、こういう展開はひそかに懸案事項だったが、コイツがそういうことはしないだろうと俺は安心していた。

 だが、いきなりその安心をぶち壊してくれた。

 裏切りだ。これは裏切りだ。



 隣で転がるジェット嬢は慈愛に満ちた笑顔で俺を見ている。


 いや待て。

 【結婚式】をやった後にコレを裏切りと言ってしまったらそれは俺の方が間違っている。

 コイツが【結婚】の意味を何処どこまで理解しているか、どういう風に理解しているかは分からないが、一般常識的に考えて、【結婚】後に【う】のはそんなに間違ってない。

 しかも、寝る前にジェット嬢が【獲物を見る目】で俺を見た時に、俺は【うのはいいけど】と答えたじゃないか。

 ここでジェット嬢の行動を否定してしまったなら、裏切りは俺の方だ。

 【結婚】しながらも、【実はむすめみたいなものと思ってました】とか今このタイミングで口に出したら、【機銃掃射】や【黒焦げ】じゃ済まない。


 かじられる。

 あの【地獄ヘル激痛牙デスペインファング】でしこたまかじられる。

 【歯並び】も人間離れしてそうだけど、あの【痛み】は多分【闇魔法】か何かだろ。

 この流れでドコをかじられるかなんて考えたくもない。


 なまじ【回復魔法】で治療ができる分、最大限の激痛と共に情け容赦なく執拗しつように、それこそ、【本体ほんたい】にかろうじて繋がった状態で【原型げんけい】が無くなるぐらいまでじっくりと咀嚼そしゃくされるに違いない。

 恐ろしい。

 【失言】の報復はいつも過酷だ。



 隣で転がるジェット嬢の顔に、何かを伝えようという意思が浮かぶ。


 同時に、俺の脳裏に【失言】の意味が浮かび、【たましいの危機】を感じる。


 【こころ】は【言葉ことば】により作られ【言葉ことば】により動く物。

 【たましい】とは、【言葉ことば】により流れる【こころ】の循環であり、連なる【言葉ことば】の力により遷移せんいする状態のたばそのもの。

 【たましい】と【こころ】は【言葉ことば】によりかたどられ、【言葉ことば】により滅びる。


 今この瞬間、俺の【こころ】と【たましい】を滅ぼす【言葉ことば】がある。

 その【言葉ことば】が隣で転がるジェット嬢の口から出てしまったら、人生経験豊富で自らの【死】すらも乗り越えた40代オッサンである俺のこの【たましい】は間違いなく滅びる。

 そんな【言葉ことば】が存在する。


【物足りない】


 実年齢【むすめ】相当の女に【初体験だったわ】とあっさり【われ】て足腰立たなくされた後で、その【言葉ことば】を浴びせられてしまったら、前世でも現世でも【男】として生きた俺の【たましい】は滅びる。



 隣で転がるジェット嬢の口が開こうとするのが見える。


 ナニを言うつもりだ。

 俺を滅ぼす【言葉】か。

 やめてくれ。それだけは。

 立てなくなる。再起不能だ。【不能ふのう】だ。

 オマエを背負うこともできなってしまう。


 俺は【失言】の意味を理解していなかった。

 【失言】は、単に相手の機嫌を損ねる不適切で無思慮な発言に過ぎないと思っていた。

 その本当の危険性を全く理解できていなかった。

 【失言】の危険性を分かったつもりで居ながらも、それを言われたぐらいで落ち込んだりへこんだりする方がなんかもろいと心のどこかで思っていた。


 【太った】と言われたぐらいで泣き崩れて寝込む前世の妻を、ちょっとオカシイと思っていた。

 【太い】と言われたぐらいで【摂食障害】に陥る年頃の女子を、心のどこかで小馬鹿にしていた。

 【でかい】と言われたぐらいで逆上するジェット嬢を、単純で短気だと思っていた。


 だが今なら分かる。

 【失言】はそんな次元の【言葉ことば】じゃない。

 あれは【たましいを滅ぼす言葉ことば】だ。

 【言葉ことば】によりかたどられた【こころ】と【たましい】を内側から破壊する【禁断の言葉ことば】だ。


 今まで俺がそれを知らずに生きて来られたのは、俺が強かったというわけじゃない。

 【たましいの危機】に瀕する機会が無かっただけだ。

 単に運がよかった。恵まれていただけだ。



 隣で転がるジェット嬢の口がさらに開く。


 断罪だんざいか。

 かつて、前世の妻やジェット嬢に【失言】を浴びせて【たましい】を深く傷つけてしまった俺が、【失言】に反省しつつも、その本当の意味に今まで考えがいたらなかった俺の【たましい】が断罪だんざいされる時が来たのか。

