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第13話 クレイジーエンジニアと品質ギロチン(15.7k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから百八日目。

 最強陸上兵器のロマンに憑りつかれた男達が創り出した【戦車】、【勝利終戦号】が、まるで自分の意思を持ったかのように無人で脱走。その捕獲のため航空攻撃を仕掛けた俺達は、返り討ちに遭い撃墜。

 命からがらサロンフランクフルトに帰還していた。


「で、どういうことなのコレ」


 【勝利終戦号】を追跡した日の夜。サロンフランクフルト食堂にて。

 食堂の真ん中に置かれたストレッチャーの上で、うつ伏せに寝かされた【腹ばい女】ことジェット嬢が俺を睨む。

 ストレッチャーを挟んだ対面では、メアリがジェット嬢に腰痛治療のマッサージをしている。


「どういうこと、と言われてもなぁ」

 俺も回答に困る。


 試運転直後に無人で暴走して逃走した【勝利終戦号】を俺とジェット嬢の航空攻撃で捕獲しようとしたら、返り討ちに遭って撃墜され、結局逃がしてしまった。


 前方に出て左旋回しながら【勝利終戦号】の目の前に水魔法で沼を作ろうとしたら、無人のはずの勝利終戦号がスーパーデンジャラスビーム兵器【魔導砲】を撃ってきた。

 ジェット嬢がとっさに魔力推進脚の推力偏向で回避するが、機動性の劣るあの翼では回避しきれず右主翼を半分吹っ飛ばされる。

 【魔導砲】の破壊力恐るべし。命中したら死ぬと確信した。


 翼が左右の揚力のバランスを失ったことできりもみ状態で急降下。

 その間も容赦なく【魔導砲】の速射は続く。


 ジェット嬢が推力偏向でギリギリで回避しながら攻撃魔法で左主翼を切り詰めてバランスを取り、墜落直前に姿勢を立て直す。

 その後、勝利終戦号から秒間3発で連射され続ける精密照準の【魔導砲】を超低空飛行で機体を左右にスライドさせてかわしながら逃走。


 俺は、前世で好きだったロボットアニメの世界に転生した気分を味わった。

 撃たれる側として。


 ジグザク回避機動で逃走を続けて、あと少しで射程外かというところで、背中に張り付くジェット嬢の腰あたりから【ゴキッ】という感触と、背後から【ぎゃふっ!】という変な声。


 突如推力を失った機体は砂地に墜落。

 俺を下にして、俺が痛い形で墜落。


 頭上をかすめる【魔導砲】の連射を半分砂に埋まってやりすごし、砲撃が止んだ頃合いを見計らって、翼の残骸をその場に捨てて、俺が歩いて食堂棟に帰り今に至る。


 ジェット嬢は腰を痛めたらしい。


「あー、でもあのときの操縦すごかったぞ。あの腕前ならガチでスーパーロボットのパイロットになれるぞ」

「下手すりゃ死んでたのにのんきね」

 呆れたようにジェット嬢が応える。

 スーパーロボットについては今はスルーらしい。


「でも、あの【魔導砲】回避のジグザク横スライド機動はどうやってやったんだ? アレは飛行機にできる動きじゃないぞ」

「どうって、こうよ。イタタ」

 ジェット嬢がストレッチャーの上で左脚を真横に動かす。

 薄赤色のスカートの左端から魔力推進脚の噴射口が顔を出す。

 腰のマッサージをしていたメアリがすかさず脚を戻してスカートをかぶせる。


「なるほど、魔力推進脚は可動範囲が広くてレスポンスも速いと思っていたけど、とっさに真横にも推力を出せるのか。でも、その角度で瞬時に機体をスライドさせるほどの大推力を出し続けたら……、確かに腰を痛めるな……」

 あの超絶回避機動はジェット嬢のある種の足技あしわざだったんだ。


「本当に腰が痛いわ。これは【回復魔法】を使わないと完治は難しいわね」

 ギックリ腰とか前世の世界では治らない系のケガだったから、【回復魔法】があるこの世界は多少マシなのかな。


 でも腰は大事にしないとね。

 腰は一生モノだよ。


 そんなことをしていたら、【勝利終戦号】の設計チームが食堂棟に駆け込んできた。


「無事ですか?」

 設計チーフのウィリアムが心配そうに声をかける。


 お前らが心配しているのは俺達か【勝利終戦号】かどっちだ。

 気を遣って、どちらでもいいように俺は応える。

「ああ、無事だよ。捕獲作戦は失敗。残念ながら【勝利終戦号】は無傷で逃走中。俺達は撃墜されてこのざまさ」


「やったぁぁぁ!!!」

「ウオォォォォォ!」

 途端に設計チームから歓声が上がる。


「やったぞ! 俺達だってやれるんだー!」

「ついに【金色の滅殺破壊魔神】に勝ったぞ!」

「【勝利終戦号】こそが勝者だ! 陸上最強だ! 世界最強だ!!」

「これで悪夢ともオサラバだ!!」

「俺は、俺達は生まれ変わるんだぁぁぁぁぁ!!!」


 ガッツポーズで膝から崩れる者、泣きながら抱き合う者、四人でスクラムを組んで雄叫びを上げる者達。男達はそれぞれの形で【クレイジーエンジニア】として、陸上最強兵器開発の偉業を成し遂げた喜びを表現した。


