9-3 結婚式は地獄の魔王決戦(1.5k)
林の中の道を歩くこと五十分ぐらい。山のふもと、【魔王城】の入口広場に至る階段の下まで到着。
登るためにはスロープもあるが、徒歩ならこの急な階段を昇ったほうが近道だ。
途中まで昇ったところで、上にある【魔王城】の方から強い熱風が流れてくるのを感じて、慌てて走る。
火事とかじゃないよな。
階段を昇り切って【魔王城】入口広場に到着したら、そこには【地獄の魔王決戦】が広がっていた。
とりあえず、吹き付ける熱風で買ってきた食材が傷まないように、階段の脇、熱風が当たらない場所に買い物袋を隠し、その光景をよく観察する。
【魔王城】入口広場の中央部ぐらいに、【魔王城】を背にしてジェット嬢が周囲に推進噴流をばらまきながらホバリングで浮いている。高度は、頭の高さが元の背丈になるぐらいの超低高度。立っているようにも見える。
その後ろから、推進噴流防御用の遮蔽物に隠れた【魔王城】職員達、【辛辣長】とゴエイジャーのブルー以外の四人とアンとメイがこちらを見ている。
【魔王城整備慰労会】の準備はどうしたんだ。
入口広場の入口、俺の立ち位置と、ジェット嬢の間の両脇には高さおよそ4mの真っ赤に輝くプラズマ火炎のカーテンが対になって立っている。幅5m程度の【地獄の業火壁】の回廊だ。
そして、ジェット嬢の背後上空およそ15mには、夕日に照らされた【魔王城】を背景に、赤、黄色、青白のカラフルに輝くプラズマ火炎の平面が複数、何かの模様のような形で浮いている。
俺は理解した。
【地獄の業火壁】の回廊はヴァージンロードのつもりなんだな。
そして背後上空のプラズマ火炎で作ったカラフルな模様は、チャペルによくあるステンドグラスのつもりなんだな。
【プロポーズ】と【結婚式】をごっちゃにして、得意な魔法を駆使して自分好みの舞台を用意したら、【地獄の魔王決戦】になっちゃったんだな。
本物の【魔王城】を背景にしたその飾りつけは、【地獄の魔王決戦】を良く再現している。
少なくとも【結婚式場】には見えない。
でも、ジェット嬢にとってはコレが【結婚式場】のイメージなんだな。
【地獄の魔王決戦】の真ん中で、推進噴流をばらまきながら腕を組んで満足そうな表情を浮かべてホバリングしているジェット嬢。
それが【新婦】のイメージなんだな。
【よく来たな勇者よ】と言わんばかりの風格。
【魔王】呼ばわりされた俺よりよっぽど【魔王】だよ。
いいだろう。上等だ。
男にとって【妻】というのは【魔王】よりも恐ろしいものなんだ。
俺は、【地獄の魔王決戦】が広がる入口広場に昇り、【地獄の業火壁】の回廊を進む。
回廊両脇のプラズマ火炎の輻射熱が両側から俺を炙る。同時に、プラズマ火炎の熱を巻き込んだ灼熱の推進噴流が俺の両脚を焼いていく。まるで巨大なヒートガンだ。
足下が焼けるように痛い。一歩一歩進むたびに、プラズマ火炎で炙られた石畳の熱で靴底が焦げるような感触。
近づくたびに吹き付ける灼熱の推進噴流の流速が激しくなる。身を焼かれながらその流れに逆らい俺は進む。
俺を待つジェット嬢の元へと。
身を焦がす灼熱の業火に挟まれ、焼き付ける激しい逆風に逆らい、衆目の下で【妻】を求める。
確かに【結婚】というものを良く表現している。
コレは俺達風の【結婚式】だ。
足元に激しく吹き付ける推進噴流の流速。
距離を詰めるほど激しさは増す。
この世界で、この俺だけしか近づけない距離。
ジェット嬢の元にたどり着く。
俺は前世では既婚で子持ちの40代オッサンだった。
【プロポーズ】というやつも経験済みだ。
素敵な舞台を用意してくれたお礼に、とっておきのやつをぶちかましてやる。
期待する目線で俺を見上げるジェット嬢に、俺はやってやった。
そして、俺は黒焦げにされた。
●次号予告(笑)●
男の前世世界では、【制空権】は戦争の勝敗を決める重要な要素であった。
しかし、戦場に飛行機を投入しなかったこの世界では、どちらの国もあまりそれに関心が無かった。
休戦状態の敵国に領空の飛行許可を求めたら、【飛ぶならついでに航空写真撮ってきて】と新開発の【写真機】を渡された。
何はともあれ、エスタンシア帝国上空の飛行許可を得た。そして、あの飛行機も大修理を終えて到着。ちょっとお出かけ【魔王】と【魔王妃】の新婚旅行?
「Bパーツ、投下用意!」
「俺はロボット部品じゃねぇ!」
次号:クレイジーエンジニアと新婚旅行
(幕間とか、ほかにもいろいろ入るかも。)




