14-3 尻尾とハリセンの回復魔法(2.9k)
トーマスの小屋で【種明かし】を聞いてから十三日後の午前中。キャスリンからの連絡により、グリーンによる治療で復活して待機していた【生焼け】男の処遇が確定した。
実質【拉致】してしまった件はエスタンシア帝国側から問題視されたが、イェーガ王がエスタンシア帝国の首相と直談判して処遇の折り合いをつけてくれたそうだ。
国籍をエスタンシア帝国側に残して【出稼ぎ労働者】扱いで【魔王城】で勤務する形だ。
そのために【パスポート】も発行されて、リバーサイドシティ経由であれば両国を自由に入出国できる特権も頂いたとのこと。
ちなみに国籍はあちらなので納税義務があるという。
申請の時期には【確定申告】のためにカランリアにあるエスタンシア帝国税務署に行く必要があるらしい。
【魔王城】内では【臨死戦隊★ゴエイジャー】の六人目メンバー【臨死グレー】として配属された。
俺の前世世界の【スーパー戦隊モノ】は五人が基本だったが、六人目が出てくるパターンもあったと伝えたら、それで行こうということでこうなった。
エスタンシア帝国側でも自由に活動できる新メンバーにジェット嬢が指示した最初の仕事は、エスタンシア帝国内での【魚料理レシピ】の調査。ジェット嬢はどうしても魚を食べてみたいらしい。
早速午後から出発して、最寄りの村で旅客用トラクターをチャーターし、リバーサイドシティ経由で陸路でエスタンシア帝国に一時帰国の予定だ。
◆◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴエイジャーに六人目のメンバー【臨死グレー】が加わってから十八日後。ブラックが長期の有給休暇を取得して地元のアンダーソン領に向けて陸路で出発してから三日後の午前中。
俺とジェット嬢が座敷でエスタンシア帝国上空で撮影した【航空写真】を確認していたら【魔王城】に久々の来客。
入口ドア脇の通用口から入ってきたのは、いつものデタラメコーディネイトのキャスリンだ。【×印マスク】は無くなったようだ。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃいませー」
いつも通り、飲食店風の挨拶。
今回はキャスリンがお菓子を沢山持ってきてくれたので、メイにコーヒーを用意してもらった。
首都名物の【墓標カステラ】とのこと。カステラ表面に国のシンボルの塔の絵が焼印されている。ジェット嬢に外壁を破壊されて【墓標】にされた状態の絵だ。
名物とするにはあんまりなセンスに思わずツッコミ。
「コレが首都名物か? コレを名物扱いするセンスが分からんぞ」
「まぁ、いろいろ事情がありまして。王宮職員の間でおやつとして人気ですわ」
普通に応えつつ、キャスリンはジェット嬢に意味深な目線。そして目を逸らすジェット嬢。
なにか裏がありそうなので俺はスルーに方向転換。
「今日は【西方運搬機械株式会社】のプランテの研究室からの依頼を持ってきましたわ」
「どんな依頼なの?」
「【闇魔法】適性のある人の身体に特定アイテムを付加することで、【回復魔法】に近い魔法が使用可能になる技術を開発したとのです。仮に【付属性魔法】と呼んでおりまして、治療には成功しましたが一部で効果が安定しないので【回復魔法】の使い手であるこちらのグリーンに協力をお願いしたいとのことですわ」
俺が去年ジェット嬢で試して【異常発振】を起こしたあの技術か。
危険だから俺は誰にも教えなかったが、彼等は独自に発見してしまったのか。
「その技術は安全なのか? キャスリンは知らないかもしれないが、俺は去年似たようなことをして危険な状態になったことがあるぞ」
「その時治療を受けたのは私なので知っていますわ。付加アイテムの工夫と暴走停止方法についても研究が進んでいるので、普通の魔術師が使う分には安全だそうですの」
そう言ってキャスリンはウェストポートから資料を取り出した。
その資料にはこの世界の文字が読めない俺にも分かるように、付加アイテムと暴走停止方法が分かりやすく図示してあった。
付加アイテムは【尻尾】。
暴走停止は【ハリセン】で叩く。
資料の二ページ目には三十種類以上の【尻尾】が描かれており、プランテとルクランシェの相変わらずの【萌え】センスを感じる。
全部作ったんだろうか。
「キャスリンも【回復魔法】が使えたの?」
「資料にあるこの【ふさふさのリスの尻尾(中)】を装着するとできそうな感覚にはなったのですが、誰も試させてくれないので困っておりますの」
確かに普段の言動がアレだから怖いのは分かる。
「ちなみこの技術で治療に成功した人は居るのか?」
「メアリ様が【九尾の女狐の尻尾(特大)】を装着することで治療には成功しましたわ」
「メアリが【回復魔法】を使えるなんていいじゃない」
「でも問題がありまして。あの方の【回復魔法】は治療に【激痛】が伴うそうで、意識不明の重体の方にしか使うことができませんの」
「……なんか分かる」
「まぁ、ヨセフタウン市内の病院の入院患者の方に協力してもらって居たのですが、マトモに治療できる人が控えてないと彼等の協力が得られない状況になってしまいまして。そこでグリーンの力を借りたいということですわ」
キャスリンの依頼を断る理由もなく、グリーンのサロンフランクフルトへの出張を計画。明日朝に【双発葉巻号】で出発予定だ。
この技術が実用化されたら、強力な治療方法である【回復魔法】の使い手を増やすことができる。有用な技術ではある。
でも、くれぐれも安全第一で研究してほしい。
◇
ブラックが長期有給休暇で里帰りに出発してから四日後。【付属性魔法】の研究支援のため、グリーンのサロンフランクフルトへの出張が決まった翌日の朝食後。ジェット嬢は朝食後に単独飛行で離陸して空中散歩に出かけた。
帰りは午後になるから昼食は飛びながら食べるということで、干し肉を詰めた袋をポケットに入れて持って行った。
飛行中にどうやって食べるのか聞いたら、自由落下中は両手が自由に使えるので、落ちながら干し肉を口に入れて食べながら上昇するのを繰り返すそうだ。なんと難儀な食事方法。
飛びながら両手が自由に使えるほうが便利だと思うので、いつぞやの【ジェット☆ブースター】を元にそういう物を作れないかという話をしたら興味を示した。
アレの部品は残っているだろうか。
残っているなら譲ってもらえたらいいなぁ。
…………
昼間にジェット嬢は東の空から帰ってきた。
アンとメイが見ていないので【配慮】の足りないあの方法で無事に【着陸】。
いつもならすぐに背中に回り込んで金具を固定するジェット嬢だが、今回は何故か縦抱き姿勢のまま離れたがらず、【手当】の話がしたいので座敷に【辛辣長】を呼んできて欲しいと言う。
よくわからないが、言われたとおりに縦抱き姿勢のまま【魔王城】エントランスに入り、テーブルの掃除をしていたアンに頼んで【辛辣長】を呼んできてもらった。
座敷に【辛辣長】が到着したのでジェット嬢を座敷に降ろしたら、アンとメイに【魔王城】入城時の【配慮】の不足をやんわりと指摘された。
指摘を受けたジェット嬢は今夜だけは特別に【飲酒残業】を許可すると宣言。
アンとメイは大喜びだった。
どういう風の吹き回しか。
でもまぁ、ジェット嬢にもいろいろあるんだろうな。見ざる聞かざるだ。




