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11-2 オカシイでしょ! 環境と経済(3.5k)

 【新婚旅行】でエスタンシア帝国北部平野上空2000mから投下され、川沿いにに西側に飛んで山岳地帯に着陸。

 山林が何らかの理由で汚染されている惨状を確認後、川沿いに東に飛んで下流側に。

 麦畑に見えた平野部に着陸して歩き回るとまた奇妙な光景。


「【耕作放棄地】ね」

「【耕作放棄地】だな」


 麦畑なのだが、収穫時期を過ぎても収穫されずに放置され、穂発芽しまくった麦で畑が荒れている。


「これは、オリバーが見たら怒りそうね。農夫なら作物を大事にしろって」

「ここまで育てて収穫せずに放置とか、意味が分からんな。作物価格が暴落して収穫が割に合わなくなったとかそういうことではないだろうな」


「ユグドラシル王国から穀物が輸入できるようになったから、こっち側の収穫をあきらめたとかかしら。でも、育った麦があるなら収穫してもよさそうなものだけど」


 荒れた麦畑から再び離陸し【カッコ悪い飛び方】でもう少し下流側へ移動して着陸。そこでもまた奇妙な光景。


「【荒野こうや】ね」

「【荒野こうや】だな」


 今度は、元は畑があったと思われる場所が荒野になっていた。


「この荒野、オリバーが見たら喜びそうね」

「そうだな。トラクターとかを持ち込んで大喜びで耕しそうだ」


 荒野こうやの中に村の跡地のような場所があったが、人の気配が全くない。建物の状態から見ると、空き家になってから一年以内ぐらいに見える。

 その村の跡地に入り、日本家屋風の空き家の軒下を借りて弁当タイム。ちょっと掃除してシートを敷いてからジェット嬢を降ろし、二人で並んで食べる。コレは夕食。時間は既に夕方。


 夏場なので日没までは時間があるが、この近辺に人が居る街とかは無さそうなので、宿泊場所をどうするか考えないといけない。


「でも、この荒野こうやもおかしいわね」

「どこがだ」


「放置されている割に雑草がほとんど無いし、虫とかもいないわ。【魔王城】の西側台地なんて、いくら刈ってもすごい勢いで雑草が生えてくるのに」

「そういえばそうだな。歩いた感じだと土は湿っていたから、完全に砂漠化しているわけではなさそうだが。極端に土が痩せているんだろうか。あるいは、川の汚染の影響だろうか」


