10-3 慰謝料で魔王城は王宮よりも金持ちに(2.3k)
【魔王城】入居時から俺とジェット嬢は居室を共有している。だが、入居初日の雑魚寝を除いては一緒に寝ているというわけではない。
ジェット嬢の今の寝室は、居室内にある大きく拡張された【滅殺☆ジェット箱】だ。
イエロー作の高さ1000mm程度の木箱を複数連結したような構造物で、その中にクローゼット、私物の収納庫、寝室があるという。
俺は見たことが無かったが、去年住んでいたサロンフランクフルト食堂棟の四号室にも似たような構造物を作っていたとか。
両脚大腿切断で脚が無い今のジェット嬢は、立つことも歩くこともできない。それ故に天井の高い普通の部屋では生活がしにくい。それを何とかするために試行錯誤の末に行きついたのがこの構造らしい。
この構造を見て、前世で妻が飼っていたハムスターを思い出した。
ハムスターは本来は土の中に作った巣で生活する動物らしく、飼育する場合でもそれを模擬した【巣箱】を用意してやった方が健康で長生きするらしい。
捕まえて手の中で撫でまわしたい衝動は我慢し、巣の中で動き回る気配とたまに巣から出てきて動き回る姿を距離を置いて堪能するのが、ハムスターの正しい飼い方とのことだ。
そして、そのジェット嬢の【巣箱】の上が俺のベッドになっている。
普通のダブルベッドよりも広く、俺が乗ってもはみ出さない。木箱に俺が乗っても大丈夫か不安はあったが、ジェット嬢によると内側は鉄骨構造になっており、俺が上で立っても大丈夫とのことだ。
ジェット嬢の出入口は箱の上側、俺の枕元にある。
夜はその【巣箱】の中に降りるジェット嬢を見送り、朝は俺が先に起きて、ジェット嬢がそこから出てくるのを待つような毎日だ。
この【巣箱】の正面側には引き出しのような構造があり、着替えや洗濯物や廃棄物の出し入れ口になっているそうだ。そして、そこの扱いはアンとメイの仕事だ。
箱の側面にある梯子のところに車いすを横付けしておけば、ジェット嬢は一人で【巣箱】から出て車いすに移ることもできるようになっている。俺が動けない時でも必要最小限の生活ができるようによく考えられた設計だ。
車いすは【二連装ジェット迫撃砲】で壊してしまったが、護衛任務で街まで行った【辛辣長】が同じものを買ってきてくれた。
キャスリンが遊びに来てから三日後の朝。
起きてから軽くストレッチをした後で着替えて例のハーネスを装着。
東向きの窓から外を眺めながら、ジェット嬢が【巣箱】から出てくるの待つ。
【巣箱】の中でジェット嬢が動いている気配がする。
両脚の無い身体でどうやって動いて、どうやって寝て、どうやって着替えをしているのか。
興味は尽きないが【覗き行為】は厳禁だ。
黒焦げ以上に酷い目に遭わされる。
【巣箱】の上の蓋が開く。今日も背中合わせの日常が始まる。
今日は城より北側にあるヴァルハラ川に行く予定だ。
ジェット嬢は魚を食べたいそうなので、そこに魚が居るかどうかを見ておきたい。
魚が居たとして、それを食べて大丈夫かどうかは調べないといけないが。
エスタンシア帝国に魚食文化があったらいいなぁ。
◇◇◇
キャスリンが遊びに来て、国土全体の交通インフラで【都市開発シミュレーションゲーム】を楽しんだ六日後の午後。イエローとブラックが出張から帰ってきた。
「首都出張から帰ってまいりました!」 シャキーン
エントランスにある座敷のちゃぶ台でくつろぐ俺とジェット嬢に、イエローとブラックの二人がシャキーンと帰還の挨拶。
「お疲れ様。目的の物は回収できたかしら」
「大漁であります!」
「じゃぁ、イエローは書籍をイエローの仕事部屋に。ブラックは人数集めて金貨をエントランスの右端の方にお願い」
「イエッサー!」
楽しそうに作業を始める二人を見送る。ブラックはレッドとグリーンを呼びに行ったようだ。
居住区画から【辛辣長】も出てきた。
イエローは入口広場に止めたトラクターのトレーラーから箱をせっせと居住区画に運んでいる。
「ジェット嬢よ。首都から何を運んできたんだ?」
「王宮の【金庫】と【禁書庫】の中身を根こそぎ頂いたの」
「……どういう名目なんだ?」
「【慰謝料】とオマケよ」
ちょっと前にキャスリンが言ってた【資金難】はジェット嬢が原因だったか。
ガラガラガラ 「金貨イエーイ!」
ガラガラガラガラ 「金貨イヤッホォォォウ!」
ガラガラガラガラガラ 「金貨ワッショーイ!」
レッドとブラックとグリーンは三人ともすごく楽しそうだ。
三人が台車で往復するたびに、エントランスの右端に金貨の入った箱が積み上げられていく。
本来なら、金貨は【金庫】とかに入れるべきなんだろうが、この【魔王城】に泥棒が入るとは思えないし、エレベータの無い【魔王城】であれだけの重量物を地下に運ぶのも難しいので気にしないことにした。
この世界の【魔王城】は【王宮】よりも金持ちだ。
金貨を運ぶ三人とは別に、イエローがせっせと箱を居住区画の方に運んでいる。
「イエローが一人で頑張っているが、あの荷物が【禁書庫】の中身か?」
「そうよ。中身は未確認だけど、内容が危険な書籍だから見る人を増やさないためにイエローに頑張ってもらってるわ」
「俺が手伝ってくるよ。俺が見る分には問題無いだろう」
「そうね。お願いするわ。でも早めに戻ってきてね」
俺は未だにこの世界の文字が読み書きできない。
だから逆に【禁書庫】の中身を見ても害はないのだ。
「イエローよ。俺も手伝うぞ」
「ありがとうございます【魔王】様。では、入口広場のトレーラから、居住区画の階段までお願いします」
【魔王城】の【禁書庫】は地下一階に作ったそうだが、地下一階の階段と廊下は狭いのでビッグマッチョの俺が降りると逆に邪魔になる。
だから俺は地上階で荷物運びをがんばる。
本が入った箱は重いけど、ビッグマッチョの今の俺なら沢山運べる。




