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7-2 魔王的夫婦論 分かり合えないことを分かり合う(3.0k)

 【魔王城】の必要最小限のバリアフリー化工事と、ジェット嬢の寝室である【滅殺☆ジェット箱】ができてから二日後。

 車いすが欲しいので【カッコ悪い飛び方】で最寄りの街までやってきた。


 新品を注文すると時間がかかると言われて困っていたが、その街の大きい病院で中古の車いすを一台譲ってもらうことができた。


 魔王討伐完了以降、車いすが必要になるほどの大怪我をする人はほとんどいなくなっていたので余っていたそうだ。


 その車いすを早速使って、大衆食堂にて食事を摂る俺達。

 テーブルに対面で座って、ラーメン的なものを食べる。


「車いすが手に入ってよかったな」

「そうね。やっぱりコレが無いと日常生活ちょっと不便だったのよ」


「そういえば、ジェット嬢はサロンフランクフルトでよく医務室使ってたよな。そう考えると、【魔王城】にも医務室が欲しいな」

「医務室として使ったことはあんまり多くないけど、確かにそれに相当する部屋は欲しいわね。ウラジィさんは首都に住むつもりらしいから、ウラジィさんが使ってた部屋を医務室にしましょうか」


「そうだな。さっきの病院でも、医務室用の機材一式が余ってるって言ってたから、それを買い取って運ぶか」

「でも、今日は運ぶ方法が無いから、また後日ね」


「そうだな。その車いすもどうやって【魔王城】まで運ぶかな」

「さすがにこれを持って【カッコ悪い飛び方】は無理よ」


 テーブル席でジェット嬢とそんな話をしていると、いつぞやのトラクターの運転手と偶然再会。


「あっ。あの時の王子様、のそっくりさん」

「あ、あの時の運転手さん。奥さんは元気にしてるか?」

「あー、せっかく会えたから相談したいことがあるんですが良いでしょうか」


 ジェット嬢も居るが、時間はある。

 なんかこう切羽詰まった感じがするので追い返すわけにもいかず。

 でも【滅殺案件】に近づかないように適当に名乗っておくか。


「俺でよければかまわんぞ。ちなみに俺は王子じゃなくて、渾名あだなで【魔王】とか呼ばれてるただのオッサンだ」

「王子のそっくりさんが【魔王】ですか。面白い【魔王】様ですね」


 ジェット嬢がしぶい顔をしているが、渾名あだなってことにしているからそんなにマズくないよな。

 それにしても【魔王】ってなんなんだろうね。


 それよりも気になるのは運転手さんの顔だ。

 痛々しい殴られたあざと、引っ掻き傷。


「その顔は、奥さんにやられたのか」

「そうなんですよ。育児や家事が大変だってことをあの時【魔王】様に諭されて、心を入れ替えて積極的に家の事をするようになったら、逆に機嫌が悪くなってしまって。今日も仕事休んで家の掃除をしていたらついに逆上されてこんなことに」


 つい、しんみりときてしまった。


「いい奥さんじゃないか」

「なんで!? 育児家事手伝いした上に暴力沙汰でいい奥さんなんですか?」


「殴られても顔つきが変わらないなんて、優しい奥さんだ」

「ええっ!? 女に殴られて顔つきが変わるとかありえないでしょう!」


 正面に居るジェット嬢が目を逸らした。


「まぁ、それは冗談だ。でも、奥さんは自分の役割をよく理解しているということだ」

「家事とか、育児とかでしょうか」


「【夫を支える】と言うところにも自分の存在意義を見出していたんじゃないかな。だけど、旦那さんがあんまり家事育児に積極的になったから、それを見失ってしまってちょっと精神が不安定になってしまったんだろう」

「でも【魔王】様は、掃除や片付けぐらいは男が当たり前のようにするべきなんだって言ってましたよ」


「そこはバランスだ。共同生活は【お互いを支え合う】事が大事だが、【お互いに必要とされている】という実感も必要だ。本気出して頑張ったら腕力体力ある分大概の家事は男の方が速い。だからこそ、がんばりすぎると奥さんの【必要とされている】という実感を奪ってしまう」