 そしてそれをうっとりと眺めるメアリはつぶやく

たっといわ。たくさんたっといわ……」

「メアリ痛い。痛い。メアリ痛いって、ほんと痛いの。お願い。メアリ……」

 マッサージの手元が狂うほどに眼前のたっとさに夢中のようだ。


 それにしてもお前ら不謹慎だろ。

 確かに、みんなで頑張って作った【勝利終戦号】だから試運転直後に暴走したうえに【滅殺破壊】されたら悲しいけど。

 そしてメアリ、うっとりするのは自由だけど、怪我人をもっといたわってあげて。


「でも、実際これからどうするかな」

 【勝利終戦号】は回収したいが、方法が思いつかない。


「アレの【魔導砲】は脅威だわ。狙いの正確さ、射程距離、そして命中した時の破壊力。魔王討伐作戦でいろんな【魔物】と戦ってきたけど、アレほど手強てごわい奴は居なかった。私は今まで無敗だったけど、アレ相手には完敗よ。力で止める方法は難しいわね」

 メアリが正気を取り戻して痛みから解放されたジェット嬢が悔しそうにぼやく。


「バンザーイ」「バンザーイ」「バンザーイ」


 設計チーム三十六名が素早くジェット嬢の乗るストレッチャーの周りを二列で囲み、したり顔でジェット嬢を見下ろしながら万歳三唱。


 おい、お前ら。


 設計チームは万歳三唱でストレッチャーの周りを囲んだ隊形のまま肩を組んで、横揺れでリズムを取りながら【勝利終戦号のうた】を合唱しだした。

 一緒に囲まれたメアリは何か楽しそうだ。


 好きにしろよ。もう。


「あの【勝利終戦号】みたいな無人の飛行機って作れませんかねぇ。やっぱり飛行機って落ちたら人死ぬので戦車よりも飛行機のほうが無人化って大事だと思うんですよ」


 いつの間にか【勝利終戦号】の設計チームではないウィルバーが来ていて、飛行機の設計図のようなものを食堂のテーブル上に広げながら言う。

 ウィルバーが広げた設計図を見ると、機体後部に推進式のプロペラ、アスペクト比の大きい主翼、機首には主武装となる魔導砲が描かれていた。

 無人とすることで操縦席が不要となるので設計の自由度が高まる。

 制御をどうするかは置いといて、アイデアとしては有望だ。


 しかし、この状況で言っておくべきことがある。


「この設計だと地上からの攻撃に対して脆弱だ。俺達みたいにあっさり撃墜される。重量増加を伴ったとしても機体下方に装甲板を配置すべきだな。製作可能ならオリハルコンの薄板で主翼下面の外板を作るとかな」

「なるほど。下方の装甲を厚くするなら、その面を敵に向けた状態で攻撃が可能なように【魔導砲】は機首に固定ではなく全方位射撃可能な銃座形式のほうがいいですね」

「下方に配置したハッチの中に隠してもいいな。攻撃時だけ開いて武装を展開する。そうすれば巡行時の空気抵抗の面でも有利だ。そうなると、上方向への攻撃が出来なくなるが、それを割り切るかどうかは考えどころだな」

「武装を露出させて可動にした場合、空気抵抗による姿勢制御への影響が気になりますね。とくに射撃時は精密な制御が必要になるので」


 食堂のテーブル上でウィルバーが設計図に改良点や課題点を書き足していく。


 そんなことをしていたら、ジェット嬢がストレッチャーの上で顔を真っ赤にして、拳を握りしめて震えながらしどろもどろにつぶやく。


「……ワタクシ、そろそろ怒っていいカシラ……」


 確かに、俺も今日の【勝利終戦号】設計チームの狼藉ろうぜきは怒られても仕方ないと思う。

「ああ、今回ばかりは怒っていいと思うぞ」


「アンタもよ!」

 ジェット嬢が叫ぶ。


「申し訳ありませんでした!」×38


 勝利終戦号設計チーム三十六名と、俺とウィルバー合わせた総勢三十八名の完全に息のそろった千鳥配置二並列直角謝りが美しく決まった。

 美しい謝り方を極めるよりも、怒られないような言動を普段から心がけるほうが大切だと、40代のオッサンかつ常識人である俺は思う。



 俺とジェット嬢が【勝利終戦号】に撃墜された翌日夕方。俺とフォード社長が展示室の長机にて向かい合っている。

 ジェット嬢は腰が痛いということで、今日は食事の時以外は医務室のベットで休んでいる。だから今俺の背中には居ない。


 【勝利終戦号】の設計チームは昨日最後の直角謝りを美しくキメた後、全員その場で倒れた。怒ったジェット嬢が何かをしたわけではない。


 過労が限界を超えたのだ。


 ドクター達に搬送されていったが、全員、悲願を達成したとても幸せそうな【神々しい表情】で運び出されていった。

 そんな彼らをジェット嬢はストレッチャー上から【忌まわしいものを見る目】で見送った。

 そういうわけで、今は設計室が仮設の病室になっている。


 かといって、事態は収束したわけではない。制御不能の【勝利終戦号】がヴァルハラ平野方面に逃走して行方不明。何か問題を起こす前に何とか止めて博物館に運ばないといけない。