 俺の【たましい】を滅ぼす一言を浴びる時が来てしまったのか。

 いや、コイツの場合に限り、もっとひどい【言葉ことば】が出る可能性もある。


【物足りなかったから強化改造しますた】


 やりかねんのだ。コイツは。

 出会った直後に俺の顔をしこたま殴って人相変えたし、【結婚式】で俺を黒焦げにした時に、俺の治療のついでに自分の足腰を【強化改造】しただろう。

 抱き上げた時に大腿部の筋肉が増えていたし、あれ以来【カッコ悪い飛び方】の安定性が増していたから間違いない。

 【物足りない】と思ったら他人であれ自分であれ躊躇ちゅうちょなく【強化改造】するんだコイツは。

 滅びる。

 今そんな【言葉ことば】を浴びせられたら、俺の【たましい】は滅びる。

 改造されるのは別段かまわない。

 そもそも今の身体も元は俺のじゃない。

 だが、そんな事実は関係ない。

 浴びせられる言葉が問題だ。


 【こころ】と【たましい】は【言葉ことば】で滅びる。


 時間的には一瞬だったが、思考の超高速化が限界を迎える。

 【たましいの危機】を迎えたとしても、人間の集中力はそんなに長くは続かない。

 永遠ともとれる一瞬が終わり、俺は断罪の時を迎える。



「アンタは本当に【高性能】ねぇ」


 なんだと。

 どういうことだ。俺は寝ていたが、寝ている間にも俺はがんばったのか。

 ナニをドウ頑張ったのか分からないが、ジェット嬢が【高性能】というぐらいに、【高性能】は【高性能】を発揮したのか。


「私は、満たされたわ」


 成し遂げた。


 俺は、前世でも、現世でも【男】として生きた俺は、女を満たすという【男の命】の本来の役割を成し遂げた。


 苦労の多かった人生。

 その中で磨いた俺の【たましい】に、ジェット嬢から受けた言葉が【愛】を灯した。


 俺の【たましい】が輝く。

 長年俺をしばっていた【失言の呪い】が解けたのを感じる。

 これが、俺が前世より求め続けていた【かがやたましいの力】。


 俺は、死と転生を経て、ついに【男】として到達できる頂点に到達した。

 疲労感と倦怠感に支配されていた身体に力がみなぎる。


 今なら、俺は、【成層圏】まで到達できる。

 

「アンタが【高性能】すぎて動けなくなっちゃったから、筆記用具を取って頂戴」

「了解だ」


 居室にある机から、仰向けでも筆記が出来るように画板と紙とペンと色鉛筆などを一通り集めてジェット嬢の枕元に置いた。

 足腰立たなくなっていたのはジェット嬢の方らしい。

 脚が無いから立てないのはいつものことだが、今は座ることもできないようだ。


 俺が寝ている間にナニが起きたのか。

 それはもう気にしないことにした。


…………


 仰向けで【巣箱】の上に転がったまま、ジェット嬢は画板を使って何かをいろいろ書いている。俺はこの世界の文字を読み書きできないので何を書いているかは分からない。

 途中から文字ではなく絵を描きだしたようだが、俺にあんまり見られたくないらしく、描いたものからシーツの下に隠している。


 俺は【巣箱】の上に座りながら、そんなジェット嬢を見下ろす。

 【魔王城】には俺とジェット嬢しかいないから、動けなくなっているジェット嬢のそばから俺が離れるわけにはいかない。


 患者着の下に例のハーネスは着けていないようで、仰向けで転がるジェット嬢のシルエットがいつもと違う。

 オリバーいわく【それなり】だそうだが、仰向けで【ある】と見えるのは【かなり】だ。


 まぁ、それはいい。

 今は【セクハラ】が国際的に禁止されている。


 居室にある東向きの大窓から東の空を眺める。

 時間は昼間。予定では、首都の【魔王討伐二周年記念祝賀会】に参加していた【魔王城】メンバーがもうすぐ帰ってくるはずだ。

 

 南東側の空に飛行機が見えた。帰ってきたかな。

 いや、【双発葉巻号】にしては小さい。


『一方通信 【魔王妃】様! 無事ですか!』


 キャスリンの【一方通信】が聞こえた。

 ということは、あの飛行機は【試作2号機】か。

 なんか緊迫感のある声でジェット嬢に呼びかけているようだが。


『一方通信 昨晩【魔王妃】様の【悲鳴】が広範囲に聞こえました。無事ですか!』


 悲鳴? ジェット嬢一体何をしたんだ。

 いや、ナニをしたかは分かっているが、広範囲に聞こえる悲鳴って……。


 そう思ってジェット嬢を見ると、顔を真っ赤にして大口おおぐちを開けた驚愕の表情。

 今まで見たことが無かった【歯並び】が見えた。


 猫みたいで可愛いじゃないか。その上下の【きば】。

 口閉じた時にどうやって納まってるんだ?

 噛み合わせとか大丈夫なのか?


