13-5 妻を崖から放り投げてみた(2.3k)
頼りになるけどその商売上手が分からないトーマスに企業買収の依頼をしてから六日後の午後。
俺は【ジェット☆アーマー】状態となったジェット嬢を、縦姿勢で背後から持って崖の上から差し出していた。
前回使用時に何処かに落としてしまったというあのボディーボードみたいな飛行補助アイテムが修理を終えて返ってきたので、今日はそれで遊びに行くという。
「発振準備ー」
「ヨーソロー」
掛け声に合わせて魔力推進脚を始動。
差し出している腕への荷重が推力で相殺されたのを見計らって、【空に置く】ような感覚で手を放す。
今回は下方向にゆっくりと離れていく【ジェット☆アーマー】。
『離陸成功ー。行ってきまーす。夕食前には帰るから』
「いってらっしゃーい」
今回は【ジェット☆アーマー】は低空飛行で東に飛んで行った。どこで何をしてくるのやら。俺はしばらく単独行動。部屋に戻って前世世界の機械のスケッチでも描くかな。ジェット嬢によると俺のスケッチはイエローが欲しがるらしい。
…………
夕食前。そろそろかなと思って入口広場に出てみると、南の空から接近する高速飛行体。今日はボードを落とさなかったようだ。
まだ明るいからアンとメイはいないけど、いろいろ【配慮】した形の着陸に挑戦するか。
◆◇◇
【ジェット☆アーマー】状態でのいろいろ配慮した着陸に成功した十二日後の午後。俺達はトーマスの小屋に来ていた。
イエローが副操縦士に就任したことで連続飛行可能時間が伸びたため、航空写真撮影や連絡機としてほとんど一日中両国上空を飛び回っていた【双発葉巻号】が、トーマスメタル社の斜面滑走路跡地に【進捗あり】の文字を発見したのが昨日。
その報告を受けて、いつも通り【双発葉巻号】を上空待機させてトーマスの小屋にお邪魔した次第だ。
いつものテーブルに集まりジェット嬢は専用の椅子に座る。コーヒーを出してくれたトーマスが話を切り出す。
「えー、【買収】作戦は成功です。九割方確保しました。偽装と時間短縮のために取引先の会社に資金を分散して買い集めたので配当権の名義は複数に分かれていますが、実質出資者が一人ということはジョンケミカル社に伝わるように工夫してます」
「先方の動きはどう? 何もしないわけは無いわよね」
「えぇ、来週カランリアで行われる【エスタンシア帝国経済連合会】の総会の後で面会したいと打診がありました」
「いい感じね。交渉のテーブルを手に入れたわ」
「会議に行くのか。だったら車いすも用意しないとな」
「せっかくだから、久しぶりに義足装着の【脚付き】で行くわ」
「えーと、失礼かもしれませんが、そうしていただけるとありがたいです。いつものスタイルだと街中ではさすがに目立つので」
「そうね。でも私は【脚付き】だと飛べないから、降りてからここで脚を付ける必要があるの。いろいろ準備が必要だけどトーマスさんにも協力お願いできるかしら」
「えぇ、かまいませんよ。ちなみに、その会合私も同席して良いですか?」
「案内も欲しいし、是非お願いするわ」
普段の移動を【カッコ悪い飛び方】に頼り切っている俺達は、それが使えない場合はいろいろ準備が必要になる。
準備の概略を考えていたジェット嬢の説明によると、斜面滑走路を【試作1号機】を着陸可能なぐらいに修復し、ウェーバ操縦でアンとメイをこちらに連れてきてもらって、トーマスの小屋で義足装着という手順だそうだ。
そして、トラックでカランリアに運んでもらってそこの【エスタンシア商工会議所】の3階にて会合とのこと。そこで、【豊作2号】の製造と流通を止めさせる件について話し合いを行う。
◇◇◇
トーマスの小屋にてジョンケミカル社買収成功の報告と先方との会合予定について連絡を受けた三日後の午後。俺達は再び【魔王城】入口広場の東端に居た。今日は単独飛行の新しい離陸方法を試すという。
俺はジェット嬢の両手を持って、目の前にぶら下げている。
「本当にやるのか。なんかコレ危なそうに見えるんだが」
「私を池に放り込んだくせに今更それを言うの? 大丈夫よ」
新しい離陸の方法。
腕力自慢のお父さん係がやってしまいがちな危険なスキンシップ【両手を持った振り回し遊び】からの【崖への放り投げ】。
【虐待】を越えた何かを感じる、とっても危ない離陸方法。
「崖の向こうめがけて斜め上方向にお願い。投げた後はこっち見ないでね」
「了解だ」
ジェット嬢の両手を掴みなおし、脚を踏ん張り投げるフォームへ。
「良い子は!」 グルングルン
「マネを!」 ブン
「しなでねー!!」 スポーン
息を合わせた常識的な掛け声とともに、ビッグマッチョの筋力を駆使してジェット嬢を崖から放り投げる。と同時に視線を逸らす。
放り投げられて回転しながら宙を舞うジェット嬢は【魔力推進脚】の推力偏向、つまり【足技】を駆使した姿勢制御で回転を止めて姿勢を立て直し、空に飛びあがっていく。
スカートをたくし上げて【足技】やってるジェット嬢の白いズボンみたいなものが一瞬見えたが、そこは忘れよう。
沼に埋められるのは嫌だからな。
『行ってきまーす。夕食前には帰るわ』
「いってらっしゃーい」
『沼が嫌なら目線には気を付けるのよー』
「サー! イエッサー!」 ビシッ
バレていたか。女性は視線に敏感だ。
でもこの離陸方法は人前ではできないな。沼に埋められる人が多発しそうだ。
…………
夕食前の時間。【魔王城】入口広場で待っていたら、南東方向上空からジェット嬢が帰還。当然手ぶらなので、いつもの配慮の足りない方法で無事着陸。なんか服が焦げ臭い気がするが、何処で何をしていたかは聞かない。
妻のプライベートには介入しないのも夫の義務だ。
ジェット嬢のことだから、あとで困ったことになったりはしないだろう。




