13-6 転生技術者の初負傷は、銃創(2.3k)
トーマスの小屋にてジョンケミカル社との会合予定について連絡を受けた七日後。ジェット嬢の目のやり場に困る離陸を試した四日後の夕方。
俺達は【エスタンシア商工会議所】の三階の会議室前に居る。トーマスも一緒だ。【デタラメ無し】【物騒抜き】の【対話で解決】を目指してこれからジョンケミカル社との会合だ。出資金独占をネタに【豊作2号】の製造と流通を【経営判断】として止めさせる交渉だ。
ここにたどり着くまでが大変だった。
【買収】の話ではなく、物理的に到着するのがだ。
前日にウェーバ操縦の【試作1号機】を【魔王城】滑走路に回送。ウェーバは【魔王城】の地下1階の客室に宿泊。
本日早朝にウェーバ操縦、アンとメイ搭乗、義足等の機材搭載の【試作1号機】と、【双発葉巻号】の編隊飛行でトーマスメタル社上空に移動。俺達は【双発葉巻号】から【発艦】して着陸。【試作1号機】は修復された斜面滑走路に着陸。ウェーバとアンとメイはエスタンシア帝国に公式には初入国だが、3人の入国許可はキャスリン経由で取得済みだ。
トーマスの小屋の更衣室にてアンとメイによりジェット嬢は義足装着で赤いワンピース着用の【脚付き】に【お着換え】。ジェット嬢は義足装着だとゆっくりと歩くことしかできないので、トーマスメタル社のトラックでカランリア中央部の会場前まで運んでもらった。
そして、俺の右腕にぶら下がるような形で【エスタンシア商工会議所】建屋内を移動。ジェット嬢の脚を壁や手すりにぶつけないよう注意しながら階段を昇り今に至る。
義足に何かが当たると衝撃が骨に響いて痛いらしい。
ちなみに【試作1号機】の操縦をお願いしたウェーバは、小屋に到着するなりトーマスメタル社の社員と共に小屋の階段から地下倉庫の方に【大フィーバー状態】で降りて行った。
新しい機械や材料の買い付け目当てのようだが、買い物は持ち帰ることができる量に抑えるんだぞー。
そしてジェット嬢の【お着換え】を担当したアンとメイは、トラックに同乗してカランリア市街地まで付いてきた。
酒屋巡りをすると【大フィーバー状態】で商店街に駆けていったが、くれぐれも買い物は持ち帰ることができる量に抑えるんだぞー。
コンコン
トーマスが会議室のドアをノック。
「どうぞ」
ドアの中から男の声で普通に返答。
「失礼します」
トーマスが重そうなドアを開けて中に入る。
俺と俺の右腕にぶら下がるジェット嬢が続く。
入ったらトーマスがドアを閉めてくれた。
いいけど、そのドアやたら重そうだな。
なんかこの常識的なやり取りを見て、前世で開発職サラリーマンをしていた時を思い出した。
開発職だと商品企画の許可申請とかで偉い人が集まる会議に出席することはある。サラリーマンとしての勝負の舞台だ。一週間がかりでプレゼンのスライド作って、発表の原稿も作って、発表練習も何度もして挑んだあの舞台。
すごく緊張したけど、やり遂げた後の達成感もなかなかのものだった。そして、その時発表した新商品企画が承認されたかどうかは、前世の俺の黒歴史だ。開発職やってるとそういうこともあるさ。
でも今回は俺は脇役。まぁ、トーマスとジェット嬢がプレゼン原稿か何か用意していると考えて、俺は余計なことを言わずに脇役に徹する。
ちょっと大きめの応接室風の部屋の中は面接会場みたいな机配置。正面の長机に会社の重役ぽい中年男を中心に男三人が座る。そして重役ぽい男の右後ろに黒スーツでサングラス着用の【ザ・ヒットマン】みたいな男。
あの格好いいなぁ。
俺は多分似合わないから、ブラックにさせてみようかな。
ふと横を見ると、会合のはずなのに俺達用の椅子が無い?
何コレ。イジメ?
こっちの世界の面接は受ける側が立ってするの?
パワハラじゃね?
俺達一応、大口の出資者なんだから、会合するなら椅子ぐらい用意してもいいんじゃないか?
トーマスも部屋の配置を見て不審な表情を浮かべている。
まぁ、今の俺は規格外ビッグマッチョだから、サイズの合わない普通の椅子に座るぐらいなら立っていた方が楽だったりもするし、今のジェット嬢もあの義足で椅子に座れるかどうかも分からないから、立姿勢で会合も悪くないけどさ。
そんなことを考えていたら、場違いな【殺気】を感じた。
瞬時に思考が高速化する。
反射的に右後ろに居るジェット嬢の正面に回り込む。
バン ドスッ 「痛てぇ!」
俺の左の二の腕あたりに後ろから銃弾が命中。
痛い。
すぐ痛い。
すごく痛い。
こちらに転生してからの初めての負傷らしい負傷。【魔法】アリ【魔王】アリのファンタスティック世界での最初の負傷が【人間に銃で撃たれた】というところに微妙にやりきれないところを感じつつ、ひたすら痛い。しかも【魔王】は俺だし。
とっさに後ろを確認。誰だよ撃った奴は。
銃を向けているのは【ザ・ヒットマン】の方。
二発目を構えている。なんか俺の頭を狙っている気がする。
頭を撃たれたら俺だって死ぬ。
それはやめてほしい。
バゴン カシャーン
【ザ・ヒットマン】の持っている銃が爆発した。
何が起きているか理解が追いつかない。
とりあえず死なずに済んだかな。
そう思って、ジェット嬢を見下ろすと、なんか恍惚とした表情で【ザ・ヒットマン】の方を見ている。そして、凄みのある笑みを浮かべると、出血している俺の腕の銃創を掴んだ。痛い。
ザァァァァァァァァァァァ
そして脳内に響くホワイトノイズ。【回復魔法】を使うのか。治してくれるのはありがたいが、ここで俺が【波動酔い】で倒れたら帰れなくなるぞ。
それに、実際に倒れるとジェット嬢を下敷きにしてしまう。とっさに【ジェットマッチョベンケイスタンディング】の構え。意識が遠くなる。
『いっつ・あ・しょーたーいむ』
意識を失う直前、ジェット嬢の変な掛け声が聞こえた。