『イヤァァァァァァァァァ!』

 ドガガガガガガガガガガガガガン

  ドガガガガガガガガン


 絶叫したジェット嬢がペンの束を掴み、窓に向かって小口径の【魔導砲】を【弾幕射撃】。

 窓周辺の壁が吹っ飛んで、【魔王城】東側から接近する【試作2号機】目掛けて無数の光弾が飛んでいく。


「やめろジェット嬢! 【試作2号機】に当たったらどうする!」

「あっ! しまった!」


『ニャギャァァァァァァァァァァ!』


 今度はキャスリンの悲鳴。

 おそるおそる窓の外を見ると、【試作2号機】が火を噴きながらフラフラと高度を落としている。


 幾つか命中してしまったか。

 どうする。いや、どうすることもできんか。


「ジェット嬢! このままではキャスリンが危ない。なんとかできないか?」

「えっ? えーと、どうすれば、でもキャスリンなら……」


 ジェット嬢が珍しく動揺している。

 確かにキャスリンは一度墜落しても死ななかったけど、今回もそれで済むとは限らん。だが、手段が無い。


『やってくれましたね【魔王妃】様!』


 キャスリンの【一方通信】が聞こえる。

 幸いキャスリンの身体には当たらなかったということか。

 炎上する操縦席で必死で不時着しようと頑張っているのか。

 滑走路は近いからなんとか無事に降りてほしい。


 そう思って【試作2号機】を見守っていると、火を噴きながら降下する【試作2号機】の機首がこちらを向いた。


『私も王族の女ですわ。無駄死にはしません!』


 キャスリンの【一方通信】で、なんか前世で聞き覚えのあるセリフ。

 なんか、コレは、ヤバイ【電波】の予感。


 そして、炎上する【試作2号機】の木造布張りの機体が、空中分解しながら俺達の居る居室の窓目掛けて突っ込んでくる。


『ユグドラシル王国に 栄光あれぇぇぇー!』


「「ごめんなさーい!」」


 ヤバイ【電波】をまとって突っ込んでくるキャスリンの乗機。

 必死で謝る俺達。


…………


 居室の壁に突き刺さった【試作2号機】。

 衝突時に操縦席から投げ出されたデタラメコーディネィトのキャスリンが頭から血を流しながらボロボロになった愛機を見ている。


 大破した機首部分。

 そこにあった電動機や【魔力電池】の部品が居室内に散らばる。

 トリコロールカラーで塗装されていた木造布張りの機体は黒焦げになっており、木製の骨格はあちこちが折れて大きく歪んでいる。

 

 外に風が吹いた。

 【試作2号機】の骨だけになった主翼がきしむ。

 そして。


 ギギギギギ バキバキバキ 

 

 機首、主翼、操縦室それぞれを繋いでいた連結金具を境に黒焦げになった木製骨格が崩壊し、【試作2号機】はバラバラになって居室の壁から崖下へと落ちていった。


 【試作2号機】

 ウィルバーが作り出したこの世界最初の飛行機のうちの一機。

 垂直離着陸が可能という特性を活かし、国内各地に滑走路が整備されるまでの間、国内全域の高速な情報伝達及び移動を支え続けた名機。

 その特異な構造故に同等の性能を持つ代替期の開発が遅れ、兄弟機である【試作1号機】が既に退役してユグドラシル王国首都の博物館で静態展示となった後も、機体の老朽化を補修で対処し続けることで現役で活躍を続けていた。

 そしてついに、【乗員の命を守る】という最後の役割を果たし、唯一の操縦者であった主への別れを告げて崖下へと消えた。


 【試作2号機】が落ちた崖を居室の穴から見下ろすキャスリン。

 頭からの出血は止まらない。

 むしろ増えているようにも見える。


「私の大切な【試作2号機】が壊れてしまいましたわ」


「ご、ごめんキャスリン。【試作2号機】壊れちゃったけど、あの、老朽化進んでたって言うし、代替機の開発も進んでたって言うし……」


「あの日、私の長年の夢を叶えてくれた【試作2号機】……。機体寿命が近いことは分かってましたの。だからこそ、少しでも長く乗りたいと大事にしていたのに……。割高になる運用費用捻出のために、王宮の資金繰りも頑張っていたのに…………」


「そうだ! 資金難が問題なら、【魔王城】の予算から新型機を手配するっていうのはどう? 弁償とか、そんな意味合いで」

 ジェット嬢! それを今言うのは地雷だ! 分かるだろ!


