10-5 懐かしき銀塩写真(2.9k)
イエローとブラックが出張から帰ってきて、【人材派遣会社】の構想をしてから五日後の昼過ぎ。滑走路に待望の大型機が着陸した。陸上突撃機【双発葉巻号】の到着だ。
「臨死ブルー、【双発葉巻号】の【機長】に就任して帰って参りました!」
シャキーン
【魔王城】エントランスの座敷でくつろぐ俺達にシャキーンと挨拶をする臨死ブルー。約二十日ぶりの帰還だ。なんか顔つきもりりしくなっており、【機長】という感じになってる。
「久しぶりだなブルー。あの大型機を一人で操縦できるのか」
「航法含めて操縦は一人で可能であります。副操縦士が居なくても飛べます。副操縦士が居ない方が安全に飛べる場合もあります」
よくわからないことを断言するブルーの後ろで、キャスリンが視線を逸らしている。
なにかやらかしたんだな。深く追及はしないでおこう。
「早速だけど行きたい場所があるの。地図書いたから、航路確認しておいて」
「了解です」
ジェット嬢が渡した地図を持って、ブルーはエントランスのテーブル席の方に行った。航路と航法の確認かな。
俺とジェット嬢とキャスリンでちゃぶ台を囲む。メイがコーヒーとビスケットを持ってきてくれた。
「エスタンシア帝国から上空飛行許可を取ってきましたわ。市街地上空以外なら好きに飛んでいいそうですの」
「許可取れたのか。休戦中の敵国に領空の飛行許可を出すなんて俺の前世世界では考えられなかったぞ」
「飛行機を戦争に導入しなかった成果ですわ。条件付きですが許可自体は簡単に取れましたの」
「どんな条件を付けられたんだ」
「【写真機】を貸し出すから北部平野の【航空写真】を撮ってきてほしいと」
「休戦中の敵国にそれを頼むのか。対空警戒全くナシだな。それはそうと、こっちの世界にも【写真機】あったんだな。今回借りてきた【写真機】はどんなものだ」
「光を感じる薬品を使って紙の上に像を作る物だそうです。【撮影】のあとに【現像】という処理が必要で手間がかかりますが、絵よりも綺麗に映りますわ。今回借りてきたものは【双発葉巻号】の機首の窓部に搭載していますの」
俺の前世世界のあの機では爆撃照準器があったところか。
たしかに写真機を置くのにちょうどいい場所だ。だが、【双発葉巻号】のその区画にはビッグマッチョの俺は入れない。
「そこに置いてあると俺が触れないが、撮影はどうするんだ。ブルーが操縦しながら撮影というのも難しいだろう」
「撮影個所の指示を受けていますし、取り扱いの難しい機械なので私が撮影しますわ」
それは助かる。
そして、この世界にも写真機があるなら、俺の楽しみも広がる。
「その写真機だけど、手持ちで撮影できるようなものは無いか?」
「【写真機】は大きい装置なので手持ちができるとは思えませんわ。【魔王】様の前世世界ではそんな小さな【写真機】があったのでしょうか」
「あったぞ。俺が前世世界で死んだ頃には、別の技術に世代交代されて廃れていたけど、片手で撮影出来て、最大三十六枚ぐらい撮れたりした。フィルムがネガフィルムで、焼き増しして写真を増やせたりした」
懐かしいアイテムが出てきたので、俺は前世世界の【写真機】を思い出してしまった。
この世界の【写真機】は、おそらくは俺の前世世界で【銀塩写真】と呼ばれていたものの原型だ。
デジタルカメラは撮影後すぐに映像が確認できるが、この【銀塩写真】はフィルム枚数全部撮影した後で、フィルムカートリッジをカメラから取り出して、写真屋さんに【現像】を依頼して、それを受け取ってからしか写真を見ることができないという不便なものだった。
その不便さ故に、デジタルカメラ技術の進歩によりあっという間に市場から駆逐されてしまったが、趣味として楽しむならあれはあれで良いものだった。
前世で俺は白黒写真ではあるが、写真フィルムの【現像】にも挑戦したことがあった。
真っ暗な暗室の中で、複数の薬品を使って温度と時間を確認しながら手順通りに処理をして、フィルムに像が浮かんできた時は嬉しかったものだ。
でも、すごい手間がかかるから挑戦したのは数回だった。機材もいろいろ必要だし廃液処理とかも必要だから、趣味でするにはハードルが高い物だった。
「その【写真機】っていうのは面白そうね。なにか資料とか無いかしら」
「詳細な資料は受け取っていませんが、頼んでおきますわ」
「お願いするわ。あと、【写真機】本体と【現像】に必要な機材も一式欲しいわ。イエローなら扱えると思うし」
「【現像】の処理もこちらでするとなると、ちょっと大掛かりになるかもしれませんが、それも確認してきますわ」
【魔王城】に【暗室】を作って写真を現像できるようにするか。
俺も一応経験あるし、案外ジェット嬢が得意かもしれん。暗くても見えるとか言ってたし。
なにかと楽しみな【写真機】の話が一段落して、三人でちゃぶ台でコーヒーを飲みながらビスケットをつまむ。
コーヒーを飲み終えたキャスリンが話を切り出す。
「ついでの連絡ですが、旦那が王に即位しましたの」
「それついでかよ! 大事じゃないか」
扱いの軽さに思わず突っ込む俺。
「あらそう。式典とかはするのかしら」
「今朝終わりましたわ。更地になった王城跡地で再建の【竣工式】のついでにささっと」
「この国で王の交代ってそんなに軽いものなのか? よくわからないけど、国中から来賓を招いて盛大な式典とか、街中パレードとか、一日中お祭りとかそんなイメージあるけど」
「慣例的には、仰る通り盛大な式典を行うものなのですが、今は式典をしようにも王城は更地ですし、財政難が酷くて来賓を呼ぼうにも宿泊場所が確保できず。また、先日あのようなことがあったばかりなので、各地領主も首都に来たがらないですし……」
しょんぼりとして応えるキャスリンが見覚えのあるオーラを出している。
あのオーラは俺の前世世界で見た覚えがある。
【楽しみにしていた修学旅行に来たけど周りが見えないぐらいのすごい大雨で、集団からはぐれないようにと前を歩く友人の傘だけを見て一日歩き回り、やっとの思いで宿に到着し、ずぶ濡れの靴に宿でもらった古新聞を突っ込んで明日に備えた後、今日の感想文何を書けばいいんだろうと部屋で鞄を空けたら中まで水浸しで、しおりも感想文の用紙もドロドロになっていて途方に暮れた時】
のオーラだ。
「まぁ。それは大変ねぇ」
他人事のように言ってるけど、全部ジェット嬢の仕業だよな。
「旦那の支持率が高いのだけが救いですわ」
がんばれキャスリン。負けるなキャスリン。
そのうちいいことあるさ。
「近々、旦那を連れて改めて即位の挨拶に伺いたいのですがよろしいでしょうか」
えっ。国王がこっちに挨拶に来るの? それでいいの?
「いいわよ。でもちょっと準備に時間欲しいわ。【魔王城】の玉座を私が安定して座れるように改造したいの」
たしかにあの玉座はジェット嬢が安定して座るには座面が大きすぎるけど、って、謁見の間で玉座に座って国王を迎えるの? それでいいの?
「ありがとうございます。旦那の日程は【魔王】様の都合に合わせますわ」
国王がこっちに合わせて予定立てるの? それでいいの?
この世界では【国王】より【魔王】のほうが上らしい。
【魔王】って一体何なんだ。
まぁ、俺の事らしいけど。




