プロローグ(2.2k)
俺は40代の開発職サラリーマン。
だったけど、今は剣と魔法の世界に迷い込んで【魔物】の出る林を進んでいる。
この国はユグドラシル王国。
俺達が居る場所は【魔王城】近くの林。
そして、俺達は魔王討伐隊の一部隊。
魔王討伐完了後の帰路で事故が発生し、本隊からはぐれてしまったところに俺が降臨してしまい今に至る。
部隊と言ってもこの部隊の生存者は、俺と相方の二人だけ。
俺が降臨した時に地面に落ちているところを拾った【滅殺破壊娘】を相方として背負っている。
直近の目的地は魔王討伐隊の前線基地。
正面にまた【魔物】が出た。
「あー、【魔物】出たぞ」
「じゃ回れ右で」
【魔物】へ背中を向ける。
【魔物】への攻撃は背中合わせで背負った【滅殺破壊娘】ことジェット嬢が担当する。
【イヨ・ジェット・ターシ】が本名だそうなので、ジェット嬢と呼んでる。
ズドォォォォン ギャァァァァァ
攻撃魔法による爆発音と輻射熱を後頭部に浴びながら【魔物】の断末魔の叫びを聞く。
どうなってるのか見たくないけど、前向いたら視野に入るんだよなぁ。
「終わったわよ。回れ右」
回れ右して前を向く。そして【魔物】だったものを見る。
あーやっぱり赤熱した溶岩みたいな灰になってるよ。
やりすぎなんだよ。オーバーキル。
何度もこんな光景を見せられたので、【滅殺破壊娘】なんて渾名をつけてしまった。
口には出さない。聞かれたらまた俺も焼かれる。
「シャキシャキ歩いて。まだ先は長いわよ」
相方背負って、両手に荷物を持ってシャキシャキ歩く。
せっかくファンタジーの世界に来たんだから、なんかこう、カッコいい武器ほしいな。カッコよく戦いたいな。
無駄を承知で相方に頼んでみる。
「なぁ、この荷物に銃みたいな武器入ってないかな。俺も武器ほしい」
「何アホなこと言ってるの。鞘から抜くのに失敗して剣折るアンタに銃なんか持たせたら暴発させるでしょうが」
「当たる外れるじゃなくて自爆想定かよ」
でもそう言われるとその通りを思えてしまうほどに、ここでの俺は戦闘センスが無い。
だから両手で荷物持ちして歩く。
でも、気持ちは伝わったのか相方はフォローもしてくれる。
「作戦行動において戦闘より重要なのは補給よ。兵站とも言うわ。武器がなくなれば戦えないし、食糧が尽きたら戦わなくても全滅するの。だから、アンタが両手に持っている荷物は今回の作戦行動における最強の武器なのよ」
「そうか、じゃぁ俺は最高の戦士なんだな」
「そう。そして、補給や行軍を支えるのは移動力と輸送力。動く力と運ぶ力の優劣が戦況を左右するの。前線の攻撃力や防御力よりも重要なことよ」
「じゃぁ、最高の攻撃力を背負って最強の武器を持っている俺は、戦略的には最高の戦力なんだな」
「わかってきたじゃない。魔王討伐成功で【魔物】も激減しているわ。今重要なのは攻撃力ではなく食料の詰まったその荷物よ。そういうわけでシャキシャキ歩く」
歩いてるよ。結構速いと思うけど。
まぁでも、励まされてやる気出たので、あんまり揺らさないようにもっとがんばるか。
なんで相方を背負っているのかというと、この相方は脚が無い。
俺が降臨して拾った時点ですでに負傷で脚が動かない状態だったそうだ。
そして、運ぶために相方が即席で作った【背面背負いおんぶ紐的ハーネス】で最初に背負ったときに、俺が大失敗をした。
うっかり【重い】と口に出してしまったのだ。
子供じゃない。成人を背負うんだからそれなりに重いのは当然だ。でも、その発言に腹を立てた相方は、あろうことか自分の両脚を自ら攻撃魔法で切り離して軽くするという暴挙に出た。
女性に対して不適切な発言だったとは思う。
だけど、脚を切り離すってどうなんだ。
途中休憩で降ろした時に、傷口を確認しようとローブの下をめくったら、女とは思えない打撃力で顔面をしこたま殴られた。
うん。怪我が心配だとしても、女性のスカートめくって中覗こうとするのはダメ行動だよね。
相方は回復魔法も使えるとのことなので、傷口は大丈夫と思うことにした。
俺が傷口を見てもどうにかできるわけでもないしな。
いろいろ考えながらもシャキシャキ歩く。
定番だが、この世界には魔法というものがある。
今の時点では無駄に高火力な攻撃魔法しかお目にかかれていないが、このファンタティックなパワーに興味は尽きない。
「この世界の魔法ってどんなのがあるんだ?」
「聖・火・土・雷・水・風・闇の七種類ね。だいたい生まれつきで属性が決まってて、使える属性が多い人は重宝されるわ」
「その魔法のエネルギー源って何なんだ」
「術者の体内で生成されるの。この魔力量もだいたい生まれつきで決まると言われているわ」
魔法の無い世界から来たばかりの俺には、魔法の知識は当然無い。
でもなぜか確信を持って言えることがある。
「……唐突だが、その解釈は間違ってるぞ」
「本当に唐突ね。でも、興味深いわ。話を聞かせて」