 ヴァルハラ平野は広いのでやみくもに探しても見つかる可能性は低い。

 また、迂闊に接近するのは危険だ。

 何処へ向かい、どのように動くかの予測を立てる必要がある。


 そのために、フォード社長はヨセフタウン市内の熟練魔術師に相談に行ったそうだ。

 そこで、【勝利終戦号】の暴走は魔法では考えにくいが、闇属性魔法の延長線上で、設計者が設計に込めた想いが何か影響しているのかもしれないとの見解をもらったとか。

 そして、【勝利終戦号】の行動パターンを予測するため、設計チーム各人の経歴を調査してまとめてきた。


 その結果について俺とフォード社長で展示室にて情報交換をしている。

 設計者が【勝利終戦号】に込めた想いを逆算するのだ。


 フォード社長は分厚い資料をまとめてきたが、俺はこの世界の文字を読めないのでフォード社長からかいつまんで説明を受ける。


「結論から言うと、設計チーム三十六名全員が過去に何らかの形で【金色こんじきの滅殺破壊魔神】にひどい目に遭わされていた」

 フォード社長が驚愕の事実を説明。俺はあんまりな内容に言葉を失いかけたが、なんとか応える。

「一体この町で何があったんだ。ジェット嬢はよほどのことが無ければ自分から襲い掛かるようなことはしないと思うんだが」

 もしそうでなければ、昨晩俺達は無事では済まなかっただろう。


「ヨセフタウンは今は住みやすい街だけど、5~6年前はすごく治安が悪かった。そこで、ちょっとしたことがきっかけでイヨに市内の自警団の手伝いをしてもらったことがあったんだ」

 フォード社長の補足説明を聞いて、俺はなんとなくわかった。

「やりすぎたのか……」

「ああ、自警団が人手不足だったからと、イヨを一人で巡回させたのがまずかった。現場を押さえたらその場で【お仕置き】していたんだ。イヨは【回復魔法】も得意だから、【お仕置き】後に【回復】したのと、被害者も目撃者も何も言わなかったので発覚が遅れた」


 またツッコミどころが多すぎる。

 今は時間があるので、一つ一つ丁寧にツッコミしてやる。


「正確には分からないが、今のジェット嬢を見る限り、5~6年前なら子供だろ。治安が悪いと分かっている街を女の子一人で巡回させる方がそもそもおかしいぞ」

「当時イヨがどんな少女だったかについては、頼むから言及しないでくれ。扱いがおかしかったのは確かだ。そこは皆反省してる。途中から自警団や俺が随伴するようにしたんだ。街を守るために」

 ツッコミの回答でツッコミどころを増やすな。


 だが、話しながらも青ざめて震えているフォード社長を見ると、フォード社長自身にも何らかのトラウマがありそうだ。

 そこはツッコミしないでおこう。話が進まなくなる。


「設計チーム三十六名がその【お仕置き】経験者ということか。その【お仕置き】というのはそんなにひどいのか」

「再犯率がゼロになるぐらいにはひどい」

 フォード社長が即答で断言。俺は背筋が凍るのを感じた。

 再犯率ゼロってどんだけだ。

「殴る蹴るとか、そんなレベルじゃなさそうだな」

「殴るのは殴るんだけど、イヨは蹴りはしないんだ。地面に転がる相手に対しても、腰を落として拳を撃ち込んでた」


 確かに俺も、ジェット嬢が何かを蹴っているのは見たことがない。

 当たり前か。

 でも、ツッコミどころはそこじゃない。


「地面に倒れている相手に拳を撃ち込むとか、そんな残虐なことしていたのか」

「殴る上に魔法も使うんだ。一番酷かった【お仕置き】は、後付けの砲塔部の設計と製作をしていたあの二人だ。別の街から追放されてヨセフタウンに到着したばかりだったが、何をしたのかいきなりイヨをえらく怒らせたらしい。目撃者の情報によると、町の人が大勢見ている前で拳でめった打ちにして風魔法か何かでしばき倒して火魔法で黒焦げになるまで焼いて、【回復】して、まためった打ちにして、しばいて焼いて……」


「もういい」


 あんまりな内容に思考回路の動きが鈍くなってきたので、この機会に気になっていた別のことを聞いてみることにした。

「この世界の【回復魔法】っていうのはどういう物だ?」

「俺は【回復魔法】は使えないし、イヨの【回復魔法】しか知らないからそこだけの知識になるけど、普通の治療に比べるとすごく治りが速い。大火傷や裂傷はすぐ治る。解放骨折のような酷い怪我も少し時間をかければ治る。自然治癒の加速だけじゃない何かがあるような気がするけど、そこはよくわからない」