 立って崖下を見下ろすキャスリンの表情は読めない。

 だが、拳を固く握りしめて、見覚えのあるオーラを出している。


 あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。

【すぐ裏の家に住んでいる義両親が日頃から合鍵でいきなり上がり込んで冷蔵庫覗いたり、いつのまにか夕食に紛れていたりとちょっと過干渉なところがあり困っていたが、住宅資金を援助してもらった関係で私も夫も頭が上がらず、まぁ我慢する日常を送っていたところ、義両親の家からとんでもない悲鳴が聞こえたから心配になり勝手口から踏み込んだら、泥棒と間違えられて水をかけられた上に勝手に入るなと怒られて、今私はキレていい、今なら何をしても夫に説明できる、もうぶちかましたると思った時】

のオーラだ。


 キャスリンは居室に残る【試作2号機】の機首部分の残骸の中から薄紫色に光るA4サイズぐらいの金属板を拾い上げて大切そうに抱きしめた。


 よく分からないが、質感が金属シリコンに似ているから魔力電池の部品だろう。

 そして、デタラメコーディネイトのバンダナとサングラスとマスクを外してウェストポーチに仕舞い、【内面に激情げきじょうを隠した凄惨せいさんな笑顔】でジェット嬢を見る。


「【試作2号機】を撃墜しても、代替機を手配すればマッチポンプはチャラになるのでしょうか」

「ごめんなさい! マッチポンプがチャラにならないのは痛いほど理解しています! 不適切な行動でした! 不適切な発言でした! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 ジェット嬢が【巣箱】の上で腕と首をジタジタと動かしながら謝っている。

 腰から下は今は本当に動かないようだ。


 キャスリンが【女神の如き神々しいオーラ】を出した。

 デタラメコーディネィトの黒いワンピースが白銀に輝き、その後ろには後光ごこうが見える。

 何かとんでもないものが【降臨】したようだ。


『【魔王】様、私にはできない仕事があります。役割を果たす時ですよ』キラキラキラ


 強烈なオーラと後光ごこうを放つ【キャスリン@女神降臨】は、居室にあった椅子に着座し、自らの膝の上を示しながら俺に声をかけてきた。

 威圧感とかそんなもんじゃない。

 もっと恐ろしい物の片鱗へんりんを見た気がする。


「ごめんなさい! ごめんなさい! それだけは! それだけは!」ズリズリズリ


 ジェット嬢は腕だけの動きで【巣箱】の上を奥の方に逃げる。


『分かりますね。この世界の【品質】と【品格】と【道徳】を統括する【魔王】様が、今何をすべきか、分かりますね』キラキラキラキラキラ


 もうまぶしくて直視できないぐらいの強烈なオーラ。

 何者も圧倒する威厳いげんとか威風いふうとかそんなものを超越ちょうえつした絶対的な何かを感じる。


 分かる。

 言いたいことは分かる。

 俺は葛藤かっとうする。

 【妻】を守るのは【夫】の役割。

 だが、この場合は、この場合は……。


『身内を裁くことすらできなくて務まる【王】はありますでしょうか? 【国王】はその役割を立派に果たしましたよ。【魔王】様にはできませんか?』キラキラキラキラキラ


 俺は、覚悟を決めた。


 【巣箱】の上で逃げ回るジェット嬢を捕まえて、【キャスリン@女神降臨】の膝の上にうつ伏せで乗せた。


 スパァァァーーーーーーーーン

『ギニャァァァァァァァァァ!』


 白銀にかがやてのひらくうに光の軌跡きせきを残し振り下ろされる。

 響きの良い打撃音と共にてのひらからお尻に射ち込まれた波動が全身を駆け巡り、断末魔の悲鳴と共に体表部全体から周囲に放出される。


 俺にも分かる。

 コレは

胎内たいないに射ち込まれた激痛げきつう大群たいぐん生命いのちかくに到達しそこから放たれる復活ふっかつの波動が数多あまた御霊みたまを呼び寄せて未来永劫みらいえいごう始祖しそかだど永遠えいえんに立てなくなるぐらいの女神めがみさばき】

