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6-4 魔力式ガス切断とフードフェスティバル(2.6k)

 俺達が【バー・ワリャーグ】に着陸した翌日午前中。

 俺達は飛行場を兼ねた屋上で、なぜか鍛冶屋の真似事をしていた。


 あのウェイトレス二人が、厚さ1.2mmで300mm四方ぐらいの鉄板相手に火魔法の練習をしている。少し離れた場所でそれを見ながら、背中に居るジェット嬢に問う。


「ジェット嬢よ。魔法で金属加工ができるのはすごいと思うんだが、あの二人はウェイトレスじゃないのか? 何を目指してるんだ?」

「鉄を切断するための火魔法の練習がしたいって頼まれたのよ。職人目指していなくても、鉄板の切断とかできると調理器具の修理とかで日常的にいろいろ便利でしょ」


「確かにな。それでジェット嬢が講師をしていると。そういえば、魔法を指導したこともあるって言ってたな」

「そう。今ならアンタのフロギストン理論のおかげで属性増やすこともできるから、教えがいもあるのよ」


 あの二人を見ていると、鉄板を赤熱するまで加熱できてはいるが、なかなか切断まではできないようだ。


「ちなみにあの二人、元の得意属性は何なんだ?」

「アンは火と水。メイは火と風ね」


 メイは分かるけど、アンとな。

 【ザ・メイド】の方は、王宮でジェット嬢の隣に居たアンだったのか。

 そう言われるとそう見える。


 それはそれとして、鉄の切断だったら俺の前世の知識が役立つかもしれん。


「単純に鉄を切断したいなら、風魔法を組み合わせると手っ取り早いと思うぞ」

「どういうこと? 詳しく教えて」


 前世世界で普通に使われていた鉄のガス切断の原理について教えた。


 切断対象の鉄を予めガスの炎で加熱し、そこに酸素ガスを吹き付ける。

 そうすることで、鉄自体を部分的に燃やす。

 鉄よりも酸化鉄のほうが融点が低いので、鉄が燃えたところからガスにより燃えカスが吹き飛ばされる形になり、切断が可能になる。


 鉄だからこそできる切断方法だ。


「コレすごいわー。さすがフロギストン理論の提唱者ね」


 アンの火魔法とメイの風魔法で鉄板の切断に成功。

 アンから感謝される俺。

 だが、切断した鉄板を見てちょっと気になる。


「切断はできたけど、切断面がボロボロだな。ガス切断は綺麗に切るには作業者に高い技量が必要だから、魔法を使うにしても実用的な加工をするならそれなりに練習が必要かもしれん」


 前世世界でもガス切断を綺麗にするのは職人技だった。

 習得に五年かかるとか言われるぐらいだ。


 でも、切る事自体は簡単だから、加工ではなく解体とか破壊が目的なら機材があれば簡単にできる。

 俺も前世で開発職サラリーマンをしていたとき、会社の研修でちょっとだけやったことがある。


「今は切れればいいのよ。二人とも、もうちょっと早く切れるように練習してみましょう」

「らじゃー!」


「切断面ボロボロだけどいいのか? 加工速度よりも仕上がりのほうが重要なようにも思うが」

「うーん。魔法での加工の場合、速さから練習したほうが上達が早いのよ」

「そうなのか」


 まぁ、魔法がらみだったら俺の前世世界の常識は通用しないか。


 練習は続き、二人の鉄板切断速度は上達した。

 二人で息を合わせてスパッと切れるようになった。

 でも、最後まで切断面はボロボロだった。


 もっと大きい板やパイプの切断も練習したいということで、二人は街の鍛冶屋に出かけて行った。


…………


 営業開始時間になったら帰ってきて、午後から【バー・ワリャーグ】は営業開始。

 俺達も店番手伝いたかったけど、【お尋ね者】状態の俺達にそれができるわけもなく。


 その日は二階と三階と屋上の掃除と、アン達が鍛冶屋で買ってきてくれた材料で二階の簡易的なバリアフリー工事の施工をして過ごした。


◇◇ 


 営業時間外での掃除や片付けを手伝ったりしながら、【バー・ワリャーグ】に泊まる俺達。

 ジェット嬢はウラジィさんと仲良くなったようで、営業開始前の時間はカウンター席に座ってウラジィさんといろいろ話すのを楽しんでいるようだった。

 ジェット嬢を席まで運ぶのは当然俺の仕事だ。


 そして、何を目指しているのか分からないウェイトレス二人が魔法による鉄板切断の特訓をした二日後の朝。

 嗅いだことのある微かな異臭を感じつつ、二階窓から街を見下ろすと、街はちょっとしたお祭り状態だった。


 俺はちょっと行ってみたかったが、【お尋ね者】状態なので迂闊に外には出られない。

 早めに出勤したメイから手紙を受け取ったジェット嬢が、外の状況の説明をしてくれた。


「王城区画の排水処理設備が故障したみたい。それでお祭りになったようね」

「……すまん。わからん。この国では排水処理設備が故障したらお祭りをする決まりがあるのか?」


「排水処理設備が故障すると、排水が出せないからそこに大人数常駐できないでしょ」

「そうだな、それで、去年サロンフランクフルトで大変なことになったな」


「普段大人数が暮らしている王城区画がそんな状態になったから、王宮は臨時休業にして、居住者は城下町の宿屋に一時的に避難したそうよ」

「そうか。排水が出せないんじゃそこでは生活も仕事もできないからな。そうするしかないよな」


「でもそうすると、調理場も稼働できないから、今日の食事用として仕入れた食材が余るし、異臭も出てるから、貯蔵してある食材も傷むでしょ。そこで、それを城下町の飲食店に放出したみたい」

「まぁ、王宮で食べる人いなくなった分、城下町でその人たちが食べるんだからそれに合わせて食材放出するのは理にかなってるのかな」


 こっちの世界では冷蔵庫とか冷凍庫とかの食材保存技術が無いから、腐らせないようにこういう機敏な工夫も必要になるということか。


「休みになった王宮職員が街に出歩いて人通りが多くなるから、城下町の飲食店がその食材を使って【王宮食フードフェスティバル】を始めたというわけよ」

「ああ、それでお祭りか。やっとわかったよ」


「【バー・ワリャーグ】も、普段の営業は午後からだけど、王宮の料理人を数名受け入れて午前中から営業するそうよ。私もウェイトレスとして出勤したいけど、今はねぇ」

「そうだな。車いすもないし、俺達【お尋ね者】状態だから、今日も欠勤するしかないな」


「そうね。あと、町全体がこの騒ぎだと私達も迂闊に出歩けないから、昼になったら出発しましょう。首都の用事は【副魔王】様に会えただけでも十分よ」

「それもそうだな。ウラジィさんにも会えたし、そろそろ首都から離れるか」


 長居して国王に見つかるのも気まずいから、首都はウラジィさんに任せて俺達は【魔王城】へ行こう。

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