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13-1 魔王城にて世界を救うための会議(2.4k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と百二十四日目。ジェット嬢と【魔王城】に入居してから九十日後。北部平野不作の原因を知らないエスタンシア帝国のヴァルハラ開拓団が、今年の作付けで不作要因危険薬剤【豊作2号】を使用予定という急報を聞いた翌日の午前中。


 俺達は、【魔王城】エントランスにある座敷にて緊急会議を行っていた。


 座敷を囲むのは、俺とジェット嬢と【辛辣しんらつ長】。首都からも会議メンバーを呼んでおり、その到着を待ちつつも先に会議を始めている。


 ちなみになぜに座敷で会議をするかというと、脚の無いジェット嬢はテーブル席の椅子よりも座敷の座椅子の方が安全だからだ。だから食事以外で座るときはジェット嬢は座敷で座椅子に座る。そして他のメンバーがそこに合わせるのが習慣だ。


「【隠蔽いんぺい】なんてするから、やっぱり困ったことになっちゃったわね」

「ごめんなさい。俺が間違っていました」


 エスタンシア帝国の【不都合な真実】の【隠蔽いんぺい】をやむなしとした俺。だが、それじゃ済まない事態への発展により、ジェット嬢にやんわりと責められ【魔王】として反省する。


「エスタンシア帝国側の食糧危機にそんな裏事情があったとは驚きですね。政治に起因する人災に思えます。そう考えると、前国王の先見性とたまに強力なリーダシップに我が国が救われていたことがよくわかります」


 【辛辣しんらつ長】が遠い目をして一言。

 長年の苦労が報われたことを実感してるんだな。


「人災とは言うけど、あの状況ならエスタンシア帝国の【政治的判断】はそれほど間違ってなかったとも思うんだがなぁ。【100人が生きるためなら1人を殺すのが政治だ】という考え方もあるし」


「…………」


 ジェット嬢と【辛辣しんらつ長】がぎょっとした顔で俺を見る。

 なんか悪い事言ったかな。

 まぁ、確かによくない発言ではあるけど。


 もしかしてユグドラシル王国はそういう政治的判断と無縁の歴史を歩んできたのかな。【魔物】とか居たからそうとも思えないけど。


「アンタ【政治家】じゃないでしょ【技術者】でしょ」

「そうか。そうだったな」


 ジェット嬢の一言で思い出した。

 俺は【政治家】じゃない【技術者】だ。

 【技術者】が【政治家】のマネをするとろくなことにならないんだった。


 俺は前世世界で開発職のサラリーマンだった。

 だから【技術者】が苦手な事をよく知っている。


 【技術者】もいろんな人が居るが、基本的に大局を見るのは苦手だ。【政治的センス】や【経営的センス】は残念レベルだ。だから社内でも中途半端にそういう部分に口出しするのは厳禁だった。実際ろくなことにならない。


 【技術者】というのは本質的に裏方であり脇役だ。

 組織の中で雑に扱われたり、軽く見られたり、不条理な指示を受けることもある。だが、それに対して文句を言ったり批判や批評をせずに【技術者】として最大限の仕事をして、期待された役割を果たすのが大事だ。


 この件については、俺は【政治家】のマネはやめて脇役に徹しよう。状況判断や対策検討は他に誰か適任者が居るだろう。俺が口出ししない方がうまくいく気がする。


 自分の本職を久々に思い出してしんみりしていたら、【魔王城】入口の扉が開いて、四人の人影が入ってきた。


「臨死ブルー、【双発葉巻号】にて乗客三名を連れて首都より帰還しました!」 シャキーン


 臨死ブルーがシャキーンと挨拶する後ろには、久々に見るイェーガ王、【×印マスク】キャスリン、そして久々に会うウラジィさん。


 メンバーが揃ったので秘密会議を始める。ゴエイジャーも集合だ。

 全員は座敷に入れないので、俺とジェット嬢とキャスリンとウラジィさんが座敷のちゃぶ台。【辛辣しんらつ長】とイェーガ王が、テーブル席の椅子を座敷近くに持ってきて座り、その後ろにブルー、イエロー、ブラック、グリーンがシャキーンと立って並ぶ。


 ゴエイジャー四人が椅子に座らずにシャキーンと立っているのは、そのほうが【護衛】らしいからとのこと。そしてイェーガ王が座敷に入らないのは、今の俺ほどじゃないけど彼も普通に大柄なので、ちょっと窮屈らしい。


「イェーガ王。即位おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 いまさらだけどお祝いする俺と、普通に応えるイェーガ王。


「話は聞いた。【不都合な真実】の【隠蔽いんぺい】とは。わしらの世界ほどじゃぁないが、この世界の連中も大概だな」


 前世で本職の【政治家】だったウラジィさんが一言。

 よく考えると実際本職だったわけだから、今一番頼もしいのはこの人だな。


「ウラジィさんの前世でも似たようなことはあったの?」


「あぁ、あったぞ。こっちよりよっぽどひどかった。自分達が侵略で建国した歴史を棚に上げて【自由と正義】を語ったり、武器を売るために他所の国同士の戦争をあおったり、薬を売るために病気ばらまいた上に予防薬に【生物兵器】を混ぜて民族根絶しようとしたり、コメディアンを王にしたり、死の商人が牛耳る影の政府で世界を支配しようとしたり、そんな中で人々の平和な暮らしを守ろうとがんばるわしを悪者に仕立て上げて【黒帯】を剥奪したりと、そりゃぁひどいもんだった」


 出た。ウラジィさんのデタラメ全開。

 俺もやったから文句言えないけど、気を付けてほしい所はある。


「ウラジィさん。前世の政治の話はいいけど、兵器関連は自重してください」

「そうか。そうだったな。すまんかった」


 かつて俺がヘンリー卿達に【最悪の兵器】の話をしたがために、それに相当する最終兵器【滅殺破壊弾】を作られそうになったことがある。この世界の人間に対して前世世界の兵器の話は禁物だ。


 キャスリンがゆるゆると右手を上げた。


「どうぞ」


 ジェット嬢が発言を促すと、キャスリンが【×印マスク】を外す。


「【生物兵器】といえば、あの毒麦を」 「マスク!」


 俺と【辛辣しんらつ長】とイェーガ王が危険発言に非常ブレーキ。キャスリンは再び【×印マスク】を装着。

 前世世界の兵器の話は本当に危ない。

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