「それはすごいな。ちなみにフォードは【回復魔法】で治療してもらったことがあるのか?」

「俺は過去に何度もイヨに治療してもらったことがあるんだ。【お仕置き】に巻き込まれて大怪我した時とか、あとは農作業中に怪我した時もイヨは頼めば治してくれた」


「ヨセフタウンに【回復魔法】を使える奴は他に居るのか?」

「街の教会に居たこともあったけど、今は居ない。【回復魔法】を使える人は少なくて、使えるようになった人は給料が高い王宮で働く場合が多いんだ。使い手も大半は男で、女性で【回復魔法】を使えるイヨみたいなのはすごく珍しい」


 【回復魔法】を使えるのは男のほうが多いというのは感覚的には意外だ。

 そして、この聖属性の【回復魔法】というやつがフロギストン理論とどう関係するのか気になるので、ついいろいろ聞きたくなってしまう。


「【回復魔法】というのは、術者本人の治療もできるのか?」

「イヨが自分を治療しているところは見たことは無いけど、一般的にはできると言われてる」


「【回復魔法】は、患者に触れてないと治療できないものなのか?」

「俺が知る限りそのはずだ。一般的にそう言われてるし、イヨも治療時は毎回患者に触れてた。見ていた感じだと、服の上からでも治療はできていたけど、触らずに治しているのは見たことが無いな」


 だとしたら、ジェット嬢はギックリ腰を自分で治そうとするはずだ。

 服の上からでも治せるなら、治療を見せてもらえるかもしれない。今度頼んでみよう。

 そういえば、今腰痛で医務室で寝てるんだっけ。【回復魔法】が使えるならすぐに治してもよさそうなものだけど、何か事情があるのかな。


 そして、フォードを質問攻めにしておきながら、いまさら気になったことを聞く。

「俺がこの世界の常識を聞いても違和感なく回答してくれているけど、もしかして俺以外に【異世界人】みたいな人間がいるのか?」

「【異世界人】は他には見たことないな。でも、【金色こんじきの滅殺破壊魔神】が居るんだから、【異世界人】や【ゾンビ】が居てもこの街の人はだれも気にしないさ」


 なるほど、そういうことか。

 でも俺は【ゾンビ】じゃないぞ。


…………


 しばし休憩。その後、【お仕置き】の話のツッコミ疲れが抜けてきたので、コーヒーを一杯飲んで仕切り直し。


「イヨの【お仕置き】は確かにひどかったけど、誰もイヨを恨んだりはしてないんだ。悪いことをしたのは事実だし、【お仕置き】をきっかけにい上がって人生好転してる奴ばかりだからな」

 フォード社長が話の続き。

 【いい話】っぽくまとまろうとしたところでさらに続ける。


「ただなぁ、恐怖がなぁ。俺は【お仕置き】現場に立ち会ったこと多いけど、無言、無表情で拳を撃ち込み、強力な魔法連発してあっという間に相手をズタボロにするから、やられた方の恐怖感はひどかったとは思う。経験者は多くは語らないけど【心を刈られる】とか、【魂を吸われる】とか、【命を喰われる】とか言うんだ。そして、未だに悪夢を見るって言ってる奴も多かった」

 目つき鋭い悪役顔の少女から、無言、無表情の鉄拳制裁と、それに続くノーモーションでの強烈な魔法リンチ。

 トラウマ間違いなしだ。


「見てたなら止めろよ。明らかにやりすぎだろ」

「俺が巡回に随伴するようになってから、やりすぎないように説得はしたんだ。でも、イヨは見た目は普通の女性だからな。止めている間にイヨの事を知らない相手が反撃をしようとして余計にひどいことになったことがあった。だから、現場を押さえたら問答無用で相手が気絶するまで【お仕置き】して【回復】するのが一番安全というところに落ち着いたんだ」


「落としどころがひどいな。ジェット嬢は何を考えてそんなことをしたんだ」

「あいつは真面目なんだ。悪気は全く無い。街の役に立とうとして自警団の手伝いを引き受けたし、街の治安を良くしようと真剣に考えて行動したんだ。実際に成果は出て、あいつが街の巡回をするようになってから街の治安は急速に改善された。でも、恐怖がなぁ……」


「悪気が無い奴が一番恐いというやつだな」

「それなんだよ」


 そして、【勝利終戦号】の行動予測。

 【お仕置き】経験、【勝利終戦号のうた】の歌詞、【勝利終戦号】の性能等より、基本的な動きを予測した。


渡河とか能力は無いのでヴァルハラ川は渡れない。

・【戦意】を持つものを敵味方問わず殲滅する。

・【金色こんじきの滅殺破壊魔神】が接近したら迎撃するが追撃はしない。


 ヴァルハラ川を渡れないということは、ユグドラシル王国から出ることができないということなので、そこは安心材料だ。他国を巻き込むと面倒なことになる。

 【戦意】を持たない相手に対して攻撃をしないというのも、むやみやたらに被害が出る心配が無いので、安心材料だ。

 そして、【金色こんじきの滅殺破壊魔神】を攻撃するというのは、恨みは無いけど悪夢から解放されるために一矢報いたいという、そんな設計者達の想いが混じってしまったものと考えた。だから、【金色こんじきの滅殺破壊魔神】が接近したら無条件に攻撃はするけど、追撃はしない。むしろ逃げる。

