表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
74/113

第3話

「それは……。公会堂の搬入手続き」


「そっか……。そりゃ大事だよね……」


 やっぱり俺は、ここには入れない。


さっさと視界から消えようと、立ち上がり背を向けた。


「ねぇ、よかったら見て行って」


 体育館の中央では、俺ではない別の誰かがカメラの調整をしていて、舞台下でも、演劇部員が撮影をしているようだった。


もう俺の居場所は、ここにはない。


希先輩や山本にはそこにいる理由があっても、俺にはない。


「えっと、三脚を外に置きっぱなしにしてて……。なくしたり壊れたりすると問題になるから……」


「そっか。じゃあしょうがないね」


 彼女の手が暗幕にかかる。


上演が再会されれば、本当にもう、俺はここには入れない。


「また必要なときに、連絡するね」


「ちょ……待って! すぐ取ってくるから! 急いで戻ってくる!」


「えぇ? ……あぁ、うん。じゃあ、待ってるね」


 彼女の返事に、猛然と走り始めた。


こんなにも必死で走るのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


ポツリと芝生の上に立っていた三脚は、さっきまでの俺みたいだ。


それをつかみ取ると、再び体育館に駆け戻る。


俺を迎え入れたところで、暗幕は閉じられた。


舞台が再開される。


何度も台本で読んだ、知り尽くした内容だ。


薄暗く冷たい床の上で、彼女は微笑む。


「よかった。来てくれて」


「他の写真部の連中も、来てたんだ」


「うん。いいよって言ったんだけど、なんだかんだで、集まってくれて……」


 彼女の顔がうつむく。


「嫌われてるのかと思ってた」


 あぁ、そうだ。そうだった。


来なくてもいいって言われたからって、それを真に受けてちゃいけないんだった。


そんなこと、すっかり忘れてた……。


 いまどんな顔をしているのか、自分でも説明出来ない。


この場所が暗くて、本当によかった。


山本やみゆきがいたら笑われそうで、希先輩がみたら呆れられそうで、荒木さんなら……、変わらず、無視するかもな。


じっと前を向いたまま動かなくていいことに、心から救われる。


隣に座っていた彼女が、わずかに体を傾けた。


前を向いたままの、そのままで動かない横顔をこっそりとのぞき込む。


「!」


 ね、寝てる? 


回りが暗いから、はっきりとは見ることが出来なくて、なんで今が今のこの状況なんだろうと思う。


なんだよ。


こんな動けないタイミングで、なんでこんなんなんだよ。


よくも見れないし、反応のしようがないじゃないか。


もうちょっと考えてほしいよね、そういうとこ。……。


疲れたんだよね。


動画編集の練習、頑張ったんだ。


磁石に吸い寄せられるように、それは絶対的な不可抗力で、俺も彼女の方へ体を傾けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