表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/202

5-4 恐怖! 滅殺破壊大災害(2.4k)

 ジェット嬢を投げ込んだため池の前。


 禁断の掛け声が響いた直後、水面が金色に輝くと同時に激しく地面が揺れる。


 どこだ、どこからナニが来る?

 オリバーも周辺を警戒している。


「オリバーよ。【荒療治】は成功だな」

「まだだ。まだ終わらんよ。【荒療治】は全員生還するまでが【荒療治】だ」


 地響きは続き、裏山の反対側の斜面から爆発音が連続で聞こえる。


 裏山の岩盤を掘って構築した弾薬庫の方からだ。

 弾薬の誘爆か?


 ため池水面の金色の輝きが収まり、同時に裏山の山頂が赤く輝く。

 山頂部の木や草が炎上。


 【滅殺破壊魔法】が来る!


 裏山山頂が轟音と共に噴火。

 あんまりな光景に、俺は逆に冷静になる。


「オリバーよ。この山は活火山だったのか?」

「違うな。火山の中に弾薬庫は作れんだろ」


 大噴火を見上げるオリバーも、ある意味冷めたようだ。


 裏山の山頂に突如できた火口より無数の溶岩の塊が噴き出し空に広がる。

 あれらが落ちてきたら、サロンフランクフルトだけでなくヨセフタウンにも甚大な被害が出る。


 しかし、俺達に止める手段は無い。

 それどころか、俺達の命も危ない。


 オリバーは近くにあった地下室の入口から中に入ろうとした。


「オリバーよ。そんなところじゃもたないぞ」

「俺は農夫だ。そして、土魔法使いだ。生き埋めのほうが生存率が高い」


「そうか。土魔法っていうのはよくわからないが、死ぬなよ」

「死ぬかどうかはアンタ次第だ。あと、土魔法は案外奥が深い。いつかフロギストン理論と土魔法について語り合おう。生還できたらな」


 そう言い残して、オリバーは地下室に飛び込んだ。


 直後、ため池から爆発音。


 今度は何だと思ってため池を見ると、ため池中心部の水面から空に向かって何かが飛び出したのが見えた。


 それは、黒目黒髪短髪の女性だった。

 膝丈ひざたけに切り詰めた患者着の下に脚は無く、その代わりに薄く金色に輝く推進噴流を出している。


 それは、無数の溶岩の塊が舞う空を見上げると、金色の光を放ちながら脚の無い身体で胸を張り、両腕をいっぱいに広げて叫ぶ。


『ファンタスティィィーック!』


 よく通る声が響く。

 同時に、黄色く輝く光線を全周囲に数百線同時に放つ。

 空が真昼のように明るく輝き、全天から轟音が響く。


 【しん金色こんじきの滅殺破壊魔神】降臨。


 全周囲に放たれた光線が、噴火により噴き上げられた溶岩を全て粉砕。

 夜空を照らした光は消え、静寂が戻る。

 砂や小石が降り注ぐ微かな音だけが周辺に響く。


 俺は言葉を失った。

 絶句だ。


 【滅殺破壊魔法】による裏山大噴火もあんまりだが、全天に放った【弾幕系シューティング】風の数百線の光線もあんまりだ。


 でも脱力している暇は無い。


 ジェット嬢が自力で池から出てきた。

 ここからが【荒療治】の本番だ。

 俺の出番だ。


 山頂の火口から赤い光を放つ裏山を背景に、ため池の上空に浮くジェット嬢が俺を見下ろしている。オリバーは既に居ない。確実に俺を見ている。


 しばらくため池の上空から俺を見ていたジェット嬢は、そのままの姿勢でゆっくりと降下。頭の高さが元の自分の背丈になるぐらいの超低高度まで降下すると、ため池の水面を推進噴流でき上げながらゆっくりと俺の方に近づいてきた。歩いてきているようにも見える。


 俺は足場を確認して待ち構える。ジェット嬢の魔力推進脚から出る推進噴流は、近くに居る人間を吹き飛ばす威力がある。至近距離でそれに耐えて立つことができるのは俺だけだった。


 つまり、単独で離陸したジェット嬢を安全に着陸させるのは俺しかいない。【荒療治】をやり遂げるには、今まで試したことが無かったそれを今成功させないといけない。


 どこか吹っ切れた表情でジェット嬢はさらに俺に近づく、激しい推進噴流の流速が俺の足元を揺さぶる。だが、俺は耐えられる。俺にしか耐えられない。


 両腕を横に軽く広げながら近づいてくる。


 そうか。その飛び方では、ジェット嬢は腕を前に出すことはできないんだ。


 手が届く距離になり、俺は、ジェット嬢の両脇の下に腕を差し入れて、抱きとめる。

 ジェット嬢は推進噴流を止めて、正面から俺にしがみついてきた。

 ジェット嬢の体重が俺にかかる。


 俺も腰に手を回し抱きとめる。

 着陸成功だ。


「軽くなったな」


 ガリッ


 いきなり首筋をかじられた。痛い。


 ジェット嬢が俺にしがみついていた腕をほどいて、上半身を離す。

 俺は脚の無いジェット嬢が落ちないように、腰を支える。


 口元から赤い血を滴らせたジェット嬢が俺の顔を見ながら言う。


「アンタの失言癖は、もはや呪いね」

「解呪に協力してくれるか?」


「呪いは自分で解くものなんでしょ?」

「長い道のりになりそうだ」


「見届けてあげるわ」


 清々しい笑顔でジェット嬢は笑った。


 日没後、山頂で溶岩が輝く山の中で、女と抱き合いながらこのやり取り。

 若者なら、これがファンタスティッククライマックスラブシーンなどと思ったりもするんだろうが、俺は人生経験豊富な40代のオッサン。

 既婚者の肩書とは死別したのでこの状況も悪くはないと思っているが、気になることは別にある。


 知っているか。ジェット嬢。

 人間の首筋の筋肉は厚いんだ。特に俺のはな。

 少々かじったぐらいで出血なんてしない。人間の歯ならな。


 そして、さっき全天に放った光線。アレは【魔導砲】だろ。

 そんな技いつ覚えたんだ。去年はできなかったよな。


 俺は目を覚ませと言った。

 解き放てとも言った。

 

 ジェット嬢よ。

 オマエは一体何に【覚醒】して、何を【解放】したのだ。


 だけど、今はそんな疑問も心に仕舞う。

 女性にいきなり【歯並び】を見せろというのはかなり悪質な失礼だ。

 気になったからと言って今ジェット嬢にそれをしたら、もう一回【大災害】をされるに違いない。


 今宵はジェット嬢の【着陸】、そして【覚醒】と【解放】を共に喜ぼう。


 ジェット嬢を抱いて溶岩の輝く裏山から下山し、軍事施設地下の防空壕から出てきたサロンフランクフルトの皆に歓迎されながら食堂棟に帰った。


 こりゃーもう、絶対に追い出される。

 そんな確信を抱きながら。

●次号予告(笑)●


 裏山の大噴火と、その直後に空を焼いた無数の謎の光線。

 ユグドラシル王国北東部広範囲から確認されたそれは【滅殺破壊大災害】と呼ばれることになる。


 それだけのことをやらかして、そこに住み続けるのは無理というもの。

 ヨセフタウン住人一同、だれも怒ってはいない。


 ただ、本当にもう勘弁してほしいと、それだけを願っていた。


 男と女は共に旅立つ。

 男は【転勤】、女は【門出】それぞれの理由で。


次号:クレイジーエンジニアと転勤

(幕間入るかも)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