3-5 戦後時代 キャリアウーマンの未来像(2.0k)
農夫姿の爺さん【副魔王】と騎士服姿の中身オッサン見た目若者【魔王】の凸凹二人旅を始めて七日後。
宿場町でトラクターの運転手さん相手に魂の叫びを上げてから三日後。
行く先々で魂の叫びを上げてはエレノアさんの取材ネタにされて、ウラジィさんに叱られつつ今日も歩いて今は夜。
今日は城壁都市外に新しくできた街に宿泊だ。
最初は尾行でついてきたエレノアさんだったが、すぐに合流した。
バレバレの下手すぎる尾行にウラジィさんがキレたのだ。
でも、この世界の文字が読み書きできて、情報通でもあるエレノアさんを一行に加えたことで、食べ歩きの幅が広がり旅は快適になった。
そんな彼女の案内で今夜は宿屋の一階のバーで飲んでいる。
貫禄のある顔立ちのウラジィさんが農夫姿でカウンター席に座り、焼酎のロックをあおる。なんかの映画みたいですごく様になっている。
俺もカウンター席に座ってエレノアさんとビールを飲む。
ビッグマッチョだから座席が窮屈だけどなんとか座れた。
三人で飲むちょっとした飲み会。
前世で若い部下と飲んだことを思い出す。
やっぱり飲み会は少人数の方が楽しかったな。
そして、仕事好きなエレノアさんが楽しそうに語りだす。
「【魔王】討伐で【魔物】も出なくなったからもう男に守ってもらう必要は無いんです。家庭に縛られる必要は無いんです。これからの時代は女性も仕事で頑張れるんです」
若い娘の微妙に残念な人生感に、俺はオッサンとしてツッコミを入れる。
「仕事が好きなのはわかるけど、家庭を持つのもいいもんだぞ」
「【女は家庭に入るモノ】なんて言われたのは過去の話です。古いです。これからは男女平等。女も仕事で人生を輝かせる時代なんです。キャリアウーマンの時代なんです」
キャリアウーマン志望なこの元気な娘を見て、俺は前世世界の同世代の女性達を思い出した。
俺は前世で40代の開発職のサラリーマンだった。
そこそこ大きい会社で、同期入社は数十名。
その中には事務員として入社した女性も多数居た。
そして、勤続年数が増えるにつれて、彼女達は【寿退職】で辞めていった。
だが、勤続二十年を超えても独身のまま職場に残った女性もいた。
彼女達は幸せだっただろうか。
大きなお世話だろうが、40代になると出産育児という未来はほぼ消滅する。
仕事に生きたというほど出世しているわけでもない。
社内で部署を転々としていたような気がする。
彼女達に希望はあったんだろうか。
前世の俺は子供の世話をすることが多かった。
幼稚園や小学校への息子達の送迎で、息子達の同級生の母親と接する機会も多かった。
そこで会った30代、40代の【母親】。
育児で疲れながらも、子供に振り回される彼女達は幸せそうに見えた。
そして、彼女達には子供の成長を見届けて孫まで楽しみにできる未来がある。
無論、確実なものじゃない。
前世の俺は育児の途中で死んでる。
確実な未来なんて何処にも無い。
だけど、希望はある。
彼女達は希望の中で生きていたはずだ。
【男女平等】は人口爆発時代に出生率を抑えるために作った詭弁だった。
【女性活躍推進】も安い労働力を確保するために作った詭弁だった。
【女性向けの新しい価値観】とやらは、常に社会の都合だった。
女性の幸せなんて誰も考えていなかった。
そんなご都合主語の陰で子供達も泣いていた。
母親の仕事のため、離乳食期の幼児を夜遅くまで【保育所】に預けたり。
発熱で苦しむ子供に【解熱剤】を飲ませて【病児保育】に預けたり。
それが【親】のすることか、それが【人間】のすることかと。
0~1歳児にとっては【母親】が世界の全てだ。
そんな子供から【仕事】のために【母親】を取り上げるなんて狂ってる。
そもそも、文明も社会も育てる親と育つ子供を守るために作ったものだ。
基本に帰ってむしろ【仕事】から【お父さん係】を家庭に戻して、【母親】を支えるための戦力にすべきなんだ。
【魔王】討伐から1年あまり。この世界は今まさに歴史の転換点。
戦後の転換点で価値観を狂わせてしまった前世世界と同じ過ちを繰り返さないために、言うべきことは言うべき時に言っておこう。
「エレノアさん。新時代のキャリアウーマンとして最後まで勤め上げた自分をイメージしてみるんだ。定年退職の最終出社日だ。社長に表彰され、自分が育てた若手達から花束を受け取り、長く務めた職場を後にする姿だ」
「憧れますわぁ。社会人として最後まで勤め上げて、仕事でたくさん実績上げて、若手に夢を託して身を引く自分。もうこれは男の特権じゃないんですよー」
「その続きをイメージしてみるんだ。若手に見送られて、達成感と充実感に満たされて、会社でもらった花束持って家に帰ったらそこに何がある? 誰が居る?」
「……」
「…………」
「………………」
「ニャギャァァァァァァ!」
エレノアさんが絶叫。
気付いたか。
結婚を捨てキャリアを選んだ女性の残酷な末路に。