だ。


 【尻叩き】によるお仕置きがここまで異次元になるとは。

 恐るべし剣と魔法のファンタステック世界。


 やりすぎ感を感じなくも無いが、さっきのはどう考えてもジェット嬢が悪い。

 【妻】の過ちを正すのも【夫】の義務だ。


…………


 【中身】を直接叩くのか、【キャスリン@女神降臨】がジェット嬢の患者着をぎ取ろうとしたので、俺は席を外すことにした。


『ギニャァァァァァァァァァ!』


 【試作2号機】を壊しただけでなく、有人機の撃墜という殺人未遂なことをしたんだから罪は軽くは無いだろう。

 いやむしろ、キャスリンでなければ死んでただろうアレは。

 大概タフだなあの御方も。


『ギニャァァァァァァァァァァ!』


 外の空気が吸いたくなったので【魔王城】を出て、西側台地まで来てみた。

 外に出てもジェット嬢のよく通る声で悲鳴が聞こえる。

 なんとなくだが、西側台地のあちこちから何かが居るような気配を感じる。

 一つではない、多数だ。


『ギニャァァァァァァァァァァァ!』


 形が見えないが、何かを感じる。

 なんとなく分かる。

 【たましい】だ。おそらく死者の。

 かつてここに住んでいたであろう人間の【たましい】だ。俺の前世世界で言うところの【地縛霊じばくれい】のようなものだ。

 人が住めそうな場所だと思っていたが、やはりかつて人が住んでいた場所だったか。

 【魔王】と【魔物】に滅ぼされた村とかだろうか。


『ギニャァァァァァァァァァァァァ!』


 なんかこう、よくわからないが、今の俺なら、この【たましい】に話しかけたり連れ出したりもできそうな気がする。

 俺自身が【たましいの危機】を乗り越えたことで、他者の、死者の【たましい】に干渉する能力を手に入れたということか。

 これが【かがやたましいの力】の正体か。


『ギニャァァァァァァァァァァァァァ!』


 女とは、その身で身体と命を育む者。

 男とは、命の種を運び、身体に魂を載せる者。


 そう考えると、【たましいに干渉する力】が、男の持ち得る力の頂点である【かがやたましいの力】の正体であっても不自然ではないか。


『ギニャァァァァァァァァァァァァァァ!』


 だが、死者の【たましい】への干渉はルール違反だ。

 俺自身が【絶対的な別れ】を冒涜ぼうとくしている存在なのだから、この世界の秩序維持のためにもこれ以上のルール違反をすべきではないだろう。

 見なかったことにしよう。

 それを理解してか、俺に気付いたであろう【たましい】の方々もこちらには寄ってこない。


『ギニャァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 それでいいんだ。

 如何いかなる理由があろうとも、死者と生者は交わってはいけない。

 それが全世界共通のルールだ。


『ギニャァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 もうそろそろいいんじゃないかな。

 ジェット嬢も反省していると思うよ。


…………


 ジェット嬢の悲鳴が止んだ頃に、【双発葉巻号】で【魔王城】メンバーが帰還した。

 あの悲鳴が聞こえていたのか、速やかに後片付けが行われた。


 居室から車輪付きストレッチャーに載せられたキャスリンがグリーンにより運び出されていった。

 キャスリンは【やり遂げた表情】を浮かべていた。


 居室から厨房廃棄物運搬用台車に載せられた【遺体収納袋】がアンとメイにより運び出されていった。

 袋の中からすすり泣く声が聞こえた。中身はジェット嬢だ。

 ちょっと扱いがひどくないかな。


 レッドとイエローにより居室に開いた大穴の応急修理。

 ブルーとブラックは崖側に落ちた【試作2号機】の残骸の片付けに行った。

 可能な限り回収して復元静態展示用として博物館に送るとか。


 重症だったキャスリンはグリーンの【回復魔法】による治療で完治。

 グリーンは度重なる【医者修行いしゃしゅぎょう】で腕を上げたらしい。


 その夜、ジェット嬢とキャスリンは女同士で話がしたいということで、二人で医務室に宿泊した。

 パジャマパーティというアレか。


 女の友情は命懸けなんだな。


◆◆◆


 俺が【かがやたましいの力】に目覚めて、【試作2号機】が退役し、ジェット嬢とキャスリンがパジャマパーティをした日から三十日後。グリーンが再び【医者修行】に出かけてから五日後。

