12-6 因果関係が立証されていない(3.0k)
【×印マスク】装着のキャスリンが持参した分析結果の中間報告より、エスタンシア帝国北部で起きている異常事態が【なにもかもおかしい】レベルであることを認識した翌日午後。
俺達はトーマスメタル社近辺上空で【双発葉巻号】から背中合わせで【発艦】。
【魔王城】からトーマスメタル社まで直線距離で350km程度。
【カッコ悪い飛び方】でも行けなくはないが、巡航速度が速くて機内貨物室で座って移動ができる【双発葉巻号】の方が速いし楽だ。
前世世界で言うところの原付から自動車に乗り換えたような感覚。
そして、またトーマスの小屋に来た。
「久しぶりだな。度々すまんが、今日も聞きたいことがあってな」
「えぇ、かまいませんよ。中でコーヒーでもどうぞ」
ジェット嬢を椅子に乗せて、皆でテーブルを囲んでコーヒーを頂く。
ブルー操縦イエロー同乗の【双発葉巻号】を上空待機させているので、今日はあまり長居はできない。
早速、報告書をトーマスに渡して、知っていることが無いかを確認する。
「えーと、これはちょっと困りますね。前にも言いましたが、このへんはエスタンシア帝国にとってデリケートな問題なんですよ」
「じゃぁトーマスは北部平野の不作の原因を知ってたのか?」
「えー、まぁ、商売上手なのであんまり言えないんですけどね」
「商売上手だと言いにくいかもしれないけど、あの【豊作2号】について教えて頂戴。北部平野で回収した瓶と、トーマスさんに殺虫剤として貰った瓶で中身が違ったようだけど【豊作2号】には種類があるのかしら」
同じ商品名又は、同じシリーズ名で殺虫剤と除草剤の品揃えがあるとかそういう売り方なのかもしれん。
だとしたら、ラベルにちゃんと書いておいて欲しいものだが。
「えーと、【豊作2号】は一種類しかないですよ。本来は殺虫剤です」
「本来はっていうことは、除草剤にもなるのか」
「えー、これは【隠蔽】されている極秘情報なのですが、【豊作2号】の成分が分解すると植物に対して強力な毒性を発揮する場合があるんですよ」
植物を枯らせる作用を発揮していたのは【豊作2号】の成分の分解生成物だったか。
だから北部平野で回収した使い古しの瓶と、トーマスから貰った新品の瓶で作用が違ったのか。
これは盲点だった。
考えればわかりそうなことだった。
「トーマスは本当に何でも知っているな。今回のその極秘情報の情報源はどこなんだ」
「えーと、【豊作2号】製造元のジョンケミカルで研究員をしていた妻からの情報です」
「また信頼度抜群だな。って、結婚してたのか! 妻が居るのに妻を残して命を粗末にしようとしていたのか! それは感心できんぞ!」
俺は前世で妻と息子を残して死んだ。
こっちの世界でウラジィさんと【葬式】をしてちゃんと【死別】したから未練は無いが、そんな俺だからこそ家族がいる人間には命を大事にして欲しいのだ。
「えー、まぁいろいろ事情がありまして、そこは深く反省しているので勘弁してください」
そうだな。
今ちゃんと生きてるんだから、そこは追及すべきじゃないな。
「ちょっと待って。だったら【豊作2号】を使ったら作物が育たなくなるってことが製造元で分かっていたのよね。なのになんでこんなに広範囲に使用されているのよ」
「えー、そうでもないんですよ。【豊作2号】自体は優れた殺虫剤で、当時深刻だった害虫による被害を解決しました」
「そうか。植物を枯らせる作用があるのは分解生成物だから、分解する前は殺虫剤としてちゃんと機能するのか」
「えぇ、だから、【豊作2号】が実用化されてからは一時期豊作になりました。おかげで広く普及したんですよ。製造元のジョンケミカルは商売上手で大儲けでしたよ」
「まさか、広く普及して広範囲に使用された後に、分解生成物が植物を枯らせることが分かったとか、そんなパターンか」
「えーと、理解が早くて助かります。そんなパターンです。しかもなんか残留性が強いらしく、そしてやっぱり【豊作2号】は毎年使うのでだんだん畑で麦が育たなくなりまして」
「後からでも植物枯らせる作用が分かったなら、ちゃんと皆に知らせて販売と使用を止めなさいよ。そうしていれば食糧危機は防げたんじゃないの? オカシイでしょ」
「えーと、使用を止めようにも、【豊作2号】と【不作】の因果関係は立証されていませんからね。商売上手としては【豊作2号】の販売と使用を止める根拠が無いんですよ」
「…………何を言ってるか分からないわ。ちょっとパス」
【ツッコミ上手】のジェット嬢が匙を投げた。
特技のツッコミで俺に助けを求めるのはリオ主任のぶっとび発言以来だな。
だが、ここは前世では技術者として生きた40代オッサンである俺の得意分野だ。任せろ。
【因果関係が立証されていない】
コレは俺の前世世界で多用された言い回しだ。
国や大企業が被告になるような【公害】や【薬害】の訴訟においてたびたび出てきた。
【公害】が無くたって、作物が枯れることはあるし、人が病気になることもあるし、死ぬこともある。
発生した被害が【公害】に起因するかどうか。端から見ると一目瞭然であったとしても、被告側から【因果関係が立証されていない】と全否定されてしまうと、原告側が【因果関係を立証】して裁判で被告側に認めさせるのは非常に難しい。
なんせ、相手は大金を持っている巨大組織。研究機関も報道機関も、場合によっては司法すらもあっち側。
それに対して被害者側は経済的にも困窮している立場。被告側の主張を覆せるほどの確実な根拠で【因果関係を立証】するための研究の余力は無い。
正義感を持った研究者や弁護士が下手に被害者側に味方しようものなら、各方面からの圧力により出資者を失って社会的に潰される。
そして、そういうところは報道機関もスポンサーへの忖度で【報道しない自由】を発動するので、被害者は人知れず泣き寝入りを強いられるという現実。
ここだけ見ると酷い話だが、残念ながらこれも必然性があるのだ。
「そうだよな。研究レベルで因果関係が分かってても、それを認めて販売と使用を止めると、薬剤が売れなくなるからなー。会社の売上減るからなー。そして発生した被害について賠償を求められたりするからなー。認めることなんてできるわけないよなー。そんな研究結果は【隠蔽】するしかないよなー」
「えー、そうなんですよ。商売上手としては【隠蔽】するしかないんですよ。商売上手を分かってくれて助かります」
「正直に因果関係認めて賠償しようとしたところで、北部平野全域あんな感じになっちゃったら、いくら商売上手でも一企業で賠償なんてそもそも無理だしー。国が救済しようにも、それでその国全体が食糧危機なんだから手に負えないしー。今更【豊作2号】の使用を止めたって、本当に再度耕作が可能になるのか、そしてそれがいつになるのかも分からないしー。そんな状況で商売上手として正直に謝る選択肢は無いよなー」
「えぇ、そうなんですよー。まさにそれなんですよー。商売上手ですからねー。やっぱりそうなっちゃうんですよー。理解していただけてありがたいです」
「オカシイでしょ! オカシイでしょー!」 バンバンバンバン
ジェット嬢が顔を真っ赤にして両手でテーブルを叩いて怒っている。
まぁ怒りたくなる気持ちは分かるが、コレは本当に簡単な問題じゃないんだ。




