14-5 統合整備計画と品質保証部(3.2k)
裏山で命懸けの紳士道徳を誓い合った俺とオリバー。
下山してオリバーを別れた後、飛行場でジェット嬢を【着陸】させて背中に載せる。
普段通りのジェット嬢にちょっと恐怖を感じつつも、食堂棟にてジェット嬢を車いすに降ろしてメアリと一緒に昼食を頂いた。メアリは久々にジェット嬢に会えて嬉しそうだった。
【門出】しても娘が心配。親心だなぁ。
次の目的地は【西方航空機株式会社】だ。【ジェット☆ブースター】の部品を【魔王城】に持ち帰るための相談だ。
…………
いつもの背中合わせスタイルで【西方航空機株式会社】の設計室にお邪魔してウェーバと話をする俺達。そこでウェーバから興味深い技術情報を聞いた。
「【統合整備計画】とな」
「そうなんだ。飛行機は電動機周りの消耗品の交換頻度が高いけど、その消耗品が鍛冶屋の手作りで設計も機体ごとにばらばらだからコストが高い。それを解決するための計画を立てたんだ」
「そうか。コストの事はあんまり考えたこと無かったけど、整備と言えば【双発葉巻号】もわりと頻繁にここに来ているようだし、俺達がここで暮らしている時も【試作2号機】は頻繁にここに整備に来ていたな」
キャスリンが乗る【試作2号機】がここに頻繁に飛来することで、いろいろ助けられたのはいい思い出だ。
「実は【双発葉巻号】はこの【統合整備計画】の実証試験機でもあったんだ。設計初期からエスタンシア帝国で製造されている機械部品の工業規格品を最大限活用して消耗品の交換コストを抑えている。だから大型機だけど消耗品コストは【試作1号機】と同程度までコストダウンできているんだ」
「そんなに効果があるのか。でも、部品の入手はどうしていたんだ。【双発葉巻号】は頻繁に飛んでるから、消耗品の交換頻度は高かっただろう」
「当初は開戦前の【密輸】で入手した分でしのいでいたけど、ヨセフタウンの鍛冶屋で同等品を製造するのに成功したから今はそっちに切り替えている。エスタンシア帝国の方が金属材料の原価が安いからこっちで作ると多少単価は上がるけど、部品の種類は減ってるからバラバラの設計の部品を作るよりかは安いんだ」
「そうか、規格品で互換があるのはいいな。俺の前世世界の設計でも、複数の会社から互換性がある部品を購入できる規格品は重宝したからな」
「この【統合整備計画】は対象機種が増えるほど効果が大きくなるから、設計が古くてそれの適用ができない【試作1号機】と【軍用1号機】はもうすぐ退役させて首都の博物館に送る予定なんだ」
「あの機体はそれなりに便利だったが、それらの代替機は作ってあるのか」
「規格品を採用して運用コストを低減しつつ、同じ外観で同等の性能になるように全体を再設計した【運用1号機】と【軍用2号機】が試運転中だ。もうすぐ飛べるようになる」
「再設計するのに、わざわざ同じ外観、同じ性能にしたのか。要素技術も進歩しているだろうから、パワーアップとかできたんじゃないのか」
「それも考えて操縦者からいろいろ意見を聞いたけど、皆性能は今のままで十分って言うんだ。それに、積載量を増やしたり速度を上げたりすると、国内各地に作ってある【試作1号機】用の滑走路で離着陸できなくなるし、操縦も難しくなる」
「そうか、今ある滑走路インフラとの兼ね合いもあるのか。性能上がっても離着陸できなくなったらしょうがないな」
「それでも運用側の要望を取り入れて追加した機能はあるんだ。機内の座席を動かせるようにして、機体の右後方にストレッチャー用の出入り口を付けて、傷病者を搬送できるようにした。操縦者一名、医者一名、ストレッチャーに載せた患者一名を載せて飛べる」
「それはいいな。どこかに飛行場を併設した病院はあるのか?」
「【回復魔法】の使い手が多く常駐している王宮病院が主な搬送先になる予定なんだ。実際の運用方法については【ユグドラシル王国戦略空軍】が検討中だ」