 実際初戦で惨敗した時もそうだった。


 でも、これは正直すごく困る。

 ヴァルハラ平野の何処かに居る【勝利終戦号】と偶然遭遇してしまった場合非常に危険だ。


 そういうわけで、誠に遺憾ながら医務室で休むジェット嬢に残念なお知らせを伝える。


【ヴァルハラ平野上空は当面の間飛行禁止】


 これを聞いたジェット嬢はものすごく悔しそうな顔をしながら、拳を握りしめて歯ぎしりをしていた。


「あのアホ共! あのアホ共め!! あのアホ共めぇ!!!」


 ヴァルハラ平野上空の遊覧飛行。好きだったもんな……。

 俺もまさか【戦車】に【制空権】を奪われるとは思ってなかった。

 なんかごめん。



 俺とジェット嬢が【勝利終戦号】に撃墜された二日後。ヴァルハラ平野上空の【制空権】を奪われてジェット嬢の怒りを買った翌日午前中。

 朝食の片付けが一段落して、俺が調理場への立ち入りが許される時間になった頃。ジェット嬢は医務室で安静にしているので、俺が一人で食堂掃除をしていた時。


 食堂棟入口にフラッと来訪者が訪れた。


「ごきげんよう」


 格好がヤバイ女。

 頭には先の尖がった魔女帽子。

 額にバンダナ。今日は赤いバンダナ。

 目にはハート型の色の濃いサングラス。

 鼻と口はマスク。こっちも今日は赤い。

 全身は黒ロングスカートのワンピース。

 前には青いエプロン。なんか赤い柄が付いてる。

 腰には黄色のウェストポーチ。これも今日は赤黒い柄付き。

 背中に赤いマント。

 というデタラメコーディネートの女。


 キャスリンだ。


 とはいえ、珍しい来客ではない。


 週一回ぐらいのペースで【試作2号機】の定期点検があるため、その時にはこうやってフラッとこのヤバイ格好で食堂棟に現れる。そして、点検が終わるまでの間、食堂でコーヒーを飲みながらジェット嬢と雑談などして過ごすのだ。


「いらっしゃいませ」

 いつも通り、俺は喫茶店風に挨拶を返す。


 でも、今日は何か様子がおかしい。

 いつもなら、テーブル席に座ってなにがしか注文するのだが、今日は入口に立ったまま動かない。


 近づいて声をかける。

「どうしたんだ?」


 キャスリンの足下に広がる血痕を見つけて絶句する。


「!!!?」


 しかも、立ったまま気絶している!

 どこの弁慶だ! ナニがあった!?


