11-5 魔王は環境問題を見過ごせない(2.7k)
南の空から環境技術の専門家を乗せたという【双発葉巻号】が飛来。
部屋で待つと言ったジェット嬢は車いすで【魔王城】居住区画の居室に戻った。
その専門家とは顔見知りらしいが、今会うのは避けたいらしい。
【魔王城】のエントランスにあるテーブル席で、俺と【辛辣長】の二人で待っていると、入口ドアの通用口からブルーが入ってきた。
「臨死ブルー、【双発葉巻号】にて乗客二名を連れて帰ってまいりました!」
シャキーン
臨死ブルーがシャキーンと挨拶する後ろには、キャスリン。そしてその後ろには、入口ドアの通用口から顔だけ出して城内を見ている大柄な男がいる。
「ご苦労だったなブルー。次の出発に備えて休憩していてくれ」
「了解であります」 シャキーン
【辛辣長】の指示に従い、【魔王城】の居住区画に帰っていくブルー。買い物袋を持っている。【魔王城】メンバーに頼まれた買い出しがあったようだ。それを届けに行くのかな。
「ソド公、【魔王妃】様は居ないから大丈夫だぞ」
「そうか。久しぶりだな。オットー」
「元気そうで何よりだ。あと、ここでは【辛辣長】と呼んでくれ」
【辛辣長】が声をかけると、半分隠れていた大柄な男がエントランスに入ってきた。作業着姿でサングラスを付けて帽子を被った大柄な男。
【元・国王】だ。
キャスリンと【元・国王】もテーブルに着席。アンが人数分のコーヒーと、クッキーの大皿を出してくれた。【魔王城】の一升瓶メイドは仕事が速い。
「もしかして、有害物等の専門家って……」
「私だ。もう国王は退位したからソド公とでも呼んでくれ。本業で活躍できる機会ができてうれしいよ」
「本業って。確かに首都で密会した時に、変装用にしては作業服が似合いすぎているとは思っていたけど……」
「ソド公はユグドラシル王国の環境工学の権威だ。国王の時もそっちが本業と度々主張していた。その度に止めてはいたのだが、退位した今なら堂々と本業で仕事をしてもらえる」
「困った国王だと薄々思っていたけど、本当に困った国王だったんだな」
「ああ、油断すると、王宮を留守にして環境化学研究所の方にフラッと行ってしまう。本当に困った国王だった……」
【辛辣長】が遠い目をしている。
側近として【宰相】をしていた頃から苦労していたんだな。
「機内では【魔王妃】様に会うのをずっと怖がっていましたが、会わずに済んでよかったですわね」
「……そうだな……」
キャスリンの棘のある指摘。
それにちょっと怯えるソド公。
「ずっと気になっていたけど、この国のやたら厳しい環境規制もソド公が絡んでいるのか?」
「そうだ。自然環境の破壊は取り返しのつかない事態につながるからな。国内から反対意見は多かったが、国王として仕事している間はそこにはこだわっていた」
「確かに、エスタンシア帝国の状況を見るとその判断は正解だったな」
「エスタンシア帝国の現状の情報提供については礼を言わねばならんな。イェーガ王は各地領主の要望を受けて環境規制の緩和を検討していたようだが、キャスリンからの情報を聞いて考え直したそうだ」
「そうか。国の役に立てたのならなによりだ。でも、そもそもそこにこだわった理由は何なんだ。過去にユグドラシル王国でも【公害】事件があったのか?」
「いや、私が子供の頃に見た【予知夢】のようなものに従って続けてきた。各方面からの反対意見は強かったが、その苦労が今まさに報われたところだ」
ソド公が感慨深そうに語る。
【公害】の前例もないのに環境規制を続けるとか、相当な抵抗はあっただろうが、それでも続けることができたのはやっぱり【国王】として優秀だったということだろうか。
エスタンシア帝国の惨状を見て、その努力が報われたということか。
「ちなみに、どんな【予知夢】だったんだ?」
