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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第2話

「悪いな。こっちにはこっちの都合があるんだ。お前の邪魔をする気はない。そこで撮影を続けてくれ」


「待って。どこへ行くんですか」


 荒木さんはハクを見下ろす。


ハクはその小さな頭を横に振った。


「急いでるんだ。また後にしてくれ」


「記憶! 記憶は?」


「記憶? なんだそれ。俺はいつだって気は確かだが?」


「だって……」


 ハクの俺をじっと見つめる視線に気づいて、グッと言葉を飲み込む。


「悪いな、行くぞ」


 歩き出す二人の、その背中を見送った。


……いやいや、違う。違うだろ! 


俺は体育館へ走った。


何が自分の記憶を消す、だ。


もしかして、ハクはもう気づいてる? 


荒木さんにとって、演劇部の大会より大事な用って、なんだ? 


部活より、ハクにバレないことの方が、大事なんじゃなかったのか? 


見慣れた体育館は、いつもと変わらない。


重く垂れ下がる暗幕を引き剥がした。


真っ暗な体育館の中にいた生徒たちが、一斉に振り返る。


「あ……。すいません……」


 明かりを消した体育館では、舞台の上演中だった。


そこには山本と希先輩とみゆきと、他の写真部員たちもいて、驚いた舞香と目が合う。


完全に場違いな登場をした俺は、慌てて分厚いカーテンを閉めた。


やってしまったことに、震えている。


 俺が恐怖にも近いようなものに震えているのに、だけど声だけ漏れ聞こえるそれは、部外者の乱入を問題にすることもなく進んでゆく。


落ち着け、俺。


そんなことより、大事なことがあるだろ。


 わずかな隙間からのぞいてみようかとも思ったけど、暗い所へ差す光は、目立ちすぎる。


連絡を入れるにしても、山本も希先輩もみゆきも、舞香までこの中だ。


どうして自分は、今この瞬間、この中にいなかったんだろう。


え? 荒木さんは? 部長でしょ? 


いなくていいの? さっきのは別人? 


もしかして中に本物の方がいるとか? 


その場にうずくまる。


違う。


無駄にする時間なんてない。


そうだ。


自分のことをするんだ。


どうして山本が中に入っている? 


今日は来なくていいって、彼女から連絡が入ったんじゃないのか? 


なんで希先輩まで? 


全員、無関係じゃなかったのかよ。


「あぁ、無関係なのは、俺だけだったってことか……」


 拒否したのは、遠ざけていたのは、立ち入らないと決めたのは、この俺自身だ。


「ハクは?」


 荒木さんの秘密を知っているのは、俺だけのはずだ。


その確認をしたかったのに、結局それも出来ていない。


「圭吾」


 目の前の暗幕が揺れた。


わずかな隙間が開いて、顔をだしたのは、舞香だった。


「もう入っていいよ。見に来てくれたの?」


「ご、ゴメン。邪魔したみたいで……。あ、荒木さんは?」


「部長に用事? 今日は元々、どうしても抜けられない用事があるからって、休みだったの」


「それは、あ、あの……ハク関連?」


 彼女はただじっと俺を見下ろした。


「どうして?」


「さっき、会ったから……」


 彼女は暗幕を広げた。どうやら幕間休憩らしい。

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