 メアリを呼び、立ったまま気絶しているキャスリンをストレッチャーに載せて医務室に搬送。医務室ベッドに移す。


 俺は【西方運搬機械株式会社】の設計室常駐のドクターを呼びに行った。

 ドクターはキャスリンを診察するなり重症判定。

 応援要員が欲しいということなので、初診の診断書を持ってドクター・ゴダードを呼びに俺がヨセフタウン市街地まで走る。

 マッチョダッシュで呼びに行き、診断書を見て顔色変えたドクター・ゴダードを抱えて、必要最小限の機材を入れた鞄を背負ってマッチョダッシュで走って帰る。


 この世界初のドクターカー的な何かになった気分で走る。

 助手と残りの機材は準備が出来次第、馬車で後から来るとか。


 そうこうしているうちに昼食時間が近づく。

 医務室はドクター二名に任せて、メアリと俺と、腰痛に耐えて車いすに乗るジェット嬢で食堂の昼食営業を行う。

 ここの食堂は【西方運搬機械株式会社】の社員食堂でもあるので、昼食時間帯はお客様が多い。


 ジェット嬢の動きが腰痛で鈍くなって配膳効率落ちた分、経理部のクララが臨時でウェイトレスを手伝ってくれた。

 その間に、ドクター・ゴダードの診療所の馬車が到着し、医務室あたりが騒がしい。

 あちこちドタバタしながら昼食時間帯が終わり、昼食片付けが一段落。クララは仕事に戻る。


 メアリ、ジェット嬢は医務室へ。キャスリンの全身の外傷を処置をするので、俺は当然立ち入り禁止。途中でちょっと出てきたメアリから容態を聞いて、俺ドン引き。


 生きているのが不思議なぐらいの重症。

 全身打撲に骨折箇所多数。

 顔面にも大きな裂傷。

 主な出血個所は腹部の大きな裂傷。

 意識不明で今まさに生死の境をさ迷っているとか。


 食堂棟まで歩いてきたよな。どうなってるんだ。


 キャスリンの快復を祈りながら俺は食堂の掃除をした。

 ウィルバーと無人航空機の話をする予定があったが、ウィルバーは現れず。

 俺はコーヒーを飲みながらキャスリンの無事を祈り続けた。


…………


 そして、夕食時間帯。

 医務室から疲れ切ったメアリとジェット嬢が出てくる。

 また経理部のクララが応援要員として駆けつけて夕食準備。ここの手伝いはフォード社長の指示とのこと。

 夕食が終わったらクララと俺で後片づけ。メアリとジェット嬢はドクター達用の軽食を持って再び医務室へ。

 一段落したらクララは帰り、食堂は俺一人。


 キャスリンの容態は気になるが、俺に出来ることは無い。

 昼間に現れなかったウィルバーが気になったので、ウィルバーの仕事場である格納庫に行くことにした。


 格納庫に行くと、珍しく扉は閉じられており、通用口にキャスリン付の護衛騎士が一人立っていた。

 話を聞くと、俺以外は入れるなとキャスリンから指示が出ているとのこと。


 その格納庫の中に入ると、そこにはあんまりな光景があった。


 大破した【試作2号機】が機首を下にした形で台車の上に乗せられてロープで固定されていた。

 台車は大型の幌馬車を即席で改造したもののようで、俺の前世世界の高床台車のような形だ。


 その前に、ギロチン台。

 そして、縄で縛られたウィルバーがそのギロチン台の下に固定されて泣いていた。


「僕が、一体、何をしたって言うんですかぁ……」


 いつぞやと同じようになげくウィルバーだが、本当に今度は何をしたんだ?


「ウィルバーよ。今日一体何があったんだ」

「……午前中に、この【試作2号機】の残骸と共にキャスリン様が来たんですよ。墜落してしまったけど、どういうことかと問い詰められたんです」

「キャスリン、立って喋ってたのか?」

「ええ、すごく怒ってましたぁ。僕も、コレ見て回答に困ったので、【試作2号機】は特殊構造だから仕方ないのかなぁと応えたんですよ」

「それは……、ダメな回答だろう。それでどうなったんだ」

「護衛騎士二人に取り押さえられて、このギロチン台に固定されましたぁ」


 キャスリン怖い! 怖すぎる!!


「そして、【このギロチン台は貴方のための特別品だから、刃が落ちても仕方ないですわね】と言い残して、何処かへ行ってしまいましたぁ」


 言わんとしていることは分からなくもない。

 だけど、やりすぎ! コレ絶対にやりすぎ!!


 でも言いたいことは分かるので、あえてウィルバーをギロチン台から降ろさずに会話を続ける。

「墜落の原因に心当たりはあるのか?」

「【試作2号機】は機体中央部にダクテッドファンを搭載したので、方向舵と昇降舵の操作ワイヤーの経路が複雑なんです。その、中継点に通常点検で点検できない場所がありましたぁ。あの機体は水平尾翼の昇降舵が降下側いっぱいになっているから、そこが原因かなぁと」

「それが分かっていたなら、なぜキャスリンにそんな状態の機体を引き渡した。キャスリンが死んでもよかったのか。お前と初めて飛行機の話をしたあの夜。俺は言ったはずだ。飛行機は落ちたら乗っている人はほぼ死ぬ。だから、信頼性の高い設計が必要だと」


「……それは、フォード社長が小切手目当てに勝手に……。それに、あの方なら……」

「……許されんのだ。どんな理由があったとしても、製造業である以上、懸案事項の残る品質で、顧客に製品を引き渡すのは許されんのだ。それをやってしまったら、ギロチン台に固定されても仕方ないんだぞ」


 俺は前世では40代の開発職サラリーマンだった。品質や製品事故に関してはつらい経験がたくさんある。言いたいこともたくさんある。

 新製品を発売する際、開発段階で完璧と言えるぐらいに仕上げても、市場に出たら何らかのトラブルが起きることはある。

 製品で何らかのトラブルが発生するということは顧客が製品に寄せる【信頼】を裏切るということだ。多くの人に迷惑をかける最悪の結末。これは俺も辛かった。


 だから、懸案事項が残っているような品質での出荷はあり得ない。

 先輩社員から受け継いできた製造業の看板を自ら破壊する自殺行為だ。


 ウィルバーは製造業なんて目指してなかったのかもしれない。しかし、自分が作ったものを他者に引き渡した時点でもう逃げられない。

 例え、その引き渡しが不本意なものであったとしても。


 ましてや、作っているのは製品事故が死亡事故に直結する飛行機だ。

 長年製造業に務めた40代のオッサンとして、言うべきことは言うべき時に言っておこう。


「顧客は製品を信頼する。信頼するからこそ乗れるんだ。着陸して機から降りるまでの間、命を預けることができるんだ。だから、その信頼に応えるだけの品質を作りこむことが製造業には求められる」