「ここは川からだいぶ離れてるし、ため池もあったから川の水で耕作していたわけでもなさそうよ」

「だったらやっぱり別の原因もあるのか。ここだけ見たんじゃこれはわからんな」


「だれか事情を知っていそうな人に話を聞きたいわね」

「そうなると、やっぱりトーマスかな」


 俺の地理感が合っていれば、ここから南東方向に【カッコ悪い飛び方】で一時間半ぐらい飛べば、トーマスの小屋に到着できるはず。


「そうね。ついでにあの小屋に泊めてもらいましょう。最初はこのへんの村で宿を取りたかったけど、それも無理そうだし」

「そうだな。この周辺は宿泊できそうな状況じゃないし、なんとなく、あんまり長居しない方がいい気もする」


 弁当を片づけて、借りた空き家を軽く掃除して、村の外側まで歩いた後【カッコ悪い飛び方】で離陸。

 放棄された村とはいえ、推進噴流で村の施設を壊したらマズイからな。


…………


 【トーマスメタル有限会社】の倉庫がある山に着陸し、久しぶりに来たあの小屋の玄関にて、小太りな男と横向きで対峙する俺達。


「えー、お久しぶりです。地上で会うのは【密輸】以来ですね。まぁ中へどうぞ」

「トーマスか。久しぶりだな。でも、なんかこう、太さが太い感じに太くなっているな」


「ええ、おかげさまでたらふく食べることができるようになりまして。元に戻ることができました」

「そうか。それが元だったんだな」


「エスタンシア帝国の食料事情の改善が一目でわかってよかったわ」

「えぇ、でも、全国民が私みたいに肥えたわけじゃないですよ」


「それは分かってます」


 小屋の中の小さなダイニングのような部屋でジェット嬢を椅子に下ろし、三人でコーヒーを飲みながらテーブルを囲む。最初来た時に金貨を山積みにしたあのテーブルだ。


 トーマスによると、ユグドラシル王国からの食料の輸入により食糧危機は解決したとのこと。

 それにより食料自給率の回復を計画的に行う余裕ができたため、【国策】として【第二次ヴァルハラ開拓計画】が始動。

 耕作不適地となった北部平野居住者の救済策も兼ねて、ヴァルハラ平野への大規模移住と開拓を進めているとか。


「トーマスよ。さっきエスタンシア川流域を見てきたが、上流側がえらく汚染されていたぞ。この国の鉱山は自然環境に配慮した操業はしてないのか?」

「えー! あそこに入ったんですか? あのへんは立ち入り禁止区域で、汚染されている事実は【国家機密】ですよ」


「【国家機密】という割には汚染の事実を掴んでいるようだけど、どういうことかしら」

「えぇ、なにせ商売上手ですからね」


「その商売上手の情報源はどこなんだ」

「えーと、うちは金属材料の商社ですから、私は仕入れの時に普通に鉱山や製錬工場に出入りしてます。だから普通に現場を見てますよ。でも、立ち入り許可の条件として秘密保持契約を結んでいるので、そのへんは話せないんですよね。商売上手ですから」


「現場見てるんだったら、あの状態がマズイと思わないの? 川を汚して山を荒らして、そのうち取り返しのつかないことになるわよ。むしろ、下流側の不作とかそれによる食糧危機とか、すでに取り返しのつかないことになってるじゃない!」


 ジェット嬢が怒った。もっともな話だ。


「えぇ、でも、商売上手にもできないことはあるんですよ」

「まぁ、確かにこのへんは商売上手の担当する仕事じゃないな。これは国とか政府とかそのへんが担当するところだな」

「だったら政府に言わないと。このままじゃ北部平野に人が住めなくなるわよ」


「えぇ、でもまぁ、北部平野は既に人が住めなくなって、移住進めてますし」

「そうだな。それに鉱山に環境規制を適用するとなると、やっぱりそれなりの設備投資でお金がかかるし、金属材料の製造コストも上がる。商売上手が反対しそうな話だ」


「えぇ、分かってますね。そうなんですよ。川とか山とか汚したらマズイとは思うんですが、商売上手としては、材料の買値が上がるのが嫌なんですね」

「分かる分かる。でも、過去にもエスタンシア帝国内部で問題提起した人はいなかったのか?」


「えー、まぁ、居るには居たんですがね。でも、金属材料の値上がりで困るのは大多数の国民ですし。やっぱり政府もお金とかまぁ、政治家の方たちも商売上手と仲良しですからね。経済成長とか国策とか優先事項があると、そこを問題提起するような人はちょっとねぇ。まぁ、商売上手の立場上、あんまり言えないんですけどねぇ」


「うわぁ、それは俺もすごく分かる。やっぱり政治とか経済とか絡むと、環境保護とか後回しとか、そういう風になるよなー。国民の大多数にしてみても、行ったことのない北部平野やエスタンシア川の環境よりも、目先の鍋とか包丁とかの値段の方が重要だよなー。そうなるよなー」

「えぇ、そうなんですよ。そういうことなんですよ。分かってくれて助かります」


「オカシイでしょ! 考え方がオカシイでしょー!」


 ジェット嬢が顔を真っ赤にして怒ってる。

 確かにおかしいかもしれないが、そう言うだけでは解決しない難しい問題なんだなコレは。


 俺の前世世界でも【環境保護】と【経済的合理性】の両立は大きな問題だった。多くの悲惨な【公害】事件を通じて、長い時間をかけて人々の意識が変わったことで両立に至った経緯がある。


 まさしく【進歩のための犠牲】だ。


 意識改革が必要というなら、この世界の人達で頑張ってもらうしかない。俺はこの世界にとって【異物】だから、そういう部分ではあんまり前面には出ない方がいい。

 強いて、できることがあるとするなら【クレイジーエンジニア】の本分として、技術的な見通しを立てるところぐらいか。

 鉱山や製錬工場の排水を低コストで処理する技術があれば、解決の助けにはなるだろう。


「ジェット嬢よ。このオカシイ状況を何とかするためにも、鉱山や製錬工場の排水を浄化する技術の目途を立てたいんだが、そういう研究をしている領主とかに心当たりは無いか?」

「適任者に心当たりがあるわ」


 やっぱり居るんだ。

 ユグドラシル王国は【環境規制】がやたら厳しいから、そういう技術は結構期待できるかもしれん。


「えーと、何をするつもりか分かりませんが、このへんはエスタンシア帝国にとって結構デリケートな問題なので、あんまり無茶苦茶しないでくださいね……」


 俺達のやり取りを見たトーマスが不安そうに釘を刺す。

 わかってるよ。トーマス達が困らないように慎重に進めるよ。


 その後、その小屋に宿泊させてもらって、朝食を頂いた後、翌朝に【カッコ悪い飛び方】で出発。俺達は【魔王城】に帰った。

 一泊二日のちょっとした【新婚旅行】だった。

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