10-4 王宮人材派遣会社構想 魔王は給与所得者の味方(2.7k)
イエローとブラックが王宮から【金庫】と【禁書庫】の中身を根こそぎ頂いてきた日。
数時間がかりで一通りの荷下ろしが終わった。
力仕事を終えたレッド、イエロー、ブラック、グリーンは【魔王城】エントランスのテーブルにてコーヒーを飲みながら休憩中。
俺とジェット嬢と【辛辣長】はエントランスの座敷のちゃぶ台で金貨の扱いについて相談。
【辛辣長】がブラックが持ち帰った書類を見ながら渋い顔で話を切り出す。
「【魔王妃】様。【慰謝料】の支払いは仕方ないのですが、王宮の主計課からの資料によると今回の金貨搬出により運転資金がほぼ枯渇状態とのことです」
「当面しのげるぐらいは【借金】として残したはずだけど、何か大きな出費があったのかしら。運転資金が枯渇するのはさすがにマズいわ」
「王城再建のための資材購入の支払いに充てたようです。王宮は既に債権も発行できず、各商社からも金貨現物前払いでしか取引してもらえない状態になっているとのことで、それで金貨が枯渇したようです」
王宮が【信用不安】状態かよ。
衆目の面前で王城を【墓標】にされたのが効いているのかな。
だとしたらこれもジェット嬢の仕業だよな。
そうなると、俺としては気になることがあるので聞いておこう。
「王宮の資金が枯渇するとなると、そこで働いてる職員の給料はどうなるんだ?」
「資金が工面できるまでは給料の支払いを遅らせるしかないかと」
「それは相当マズイぞ【辛辣長】。支払いの優先順位を間違えてる」
資金繰りが悪化して経営が傾いた会社ではいろんなトラブルが起きるが、【給料未払い】はそのトラブル中でも末期症状だ。
コレが出ると倒産寸前という一番やっちゃいけないパターンだ。
「申し訳ありません【魔王】様。私が【魔王城】に来てしまったので、そういう交渉ができる人間が王宮に残っておらず……」
シュバッ
ジェット嬢が渋い顔で両腕を振り上げて存在アピール。
いや、座ってるんだから普通に話しかければいいんだぞ。
「アンタ達学習してないの!? 前任者が居なくなっても業務が回るように普段から備えをしておきなさいよ! それでさんざん痛い目に遭ったところでしょうが!」
ジェット嬢が怒った。
まぁ、前任者不在で痛い目に遭った件は多分【滅殺案件】がらみなので、俺はあえて知らんぷり。
ジェット嬢は他にも言いたいことがあったらしく、【給料未払い】が職員の生活にとってどれほど迷惑かとか、王宮職員の労働環境とか、安全管理とか、給与体系とか、査定制度とか、教育体制とか、上層部の現場感覚の欠如とか、そういう内容での【辛辣長】に対する辛辣な説教は小一時間ほど続いた。
内容がえらく具体的だけど、王宮で一体何をしていたんだジェット嬢よ。【第一王子の婚約者】じゃなかったのか?
そして、王宮職員の労働環境は意外と【ブラック企業】だったんだな。
王宮内部事情に通じたジェット嬢による【辛辣】な説教をされてうなだれる【元・宰相】の【辛辣長】。
テーブル席の方では、ゴエイジャー四人と一升瓶を持ったアンとメイがこっちを見てガッツポーズをしている。
ずっと言いたかったんだな。
言いたかった事をジェット嬢が言ってくれて気が晴れたんだな。
ジェット嬢に説教されて【辛辣長】はしょんぼりしてしまったが、問題は何も解決していない。
俺は前世では40代サラリーマン、つまり【給与所得者】だった。だからこそこの世界の【給与所得者】の方々の生活の安定を守りたい。王宮職員が【給与未払い】の仕打ちを受けるのは阻止せねばなるまい。【魔王】として。
「ジェット嬢よ。経緯はどうあれ【給与未払い】は阻止しないとマズイだろう」
「実際マズイわね。職員の生活も人それぞれだけど、あんまり余裕の無い人もいるから、短期間でも【給料未払い】は生活への影響が大きいわ」
「当面しのげたとしても、王宮の資金難は続くんだろう。雇い主がそんな状態だと職員も不安だな。そこは何とかしてやらないとな」
俺は、久々に前世世界の知識を活用することにした。
ポク・ポク・ポク チーン
「【派遣社員】だ!」
俺の前世世界では、人材派遣会社に雇用された状態で、派遣先の別会社で仕事するスタイルの働き方が存在した。
派遣先が人材派遣会社に派遣費用を支払い、人材派遣会社が派遣社員に給料を支払うシステムだ。俺の前世世界では【搾取構造】なんて呼ばれることもあったけど、今回の場合は逆に使える。
「王宮職員を全員【魔王城】で雇って、そこから王宮に派遣して仕事をしてもらう形だ。彼等の給料を【魔王城】から支払うなら彼等も安心するだろう」
「王宮の人件費を【魔王城】で肩代わりするの? 職員は喜ぶかもしれないけど、それはなんか違う気がするわ」
「肩代わりじゃないぞ。王宮には【人材派遣費用】として人件費にこちらの手間賃を上乗せした分をきっちり請求する。だが、こちらは支払いが滞ったとしても王宮の【借金】が増えるだけで職員の給料には影響が出ないから問題は少ない」
「なるほど。職員の生活を守りつつ、王宮の【借金】を好きなだけ増やせるわけね。これはいいわね」
ジェット嬢も賛同してくれるようだ。
せっかくだからついでに、親切誠実だけでは生きていけない前世世界で歳を重ねた40代オッサンの年季の入った腹黒さも発揮してみよう。【魔王】として。
「さらに言うなれば、【派遣社員】は基本的にこちらが雇用主になる。派遣先との契約条件にもよるが、派遣先での仕事内容はこちらから指示することもできるし、場合によっては【派遣社員】の引き上げもできる。つまり、王宮内の【人事権】を掌握できるということだ」
「イイわ。スバラシイわ。資金だけでなく人材も掌握してしまえば征服したも同然ね。早速準備しましょう。職員の方々の生活を守るため。あ、でも、雇用主は【魔王城】じゃなくて、専用の別会社を作りたいわね」
「会社を作るということは、久しぶりにフォードに頑張ってもらうか」
「そうね。ここはフォードとレッドに頼んで【人材派遣会社】を作りましょう。レッドにはしばらく首都の【バー・ワリャーグ】勤務をお願いするわ」
そういえばレッドは【ユグドラシル王国戦略陸軍】の統括と部隊編成を担当していたな。人材の扱いは得意のはず。
そして、首都に家族が住んでいると聞いたから首都勤務は喜ぶかもしれん。
王宮職員が全員【派遣社員】になったら、王宮は完全にジェット嬢の支配下だ。こんな危険な入れ知恵してしまって国王陛下にはちょっと悪いかなとは思った。
でも、支払いの優先順位をちゃんと管理しなかった国王陛下がイケナーイのだよ。
この世界の【魔王】は【給与所得者】の味方だ。