「がんばる加減が難しいですね」


「そこが実際に難しいんだ。前にも言ったが、家事育児を全部奥さん一人でこなすのは厳しい。しかし、奥さんは家事育児に生きがいを感じている部分もある。どこからどのぐらい助けるかというバランスは夫婦固有のものだから正解は無い。今回みたいに殴られたりしながらお互いが固有の最適解に収束していくしかない。そういう意味では、今回の負傷は大きな進歩とも言えるんだ」

「そうなんですか。じゃぁ、これも進歩と考えて俺、がんばります」


「あと、これは余計なお世話かもしれないが、家事育児のために仕事を休むのは必要最小限にした方がいい。本当に大変な時は家庭を優先するのが原則だが、奥さんは旦那さんが【仕事】や【人生】を犠牲にするようなことは望んでいない。旦那さん自身の人生も充実させながら、家庭もしっかり支えるのが理想だ」

「身体は一つしかないから、家庭を支えながら仕事も人生も充実ってすごく難しい気がしますが」


「当然難しい。だけど、頭の片隅に入れておいて欲しい。奥さんは旦那さんの人生の充実も願っているんだ。だからこそ、家庭のために人生を犠牲にするという【考え方】は間違っていることだけは覚えておいて欲しい」

「ありがとう【魔王】様。俺、お互いを理解し合える夫婦目指してがんばります」


「いや少し解釈が違うな。理解し合うじゃなくて、【理解し合えないことを理解する】だ」

「えっ? ちょっと意味が分からないんですが」


「いいか。男と女は本当の意味で理解し合うことなんてできん。根本的に考え方が違う。求める物も、目指す物も違う。だから、相互理解は永久に不可能だ」

「じゃぁ、どうやって一緒に生きていけばいいんでしょうか」


「だから、【理解し合えないことを理解する】だ。理解できないからといって突き放したり強要したりするのではなく、【理解できない】ということをしっかりと【理解】したうえで、お互いの異なる価値観を尊重して、お互いに【必要とし合える存在】として共に生きる姿勢が大事だ」

「まだちょっとよくわからないんですど」


「今は分からなくてもいい。でも夫婦間で相互理解を目指していくと、いずれどこかで壁に突き当たる。その時のために覚えておいて欲しい。これは大事なことだ」

「ありがとうございます。この考え方は他の運転手仲間にも伝えようと思います」


 シュバッ 「うわっ!」


 運転手さんが席を立とうとしたら、ジェット嬢が車いす上で両腕を上げて存在アピール。いきなりの動きに驚く運転手さん。

 車いすに乗っているんだから、今は普通に声をかければいいんだぞジェット嬢。


「トラクターの運転手さんですよね。もしかしてトラクター乗ってきてますか?」

「ええ、仕事用のトラクターで来てますよ。小型だけど空のトレーラもいてます」


「【仕事】頼めるかしら。運んでほしいものがあるの」


 ジェット嬢は割増運賃でトラクターをチャーターした。

 運べる荷物の量が増えたので、テーブルセットを一セットと、手すりに使う金属パイプなどを追加で購入して、帰路に付いた。


 俺達も荷物と一緒にトレーラの荷台に乗って運んでもらっている。このトラクターの速度なら、【魔王城】まで二時間半程度か。運転手さんも日没ぐらいまでには帰宅できそうだ。


 乗せてもらったトレーラの荷台の上。

 俺の背中でジェット嬢がつぶやく。


「アンタって本当に不思議ね」

「そうか」

「他人にはあそこまで言えるのに、自分は【失言】を吐くなんて」


 ズキッ


「本当に、【解呪】には時間がかかりそうね。見届けられるかしら」

「これから長い付き合いになるんだ。気長に頼む」

「……そうね」

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