「僕は製造業じゃありません。自分が飛びたかっただけなんです! それだけなんです!」

 ウィルバーよ。泣いて叫んだところでもうそれでは済まんのだよ。だが、お前にとって悪いことばかりじゃないんだ。それを教えてやる。


「自分の研究の成果物。その価値をキャスリンに認めてもらえて嬉しかったんだろ」


「…………」


 しばしの沈黙の後、ウィルバーは口を開いた。

「……僕は傘職人の三男坊。兄二人が居れば家業を継ぐのに問題は無い。だから、三男の僕にはだれもなにも期待しなかった……。そして、上の兄が結婚したことで、自宅には僕の居場所すら無くなった……」


 コイツは結構辛い境遇だったんだな。

「ただ、空を飛びたい。子供の頃からのその夢が実現できたら、もう人生は終わりでいいかななんて思ってた。でも、キャスリン様は僕に期待した……。僕は人に期待されたのは初めてだったんだ……」


 大破した【試作2号機】の残骸を見る。あまりに残酷な【期待】の結末。

 だけど、これは現実。

 どんなに残酷であろうとも技術者は現実から逃げることは許されない。


 残酷を承知で俺は問う。

「その初めての期待へのお前の答えが、コレか? お前を信頼して【試作2号機】に命を預けて飛んだ結果がコレか?」

「……こんなはずじゃなかった。人を失望させるために、【期待】を裏切るために僕は飛行機を作ったんじゃない。僕の夢のためだけに作った。そして、僕は夢を果たした。もう終わりにする。キャスリン様もそのためにギロチン台を用意してくれた。この刃を落とせば、全部終わりです」


「ウィルバーよ。そこから【試作2号機】の操縦席が見えるか? 搭乗口が見えるか? そこに何がついているか見えるか?」

「……見えます……。血痕? しかも、多い。搭乗口内側にも? まさか、墜落前に脱出しなかった?」


 お前は何を言っているんだ? 当たり前だろう。落ちようとする飛行機から脱出なんてできるもんじゃない。

 俺の前世世界の【戦闘機】にはそういう仕組みがあるものもあったが、この【試作2号機】にそんな機構はついてない。

 だが、製造業に務めた40代のオッサンとして今指摘するのはそこじゃない。


「脱出できるかできないかの問題じゃない。市街地上空で飛行機に異常が起きたらどうなる。日常生活している市民の頭上にアレがいきなり落ちたらどうなる」

「……そうか。キャスリン様は、墜落の瞬間まで機体を制御するために、操縦桿を離さなかったのか」

「搭乗口を見ろ。なぜあの場所に血痕があるか分かるか」

「…………まさか……。墜落した後で、自分で降りた? あれだけの出血をしながら?」

「そうだ。【試作2号機】は搭乗口も操縦席も狭い。操縦席に取り残された操縦者を搭乗口から救出することはできん。外から救出するためには、機体を破壊するしかない。それを避けるために、キャスリンは操縦席を血まみれにするほどの重傷を負った状態で、自ら足下の搭乗口を開いて、シートベルトを外して、機外に落ちたんだ」


 これは、本人に直接聞いたわけではない。俺の推測だ。

 でも大きく外れてはいないはずだ。

「…………」

「そうまでして、機体を守り、お前のところに運んできた。その意味が分かるか?」

「僕に、直せと……。墜落の原因を調べて改良して、直せと……」

「こんな目に遭っても、キャスリンはお前に【期待】している。航空機の有用性を見出した王族として、国の未来のため必要なものとして、お前に【期待】している」


 俺は、前世で技術者として生きた40代オッサンとして、若者に道を示す。

「最初は自分の夢のためだけだったのかもしれん。だが、この世界で飛行機を創り出したお前の技術力は世界中から【期待】される本物だ。技術者は【期待】に応えるのが義務だ」


「命があるなら生きねばならん。技術があるなら活かさねばならん。夢を果たしたのなら、義務を果たせ」


 ウィルバーがギロチン台から機体全体を見上げる。

「……水平尾翼の昇降舵、操作ワイヤーの問題か。それだけにしては、動きがおかしい。そして、あの状態で機体を制御したのか。キャスリン様に墜落直前の状況を聞きたい」

「キャスリンは意識不明の重体だ。食堂棟の医務室で生死の境をさ迷ってる」


「そんな馬鹿な! ここに来たときはいつも通り立って喋ってた! 墜落の怪我は【回復魔法】で治療してから来たはず」

「キャスリンはおそらく治療は受けてない。あの状態でどうやって立って喋っていたのかは分からないが、食堂入口まで歩いて来て、そこで立ったまま意識を失って医務室に搬送された。今ドクター二人かがりで処置をしているが、重症だ」


 ウィルバーが号泣しながら語る。

「そうまでして、瀕死の重傷を負ってまで、治療する前にここに来るぐらいに、僕に【期待】をしてくれるのか……。だったら僕は命を懸けてその【期待】に応える! このギロチンに誓う。この生涯をかけて、この国で、この世界で、最高の品質で、最高の信頼性で、最高の飛行機を作り続ける!!」


「そうだウィルバー。それが製造業に務める技術者の心というのものだ」

 そこにギロチンが必要かどうかはちょっと疑問ではあるが。


 ウィルバーが【製造業の悟り】を開いたその時、薄暗かった格納庫内が明るく照らされ、大破した【試作2号機】残骸の上にキャスリンが現れた。

 怪我はしていない。いつもの黒のワンピースと魔女帽子姿。

 その姿は少し透けており、足下は【試作2号機】残骸から浮いている。


『私の熱いメッセージ受け取ってくれてありがとー!!』

 ワァァァァァ!!