この世界における【ドクターヘリ】に相当するものか。
これができるなら、【電話】も欲しいな。
グラハムの活躍に期待するか。
「でも、キャスリン様の【試作2号機】が問題なんだ」
ウェーバが困った様子で一言。
「ああ、あの【ロマン優先コスト度外視で作られた乗り手を選ぶ試作機】の事か。すごく便利だけど確かに運用コスト高そうだな」
「そうなんだ。実際運用コストが高くて、当初から【試作1号機】の五倍ぐらいかかってた。以前は王宮の資金が潤沢だったから問題にならなかったけど、今は王宮が資金難でコストダウンを求められてるからちょっと困ってる」
「実際、滑走路無しで離着陸できる【試作2号機】は重宝しているからな。【統合整備計画】で再設計してやればいいんじゃないか」
「機体構造が特殊すぎて、規格品の部品じゃあの構造で再設計できないんだ。特にあの垂直離着陸用ダクテットファンのあたりが」
「あの構造か。確かに無理があるよな。それでも【試作2号機】みたいな垂直離着陸機は欲しいから、いっそ新型機を開発したらどうだ。キャスリンなら性能上がっても操縦はできるだろう」
「新型機もいくつか提案してるんだけど、キャスリン様は【試作2号機】に愛着があるみたいでなかなか納得してくれなくて。稼働率がダントツに高い分、機体の老朽化も進んでいるから正直乗り換えて欲しいというのはあるんだけど」
「そうか。でも、この世界で初めて実運用された機体だからな。愛着はあるだろうなぁ」
「そうなんだ。気持ちはわかるだけになかなか難しいんだ……」
「キャスリンも大変ねぇ。それはそうと、本来の目的忘れてないでしょうね」
背中からジェット嬢の声。
そうだった。【ジェット☆ブースター】の部品を引き取りに来たんだった。
「ウェーバよ。【ジェット☆ブースター】で使った部品一式を【魔王城】に持ち帰りたいんだが構わないか」
「いいですよ。格納庫のパレットラックに保管してあるので持って行ってください」
「了解だ。では、俺はこれで失礼する」
「!!!!!!」
ウェーバに別れの挨拶をして設計室を出て、格納庫のパレットラックに行こうとしたら、いきなり格納庫内の空気が凍り付いた。
ビーッ ビーッ ビーッ
天井に吊るしてある赤いランプが点灯してブザーの音。あれはまさか【アンドン】。格納庫内で作業をしていた社員全員が俺に注目する。
そして、格納庫隅にある【カイゼン室】の扉がゆっくりと開く。
ゴゴゴゴゴゴゴ
「しまった!」
俺は自分の失敗に気付いた。
カツーン カツーン カツーン カツーン
ゴロゴロゴロゴロ ゴトン ゴロゴロゴロ
ザッザッザッザッザッザッザッザッザッ
「【品質保証部】だ! 【品質保証部】が来たぞ!」
格納庫内が恐怖に包まれる中、黒スーツ着用金ネクタイ装備で大きめの金縁眼鏡をかけて頭髪を七・三分けにした男を先頭に、例のギロチン台を押す男一人、カラーコーンとコーンバーを持った男七人が一列に並んで白線で区切られた通路を歩いて俺の方に向かってくる。間違いない。
【品質保証部】だ。
しかも、人数が増えてる。
総勢九人の男は俺の前に到着すると、手早く俺を中心にカラーコーンを並べてコーンバーで仕切り。格納庫内に俺と【品質保証部】メンバーの入る区画を作り出した。
「区画仕切りヨシ!」
勢いのある指差呼称。
仕切った区画を内側から一瞥すると、黒スーツの男が威圧感を纏って俺の前に進み出てきた。
一瞬分からなかったが、ウィルバーだ。
【品質保証部】部長のウィルバーだ。
「今、格納庫入場時の左右確認を怠りましたね」
「す、すまん。久しぶりに来たので、つい……」
あまりの威圧感につい後ずさる俺。
その瞬間、仕切られた区画の外側から俺達を見ていた社員たちが青ざめる。そして七・三分けのウィルバーのこめかみにビキビキっと血管が浮かぶ。
「しかも、白線を踏みましたね」
しまったぁぁぁぁ!!




