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4-2 ユーリなんて男、俺は知らん(2.7k)

 首都に入ってから俺達を尾行していた人物と接触するため、王城区画近くの高級宿屋にチェックインして待っていたら、変装した王が護衛と共に現れた。


 宿屋のカウンターの奥にある小さな会議室のような部屋に案内され、王と二人きりでテーブルの対面に座る。


 対面に座った王が帽子を取ってサングラスを外した時に、俺は気付いてしまった。


 【魔王城】に到着した夜。

 ウラジィさんがちゃぶ台上に出した卓上鏡に映った、ジェット嬢による殴打の跡を修復されたこの俺の顔。

 誰かに似ていると思っていたが、その似ている人物が今目の前に居る。


 俺は、特大の【滅殺案件】が来ることを覚悟した。


「国王陛下。聞きたくは無かったが、聞いておくべきことがある」

「私もだ。話したくは無かったが、話しておくべきことがある」


…………


 俺は、【滅殺案件】の真相を聞いた。

 ひどい話だった。


「第一王子の姿が見えない事は気になってはいた。まさかこの身体の元の持ち主がそうだったとは。そして、ジェット嬢がその婚約者だったと」


「そうだ。【魔王討伐一周年記念祝賀会】で回復魔法で顔面を修復した時に確信した。お前は私の息子のユーリ・ジル・ユグドラシルだ。王位継承権を持つこの国の第一王子だ」

「なんてことだ……」


「お前は魔王討伐完了後にイヨ嬢と結婚して、この国の王に即位するはずだった。だが、受けた報告によると、お前は【魔王】と刺し違えて死亡した」

「俺は、死亡した第一王子の身体に転生していたのか。本当に【ゾンビ】だったのか。ジェット嬢の目の前で、死んだ婚約者の身体に転生して、その姿でアイツの傍で生きていたのか。なんてひどい話だ」


「確かに、イヨ嬢から見てもひどい話かもしれん」

「出会った直後に人相が変わるほど俺の顔を殴ったのは、死んだ婚約者の面影を見たくなかったからか。そして【魔王討伐一周年記念祝賀会】の時に、俺の顔面が修復されてその面影と再会してしまったから怒ったのか」


「そうかもしれん」


「いや、国王陛下。平然と言いますが、ジェット嬢に対してひどいことしてますよ。死んだ恋人が別人になって目の前に出てくるとか最悪級にひどいでしょう。人相を変えることでなんとか耐えていたところで、目の前でそれを復元したら怒るでしょう。何を考えてあの時そんなことをしたんですか」


 王は、何かをこらえながら応える。


「それを、ひどいと思うか。だったら、死んだ息子が別人になって潰された顔で目の前に出てくるのはひどいとは思わんか」


 それを聞いて、俺は気付いた。

 俺は、王に対してひどい事をしていたことを。


 前世の俺には息子が二人居た。

 俺も親だったのだ。


 息子を失う悲しみなんて想像もできない。ましてや、死んだ息子が【ゾンビ】状態で別人になって殴打された顔で現れたら、正気を保てる自信は無い。


 何かをこらえながら王が続ける。


「私は、妻も早くに失っている。だからこそ、息子二人には長生きして欲しかった。そして、軍師としても政治家としても優秀だったユーリには、次期国王としてこの国を支えて欲しかった。私はそれを見届けてから死にたかった。今、失いたくなかったのだ」


 俺には返せる言葉が無い。

 子供達の長生きを望むのは親として当然だ。

 自分より先に死ぬなんて絶対にやめて欲しいと願うのも当然だ。


 第二王子は健在だが、それで良いなんて言えるはずがない。

 俺だって、息子の片方を失った時に、もう一人居るからいいじゃないかとか言われたくない。

 もし言われたら問答無用で殴る。


 返せる言葉は無いが、俺にだって分かることはある。

 言わなくてはいけないことはある。


「国王陛下。【死】は絶対的な別れだ。受け入れるしかないんだ」

「その顔で、その姿で、それを私に言うのか。ユーリよ」


「ユーリなんて男、俺は知らん」


「今の俺の姿と存在そのものが、死という絶対的な別れを冒涜ぼうとくしているのは確かだ。知らなかったとはいえ、国王陛下に対してもひどい仕打ちをしていたのは認める。しかし、どんな形であれ絶対的な別れは受け入れるしかないんだ」


 しばらくの沈黙。そして、国王が口を開く。


「……受け入れるしか無いことは分かっていた。お前がユーリでないことも分かっていた。ただ、あの日、あの場所で、最後にもう一度息子の顔を見たいと、そう思ってしまったのだ」


「許されんのだ。子供に先立たれるつらさが耐えがたいのは分かる。だが、男は耐えねばならんのだ。男は、おのれつらさを理由に、女を泣かせるようなことをしてはいかんのだ。国を代表する男である国王がそんなことをしてしまっては、国が滅びてしまうぞ」


「すまない。私の弱さで、苦労をかけてしまった」


「ジェット嬢は絶対的な別れを受け入れていた。この俺の顔を【別人】に変えて、突然降臨したこの俺を婚約者とは【別人】と認識して受け入れていた。だからこそあの時怒ったんだ」

「そうか……。イヨ嬢のほうが強かったのかもしれんな」


 しばしの沈黙。

 絶対的な別れを冒涜ぼうとくしているこの俺は、本来なら生き残ることが許されない存在だ。でも、それを承知で王に無茶なお願いをすることにした。


「都合のいい話かもしれないが、国王陛下もこの俺を【別人】として受け入れてはもらえまいか。今の俺は、絶対的な別れを冒涜ぼうとくしている存在に違いないが、前世で一度死んでいる分この命を大事に生きたいと考えている」


「そうだな。今日話してユーリとは完全に【別人】であることも分かった。私もイヨ嬢のように絶対的な別れを受け入れることにしよう。そう割り切ったほうが【仕事】も頼みやすい」

「俺にできる【仕事】があるのか」


「その外見や知識を活かして頼みたい【仕事】がある。また明日ここに来る。その時に話そう」


 そう言って王は席を立ち、部屋から出て行った。

 部屋を出る背中から見覚えのあるオーラが出ている。


 あのオーラは、

【納入予定の設備の納入仕様詳細を詰める打ち合わせのために施工を担当している設備会社の工事事務所に来たけれど、担当者が同世代の同郷だったからついご当地ネタで盛り上がってしまって本題に入る前に終業時刻になってしまったし、残業しようにも話が盛り上がりすぎてもう疲れてしまったので、設備設計に施工上の改善点が見つかったという口実で明日に打ち合わせの続きをしようと決めた時】

 のオーラだ。


 まぁ、疲れたんだな。そして明日も来るんだな。

 いいよ。俺この宿屋にしばらく泊まるよ。


 しばらくして俺も部屋から出たら、ウラジィさんがロビーでしょんぼりしていた。


わし、尾行してた奴に柔道の講師やりたいって言ったら、年齢を理由に断られた」

「ウラジィさん。70代でもできそうな仕事探そうぜ」

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