12-2 商売上手と電話のはじまり(1.8k)
環境調査用試料採取の帰路。
ついでに採取した謎の薬品【豊作2号】の情報を得るため、俺達はトーマスの小屋に寄ることにした。
分析を急ぐため、採取した試料を満載した【双発葉巻号】は先に首都に帰ってもらうことにして、俺達はトーマスメタル社近辺上空で再び【発艦】。
今回は貨物室で試料の整理と運搬をしたかったので、かさばる【ジェット☆シューター】は首都飛行場に置いてきた。
だから今回はジェット嬢の単独発艦と空中キャッチはナシ。
ジェット嬢を背負った俺が投下扉から普通に飛び降りて【発艦】。
なんかもう、飛んでる飛行機から飛び降りるのも慣れてしまった。
慣れって怖い。
そして、トーマスの小屋に来て、ジェット嬢を椅子に降ろしてテーブルを囲む。
トーマスがコーヒーを淹れてくれた。
「毎回突然来てしまってすまんな」
「えー、かまいませんよ。私もわりと楽しみにしてますし」
「そう言ってもらえるとありがたいわ。ちなみにトーマスさんはいつもここに居るのかしら」
「えぇ、最近はここに寝泊まりしています。会社の仕事の面でも私がここに常駐していた方が都合がいいんですよ」
「そうか。この世界では【電話】とか無いから、誰か一人が一か所に留まって情報を集約しないといけないのか」
「えー、何ですかその【電話】って」
「【電話】というのは、俺の前世世界での通信技術で、離れた場所で会話ができるような装置だ。こっちの世界でも一時期作ろうとしたがうまくいかなくてな」
「えーと、なんか面白そうですね。どんなものなのか教えてもらえないでしょうか。商売上手として気になります」
トーマスが意外にも【電話】に食いついたので、前世世界の【電話】とか、去年にウェーバと試した電波による無線通信技術の話とかをした。
エスタンシア帝国はユグドラシル王国よりも電気技術の面でも先行しているようで、商売上手のトーマスとも割と技術話が通じた。
「えー、その電波というのが上手くいかないなら、遠隔で話したい場所同士を銅線で繋げばいいんでしょう。なんかできそうな気がしますよ。銅線なら売るほどありますし」
「そうか。そういえばそうだな。【電話】と言えば無線という先入観あったけど、よく考えたら初期の【電話】は街中に電信柱立てて銅線引っ張りまわして通話してたな。エスタンシア帝国なら銅線も沢山ありそうだし。でも、銅線長く伸ばすと絶縁体巻くのが大変そうだ」
「えーと、柱の上に銅線固定するなら、いっそ絶縁体いらないんじゃないでしょうか。あるいは、石みたいなものの両端に銅線固定して二本が接触しないようにして引っ張りまわすとか」
「確かにそうだな。俺の前世世界でも、裸銅線で碍子引き配線という施工法の資料を見たことがある」
「えぇ、なんかできそうな気がするので、ちょっと作ってみますよ。ここと地下倉庫の間でやり取りする方法が欲しかったんです。音を鳴らすとかできるだけでも結構便利になります。階段を上り下りするのがしんどいので」
「本当に、トーマスさんの天職は商売上手以外にありそうね」
久々に前世世界の技術の持ち込みをしてしまった。
この世界の【電話】技術の行く末が楽しみだ。トーマスが電話会社とか作ったりしたら面白そうだな。
「楽しみも増えたし、そろそろ帰るか」
「いや、用事が済んでないでしょ。【豊作2号】の件」
「そういえば、そうだな」
ジェット嬢が久々に【ツッコミ上手】を披露。
「トーマスさん。【豊作2号】っていう薬品に心当たりないかしら」
「えー、ありますよ。エスタンシア帝国で普通に売ってる便利な殺虫剤です。主に農業用に使われます。在庫ありますよ。買っていきますか?」
「そうか、やっぱり【農薬】だったか。って、在庫あるのか。金属材料商社じゃないのか?」
「えーと、在庫というと商売上手としてはちょっと不適切でしたね。元は販売用ではないのですが余っている物が二本ありまして」
「一本買っていくわ。あと資料が欲しいわ」
「えー、毎度ありがとうございます。資料とか説明書とかいろいろありますよ。地下倉庫から持ってくるのでしばらくお待ちください」
トーマスから殺虫剤【豊作2号】一本とその資料を受け取り、俺達は【カッコ悪い飛び方】で帰路に付いた。
お代はサービスらしい。トーマスの言う商売上手というのが、俺にはいまいち分からない。
でもまぁいいか。




