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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第6話

「うん。ありがとう。助かったよ」


「もう写真はいいの?」


「多分……。チェックしてみないと分かんないけど。大丈夫だと思う」


 俺は、カメラ本体から撮れたばかりの画像を見ている。


彼女はそこに、近寄っては来なかった。


「だ、ダメだったら、また連絡するね」


「うん」


 何もかも、彼女の姿のままなのが悪いんだ。


これがハクだったら、文句も言えただろう。


「そっか。よかった。じゃあまたね」


 その『またね』に、本当の『次』がないことを、俺はよく知っている。


追いかけなきゃいけない。


追いかけて行きたいと思っているのに、どうしても体が動かない。


それはきっと、『動かなくてもいいこと』だからなんだと自分に言い聞かせる。


「早く……。写真を選ばないと。マジで間に合わないから……」


 部室に戻る。


狭い部屋に何人かがいて、いつものようにしゃべっている。


一台しかないパソコンは空いていて、俺は撮ったばかりの画像を保存することなく、そこを出た。


 そのまま帰ればいいのに、体育館は、いつものバス停とは違う、逆の正門の方なのに、つい足が向いてしまう。


カメラがあるから、これさえあれば、いつでも彼女に話しかけられると、そう思っていた。


だけど立ち寄った体育館は、もうすっかり運動部が占領していて、演劇部が体育館を使っていたのは、大会の前だけだったんだと思い知る。


結局、それまでの存在だったんだな。


彼女の言う通りだ。


 引き返すのも恥ずかしくて、そのままいつもと違う門から坂道を下る。


学校という同じところから出発しているのに、見える景色は全く違っていた。


正門となるこちら側は、山を下る坂道も緩やかで、視界を覆う原生林もまばらだ。


眼下に住宅街らしい街並みが広がっている。


ゆるやかな坂道を下ってゆく。


だけどここからは、いつものバス停、いつもの駅へは行けない。


遠回りだ。


最短距離を選ぶとしたら、もう一度学校へ戻って、裏の山門からやり直すのが、最適解なのは分かっている。


だけど……。


俺は顔を上げた。


目の前に広がる街並みはずいぶん違って見えても、本当は何にも違ってなんかいない。


結局それは、全部繋がっているんだから。


慣れない道を下りながら、俺はここからどうやって家に帰ろうかと、そのことばかり考えていた。

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