「【鉱毒】で村を滅ぼされた住民の代表としてその国の【王】に【直訴】して逮捕される夢だった。夢とは思えないほど真に迫ったもので、農作物の全滅や奇病の多発など、環境汚染の恐ろしさを子供心に感じたものだ」
微妙に【電波】が絡んでいるような気がするな。
「後に学んだ技術でそれが実際にあり得ることと知ってから、環境破壊を伴わない経済成長に人生を捧げると心に決めたのだ」
まぁ、その【予知夢】のおかげで国自体が救われたんだからいいのかな。
そこから、環境保護一方ではなく経済成長も同時に考えていたあたり、優秀な【国王】ではあったんだな。
その後、エスタンシア帝国の地図を見ながら、ソド公とエスタンシア川流域の惨状の原因について相談。
ソド公曰く、上流側の惨状は【鉱毒】が原因と考えられるが、下流平野部の異常事態の原因は別とのこと。
俺の靴と草が枯れた土だけでは分析するには試料が足りないので、現地での追加での試料収集を依頼された。現地の土、水、そして可能なら、耕作放棄地で放棄された作物。
ついでに、俺からは前世世界の分析化学の技術を覚えている範囲で伝えた。光を使った分析手法にソド公は特に興味を示した。持ち帰って応用できないか検討するとのことだった。
「環境化学研究所にて、試料回収用の機材を準備する。すまないが、準備が出来次第また現地に飛んでほしい」
「了解だ。飛行訓練も兼ねて行ってくる」
「原因が判明して我が国の技術で対処法も確立出来たら、エスタンシア帝国の国民の役にも立つだろう。外交交渉の助けになればイェーガのやつも喜ぶはずだ」
「そして問題を解決した暁には、金属資源の宝庫【北部の鉱山地帯】はイタダキですわ。あの規模の鉱山があれば、ユグドラシル王国はあと十年は戦えますの」
「…………」
懲りずに【立場的にマジで危ない問題発言】をしてしまったキャスリン王妃は、ソド公と【辛辣長】に連行されて【双発葉巻号】に拘束。
そして、ソド公とキャスリン、ブルー、イエローの四人を乗せて【双発葉巻号】は離陸。一旦サロンフランクフルトでキャスリンを降ろしたのち、首都に着陸する予定だ。
【双発葉巻号】に試料採取用の容器や機材を搭載するため、【機長】のブルーと機材係として同行したイエローは首都に残って【バー・ワリャーグ】にしばらく宿泊。
ブルーは最近本当に忙しい。
…………
レッドとブルーとイエローが不在でちょっと寂しい【魔王城】の夕食時。俺の隣で渋い顔をしたジェット嬢がつぶやく。
「キャスリンも懲りないわね」
「また【あの悲鳴】が聞こえるか」
「前回よりも痛そうな悲鳴が聞こえるわ」
「【外患誘致】は重罪だからな」
エスタンシア帝国北部からの分析試料採取。
準備期間は二~四日程度。準備出来次第再び俺達は北に飛ぶ。
エスタンシア帝国北部の悲惨な現状の原因を確認するために。
この世界の【魔王】は、【環境問題】を見過ごせない。
●次号予告(笑)●
北部平野の原因不明の不作。北部山岳地帯で発生した謎の奇病。長年農民を苦しめ続けたその自然災害の救済策として、エスタンシア帝国は現地の農民達にヴァルハラ平野への優先移住権を与えた。
【魔物】が居たことで耕作ができなかった肥沃で広大な土地。長年続いた不作により困窮していた農民達は新天地への移住を喜んで受け入れた。
希望に満ち溢れた開拓者達は、長年不作に苦しんだ中で開発した新技術を持ち込み開拓を進める。今年の作付けを目指して。
工業優先の政策が続き長年冷遇されていた農民達は、食料自給率の回復という【国策】を歓迎した。自分達の仕事が国に認められる時が来たと喜んだ。農業と工業の技術者が一致団結して国難に立ち向かう。国の未来は明るい。
それで済む話であった。
原因不明の不作と謎の奇病の原因が、本当に【自然災害】であったなら。
次号:クレイジーエンジニアと不都合な真実




