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11-1 何かがおかしいと思ったら、何もかもがおかしい(2.6k)

 40代の開発職サラリーマンだった俺が、剣と魔法の世界といえるこの異世界に転生してから一年と七十六日目。

 フラッと行ってみた【魔王城】で【魔王】呼ばわりされたことをきっかけに、【魔王】として【魔王城】に入居してから四十二日後の午後。


 俺は、エスタンシア帝国北部平野上空2000mでエセ添乗員に【双発葉巻号】から突き落とされ、【空から落とされる系の魔王】となった。


 自由落下の途中でジェット嬢に空中でかじりつかれて、無事に空中合体。

 前世世界で好きだったロボットアニメのアレを命がけで実践した充実感を感じつつも、【カッコ悪い飛び方】で説教を受けながら飛行中。


「落下中にほうけないで頂戴」

「正直すまんかった」


「キャッチ失敗したら墜落よ。いくらアンタでも死ぬわよ」

「そうだな。次からは気を付けるよ」


「今後のためにも訓練したいわね」

「訓練と言えば、なんで今回予定していた【ジェット☆タモネット】での【着艦】をしなかったんだ? 俺をぶっつけ本番で落としてまで着陸を急ぐ理由は無かったようにも思うが」


「機体近くは気流の乱れが激しくて、安定して飛べなかったのよ」

「そうか。よく考えたら単独飛行での接近は確かに危ないな」


 【双発葉巻号】は大型の双発機だから横から近づくとプロペラ後流で吹き飛ばされる。真後ろからだとスリップストリームで引き寄せられる。前からだとプロペラに吸い寄せられて巻き込まれる危険もある。

 自重が軽すぎて推力制御が不安定になる単独飛行で接近するのは確かに危険だ。


「だったら、俺が投下口から【ジェット☆タモネット】を出しておいて、それに勢いよく飛び込むという方法もあるんじゃないか?」

「それが出来ると思うなら、両腕縛った状態であのあみに顔面から飛び込んでみなさいよ」


「あー確かにすごく痛そうだな。あのあみ自体に改良が必要だな」

あみを改良したとしても、あの機の近くを飛ぶのは難しいわ。せめて【着艦】時はプロペラ止めてもらうことはできないかしら」


「できるとは思うぞ。でも制限時間はあるな。あんまり止めてると失速する」

「そこも訓練が必要ね」


「そう考えると、今回みたいに俺が飛び降りたほうが安全だな。この【カッコ悪い飛び方】での【着艦】なら投下口から長い縄梯子なわばしごみたいなものを降ろしてもらえれば簡単だ」

「そうね。私もそのほうが楽だわ。アンタがちゃんとキャッチしてくれるなら」


「またかじられないようにがんばるよ」

 

 ぶっつけ本番で空中投下されて服をかじられてキャッチ。

 無茶苦茶されたと思ったが、話を聞いてみればちゃんと必然性はあったわけだ。


 そもそも、自由落下する俺が接近するジェット嬢をキャッチするのは簡単なんだから、落下中にほうけていた俺が悪い。


 まぁ、無茶苦茶されても暴挙と思わずにちゃんと話を聞くのはとっても大事だね。40代のオッサンとして思う。

 うん。今日もちゃんと俺40代オッサンしてる。


 それにしても、【新婚旅行】で新婦を空中キャッチとか上手に出来たら結構ファンタスティックだな。


 いや、もしかしてジェット嬢はそれを狙ってたのか?

 だったらちょっと悪いことしたな。次はちゃんとしよう。


 そして今回は作業服の右袖みぎそでかじられた。

 かじられた場所を見ると、丈夫な作業服にφ5ぐらいの貫通穴が八か所も開いている。


【どう見ても人間の歯型じゃありません本当にありがとうございました】


 でも、そこは気にしないことにしよう。

 かじられたのが服だけで本当によかった。


…………


 エスタンシア帝国北部平野を流れる大きな川。エスタンシア川というそうだが、その川沿いに西に向かって飛び、上流の山岳地帯に着陸。山の中だが、明らかに様子がおかしい。


「ジェット嬢よ。ここはピクニックやキャンプには適さない場所に思えるぞ」

「川の上流でキャンプとか楽しそうと思ったんだけど、確かにここで何かを食べたい気はしないわね。何なのかしらこの状況」


 川の水は赤く着色し、川底や川辺には黒い泥のようなもの。山には枯れ木だらけになった林と、ところどころ崩れた痕跡。周囲から刺激臭もする。

 空から見た時点でなにかおかしいと思ってはいたが、地上から見るとその異常さがよくわかる。


 そして、俺は前世世界の知識より、この状況の原因に心当たりがある。


「ジェット嬢よ。この近くに鉱山やそれに類する施設は無いか」

「あるわ。キャスリンからもらった地図によると、ここより上流側はエスタンシア帝国最大の鉱山地帯よ。採掘基地と製錬工場が複数個所あるわ」


「原因はそれだな。俺の前世世界で【鉱毒】とか【公害】とか呼ばれていたものだ。採掘や製錬で出た排水をろくに浄化処理もせず川に捨て続けたんだろう」

「有害な金属や薬品を含んだ排水を川に捨てることは禁止されているはずよ」


「それはユグドラシル王国での話だろう。この状況を見る限り、エスタンシア帝国にはそういう決まりが無いか、まともに機能していないかのどちらかだな」


【公害】


 技術の進歩や経済の成長により発生する大規模な環境汚染と、それを起因とする健康被害。

 俺の前世世界でも経済成長期に国内各地で発生した。一度ひとたび発生すると被害規模が甚大になるため、解決に相当長い時間を要する非常に厄介な社会的災害だ。


「採掘していた鉱石や流出した有害物質は分からんが、川の周辺の状況を察するにそれなりに長期間汚染は続いていたように見える」

「北部平野の不作の原因はコレかしら」


「そうだな。主要因と断定はできないが、原因の一つではあるだろう」

「他にも原因に心当たりがあるの?」

「いや、現時点では無いが、おかしい状況を見た時の心構えがあるんだ」


【何かがおかしいと思った時は何もかもがおかしい】


 前世で40代の開発職サラリーマンをしていた時に学んだ心構えだ。

 異常事態が一個だけだったとしても、原因が一つとは限らない。だから、最初から原因は多数あることを前提に調査をするのが大事だ。

 おかしくなった原因は全部対処しないと問題は解決しないのだから。


「分かるような、分からないような……」

「そのうち分かるさ。下流側も見ていこう」


「その前に、川辺の泥をちょっとだけ持ち帰りたいわ。コーヒーを入れた水筒を一本開けて、泥を詰めて頂戴」

「了解だ。有毒な物だろうから、扱いに注意は必要だな」


 俺達は、その場でコーヒーを飲んで立ったまま一休みした後、空けた水筒に泥を詰めて【カッコ悪い飛び方】でその場を離れた。

 次来るときは空き瓶を準備しようと思いながら。

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