 レッドは首都に出張。ブルーとイエローとブラックは【魔王城】周辺でそれぞれの仕事をしている通常進行な日の午前中。


 あの日以来、ジェット嬢はエントランスのテーブル席でいろいろ絵を描くのが日課になっている。

 どんな絵なのかは見られたくないらしく、俺はちょっと離れたところにある座敷からそれを見守っている。


 そんな微妙な距離感でくつろいでいると、入口から二人来客。


「臨死グリーン、若干予定を繰り上げて【医者修行いしゃしゅぎょう】から帰ってまいりました」

シャキーン

「お久しぶりです。お邪魔します」


 来たのは臨死グリーンとルクランシェだった。

 ルクランシェはここに来るのは初めてだったはず。


 グリーンは【医者修行いしゃしゅぎょう】という名目でよく【魔王城】から出かけている。

 【回復魔法】の使い手が少なくて、しかも、王宮に集中しているので、地方都市では治療を受けるのが難しい状況という。

 それを少しでも緩和かんわするために、【医者修行いしゃしゅぎょう】としてあちこちの病院を巡回しているらしい。


 飛行機に乗ると酔うから専ら陸路での巡回とか。

 今回は一週間の予定で出かけていたが、ちょっと早めに帰ってきたようだ。


 座敷にて、久々に会うルクランシェと雑談。


「ルクランシェ、久しぶりだな。元気にしていたか」

「お久しぶりです。いろいろありましたが、おかげさまで元気です」

「研究室の【潜水艦状態】は解消したか。あのままだと火災になった時に危ないぞ」

「【品質保証部】の査察でカイゼンされました。おかげで研究もはかどっています」

「そうか。それは良かった」


「あっ! グリーン! 帰りは二日後の予定じゃなかったか?」

 【魔王城】居住区画のドアから出てきたブラックがグリーンを見つけて叫ぶ。

 普段わりと冷静なブラックがここまで慌てるのも珍しい。


「ブラックか。【魔王】様にルクランシェ主任開発の新技術を見てもらおうと思って、ちょっと予定を繰り上げたんだ」

「そっ、そうか。後で、その新技術とかを私にも教えてくれ」


 それだけ言ってブラックは慌てて【魔王城】居住区画に戻っていったが、何があったんだろう。

 グリーンが早く帰ってきて都合が悪いことでもあるのだろうか。

 それはそれとして、新技術と聞くと俺も気になる。


「ルクランシェよ。今度はどんな新技術を開発したんだ? 危ない物じゃないよな」

「大丈夫ですよ。今回はフロギストン波動応用技術の一環として、人間の精神に干渉して潜在能力を最大限引き出す技術の開発を行いました」

「全然大丈夫じゃない! それはどう考えても【危ない技術】だ! なんでそんなものを作ろうとするんだ!」

「そこはそれ。【クレイジーエンジニア】のロマンです」


「それは分からなくもないけど、越えちゃいけない一線があるだろ。【品質保証部】の承認は取れたのか? 今は企画時点での審査があるからそういう【危ない技術】の開発に予算は下りないはずだが」


「絶対承認下りないので自腹で細々研究してきました。でも監査で見つかりそうになったので、有給休暇取って研究成果を全部こっちに隠そうとグリーン先生に連れてきてもらいました」

「ダメなパターンだ! やっちゃダメなパターンだ!」


「この技術の延長線上には、意思を持って自分で動く機械の開発があります。あの【勝利終戦号】のようなものを再現したいんです。将来絶対に必要になる技術です」

「技術としての有効性は分かるが危険なことに変わりはない。安全性が担保できない状態で進めていい研究じゃないぞ。ちゃんと社内で相談して、必要な手順を踏んで進めるべきだ。面倒だと思うかもしれんが、それが一番の近道だ」


 俺は頭を抱える。

 興味を持ったテーマを追求したい気持ちも分かるし、多少なら自腹で自由研究というのもアリだろう。

 前世の俺もそうやって持ちネタを増やしていた時期はあった。


 でも、このテーマは明らかに危険だ。

 しかし、研究に熱意を燃やす若者を無下に止めるのも心苦しいし、既に平然とルール違反をしでかしているこの【クレイジーエンジニア】が止めて止まるとも思えない。


 【品質】と【品格】と【道徳】を統括する【魔王】としてどうしたものか。


 ふと、【謁見の間】へ上る階段を見ると、ほうきを持ったマリアさんが【尻尾】を揺らしながら降りてきた。

 ズボン姿で【尻尾】付きというちょっと変わったマリアさんは【魔王城】の非常勤職員で、神出鬼没ながらも居る時はアンやメイの手伝いをしてくれている。

 今日は普段使っていない【謁見の間】の掃除をしていたようだ。

 

「「あっ!」」

 マリアさんとグリーンがお互いを見つけて叫ぶ。


「あー! 遅かったか!」

 【魔王城】居住区画のドアから飛び出してきたブラックが叫ぶ。


 ゆらりとマリアさんに向きなおったグリーンが大きな【ハリセン】を両手で構える。

 【ハリセン】って両手で持つものか?


「【怪獣女】の生き残りめ。国内何処を探しても居ないと思ったら、ここに居たか。ここで会ったが百年目。成敗してくれる」

「百年も経ってませんよ。二百十二日です。それに成敗される理由はありません。【怪獣女】なんて失礼です」


「【闇魔法】のアイテム強化、人体の【強化改造】などという人道に外れた行い。その存在を許容するわけにはいかん。【医師道いしどう】の名の下に我が【ハリセン】のみとなれ!」

「あれは頼まれたからやっただけです。趣向とはマッチしていましたが、明らかに失敗だったので他の人には試してません。それだけで存在を否定するなんてひどいです。それに【ハリセン】にみができるぐらい叩く気ですか。そっちほうが非人道的です」


