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12-1 双発葉巻号と環境調査(2.7k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と九十三日目。フラッと行った【魔王城】で【魔王】呼ばわりされて、ちゃっかり【魔王】を名乗るようになってから九十三日後。


 【元・国王】のソド公と、エスタンシア帝国北部の【環境問題】原因調査の相談をしてから三日後の午前中。


 エスタンシア帝国北部平野にて俺は【環境調査魔王】となり、上空待機する【双発葉巻号】を母機として地上からのサンプル採取を行っている。


 【カッコ悪い飛び方】で目標地点に着陸し、試料採取用の瓶に土や水を採取。

 それを背後のジェット嬢に渡して採取場所や試料番号を記入してもらってから、俺が抱えている回収用バッグに詰める。


 そのバッグで予定している試料採取が終わったら、【カッコ悪い飛び方】で離陸して、低速飛行する【双発葉巻号】に下から接近。

 投下口から降ろされたワイヤーのフックに回収用バッグを固定し一旦離脱。


 ワイヤーを巻き上げて回収用バッグを機内に収納したら、次の回収用バッグをワイヤーで降ろしてもらう。

 俺達は再び【双発葉巻号】に下から接近してそのバッグを受け取り、次の試料採取。


「多いわね」

「多いな」


 採集する試料の量だ。

 ソド公が大張り切りで広範囲の環境調査を計画したので、回収する試料が多くなってしまった。

 採取した試料を【双発葉巻号】に載せるために都度【着艦】していたのでは効率が悪いので、飛行しながら容器と試料を受け渡しする方式で作業を行っている。


 大型機を追いかけて飛びながら荷物の受け渡しとか、前世世界の空中給油に近いかな。

 【カッコ悪い飛び方】は俺がジェット嬢に背負われる形で上を向いているので、こういう作業がやりやすい。


 機内でバッグ回収用のワイヤー巻上装置を操作するのはイエロー。

 写真乾板も搭載したので、イエローは試料採取と同時進行で【航空写真】も撮影している。


 試料採取の指示と回収した試料の整理をしているのは機内貨物室に同乗する【辛辣しんらつ長】だ。長年ソド公の側近として助手的立ち位置に居たので、今回もソド公の助手として試料採取の現場指揮を申し出てくれた。


 試料採取自体は事前に立てた計画通りに行っているが、状況報告や予定変更などのやり取りも必要になる。今回それはバッグに張り付けたメモ書きで行っている。

 こういう時、キャスリンの【一方通信】が使えると便利ではあるのだが、残念ながら今回は来ていない。


 先日の【立場的にマジで危ない問題発言】により、国王より【出国禁止令】が出されたうえに、現在サロンフランクフルト医務室で【腹ばい女】状態とのことだ。


「尻叩きで数日立てなくなるものか?」

「なるわ。メアリのは特別よ」


 なるのか。そしてメアリのは特別か。

 そこは深く聞かないでおこう。


「試料採取バッグはこれで最後だな。次は村の跡地か」

「近くまで来たわ。着陸するわよ」

「了解」


…………


 村の跡地からちょっと離れた場所に着陸する。耕作放棄地の中にある村で、前回弁当を食べたところとは別の場所だ。

 歩いて村の中に入ると、やっぱり人気ひとけは無い。


「移住したのはここ数カ月のようだな。空家の状態がいい」

「そうね。環境問題が解決したら、また住めるようになるといいわね」

「そうだな」


 建屋が木造の日本家屋風なので、俺の前世世界の農家の家によく似ていて気分的に落ち着く。

 【魔王城】の別荘としてこういう建物をどこかに持っていてもいいかなと思っていたら、その家屋の隣に農機具庫のような小屋を発見。


 何かあるかもしれないと思ってその中に入ると、ほぼ空っぽになっている器具庫の端の棚に、500ml試薬瓶のような褐色の瓶を発見。中身は液体で残量二割程度か。ラベルが貼ってあるが俺には読めない。


 ラベルの記述が気になるので、棚に背中を向けてジェット嬢に読んでもらう。

 

「ジェット嬢よ。その瓶のラベル読めるか?」

「読めるわ。【豊作2号】って書いてある」


「それが何なのか心当たりは無いか?」

「ユグドラシル王国では見たこと無い名前ね。何かの薬品かしら」


「ラベルに他に何か書いてないか?」

「名前しかないわ」


「【農薬】か何かかな。手がかりになるかもしれないから回収しよう。瓶の表面が濡れているから、素手で触らない方がいいな。紙袋に入れるから、この紙袋に【豊作2号】って書いてくれ」


 背後のジェット嬢に紙袋を渡して文字を書いてもらう。

 俺は未だにこの世界の文字の読み書きができないが、ジェット嬢が居るから不便はしていない。


…………


 予定していた試料採取を終えて【双発葉巻号】に【着艦】。

 貨物室で昼食の弁当を食べながら、午後の予定を話し合う。


 【辛辣しんらつ長】が【豊作2号】に興味を示した。


「この【豊作2号】の情報が欲しいですね。ソド公に分析を依頼するにしても、ある程度素性が分かっていないと安全な取り扱いが難しいかと」

「確かにそうだな。じゃぁ、帰りにトーマスのところ行くか。何か知ってるだろう」


 俺は前世で40代の開発職のサラリーマンだった。

 モノづくりをする中で化学薬品を扱うこともあり、社内にある化学実験室で作業をすることもあった。そこで、絶対にやっちゃいけない事というものがあったのだ。


 【ボトルに中身を入れてラベルを貼らない】


 例え中身がただの水道水だろうと、それは入れた本人にしか分からない。

 素性の分からない液体の入った担当者不明のボトルを見た人は、その中身が人体に有害な物や、排水したらイケナイ物が入っていると考えて扱わないといけない。


 水と油の区別は性状で何となくついたとしても、水だったら強酸、強アルカリ、重金属イオン、毒性の高い有機物が含まれる可能性。

 油だったら、揮発性、引火性、爆発性、有毒性……。化学薬品の中には少量でも危険なものはたくさんあるのだ。


 そういう厄介なボトルが出てきて、それを処分しようとした時には、まず【分析】をしないといけない。

 素性が分からない物の【分析】を安全に行うのは難しいしコストもかかる。

 しかも有機物と重金属は定性分析の方法も違うなど、正体を突き止めるために必要な分析項目も多くなる。


 だから、そういう厄介なボトルを作るのは【重罪】なのだ。


 退職者が使っていた実験デスクの引き出しから液体入りラベルなしボトルが大量に出てきた時は、化学実験室が阿鼻叫喚になったりした。


 化学も関与していた前世40代開発職オッサンとして言いたい。

 中身を入れるなら、ボトルにはせめて名前を書いて。

 そして中身も書いて。

 市販薬品を小分けするなら【SDS(製品安全データシート)】を取得してその管理番号とか書いて。


 【ラベルなしボトル】ダメ絶対。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話は特に科学者視点が面白いです。 ”ラベルなしボトル”、”裸導線通信”、極めつけは、”全員生きる理想的選択肢を用意できるのは技術者のみ”。 ファンタジーの世界に科学を入れるとこんなに毛色…
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