『お礼に、命を懸けて歌いまーす!!』

 ウォォォォォォ!!


 スペシャルギロチン@品質管理ソング★死刑!!

 

  作詞・作曲:キャスリン

  歌・踊り:キャスリン@瀕死


  予算不足なんて言い訳よ

  想定外なんて通用しない

  怪我人なんて出したなら

  アナタとワタシ仲良く絞首

  設計不良は重罪よ 死刑! 私刑! 極刑! 執行!

  (シケイ! シケイ! シケイ! シケイ!)

  アナタの首に常に縄

  お忘れなきこと製造業


  短納期なんて言い訳よ

  気づかなかったじゃ許されない

  犠牲者なんて出したなら

  アナタとワタシ仲良く電気椅子

  製造不良は重罪よ 死刑! 私刑! 極刑! 執行!

  (シケイ! シケイ! シケイ! シケイ!)

  アナタの腕に常に電極

  覚悟しなさい製造業


  特注だなんて言い訳よ

  分からなかったじゃ済まされない

  巻き添えなんて出したなら

  アナタとワタシ仲良くギロチン

  検討不足は重罪よ 死刑! 私刑! 極刑! 執行!

  (シケイ! シケイ! シケイ! シケイ!)

  アナタの頭上に常にギロチン

  ちゃんと見ていて製造業


『ありがとーーーー!』

 ウォォォォォ!!


『ちなみに、私がここに居ることは旦那には内緒ですわ』


 フッ……


 謎の音楽、謎の歓声、謎の歌、謎の踊り。そして謎のメッセージを残してキャスリンは消えた。


 何事もなかったかのように薄暗い格納庫の中に【試作2号機】の残骸がある。

 思考停止から復活した俺は思い出した。ここは、前世の世界とは違う。剣と魔法のファンタスティック世界。こういうことが日常的に起きる世界なのかもしれん。


 ギロチン台で呆然ぼうぜんとしているウィルバーに聞く。

「今のは何だ? 魔法の一種か?」

「僕にもよくわかりません……。でも、魔法だとするなら、闇属性の何かじゃないかと……」


 しばしの沈黙。


 ウィルバーがギロチン台に載ったまま語りだす。

「僕は、製造業として生きる最初の仕事として、【西方運搬機械株式会社】の製品の信頼性がその製品に求められる水準に達しているかを検証、審査する仕事をします。キャスリン様から頂いたこのギロチンを使って」

「俺の前世世界では、そういう仕事をする部署を【品質保証部】と呼んでいたな。でも、ギロチンは使ってなかったぞ」


「では僕は、フォード社長に掛け合って【品質保証部】を作ります。そして、製品の品質や信頼性の向上に貢献します。このギロチンを使って」

「そうだな。トラクターの出荷台数も増えているし逐次改良設計も進んでいるという。【西方運搬機械株式会社】にもそういう部署が必要な時期かもしれん。でも、そこに本当にギロチンが必要かどうかはよーく考えたほうがいいと思うぞ」


「お客様の農園でトラクターが故障する事例がしばしば起きているとウェーバから聞いたことがあります。僕は【品質保証部】として、顧客の信頼を裏切るそういう事例を撲滅します。このギロチンを使って」

「そうだな。製品の品質を通じて、会社に対する顧客の信頼を守る事こそが【品質保証部】の仕事だ。でもギロチンは……」


 製品の品質と顧客の信頼を守ることの大切さを命懸けで学び、【製造業の悟り】を開いたウィルバーとの語らいは夜遅くまで続いた。


 俺は、本当は、ウィルバーをギロチン台から降ろしてやりたかった。でも、大砲や【魔導砲】の暴発や【勝利終戦号】暴走の前科がある俺がギロチン台に触れると、ギロチンの刃が落ちそうで怖かったんだ。

●次号予告(笑)●


 この国では、王族に怪我を負わせた罪に対して死刑が適用されることが多い。

 ギロチンの下で【製造業の悟り】を開いたウィルバーを救うためには、墜落事故にて瀕死の重傷を負ったキャスリンを無傷で生還させる必要がある。


 通常の治療では手に負えないほどの重症。

 頼みの綱はフロギストン理論で未解明の【回復魔法】。


 しかし、かつて【回復魔法】の名手だった女はその力を失っていた。


 女は言う。

「【禁忌の呪い】せいよ」


 男は応える。

「【呪い】なんてものは存在しない」


 男は技術者の勘と経験を駆使し、その力の再生に挑む。

 しかし、未知の力に乏しい知見で挑むのは危険な賭けであった。

 窮地に陥る男は叫ぶ。


「これは、【異常発振】!」


 そして、万策尽きたと思った瞬間。男はひらめく。


「必殺! 俺★アーシング!」


次号:クレイジーエンジニアと回復魔法

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