「理屈は無用! 成敗!」 ゴォッ

「そうはいきません!」 ダッ


 ブン スカッ ヒョイ ブン ガン スルリ ヒョイ ブン スカッ ドガッ ヒョイ サッ パリーン ゴン


「ルクランシェよ。グリーンの様子が明らかにおかしいが、まさかその新技術を既に使ったんじゃなかろうな」

「使いましたよ。このアイテムを装着して波動を送り込むことで、冷静な思考力を失うのと引き換えに肉体能力を二割増しできます」


 そう言ってルクランシェが出してきたのは【お守り】。

 俺の前世世界で神社とかで普通に売ってたアレの形をした何か。


「ずいぶん罰当たりな形に作ったものだな。効果が二割増しって中途半端な割に失う物多すぎだろ。どうするんだアレ」


 ものすごい勢いでエントランスと【謁見の間】を行ったり来たりしながら、ほうきと【ハリセン】でチャンバラする二人。


 どちらも動きが常人離れしている。

 グリーンは【お守り】の効果なのかもしれんが、マリアさんは何なんだろう。

 【尻尾】の効果かな。


 ズダダダダダダダ ガキーン シュパーン ガン ゴン


「変わった趣向しゅこうを持って生きていたっていいじゃないですか!」 ガキーン


「異端の排除は人間の本能だ。貴様が成敗されるのは、歴史の必然だ!」 シュパーン


「異端者と共存できる社会こそが健全とは思いませんか!」 ブン


「それは理想論に過ぎん。理想と現実は違う!」 グワッ


「それを理想と理解しているなら、理想を否定することから始めるのは間違っています!」 ヒュン


「だから、敵となるのだ貴様と私は!」 ゴォッ


 ドドドドドドド キン ガン ゴン


 いや、本当にどうするんだよアレ。

 【魔王城】で【魔王】放置して熱いバトルですか。

 なんでほうきと【ハリセン】のチャンバラで真剣の打ち合いみたいな音が鳴るんだよ。

 魔法がらみか? 気のせいか?


 騒ぎに気付いたのか、イエローとブルーも出てきて呆然ぼうぜんと見てる。

 ブラックはすごく焦っており、気が気でない様子だ。

 グリーンが心配なのだろうか。


「【暴走】を止めるために、別の所を【暴走】させる。これも技術の進歩に必要な過程なのでしょうか」

「いや、そんな過程は必要無いからな。ルクランシェよ。他人事みたいに言ってるけど、お前のせいなんだぞ」

「でも、あの強化アイテムはグリーン先生に頼まれたんですよ。【怪獣女】を成敗するために強くなりたいと」

「頼まれたからって、【技術者】は危険なものを作ったらいかん。今回の件は【品質保証部】に通報するからな。【カイゼン室】でよく考えろ」

「そっ、そんな!」


 暴れ回る二人のせいでカオスになっている【魔王城】内だが、ジェット嬢は気にせずにテーブル席で絵を描いている。

 夢中なのか? 少しは気にしてもいいように思うが。


 ダダダダダダ ガン ゴン キン 


「成敗! メディカルハリセンブレード!」 グワッ

「あっ!」 ベチーン


 グリーンの放った謎の一閃で、マリアさんが吹っ飛んだ。

 そして、その吹っ飛んだ先はエントランスのテーブル席。


 ズザァァァァ ガターン ゴチン


 ジェット嬢の椅子にマリアさんが命中して、ジェット嬢が頭から床に落ちた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」×6


 なんてことを!

 大爆発か、溶岩か、世界の終わりか!?


「…………」×6


 シーン


「ジェット嬢?」


 落ちたまま動かないジェット嬢に近寄り、恐る恐る確認すると、頭から出血して意識を失っていた。

 マリアさんも出血は無さそうだが、目を回しているようで動かない。


「救護班!」


「「「「アイアイサー」」」」シャキーン


 グリーンが【ハリセン】を捨ててジェット嬢に駆け寄り、ブラックはマリアさんに駆け寄り、イエローとブルーはストレッチャーを取りに【魔王城】居住区画に走る。


「グリーンよ。何は無くとも、先ずその【お守り】を外せ」

「申し訳ありません【魔王】様」


 暴走中だったグリーンは正気を取り戻したようだ。


…………


脳震盪のうしんとうですね」


 ジェット嬢とマリアさんをそれぞれストレッチャーに載せて医務室に搬送。

 正気に戻ったグリーンの診察。


 ジェット嬢はすぐに意識を取り戻したが、ちょっとぼーっとしている。


 そりゃそうだ。

 頭ぶつけたら誰だって普通に危ない。


 当の本人は落ちた原因とかよりも、ぶつけた側頭部の出血が気になるようだ。

 しきりに頭を触っている。


「グリーン。この裂傷【回復魔法】ですぐ治せるかしら。できれば髪を剃りたくないのよ」

「治せますよ。患部を掃除してから治療にかかります」


 機材を準備するグリーン。

 ジェット嬢を心配そうに見守るブルーとイエロー。

 頭の傷を縫うなら髪をらなといけないけど、【回復魔法】なららずに治せるのか。便利だな。


「それにしても、【魔王妃】様は意外と頭が弱かったんですね」

 ザシュ ズバ ベキ グシャ

  ドカーン ベシーン

   シュゴォォォォォォ


「「「「「イエローがイエローなのに真っ黒に!」」」」」

 瞬間魔法リンチがイエローに炸裂。

 あっという間にズタボロ黒焦げになった。


「ジェット嬢! 今のは頭が悪いとかそういう意味じゃなくて、頭部が弱点だったとか、それが意外だったとかそういう意味だからな。表現は不適切だったけど、バカにされたわけじゃないからな!」


