13-4 商売上手と金貨爆撃(2.4k)
【魔王城】の秘密会議で満場一致で方針を決めた翌日の午後。俺とジェット嬢はトーマスメタル社の小屋近くの斜面滑走路にて、いつもの背中合わせスタイルでトーマスから説教されている。
「えぇ、意味不明ですね。これはもう意味不明ですね」
「ごめんなさい」
「えー、最初に会った時もそうでしたが。その比じゃないですねこれは」
「ごめんなさい」
俺達が説教を受ける前では、斜面滑走路に散らばる大量の金貨をトーマスメタル社の社員が総出で回収して、小屋に運んでいる。
そしてその小屋の屋根にも大穴が開いている。
昨日の秘密会議で決まった方針は【買収】だ。
【魔王城】に集めた国家予算を超える量の金貨で、ジョンケミカル社に出資して発言権を確保。【隠蔽】の当事者に対し【出資者】の立場から圧力をかけて、【経営判断】として【豊作2号】の製造と流通を止めさせる。
製品の製造を止めるのは製造側の勝手だから、顰蹙は買うかもしれないが理由の説明は不要だ。
説明を求められたとしても、設備の故障や原材料の入手難などいくらでも理由は作れる。
その【買収】に使う資金をエスタンシア帝国に【密輸】しようとしたのだが、八咫烏の着陸で使った斜面滑走路は雑草で覆われていて、今すぐ【双発葉巻号】の離着陸ができる状態に無い。
麦畑の作付け時期は迫っており滑走路を再整備している時間が惜しかったので、【双発葉巻号】機体下部の投下扉を使用して、金貨の入った箱を斜面滑走路に投下して届けることにした。
即席投下装置製作と【爆撃手】はイエローが担当だ。
金貨の詰まった箱は合計二十四箱投下したが、投下時の機体重量変化により飛行姿勢が崩れたことで、投下した箱同士が空中で衝突。
三箱が破損して斜面滑走路に金貨を空中散布してしまった。
そして、最後の一箱だけ投下のタイミングがズレて、トーマスの小屋を直撃。
屋根を貫通して小屋の中で箱が破損。
小屋の中も金貨まみれになった。
高い所から物を落とすのはとっても危ないことなので、良い子は絶対にマネをしないでね。
「えーと、それで、コレは一体何をしようというんです」
「ジョンケミカル社を【買収】したいのよ」
「えー、なるほど。そう来ますか……」
さすが商売上手。
何がしたいか分かってくれたらしい。
…………
金貨を片づけて地下倉庫に格納した後、小屋の中のいつものテーブルでコーヒーを頂く俺達。
なんかジェット嬢専用の椅子も用意してくれていた。金属製で重量があり、シートベルトまでついている。
「こういうの助かるわ。脚が無いから軽い椅子に座るのは怖かったのよ」
「えー、不安定なのは見てわかりますからね、ちょっと当社の試作室に依頼して作ってもらいました。喜んでもらえて光栄です」
「何から何まで頼っちゃって悪いんだけど、ジョンケミカル社の買収って、こっちの国のルールで可能かしら」
「えぇ、できますよ。出資金に応じた配当権の制度はあるので、他の出資者からその配当権を買い集めればいいだけです」
「こっちの国には【株式会社】に近い制度がすでにあったのか。ちなみにその配当権には、会社の経営に口出しできるような議決権は付いてくるのか?」
「えーと、そういうのは無いですね。あくまで、出資金に応じて利益から配当が得られるというだけです」
「そうか。それだと【買収】にはならないな。今回欲しいのは配当金じゃなくて発言権だからな」
「ルールが無くたって配当権を買い集めて出資金の大半を独占すればどうにでもなるわ。出資金を引き上げるって脅せば実効支配は成功よ」
「なるほど。よく考えるな。さすがはユグドラシル王国初の株主様だ」
【株式会社】の考え方を前世世界の知識から持ち込んだのは俺で、その時作ったフォードの会社の株を全部買ったのはジェット嬢だった。そういえばあの株式どうなったんだろう。相当な価値になっていそうだけど。
「えーと、では、この大量の金貨でジョンケミカル社の出資金を独占すればいいんですね」
「できるかしら」
「えー、金貨の量からして金額的には余裕ですが、配当権を売ってもらう必要があるので全数は難しいです。でも、少なくとも過半数はいけますね」
「渋るようなら金額吊り上げてもいいから七割ぐらい目標でお願い。でも、なるべく目立たないように」
「えぇ、まぁそれはなんとか。でもあの金貨使い切っちゃってもいいんですか?」
「かまわないわ」
あの金貨はあれでも一部だからな。でも資金は大事にした方がいいのでここは40代オッサンの腹黒さを発揮してみるか。
「投資家の間に【豊作2号】の植物毒性の噂を流して、ジョンケミカル社の企業価値暴落を誘発してから買い集めたら安上がりにならないかな。俺の前世世界で【風説の流布】と呼ばれていた悪質な反則技だ」
「………………」
トーマスとジェット嬢の冷たい目線が俺に刺さる。
「ごめんなさい。それをしないための【買収】作戦でしたね」
【技術者】にもできないことはあるさ。出番が無いこともあるさ。
わかったよ。ちゃんと裏方するよ。
「えー、まぁ、すでに一部の投資家の間では【極秘情報】として噂にはなっているんですがね。そういうところからの配当権の買い取りはスムーズに進むでしょう。でもこれだけの資金を一気に動かすと目立ってしまうので少々時間ください」
「お金に物言わせる形でなるべく早めにお願い。トーマスさんのところの手数料もあの金貨の中から取って頂戴」
「えーと、ではその形で急ぎますが、三週間ぐらいですかね。進捗あったら斜面滑走路に書いておくので空から見てください。手数料はサービスしておきますよ。商売上手ですから」
トーマスは頼もしい。
だけど、トーマスの言う商売上手はいまいち分からない。
俺達は上空待機する【双発葉巻号】に【着艦】して帰路に付いた。機内でイエローに投下失敗の件について謝られた。でも、一晩であそこまでできたんだから上出来と思う。
昨日は金貨投下装置準備のためにイエロー、ブラック、グリーンと照明係の一升瓶メイドズは深夜残業だったんだ。
本当にお疲れさまでした。