「あ……。ゴメン。なんかぼーっとしている時に直球ですごいひどいこと言われたと思って、とっさに焼いちゃった……」


 らしくないぞ。そんなに寝起き悪かったのかジェット嬢。

 いや、頭ぶつけた直後だからか。


「あの、【魔王妃】様。言いにくいのですが、ここまでされると私では治療ができないかと……」


 グリーンがさじを投げたイエローは、死んでないのが不思議なぐらいのひどい状態。

 両腕両脚がぐにゃぐにゃになっており、背中から肋骨がはみ出して、全身が炭化するぐらいの黒焦げ。

 口元からヒューヒューと音が出てることより、かろうじて生きていることが分かる。


 もしかして、ヨセフタウンでの【お仕置き】は毎回こんな感じだったのか。

 再犯率がゼロになるわけだ。


「あー、私治すわ。ついでに自分の傷も」

「じゃぁ、俺がイエローの横で腹ばいになればいいか」

「それでお願い」

「今回は起こさなくてもいいからな。明日までここで寝ててもいいだろう」

「そういうわけにはいかないわ。アンタが居ないと私は動けないのよ」


 俺がズタボロ黒焦げイエローの傍で腹ばいになり、ブラックとブルーによりその上にジェット嬢が置かれる。

 俺が【尻に敷かれる】形の【回復魔法】だ。


 これをすると俺は【回復魔法】の【波動酔い】で意識を失うので、その度にジェット嬢の【地獄ヘル激痛牙デスペインファング】で起こされる。

 それが、つらい。


ザァァァァァァァァァァァァァァ


…………


「……起きたぞ! かじらなくてくていいぞ!」

 首筋に当たる吐息で目を覚ました。


「あ、起きたの。今回は早かったわね」

 助かった。今回は【地獄ヘル激痛牙デスペインファング】でかじられるのを回避できた。

 ジェット嬢が俺の背中で動く気配、背面背負いおんぶ紐的ハーネスの金具を繋いでいるようだ。

「金具繋いだわ。起きていいわよ」

「了解だ」


 起き上がると、俺が意識を失ってからそれほど時間が経っていないようで、手術台に患者着を着たイエロー。医務室には、ブルー、ブラック、グリーン、ルクランシェ。そして、ストレッチャー上にはマリアさん。


 まぁ、イエローは見た目きれいに治っているから、明日には目を覚ますんだろう。

 マリアさんもスヤスヤと寝息を立てているので、こっちもそのうち起きるだろう。


「一時はどうなることかと思いましたが、何とかなって何よりです」

 一仕事終えた雰囲気でグリーンがまとめる。


 だが、まだだ。まだ終わらんよ。


 発端と経緯を確認して、しかるべき処置を行い再発を防ぐ必要がある。

 所謂いわゆる、【歯止め】というやつだ。


…………


「ごめんなさい! ごめんなさい! 深く反省しております! 【医師道精神いしどうせいしん】に誓って、二度とこのような暴挙は致しません! 許してください! 暗い! 怖い! 落ちる! 深い! 深いです!」


 昼食後、ルクランシェとグリーンの取り調べを行い、グリーンはぐるぐる巻きにして【魔王城】裏の井戸の中に逆さ宙吊りの刑。

 ルクランシェはブルー操縦の【双発葉巻号】にて、サロンフランクフルトの【品質保証部】に連行。

 暴れた共犯のマリアさんについては、アンとメイに【適切な処置】を依頼した。


 この世界の【魔王】は、厳しいときは厳しい。


「【魔王】様! なんかこの井戸変です。魔法的になんか変です! うまく言えないけど、何かありますよ! 【魔王】様ー!」


「魚が食べたいわ」

「じゃぁヴァルハラ川行くか」


「【魔王】様ー!」

●次号予告(笑)●


 【戦争】していたことを忘れたかのように、事実上の経済交流を開始していた二国。完全に後追いの形となるが、終戦協定と講和条約の締結へと重い腰を上げる。


 【魔王城】で開催された【終戦協定締結式典】。式典後の立食パーティがメインというぐらいの形式的なセレモニー。その円滑な進行をだれも疑わなかった。


 しかし、時代の流れに翻弄され、望まぬ【覚醒】と【解放】を遂げてしまった女はその流れに異論を唱える。


『私は許してないわ』


『アンタ達は【戦争】をしなさい』


 世界に響く女の声は【恫喝どうかつ】か、それとも【懇願こんがん】か。


 二国間の戦争の行方はどっちだ。


次号:クレイジーエンジニアと戦争の行方

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